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そして最初に戻る。
月明かりに照らされ、
さらに光を放つ艶やかな黒い髪、
白く美しい肌。
その姿はまるで月から現れた巫女のよう。
「・・・綺麗だ・・・。」
「へっ?」
・・・今、口から・・・?
「ごほんごほん、
忘れてくれ。」
「は、はあ・・・。」
「で、あんたは?」
彼女は俺を不思議そうな目で見ていたが、
すぐにそんな様子を振り払い、
心配そうな様子で答えてくれる。
・・・倒れていたからか・・・?
「・・・私は咲良美由紀です。
参拝中に倒れられたんですよ・・・心配しました・・・。
・・・体調が悪かったんですか・・・?
それとも・・・寝不足とか・・・?」
この聞き方にはどこか嘘っぽさを感じた。
けど、そんなことをする理由が全く分からんから気のせいだと放置した。
ふと、こんなことに気が付く。
ん?
というか、この人たぶん年上だろ・・・それに対して敬語も使わないってのは・・・。
「・・・いえ、そんなことは・・・。
・・・昨日は10時には眠って、
食事もしっかりと自分で作って・・・・
それに・・・妹の分も・・・。
栄養管理もしっかりと・・・。」
敬語ではないが、少しは頑張った。
「・・・見かけによらずマメね・・・。」
ぼそっと何かを言った気がした。
「・・・なんか言ったか・・・?
って、今、何時?」
・・・早くも・・・か・・・。
「えっ・・・そうですね・・・。
7時ごろかと・・・ってどうかしましたか?」
「ああ、ちょっとな・・・。」
・・・むつみがお腹を空かしているから、帰んねえと・・・。
「あっ、そうだ!」
ここで、あいつのことを思い出す。
帰っているとは思いたいが・・・雪だからな・・・。
心配して残っているかもしれない・・・
そう思い、彼女に尋ねる。
「雪は・・・俺に付き添っていた女性を知らないか?」
少し覚悟していた部分もあったんだが、
返事は意外にもあっさりとしたものだった。
「ええ、お連れさまなら、お帰りになられました。」
・・・ふう・・・よかった・・・。
これで心置きなく、帰れる。
俺は頭を下げる。
「ありがとうございました。
近くに住んでいるんで・・・・お礼はいずれ・・・。」
そう告げ、部屋を出る。
「・・・意外にしっかりしている。
・・・高校生くらいに見えるけど・・・。」
なんて声が聞こえた気がしたが、
これは内心嬉しかった。
けれど困ったことがある。
あっ・・・
・・・ここの構造わからねえ・・・。
再び、障子を開ける。
「な、なあ・・・。
・・・出口というか玄関は・・・?」
かなり恥ずかしかったが、そう彼女に聞く。
「?」
彼女はきょとんとした後、
「・・・ふふ・・・わかりました。
ご案内します。
こちらへ。」
と俺を誘導してくれるのだった。
「どうも。」
頬に熱を覚えているのを感じる。
美人な人に恰好悪いところを見せてしまった。
しかもせっかく、しっかりしていると言ってもらっていたのに・・・。
若干の落ち込みとそれなりの恥ずかしさを覚えながら、彼女に付いて行く。
美由紀視点
さっきのかわいかったなあ・・・・。
しかも、最初に綺麗って言われちゃったわ、
さっきの様子から本気だったわよね
ふふ♪
「へえ、仁くんって同じ高校なんですね。」
「ええ、やっぱり年上・・・いえ、先輩でしたか・・・すいません・・・。
敬語は苦手で・・・。」
・・・やっぱり・・・
う~ん、うれしくもあるけどね・・・。
というか、仁くんの方が年下だってことに驚いているんですが・・・。
同い年だとここまでしっかりしている人いませんよ・・・。
「いいですよ。
特別に敬語じゃなくて・・・。」
・・・なんかこっちが恐縮しちゃいそう・・・。
「で、ですが・・・。」
どうしよう?
ちょっと困ったわ・・・
意外にしっかりした子だから、普通に言ったら、社交辞令に聞こえるみたいね・・・。
・・・仕方がないから、
・・・ここは年上らしく・・・
「ほら、私がいいって言っているんだから。」
パンッと軽く背中を叩く。
(口調が変わった・・・俺がやりやすいように・・・・か・・・・。
ここまで気を遣わせたらな・・・・。)
「わかり・・・わかった。
これでいいか・・・?」
・・・良かったわ・・・
素直な子で良かった。
「ええ、それにしても仁くん、あなたすごいわね。
聞いたわよ~。」
「・・・何を?」
「あの子のために一緒に並んであげていたんでしょう。
普通できないわよ・・・今日はゴールデンウィークの最終日だからかすごい人だったのに・・・・。
私が知ってるだけでも、5,6時間待ちくらいにはなっていたもの・・・・。」
正直、私だったら、付き添いでそんなのは無理・・・。
自分のことでも嫌かも・・・。
「・・・ああ・・・確かに結構待ったかもな・・・。
まあ・・・雪は特別だからかもしれないな・・・。」
へえ・・・これはなかなか・・・。
「なにせ、幼馴染・・・というか妹みたいなもんだから・・・。」
・・・ああ、そういうこと・・・
面倒見のいいお兄ちゃんって感じなのか・・・
・・・残念・・・。
女子高生は恋愛話に飢えてるのです。
「・・・なにかと放っておけないんですよ・・・。」
・・・本当に妹だと思ってる・・・?
