~戦う覚悟~
~戦う覚悟~
「ほう、この中のどれかを奪えば研究がすすみそうじゃのう」
ジグル老がにやりと笑っている。
「ジグル老。この中の一体でも倒してしまうと」
「このダンジョンの魔素の流れを見ればわかる。不完全だが復活すると言うのだろう。あれは我が国の脅威じゃ。それくらいわかっておる」
普通にわかるものなのだろうか。俺にはわからない。倒すことはできない、だが負けることも逃げることもできない。
「困っているのなら解放するがいい。この戦いを回避する方法くらい教えてやるぞ」
オール・ジャスパーがそう言ってくる。こいつはジグル老より信じられない。それに本能が言っている。こいつは解放してはいけないと。
「おやおや、そこにいるのはこの発案者であり、全てを失ったオール・ジャスパーではないっすか。とりあえず、そこでおとなしく見ているといいっす。まあ、研究はいい線いっていたと思うっすよ。ただ、詰めが甘いっすよね」
ヘタマイトはそう言って黒光りする兵士を出してきた。今までと違って巨人だ。ただ、この巨人は倒せばいいだけだ。一番面倒なのはこのジャスパーたちだ。
「カンババは聞く。こいつら倒していい、多分。ダルメシアンは助ける、絶対」
黒い髪に緑のメッシュが入った白いミニスカートは履いた少女のようなカンババジャスパーがそう言った。一見女の子に見えるが男だ。
そして、ドラゴンライトニングという、えげつない魔法を使ってくる。いや、テイマーでもあるからどこからともなくモンスターを従えているし、あの肩まである髪の奥にも小さいリスのようなモンスターが居る。
「人数が多いわね、危険だわ。嘘だけど。とりあえず、各個撃破で戦いましょうか、嘘だけど」
青いフードをかぶった顔が影で良く見えないオーシャンジャスパーがそう言う。こいつは本当の事を口にしない。各個撃破をしないと言う事は広範囲魔法をぶっ放してくる可能性がある。
「ヒーリング、嘘だけど」
「フライ」
俺は自分のパーティーメンバーだけを「フライ」の魔法で上空にあげた。この魔法はすでに経験している。「メイル・シュトローム」大津波の魔法だ。こんな水分がないダンジョンだが津波の影響で身動きも取れなくなる。
ジグル老とエルダーリッチは少し遅れてフライを唱えて宙に浮かんでいる。ウリクルはヴェルチを抱えて宙に浮き、壁に剣を刺して回避している。
「ドラゴンライトニング、多分」
カンババジャスパーが俺らすべてに魔法を放ってくる。
「乱反射ですわ」
色っぽいヴェルチの声と共に薄い虹色の膜が張られた。まっすぐ飛んできたドラゴンライトニングが乱反射する。
「散会だ。回避しろ」
俺らにも不規則にドラゴンライトニングが飛び火してくる。
「そんな攻撃俺たちに当たるわけないだろうが」
ゼブラジャスパーがそう言ってきた。こいつのスキルは反射と反転だ。乱反射されたドラゴンライトニングが俺たちにめがけてやってくる。ジグル老たちの方にはいかない。このままだと誰かが攻撃を喰らう。
「カーボンタワー」
土の中の銅だけを抽出して塔を作る。避雷針替わりだ。ドラゴンライトニングが俺が作った避雷針に吸い寄せられていく。
「ふ~ん、ただのバカじゃないみたいだね。でも、その中でこうしたらどうなるかな」
レッドジャスパーが笑っている。
「サウザンドソード」
俺たちの周囲に1000本の暗黒剣が召喚された。剣を避けようとすると、黒光りする巨人が棍棒をふるっている。こいつらから倒すか。
「ユグドラシルシード」
ドラゴンジャスパーがこのタイミングで発動させてきた。ユグドラシルシードの効果をジグル老たちに見せるわけにはいかない。
「ナパームボム」
ナパームボム自体に殺傷能力はあまりない。かわりに草木を焼き尽くす能力がある。ナパームボムの影響を受けてユグドラシルシードは燃え上がっている。
「今の魔法は何だ?」
ジグル老がそう言ってきたが俺はスルーした。
「召喚魔法のようだが、リキャストがかなり長いと見た。まあ、今度検証してみようではないか」
検証されるのか。そう思っていたらレッドジャスパーの暗黒剣が勢いよく俺たちの方に向かってきた。
ジグル老たちには行っていない。よく見るとヴェルチが唱えた乱反射の魔法ですべての魔法が反射されている。
どういう魔法だ。観察をして検証をする。魔力を薄く張って方向を変えているだけの魔法。だが、その際に味方の魔力には向かわないようにしている。
そうか。同じ属性をぶつければその魔法に追加させることができる。試してみるか。
「乱反射」
するとレッドジャスパーの魔剣がメンバーに当たることなくはじき返せた。
「この魔法は使えるな」
そう思っていたらジグル老から殺気が飛んできた。
「小僧、お前はとんでもないことをやってくれたな」
