~ゴブリン軍団掃討作戦~
~ゴブリン軍団掃討作戦~
HPがある程度回復し、MPについてはマジックポーションを使うことである程度回復した。
まず、100名のうちレベルが高いのは、ダルーニャ、ミーニャの二人と、集落の防衛隊長である青い毛並みの戦士「ボルドーニャ」かなり強靭な体躯をしている男性だ。
人よりも猫に近く顔なんて猫そのものだ。だが、体はマッチョという。お腹部分が白いのが特徴だ。
そして、得意とする武器は槍。オーラショットを槍で使えるようになっている。レベルは30というところ。かなり強い。
そしてもう一人弓隊を率いるのが、灰色の毛並みの色っぽい女性「ミルニャーニャ」だ。ニャンクス自体かなりグラマラスな人が多いのだが、かなりこの人の体形がエロい。出るところがかなりでているのだ。そして妖艶なのだ。ボルドーニャとは恋人らしい。
「強い人が好きなのにゃ」と言って俺を見てきた時はどうしようかと思った。なぜって、後ろに修羅が二人生まれたからだ。そして、ボルドーニャからも睨まれた。
「僕なんて子供相手にしちゃダメですよ」
ミルニャーニャは20代半ばの女性。そしてレベルは27だ。そして、変わった弓を使っている。矢が無いのだ。いや、矢は風の魔法で発生させている。つまり矢が切れることがないのだ。そして、もう一つ。魔法で作られた矢に闘気を込められることを知った。
魔法剣は使ったことがあったが、剣がベースだったのだ。このやり方を使えばアイスランスなどの魔法に闘気をまとわせることができる。威力がかなり上がるのだ。これは今度俺も練習しようと思った。
だが、後はレベル1や2が多い。ちょっと高くても5だ。とりあえず、みんなに広場に集まってもらった。これから1万のゴブリン軍団の掃討作戦を伝えるからだ。
流石にこんなに大量な戦いは初めてだ。だが、実際魔王と戦うのならば大勢で行くのも一つなのかもしれない。ただ、問題がある。食糧問題だ。
この世界には集落もあれば色んな国もある。魔族を倒す依頼を受けることもあれば、魔族が持っている宝石を売ることで金も入る。けれど、魔界はそうはいかない。
まず、人の集落がない。だから水、食べ物を集めることが大変になる。野宿をするのがイヤだから「クリエイトキャッスル」という魔法を編み出したのだ。これは簡単に言うと呪いの館を作り召喚するというものだ。
こんな恐ろしいことを考えたのも天才魔術師と言われたパーティーメンバーだ。あいつの発想はおかしかった。
そして、俺は調合スキルを手にした。ポーション類を色んな素材から作る。魔界にあるのは人向けのものなんて存在しない。
だから、解毒からはじめないといけない。だが、これはまだましな方だ。問題は食べるものだ。
魔界には森もあれば集落もある。魔人は知恵もあるし、高位になれば普通に食事をする。だから、そこにある食事を奪うために戦っていた。生きるために戦うのだ。そしてもう一つ。食べられる魔獣もいる。
おいしいかと言われると、なんとか食べられるというレベルだ。だが、100名も連れて行くとするとかなり厳しい。
「クリエイトキャッスル」で作れるのは洋館だ。部屋はかなりあるので100人が入ることは可能だろう。
だが、食事は無理だ。木のみや果物もあるが浄化をしないといけない。魔獣を食べるとしても数が足りない。
だから誰も魔界に攻め入ろうと思わないのだ。その奥からやってくる魔族や魔人を倒すだけ。それが今の人の世界が選んだ選択だ。
あの事件が起きるまで俺らを応援する国も居なかった。
そう、4魔貴族を倒した後にやってきた「タナトス」と「ヒュプノス」がやってきたことで世界が変わったのだ。
厄災どころの騒ぎでない。一つの国が一気に消失したのだ。そこで初めて気が付いたのだ。