なんか、すごく優しい顔してるけど・・・それって恋人に対してする奴じゃないの・・・。
少し不思議に思ったから、
つっついてみることにした
「・・・へえ、恋人みたいってこと・・・?」
ふふふ・・・ちょっといじっちゃえ・・・。
「・・・いや、やっぱりあいつは俺にとっては妹のようなもので・・・
って危ないですよ。」
あっ。
寄り過ぎていたわね。
「それにしてもすごい庭園ですね。」
あっ!
・・・私を内寄りに・・・。
・・・気づいたらすぐにか・・・
・・・いいなあ・・・。
先ほどまで話をしていた雪さんのことを思い出す。
あの子・・・幼馴染ってことは・・・
・・・こんなことを何年も・・・
もしそうだったら・・・
・・・なんかずるい・・・。
「・・・ねえ、君っていつもこうなの・・・?」
思わす聞いてしまう。
「?」
彼はどこか不思議そうな表情を浮かべ、
「・・・こうって・・・?」
こんなことを言ってくる。
「・・・・・・。」
・・・これは素ね・・・。
・・・てことは確実に昔から・・・。
・・・ああ、本当にずるい・・・
神様は不公平ね・・・
・・・まあ、前から知っていたことではあるけど・・・
・・・私なんて・・・この家のせいか・・・
・・・全然出会いなんて・・・。
「・・・ここまでありがとう。
じゃあ・・・。」
彼が玄関の戸に手を掛ける。
仁くんが帰ってしまう。
・・・帰ってしまう?
なんでそんなこと・・・。
私はこの出会いにどこか運命を無意識的に感じていたんだろう。
・・・あの神様が珍しくくれた出会いだと・・・
この時の私はそこまでわかっていなかったけど、
このまま彼を帰すようなことがあれば、
後悔する気がした。
だから、
「ま、待って。」
私の口からはそんな言葉が漏れていた。
「?」
彼は私の声に反応するが、
どこか不思議そうだ。
「なんか用でも?」
当然、こう問いかけてくる。
私は自分のしたことに気が付き、慌てる。
・・・おもわず・・・
・・・やっちゃった?
「なあ?」
彼の声が聞こえる。
私はもっと焦る。
えっと、えっと、え~と・・・う~ん、そうだ!
「メ、メアド。
そうせっかくの縁だから・・・。
ダメ・・・?」
いろいろと考え込んだ末、こんな声が・・・って私・・・なにやっちゃってんのよ・・・!
恐る恐る彼の顔を見つめる
すると、
クスッ。
「別にいいがな。
看病してもらったから・・・。
仲良くれよ、
せ・ん・ぱ・い♪」
彼は微笑みながら、こんなことを言ってきた。
・・・・ず、ずるい・・・
・・・そんな笑顔見せられたら・・・。
「ふ、ふん。
これで私から逃げられないわよ!
・・・学校でも会いに行っちゃうんだから・・・。」
私の勇気を粉砕する言葉が告げられる。
「そ、それはちょっと・・・。」
「なんでよ!?」
私は間髪入れずに反論する。
「・・・うちのクラスにはうるさいのが1人いて・・・。」
けれど、内心は・・・
こ、断られちゃった・・・どうしよう・・・
もしかして・・・・・・これでお別れ・・・
などと悩んで・・・。
・・・イヤ・・・・いやよ絶対!
なんでかわからないけど・・・。
私は普段なら絶対にしないようなことをする。
「・・・これは先輩命令よ。
絶対に行くから・・・。」
私はそう言い捨て、
自分の部屋に戻ろうとする。
まあ、角で隠れてみているんだけど・・・。
それにしても・・・・なんでここまで・・・
「・・・・・・。」
・・・まさか・・・
・・・一目惚れ・・・・・・あの笑顔に・・・それとも・・・
そう考えただけで頬が熱くなる。
・・・ううう~。
ガララララ。
ゆっくりと戸を閉める音が聞こえる。
「・・・弱ったな・・・。
・・・先輩、美人だから絶対にあいつが食いつくだろ・・・。」
パタンッ。
ううう~。やっぱりずるい・・・
・・・あんなこと言われたら・・・
・・・それに・・・
・・・・・・あんなに綺麗な魂をもっているなんて・・・。
視線の先にはまばゆく輝く仁の姿があった。
・・・もうダメかも・・・。
「・・・反則でしょ・・・。」
私はその場で崩れ落ちる。
「・・・先輩、美人だからか・・・。
うふふ。」
頬に手を当て、微笑む姿はまさに・・・・・。