意味が解らなかった。周囲を見る。俺たちにもジグル老たちにも魔剣は迫ってきていない。それに相手も魔法を打ち出していない。何かがおかしい。魔剣は壁や天井に当たる。ヴェルチが乱反射を唱えているからジグル老たちのパーティーには当たらない。ゼブラジャスパーが反射を唱えたから彼らにも当たらない。そして、俺が乱反射を唱えたから俺らにも当たらない。
「ふはははは。これを、これを待っていたのだ」
声をした方を見る。そこにはオール・ジャスパーが居た。オール・ジャスパーに魔剣が向かっていき、繋がれている鎖で受け止めている。
「まさか」
「そのまさかじゃよ。このままだとあの封印が解けるだろうな。身構えるがいい。封印することしかできなかった真のオール・ジャスパーを」
オール・ジャスパーの魔力が上がっているのが良くわかる。そして、もうあの拘束が解けるのも。
「みんな集まれ。あれは危険だ」
俺たちだけじゃない。ジャスパーもどうしていいのかわからず見守っている。
「これはまずいっすね。とりあえず、こうするっす」
そう言ってジャスパーたちから魔核を吸収したのがわかる。そして、その魔核をどこかに転移させた。
「ほう、これでそこにいるジャスパーたちを倒しても発動はせぬな」
確かに宝石魔人の本体は魔核だ。魔核が破壊されない限りしなない。目の前にあるのはただの魔核を受け入れる器だ。器が壊れても代替えが効く。
「宝石魔人は死なないけれど、体の復活には時間がかかりますわ。気を付けてくださいね」
ペリドットさんがダルメシアンジャスパーに向かって言う。確かにダルメシアンジャスパーの魔核はここにはない。というか、どこにあるのかまだわかっていないのだ。
「心配、ありがとう」
「来るぞ」
一段と魔素が濃くなった。パリンという音と共に世界が変わった。
「自由だ。さて、とりあえずここを出ようかのう。ついでじゃ受け取れ。ニードルショット」
オール・ジャスパーがそう言うと無数の針が飛んできた。だが、針が含んでいる魔素の量がおかしい。
「クリスタルウォール」
ダルメシアンジャスパーが唱える。だが、その針はまるで豆腐か何かのようにクリスタルウォールを貫通していく。しかもスピードが止まらない。
「避けろ!」
そう言いながら俺はファイアーロックキャノンを放った。だが、針は貫通するだけだ。ジグル老を見るとモンスターを召喚している。ゴブリンだ。針はゴブリンにあたり止まっていく。生きているものにしか反応しないという攻撃か。召喚獣は倒されても復活はする。
「ミーニャ。バジリスクを召喚してくれ。今すぐだ。場所はダルメシアンジャスパーの前だ」
「わかったにゃ。お願い来て。召喚『バジリスク』」
ミーニャがそう言って地面からバジリスクが現れた。大きい緑のバジリスクがうっすらと現れるが具現化する前に針が迫ってきた。
「ダルにゃん。危ないのにゃ」
ミーニャがダルメシアンジャスパーを抱きしめる。盾になるならミーニャより俺の方がHPは高いだろう。それに俺ならすぐにやり直しがきく。
ただ、痛いだけだ。何度経験をしてもいいものじゃない。だが、ミーニャが目の前で死ぬよりはいい。俺は「スピードスター」で加速してミーニャの前に出た。だが、俺の前にもう一つ大きな壁が出来た。
「我が主を傷つかせるわけにはいないのじゃ」
そう言ってアカはドラゴン形態に戻った。大きい体のため体に針がいっぱい刺さる。
「大丈夫か?ヒールプラス」
そう言って回復魔法をかける。だが、回復魔法の意味が無いことがわかった。魂魄に傷がついているのだ。徐々にドラゴン形態から人の形に戻る。そして、体が半透明になってきた。俺はアカの体を受け止める。重さが徐々になくなっていく。
「我が主よ。問題ないのじゃ。我の本体は魔界。少しこの世界から消えるだけじゃ」
「そんなこと俺は認めない」
「死なないでほしいのにゃ」
「生きてほしい」
俺は魔力をアカに注ぎ込む。アカの表情がかわった。なんだか何かに耐えているような表情だ。だが、体の重さが戻ってきた。傷ついた魂魄を治す方法はないが、食い止める方法ならある。
「プリザベーション」
まず、この魔法で停止させる。後は神聖系の蘇生魔法だ。蘇生するのは傷ついた魂魄部分のみ。だが、今すぐには無理だ。俺は神聖系魔法も使えるが蘇生魔法にはかなり時間がかかる。マリーなら早く対処できるだろうが、俺には無理だ。
「助かるの?」
「アカの魂魄に傷がついた。すぐの回復は無理だ。だから一旦アカの生体活動を停止させた」
ティセにそう返事をする。言うならば仮死状態だ。
「アカ、死ぬの?嫌だよ」
「まだ、わからない。ただ、このままだったらアカはいなくなる」
俺だって嫌だ。誰かが死ぬところなんて見たくない。アカは確かに魔界に戻るだけかもしれない。また召喚すればいいだけかもしれない。だが、それはアカと同じなのか?