「魔王は倒さないといけない存在だと」
「人がいがみ合っている場合でないと」
だが、名だたる勇者だったものがタナトスに一掃されたのだ。
タナトスのスキルは即死。そして、ヒュプノスのスキルは睡眠。眠らされた後即死だ。
苦しむことなく死を迎えることは素晴らしいのだと思うが、この両者が一気に来て世界が終わった。レベルが低いものは即死耐性がない。
だが、レベルが高くても睡眠中の即死を回避できない。そしてヒュプノスの夢は望む世界を見せる。そう、夜にやってきて夢と現実の境をなくさせる。
だから眠りから醒めない人が増えたのだ。国力の低下。どの国も人がいなければ何も生み出せない。本当に戦いにくい相手だった。
まだ、世界は脅威を知らない。だから魔王を倒したいと言っても聞き入れることはないだろう。
そして、俺たちは失敗した。次は成功させないといけない。あんなに大量に人を殺させはしない。
そのためにはまず、ここでゴブリン軍団を掃討する。そして、ここにいる100人を戦士に育てる。大丈夫。1万も倒せばかなりレベルが上がるはずだ。
俺は決めた。この100人を導くと。深く息を吐いて広場の前に立つ。
広場の前にはダルーニャ、ミーニャにボルドーニャとミルニャーニャがいて、横には俺のマントをしっかり握っているティセがいる。
目の前には96名の戦士がいる。みんな整列している。俺は前に出て声を大きく張り上げた。最後尾に聞こえるまで。
「皆、集まってくれてありがとう。俺は見ての通りニャンクスじゃない。人間だ。だけれど、君たちと同じくあのゴブリンを狩らないといけない立場のものでもある。名をアデルという。そして、俺の横にいるのはティセだ」
ティセを招きよせる。勝ち気なその表情は堂々としていた。目つきがちょっとつりあがっている。意気揚々な感じだ。俺は続ける。
「まず、俺は少し前にフライという魔法でゴブリン軍団がどう位置しているのか確認してきた。森はかなり蹂躙されていて、若木の樹皮を食べ、木の実は食い散らかされていた。その範囲は集落の周り一帯だ」
そう言うと目の前のニャンクスたちは怒りに満ちた。そりゃそうだ。自分たちの集落の周辺は食い散らかされて廃墟となっているのだ。
「だが、おかげで戦いやすくなった。これから俺はミーニャとともに空に飛び立つ。フライの魔法じゃない。グリフォンゴーストに乗ってだ。理由がある。ミーニャに空に居てもらう必要があるからだ。そして、君たちにお願いしたいのは一体たりともゴブリンを逃がさないために周囲を囲んで欲しい。そして合図があったら一気に弓を放ってほしい」
作戦はシンプルだ。
夜襲をする。だが、周りが見えないと困るためフラッシュでまず空を明るくする。音も立てて空を見上げさせる。だが、その場所にバジリスクを召喚させる。だから上空にミーニャが必要なのだ。
そして、その後俺がメテオをぶちかます。これが合図となって周囲から火矢を放つ。すでに周囲は蹂躙されている。ならば焼き払っても問題ない。というか、焼き畑農業の要領でその後開拓をすることも伝えた。
だが、この段階でも倒せるゴブリンは低レベルのみだろう。だからここからは俺が地上に降りて戦うと言った。
「俺も戦うにゃ」
「俺もだにゃ」
何名かそう言っている。だが、守れなくなる可能性がある。レベルが低すぎるからだ。いや、HPは上がっているからすぐには死なないか。
「無理はするな。初激を受けて生きているのは高レベルモンスターだ。だから、俺が切り込む。切り込んでいいのは、ダルーニャ、ミーニャ、ボルドーニャ、ミルニャーニャそして、ティセだけだ」