思考は、思いは今のアカに蓄積されている。記憶のすべてが引き継げるとも限らない。生きていても記憶がなければそれはアカじゃない。
「私が、倒されれば、よかった」
ダルメシアンジャスパーがそう言う。
「そんなことないにゃ。ダルにゃんはそう言わないで欲しいのにゃ」
俺はダルメシアンジャスパーの頭を撫でた。まだ、終わっていない。目の前にはジャスパーたちが倒れているのは見えているがその奥にヘタマイトがすごい表情でこっちを睨んでいる。いや、見ているのは俺の奥だ。振り返るとそこにはすでにオール・ジャスパーはいなかった。ただ、天井に大きな穴が開いている。
実は何度か戦いながら壁や天井に攻撃をして魔素の流れを強制的に変えようとしたのだ。だが、防御魔法が込められているのか、壁を少し削ることはできても破壊することはできなかった。
その穴から月明かりが見える。月に影が入る。黒い影。いや、黒い服、しかもフリルのついたふわっとしたスカートに丸みを帯びた傘を持った少女が降りてきた。黒髪に黒い瞳。白い肌に赤い唇。幼い顔立ちをしているが無表情だ。
「いと尊き御方様」
ヘタマイトがそう言って膝をつき頭を下げる。目の前の少女から感じるプレッシャーは確かに得体の知れないものだ。鳥肌が立っている。脳に危険だというアラートが鳴り続けているのに体を動かすことができない。
「おや、この場所がここまでやられるとはな。そういうこともあるのだろう」
そう言って傘を閉じ、どこからともなく扇子を開いたかと思ったら「パチン」という音と共に閉じた。その瞬間世界がモノクロに変わった。
「な、なんだ。この世界は?」
周囲を見ると俺以外が倒れている。ジグル老もそして、ヘタマイトも倒れている。今この場で立っているのはこの黒いゴシックなドレス、それも、戦場に似合わないまるで人形が着るようなドレスを着た少女と俺だけだ。
その少女が俺の方を見た。体が動かない。なんだこのプレッシャーは。まるで魔王と対峙した時に感じたプレッシャーだ。
ここは人がいる世界だ。魔界じゃないんだ。こんなやつ前の世界にはいなかった。
「おやおや、珍しいかな。僕がいる世界で意識を保てる生き物がいるなんて。ああ、そういうことか。君はもう普通の世界の住人じゃないのだからね」
そう言って扇子で俺の顎を持ち上げて顔をじろじろと見られた。普通の世界の住人じゃない。確かにこの指輪のおかげで何度も転生をしている。それは普通の事じゃない。だが、それが普通の世界の住人という表現であっているのだろうか。
「どうやら、君は何もわかっていないようだね」
「心が読めるのか?」
その冷たい目で見られると心臓が止まりそうになる。
「心なんて読めやしないさ。ただ、君のその顔が全てを物語っているというものだ。まあ、せっかくの暇つぶしだ。特別に君が僕に質問することを許そうじゃないか」
声は出る。だが、体が動かせそうにない。一体何だこれは。というか、もっと根本的なことがある。
「お前は一体何者だ?」
この世界にいていい存在じゃない。こんなのが暴れたらこの世界では太刀打ちできない。あの最強のメンバーがそろったとしても勝てないかもしれない。
「よりによってそんな質問をしてくるとは。君はおもしろい存在だ。僕が何者かだって。僕は僕でしかないよ。
それに僕が例えば僕は神だと言ったとしてそれを君は信じるのかい。僕のことをどう思うとそれは君の勝手だ。
それとも僕の名前が知りたいのかい。まあ、僕の名前くらいなら教えてあげてもいいけれど、僕には名前がいっぱいあるからね。どれを君に教えたらいいかなんてそれこそ難しいことだ。
まあ、名前を知ったからと言って僕が何者かなんてことにつながるとは思えないがね。僕にとっては等しくどうでもいいことだ。そう、そこにいるヘタマイトも同じだよ。暇つぶしに作ってみたら、娯楽の提供ぐらいはできそうだから作ってみたけれどね」
そう言ってその少女は楽しそうに笑った。そして、扇子を開いたかと思ったら徐に閉じた。
その、瞬間に倒れていたジャスパーたちが修復していく。傷だらけだったもの、体の一部が砕けていたものもいる。彼らは人ではないから魂魄はない。ただ、宝石魔人は魔核がない体が壊されたら復活までかなりの時間がかかる。それを一瞬で治したのだ。
「化け物か」
そう俺が言うと笑いながら少女がこう言ってきた。
「僕を化け物と呼ぶか。まあ、君たち矮小なものから見たら化け物に見えるのかも知れないが、これでもいたいけな少女なんだからね。
流石に化け物とは呼ばれたくないな。君だって人の理から離れているのだから十分に化け物なんだよ。化け物に化け物と呼ばれるのも面白いが僕の好みではないね。仕方が無い。君は僕のことをテミスと呼ぶといいよ」
テミス。それは確か女神の名前だ。確か法律、秩序、正義、掟の女神だ。
「お前は神なのか?」
確かに魔素は大きいが禍々しさはない。だが、人のために何かをする慈愛を感じることができない。
「君は神の定義は何だと思っているのかい。僕は誰かのために何かをすることはしない。ただ、僕の暇つぶしと娯楽のために生きているだけさ。
そして、僕の行動を他人が勝手に理由をつけるだけだよ。人と異なる力を持って行使をする。それが奇跡と思われるのさ。
バカみたいだろう。
ただ、認識できないだけでそれはただの法則であり、結果だ。それで、君は僕に聞きたいことがあるんじゃないのかい?」
テミスが言ったことは意味不明だ。だが、これだけは確認しておかないといけない。
「テミス。お前は人に敵対するものか、それとも味方なのか?魔王とどういう関わりがあるんだ?」
これだけ強い存在が人の世界にいる。それはおかしい。魔界と人間界には結界が張られてある。何もなければ強いものはその結界を越えることはできない。
4魔貴族だってそうだ。このダンジョンに像があったタナトスだってそうだ。クロノスだって能力の一部だけをこの人間界に持ってきて本体は魔界にある。
テミスはセンスを開いて顔を半分隠している。そう、笑っているのだ。
「どうやら君は魔界と人間界にある結界について誤解をしているようだね。あの結界を越えるか超えないかは紳士協定なんだよ。
まあ、力のないものは一部しか移動できないみたいだけれど僕みたいなのにかかればあの結界はあってもなくてもどっちでもいいものなんだよ。
それにね、魔界は退屈さ。刺激がない。それから思うと人間は愉快だよ。身の丈にあわない願いに、ありもしないものに人生を捧げるものだっている。
愉快じゃないか。
この世界は僕の暇つぶしに丁度いいんだよ。まあ、誰もこの世界を本気で滅ぼそうなんて思っていないんだよ。どこかの魔王が一度実験と言って人間界に攻勢をかけたが、それも粛清されたしね」
意味が解らない。だが、わかったことは、目の前にいるテミスは4魔貴族よりも強いということだ。そして、もう一つ。敵でも味方でもないということだ。
「この世界にいる魔王と、魔界にいる魔王は人間界を攻め滅ぼす気がないのか?」
俺はそう思っていた。だが、テミスが言うのが正しいのならば違うのかもしれない。いや、前の世界では明らかに世界の大半が滅びかけていた。
「君は魔王と言うが、魔界には何柱か魔王がいるのだがね。一体誰のことを言っているのかい?それに、この世界は確かに娯楽に満ちているが、それでも美しさがかけたら不要に感じるものもいるのも事実だ。まあ、せいぜい僕たちを楽しませてくれるといいよ」
そう言ってテミスが飛び立とうとした。すでにジャスパーたちは目の前から消えている。ただ、ダルメシアンジャスパーだけは目の前で倒れたままだ。
「ああ、その子は面白そうだから君に預けておいてあげるよ。そうだ、これも渡しておいてあげよう」
そう言ってテミスが何かを放りなげてきた。魔核だ。それはダルメシアンジャスパーの中に納まっていく。
「待て、まだ話しは終わっていない。楽しませるとは一体どういうことだ」