そう言うとティセが笑顔になった。ティセも闘気をまとった攻撃ができるようになった。というか、アイスブレッドに闘気をまとえるようになったのだ。俺もできるだろうか。一度メテオで試してみよう。
「間違えるな。確かにこれはゴブリン軍団掃討作戦だが、この作戦は誰一人欠けることなく生き残ることだ。生き残ることに注力しろ。無理はするな。倒すのは弱っているゴブリンだけだ。元気なヤツには複数で絶対に当たれ。開始は今から2時間後だ。それまでに配置が完了できるはずだ。時間に余裕を見ている。不測の事態が起きた時は中央にある待機場所に伝令を走らせろ。俺からは以上だ。ではダルーニャさん。よろしくお願いします」
ゴブリン軍団を見下ろせる高台にテントを張った。そこにはミーニャの母親であるルルーニャが後詰でいる。
ルルーニャは回復ができる。傷ついた兵士がやってくる場所を決めておく。それは大事なことだ。そして、最後の士気を上げるのはやはりこの集落の長が行うことだ。ダルーニャが言う。
「諸君。祖霊がいるこの場に誓おう。我らは勝利する。勝利以外に選択はない。祖霊に恥ずかしい姿を見せるな。我らに勝利を!」
「勝利を!」
あれ?語尾のにゃはどこに行ったのだ?そう思っていたらミーニャがこっそりこう言ってきた。
「語尾のにゃはわざとつけているのにゃ。ニャンクスと言えば語尾ににゃがあると思われているから普段は演じているだけにゃ。でも、こういう時はつけないのにゃ」
なんか夢が壊れた。
だが、気合いが入ったのがわかる。各々持ち場に移動していくのがわかる。そう、配置はパーティー登録をしているから把握できのだる。
なるほど。こうやって大勢を登録するとこういうことができるのか。ただ単に力押しで戦うのではなく戦術で敵を倒す。これがあれば魔王城に行くのは楽かもしれない。ただ、補給が大変なだけだ。
時間になった。天気が良く月が出ている。星も見える。ゴブリン軍団は哨戒を立てている。やはり知能が高い。
ゴブリンロードがいるからかもしれない。いや、ゴブリンメイジやライダーもいる。一本角の狼を大勢いるのがわかる。
テントが一つだけあるがそれ以外は集団で眠っている。まず音響魔法で大きな音を鳴らす。ゴブリンがざわついてきた。
次にフラッシュを放つ。夜だがまるで昼間の様な明るさに包まれる。ここでゴブリンが奇襲に気が付く。更に上空にフレアバーストを放つ。花火のように派手に光る。
「今だ」
グリフォンゴーストにまたがっているミーニャに声をかける。
「お願い来て。召喚『バジリスク』」
宙にバジリスクが浮く。そして、石化光線が放たれる。かなりのゴブリンが石化した。だが、やはり全部ではない。バジリスクがクリスタルに吸い込まれる。
「じゃあ、私も撃っていい?」
もう一体のグリフォンゴーストに乗っているティセが言う。言いながらすでにアイスランスの準備をしている。しかも、闘気就きのアイスランスだ。なんて名称になるんだろう。
「オーラランス」
すでにアイスなくなってるし。まあ、実際闘気を纏うことで加速するため回避が難しくなった。さらに威力もあがっているのでいいのか。こっちも負けてられない。
「オーラメテオストーム」
闘気を纏ったメテオの乱射だ。これが合図となって周囲から闘気をまとった矢が放たれる。地上に降りる前に「風の精霊の加護」を発動させる。
これで弓矢が当たる心配はない。範囲はパーティーメンバーだ。というか、100人という人数に有効なのかと思ったらちゃんと有効らしい。すごいな。
地面に降り立ちとりあえず、ソードスラッシュを乱打しながら中央にあるテントを目指す。途中でかいイノシシも何体も刈り取った。
突き進むとやたらとでかいゴブリンがいた。3メートルくらいのゴブリン。でかい剣を持っている。というかすでにこれゴブリンじゃなく巨人じゃない?