「それは君たちが道化だから普通にしていれば問題ないことだよ。ただ、程度と言うものがある。人が人と戦う理由は様々さ。だがね、そこに美意識が欠けたらそれは笑えないということさ」
ということは、前の世界で誰かが美意識に欠ける何かをしたというのだろうか。一体何をしたというのだ。
「まあ、せいぜい楽しむといいよ。君は他の誰かと違って時間だけはたっぷりとあるのだからね。そうだ、君のために少しだけプレゼントをしてあげようじゃないか」
そう言うとテミスはどこからか何かを取り出した。そして、一瞬で距離を詰めると俺の目の前までやってきた。
人差し指を俺の腹に近づける。気持ち悪いがその指は俺の腹の中にずぶりとささった。
「これは種だよ。どう育つかは君次第だ。まあ、君はまだまだ人の世界にいるから面白そうだから違う世界を垣間見られるよう種を植えてあげたよ。それは魔力を糧に成長する。ああ、君はそう言えば時の牢獄者だったね。その種は君の因果律に埋め込んだ。時を戻そうとも君の腹に植え付けられているよ。まあ、そこまで悪いものじゃないと思うがね」
テミスはそう言うと扇子を取り出して開いたかと思うとパチンと音を立てて閉じた。世界が一気にカラーになった。
「一体何があったというのですか?」
ペリドットさんがそう言ってきた。まだティセ、ミーニャは体を起こせていない。倒れたままだ。ジグル老は体を起こしているが、ウリクルとヴェルチは床に突っ伏している。
「人外のものが現れた。あのヘタマイトが御方と言っていたものが現れた。あれは別次元だった」
そう言うとジグル老がこちらにやってきた。後ろにはエルダーリッチがいる。
「小僧はアレと対峙したというのか。まあ、そうなんだろうな」
そう言って俺の腹付近を見てきた。俺にもわかる。異物が体の中にある。そして、脈打っているのだ。
「それは誰にもどうすることもできない代物だろう。とりあえず危機は去った。行くぞ」
ウリクルとヴェルチを連れて消え去った。一瞬で。転移魔法か。だが、今の俺の状態でジグル老と戦えると思えない。かなりこの腹に巣食っているものに魔力を奪われているからだ。
「アデル、アカを助けてあげて」
ティセにそう言われてアカの方を見る。プリザベーションで仮死状態にしているが、このまま解くわけにはいかない。アカの周囲に六芒星を描く。神聖術を極めていない俺はこの手順を踏まないと削られたアカの魂魄の復活は出来ない。
プリザベーションを解いてリザレクションを唱える。だが、成功しなかった。
「なぜだ。どうしてだ」
「先に魔界で待っているだけなのじゃ。我が主よ。悲しまないでくれ」
「まだだ、まだ手があるはずだ」
俺はもう一度プリザベーションをアカにかける。考えろ、考えろ。リザレクションで復活はできない。魔法は発動した。だが、魂魄を戻すことはできなかった。それはなぜだ。そこに理由があるはずあだ。
マリーが言っていた。リザレクションは失われたものを復活させる魔法だと。ではアカの魂魄は失われたわけではないのか。削られたはずの魂魄はどこに言ったんだ。
何かがひっかかる。
「アデル、アカにゃんはどうして魔界で待っていると言っているのにゃ?」
ミーニャが不安がりながらアカの髪を撫でている。魔界で待っている。アカの本体は魔界にある。人間界にはその一部が来ているだけ。一部と言うか幻影みたいなものだ。だが、その幻影には実態がある。
幻影?
そうか、魂魄は傷ついたわけじゃない。魔界に帰っただけだ。だとしたら戻った分の魂魄を魔界から呼び戻せばいい。だが、そう簡単に魔界とつながる場所なんて。
「あった」
そうだ、このダンジョンにはある。魔界の門を無理やりこじ開けようとした場所が。
「行くぞ、アカを救う手立てがあった。ダルメシアンジャスパー。タナトス像の場所まで俺たちを連れて行ってくれ」
「いいけど、あそこで何するの?あの場所は・・・」
ダルメシアンジャスパーに「安心しろ」とだけ言った。タナトス復活はさせない。ただ、魔界の門をこじ開けるだけだ。多分できるはず。俺はそう信じた。