ゴブリンロードが剣をふるってくる。でかいのにやたらとすばしっこい。
「サンドストーム」
本来は自分の周囲に出す技だけれど、今回はゴブリンロードとの間に砂嵐を発生させた。だが、ゴブリンロードはかまわず砂嵐ごと切り付けてくる。
おいおい。知性あるんじゃないのかよ。だが、わかった。後ろにゴブリンメイジがいて回復させているんだ。
「ティセ、ミーニャ。後ろのゴブリンメイジを倒してくれ。回復をさせるな」
そういうと二人は後ろにかけ出した。よく見るとオーガも何体かいる。
「安心しな、俺らもいるからな」
ボルドーニャ、ミルニャーニャも駆けつけて来てくれた。
「ああ、お願いする。このゴブリンロードは俺に任せてくれ」
と、かっこよく言ったけれど、このゴブリンロードは意外と動きが早い。そして、行動が読めないのだ。サンドストームに突っ込んできたと思えば、なんとソードスラッシュを放ってきた。
まさかゴブリンロードが使えると思っていなかったから焦った。ソードスキルはHPがいくら高くても当たり所が悪いと即死することだってある。
気を付けないといけないのだ。とりあえず、確実に動きを止めるか。
「シャドウスネーク」
自らの影が蛇のようにゴブリンロードに向かっていく。この影の蛇が相手の影にくっつくと発動する魔法だ。だが、ゴブリンロードは剣で影の蛇を切り裂く。やはり知能は高い。だが、これはどうだ。
「フラッシュ」
目くらましの魔法。ゴブリンロードがひるんだ。剣に闘気を込める。ソードスラッシュよりも更に上位の攻撃。
「オーラブレイド」
ジャンプをして剣を振り下ろす。そのまま剣戟がまっすぐに伸びて行く。ゴブリンロードが剣戟を受け止める。だが、そのまま押し切られ真っ二つになる。
これはよけない限りそうなる剣戟だ。ために時間がかかるし、モーションが大きいことがこの「オーラブレイド」の欠点だ。だが、はまればこの通り真っ二つだ。
俺がゴブリンロードを倒してから周りを見る。まだ、ゴブリンメイジが生きている。何かを唱えている。
「リザレクション」だ。やばい。そう思って振り返るとゴブリンロードが復活している。リザレクションの欠点は復活してもHPはかなり低い。
そして、すぐの行動ができない。この魔法はヒールとセットだ。倒すべきはこっちだ。
俺はもう一体のゴブリンメイジめがけて「フレアバースト」をはなった。そして、足元にあった石をつかんで投げつける。
もちろん、闘気を込めている。狙っているのはゴブリンメイジの口元。詠唱を止めさせればいいのだ。見事にヒットした。
だが、後ろから強烈な剣戟が来る。ゴブリンロードの攻撃だ。しつこい。少ししかHPも残っていないのだからすぐだろうと。
そう思っていたらゴブリンロードの肩に何かが乗っているのが見えた。インプだ。そして、回復魔法を唱えている。
おいおい。反則だろう。というか、このゴブリンロード。何かがおかしい。能力もそうだが、インプは悪魔だ。
どうして悪魔がゴブリンに従っているのだ。とりあえず、悪魔は神聖魔法で倒すのが一番だ。というか、上位悪魔になれば神聖魔法くらいしか攻撃が通じないのだ。
一気に倒す。まず、自分に「スピードスター」という魔法をかける。これは敏捷性が一気に跳ね上がる魔法だ。ただし、HPが削られるというデメリットがある。やたらHPが高い俺には関係がない魔法だ。
次に使う魔法は「スロウ」だ。相手の敏捷性を下げる魔法。
力押しで勝てると思っていた。だが、うまく行っていない。一人だと強化なども計算しないといけない。
速度差がついた。まず唱えるのは「シャドウスネーク」だ。これでゴブリンロードとインプの動きを止める。次に「フライ」だ。
ゴブリンロードの上空めがけて飛ぶ。加速がいつもより早い。上空からゴブリンロードを見下ろす。
ここから一気に加速させる。もちろん、ブースターとして上空に「フレアバースト」を放つ。フレアバーストの威力を使ってゴブリンロードめがけて剣先を向けて突っ込む。
体全体に闘気を纏う。気合いを入れる。自分の身体のまわりが青く広がる。さらに闘気を込める。家くらいの大きさまで闘気が膨れ上がる。あまり好きではないが速攻で相手を倒せる。
「オーラタックル」
まあ、ある意味自爆技でもある。だが、大量にSPとHPを消費するがこの攻撃は絶対によけられない。
衝撃を受ける。だが、闘気のおかげで怪我はない。自分に回復魔法をかける。周囲は隕石が落ちたかのような感じになっている。
ゴブリンロードもインプも跡形も残っていない。これはそういう技だ。まぁ、逃げられたらただの自爆になる。しかも周囲が一瞬見えなくなるし、動きも止まる。
だからこそ、「シャドウスネーク」で相手の動きを止めたのだ。さっきは逃げられたから今回は速度差をつけさせてもらった。回避できないコンボだ。一定以上の強敵には全然通用しないけれどな。懐かしいコンボ技を使わせてもらった。
周囲を見る。もう生きているゴブリンはいない。逃げさせもさせていない。
ボルドーニャが寄ってきてこう話してきた。
「勝利の宣言をするのにゃ。これは一番の功績を立てたアデルが行う義務がある」
恥ずかしいが、剣を上空に向けた。
「おぉぉぉぉ。我らの勝利だ」
俺の声に皆が呼応した。雄叫びがする。俺の周りに人がよってくる。ティセが抱きついてきた。ミーニャもだ。
いいな。こういうのも。今までこう大勢で勝利を分かち合ったことはない。そう思っていたら自分の上の方から拍手が聞こえてきた。
ゆっくりとたたくその乾いた音はまるで意識ある攻撃のようだ。冷たい剣を首筋につきつけられたかのような。
皆が上を見る。上空にシルクハットを被り、右側の目だけを隠している銀の仮面をつけてタキシードに、ステッキを持った男が居た。マントは内側だけが赤く、その赤がやけに目に着く。
見えている顔立ちはかなり端正な顔立ちだ。だが、黒い髪に黒い瞳。細い体から感じるのは強烈な恐怖だ。
「おや、ようやく静かになりましたね。興味深く戦いを拝見させていただいていました。私の思惑とは違った展開となりましたが、それもまた運命なのでしょうね。申し遅れました私はタナトスと申します。お見知りおきを。といってもすぐにあなた達とはお別れなのですがね」
そう言ってお辞儀をした。タナトス。死をつかさどる神。魔界で戦ったことがある俺はその容姿の違いにびっくりした。
だが、話す口調はタナトスそのものだ。そして、本能がこう告げている。
「皆、逃げろ。ここから今すぐに」
だが、遅かった。タナトスが「死の息吹」を吹きかける。目の前に居たニャンクスが一斉に倒れた。俺にしがみついていたティセもミーニャもだ。
虚ろな目を二人とも俺に向けている。何が起こったのかわからなかったはずだ。
その瞬間俺の身体は強烈な痛みが走った。
「うぁぁぁぁぁ!」
その痛みと共に思い出した。この指輪の呪いを。そう、パーティーメンバーが死んだとき、その能力を、記憶を受け継ぐのだ。俺は恐怖からその記憶を消し去った。
100人と言っても低レベル者がメインだったため、能力はそこまで跳ね上がりはしない。だが、前の時のパーティーメンバーの記憶と、その記憶、魔法、そして、エキストラスキルを思い出した。
「許さない。お前だけは」
俺は上空に浮かんでいるタナトスを睨みつけた。
「おや、私の死の息吹で生き残っているとは。貴方のレベルは100以上ということですか。楽しそうですね。では私が直接お相手いたしましょう」
そう言ってステッキを剣のように構える。瞬間にそのステッキは黒く、まがまがしい剣に変わった。
タナトスの持っていた剣とエキストラスキルを覚えている。あの剣はかすり傷一つで即死する。剣に即死魔法を付与するエキストラスキルだ。
タナトス相手に接近戦は不利だ。思い出したよ。緑のとんがり帽子の彼女。イリーナ。そして戦士だったリチャードのエキストラスキルを使わせてもらう。
詠唱に入る。まだ、スピードスターの影響は残っている。だからこそこの魔法だ。
「フライ」「エクスプロージョン」
空を飛んですぐに爆発系魔法を相手にぶつける。だが、威力もあるがこれは目くらましのためだ。イリーナのエキストラスキル。
「コピー」
これは自分と同じ能力、意思を持ったコピーを創り出す魔法。分身とは違う。コピーなのだ。能力も同じ、考え方も同じ。
ただし5分だけだ。
だが、5分もあれば十分だ。なぜなら俺とコピーの俺は違う魔法をこれから唱えるからだ。まず俺からだ。
「永久牢獄」
この魔法は簡単にいうと魔力結晶でできた牢獄に閉じ込めるものだ。閉じ込められる時間は1分。だが、相手はこの1分間は何もできない。魔王には通じなかったがそれ以外には通じた魔法だ。
「なんだこれは!?」
そりゃそうだろう。この魔法を受けたらそういう反応になる。指一本動かせない拘束魔法だ。しかも魔力を使おうとすると牢獄に吸収されるのだ。
コピーが剣を上段に構え振り下ろす
「次元断」
永久牢獄に入っているものを攻撃することはできない。だが、次元断は別だ。これはこの世界を切り裂き別の次元に送り込む技。
うちのリチャード。笑顔がさわやかで、剣技についても最高のそしてイリーナの恋人が編み出した強烈なエキストラスキルだ。
次元のはざまにタナトスが吸い込まれていく。勝利だ。だが、目の前は惨劇だったゴブリンとニャンクス、そしてティセの死体。俺はまた救えなかったのか。
パン、パン、パン。
乾いた拍手がする。どこだ。そう思って振り返るとそこに銀の仮面をしたタナトスが宙に浮かんでいた。
「まさか、コピーを使う人間がいるなんてね。でも、その魔法は僕も実は使えるだ。まあ、君は時間制限があるみたいだけれどね。おや、更に人が増えたみたいだね。僕は今回は退散してあげよう。また、君とはどこかで会いそうだ」
そう言ってタナトスは消えた。誰かがここに来る。誰だ。こんな場所に。そう思っていたら黒いローブに木のロッドを手に持っている老人がやってきた。ジグル老子だ。
ジグル老子が言う。
「おお、すばらしい。これだけ人が死んでいるのだ。さぞかしいい悪魔が召喚できそうだ。しかも丁度いいところに憑代もある。すばらしい。すばらしいぞ」
両手を広げて笑っている。目の前にエルダーリッチがやってくる。
あの時聞いた召喚方法を思い出した。大量の魂を使って悪魔を召喚させ、屈強な人間の身体に憑依させる。
今、目の前にそのめったに起きない事象が起こっている。これは偶然なのか?ティセの虚ろな瞳が目に入る。
「おい、この場所にゴブリンロードが現れたのは偶然か?それともお前が計画したのか?」
気が付いたら声にしていた。だが、静かに話している。思ったより冷静だった。
そう俺は思ったからだ。前の世界にはなかった出来事が多すぎる。ゴブリンロードの出現に、かなり早いタナトスの出現、タナトスの容姿の違い。
偶然とは思えない。犯人を決めつけるのはよくないとわかっている。だが、疑わしすぎるのだ。
「ふぉ、ふぉ、ふぉ。何のことかわからないな。だが、人は死ぬ運命だ。そして、強いものは弱いものを刈り取る。それはこの社会の真理でもある。お前はそのエルダーリッチと戯れているがいいわ」
エルダーリッチが「ファイアーボール」をこちらに放ってきた。火の耐性がある俺にはその攻撃は効かない。エルダーリッチが倒しにくいのは神聖魔法以外に耐性があるからだ。
精霊魔法と違って神聖魔法はクレリックやプリーストなどの信仰がないと使えない。
だが、俺の中には回復役だった、俺の恋人だった、マリーの力が宿っている。最後の最後まで俺を助けてくれた彼女の。
心の中にあるこの思いを忘れていたのがつらい。確かに魔王に倒され、魔王の横にいたオークに犯されていった二人。
俺はそれを見ているだけしかできなかった。気が狂いそうだった。お互いHPが高いのが災いしてなかなか死ねずに体を少しずつ喰われていったのだ。
だから記憶を封印したのだ。無意識のうちに。だが、思いだした。ティセのあの表情を見て、あの時の、前の世界で見た虚ろなティセの表情を思い出した。そう、マリーの目から光が失われていったあの時を。
「お前が関係ないのはわかっている。だが、俺は許せない。これはただのやつあたりだ」
俺はそう言って手に力を込める。神聖魔法を右手に宿す。出来るはずだ。俺の力とマリーの力を合わせれば。剣に力を流れ込ませる。
「ホーリースラッシュ」
神聖魔法の「ホーリー」を宿した剣戟。何度も撃ちつけた。エルダーリッチが粉々になるまで。
「次はお前だな」
詠唱に入っているジグル老子を見る。だが、その瞬間視界が反転した。自分の身体が見える。
「困るんですよね。こんな人でも同じパーティーなのですから」
ゆがんだ笑いをしたウリクルがそこに立っていた。気配なんて感じなかった。そして、その奥に俺の身体があった。首から先がない。そう、俺は殺されたんだ。
うぁぁぁぁ。
何か変な声が聞こえた。讃美歌か?違う。もっと忌々しい何かに感じる。そう思ったら光が見えた。
「元気な男の子ですね」
そう言った人の顔を見てびっくりした。
生まれ育った町にいた産婆。ラウ婆だ。だが、少し若い。そして目の前にまだ生きている父親がいた。そして俺の下には母親が。
俺は死んだ。そして、転生したのだ。




