~奇跡の世代~
~奇跡の世代~
「その者は我が国の敵じゃ。もし、解放すると言うのならお前らも国賊として成敗する」
そう言って黒い禍々しい杖をこちらに向けてくる。いや、どうみたって悪としか思えないジグル老から国賊と言われるのは納得いかない。
俺は世界を魔王から救う勇者だぞ。間違っても国賊ではない。
「間違えるな。俺はこの国の、いや、この世界の未来の行く末をいい方向に向かうように動いている。まず、この地のこの異様な魔素の流れをどうにかしたい。ただ、それだけだ。そのためにこのオール・ジャスパーから話しを聞きだしていた」
ここでジグル老たちと戦ってもいいことはない。やはり、目に見えているのはジグル老とエルダーリッチだけだ。
おそらくウリクルと僧侶のヴェルチは隠れている。隠れるのが好きなのか。だが、なんとなく気配がわかる。
この辺りはヘタマイトやペリドットさんとの違いだ。レベル差なのかもしれない。
だが、純粋にレベルに差があれば勝てるというものでもない。スキルや魔法の使い方でどうにでもなる。それが戦術だ。
「真にこの世界の未来を願うのなら、まず不純物を取り除け。一旦更地にするのが早いぞ」
オール・ジャスパーがわけのわからないことを言ってくる。
「そんなわけあるか。更地にする必要はないし、破壊からは何も生まれない」
「いや、生まれるぞ。破壊は再生の母だ」
ジグル老とオール・ジャスパーが話す。二人とも悪にしか見えない。
「だが、お前の行動には美学がない」
ジグル老がオール・ジャスパーにそう告げる。
「美学など不要だ。手が汚れたら手を洗うだろう。それと同じだ。この世界は汚れきっている。一度リセットするのがいい。それに、世界ごと魔王を滅ぼせばいい」
いや、この世界にいる魔王は幻影みたいなものだ。オール・ジャスパーはそれを知らないのか。ってか、よく考えたらこの世界で魔王城まで行けたものって多分俺のじいちゃんくらいなのだろうか。昔のことは良くわからない。
「ふん、破壊しか知らぬお前は未熟ものだ。だから破門されたのだ」
ふと思った。ジグル老とオール・ジャスパーはひょっとして似た者同士で仲がいいのではないのか?
「ってか、二人は知り合いで友達か何かか?俺から見たら意気投合しているようにしか見えないのだが」
そう言ったら後ろから笑い声が聞こえた。すでに隠れていることが出来なくなっているウリクルとヴェルチがそこにいた。うっすらと輪郭が見えている。
「おい、ウリクル、ヴェルチ。もう見えているぞ」
「だって、この子が面白いこと言うんだもの」
スリットから白い足が伸びている。つい目で見てしまう。
「何見ているのよ」
ティセにたたかれた。
「そんなに見たいのなら、私のを見ればいいじゃない」
「え?見ていいの?」
「見んな」
やっぱり殴られる。しかもアイスロッドでだ。理不尽だ。
「それで小僧よ。儂がこのクズと似た者同士だと言ったよな」
ジグル老がそう俺に顔を近づけて言ってきた。目が本気で怒っている。
「…いや、違うかも、、、知れない」
眼力に負けた。チキンだと笑うがいい。
「そうだろう。そうだろう。このクズは破壊しか産み出さぬ。しかも、その成果を他人に奪われるのだ。しかもとてつもなく厄介で我が国と対立している宗教国家聖マルテにだ」
宗教国家聖マルテ。俺が産まれたレフィール王国の北に位置する国で聖なる魔法に特化し人だけを優遇する国だ。だが、それがなぜ死を讃えるのだ。
「その顔は知らぬようだな。宗教国家である聖マルテには地下組織がある。聖なるものに特化した国は光だ。だが、光には影が付きまとう。このクズ自体はトロイア出身だがな」
トロイアと言えばファストレアを産み出した国か。だが、確かに狂人と言われていたものがいたがコイツではない。もっとねばっこい感じの視線を感じたからだ。
「ファストレアが居た国か。だが、あの国は人を人と思わぬことをしていたはずだ。どうしてこう神降ろしを考えたのだ」
疑問だった。トロイアは魔と闇の国と呼ばれ人族に属しているが、魔王の国と隣接しているから魔を取り込むことをが多い国のはずだ。
「俗物が。これだから知識ないものは発展せぬのだ。魔を取り込んだとしても元が人であるのならば、その人の強さが基準になってしまう。そのため、魔をうまく取り込むのなら母体は人でない方がいい。宝石魔人がいい例だ。どれだけ矮小な魔人でもある程度の強さになる。稀に突然変異が産まれるがな。そこにいるダルメシアンのように」
オール・ジャスパーはそう言ってダルメシアンジャスパーを見る。創造魔法など反則的だ。まあ、イリーナもどんどん魔法を作っていったが、ダルメシアンジャスパーの創造魔法は別なのだ。光り輝く大砲などすでに魔法と言う概念に納めていいかもわからない。
「私はそんなこと望んでいない。私の望みは平穏。ただそれだけ」
ダルメシアンジャスパーがそう言う。
「平和が一番なのだにゃ。ダルにゃんには笑顔が似合うのにゃ」
そう言ってミーニャは無表情のダルメシアンジャスパーのはっぺたをつねって無理やり笑顔にさせる。
「ここは保育園ですかね。しつけが必要ですか」
そう言ってウリクルが細身の剣を抜きだす。それを見てミーニャが走って逃げる。カオスだ。話しが前に進まない。
「ならばどうしてオール・ジャスパーはこんな所で国の補助もなく捕まっている」
魔と闇の国と呼ばれるトロイアは確かにファストレアを失った。だが、元々それ以外にもきな臭い噂はある。
国力を上げるために人体実験をしているとも、死したものすらも動かす邪法があるとも言われている。
「ふん、我の器を受け止めるには国は小さすぎるのじゃ」
「禁忌に触れたため追い出されたが正解じゃの。一門の恥だ。クズめが」
やはり、どこかで繋がりがあるのか。
「一門とは何なのだ?」
素朴な疑問をぶつけた。ジグル老が俺を向いてこう言ってきた。
「お前がガストンから何も来ていないのか。先の魔王との大戦のことを」
「知らない。倒した敵のことは聞いているがそれ以外は何も知らない」
俺はティセを見た。ティセのばあちゃんも同じパーティーだったのだ。ジグル老が言う。
「儂らの世代は奇跡の世代と言われ、複数のパーティが魔界で戦ったのじゃ。そのクズも別のパーティじゃがな。だが、儂は魔界で今までの概念を覆すものにであった。だから今でも研究をしている。更なる力を得るためにな。そして、その根幹はこの国を守るためだ」
いや、お前は大量殺戮をするだけだ。お前のせいで何度死んだと思っている。俺もティセも。
「儂は悪魔召喚こそ力だと信じておる。そのために犠牲はつきものだ。だが、どこかで犠牲は起きるもの。
仕組まれた犠牲なら活用せねば勿体ないではないか。今回だってそうじゃ。このクズのせいで多大な犠牲が出るだろう。
だが、それをうまく活用する。このクズは死した魂を放置するが儂は違う。その後片付けをするだけじゃ。まあ、ここで話していても始まらぬ。魔素を地上にばらまきモンスターの強化でも行うかな。タナトスの復活も近そうだしの」
そう言ってジグル老が立ち去ろうとする。今までこいつらと敵対しなかったのは初めてだ。だが、何かが引っかかる。
「一体誰に教わったのだ。まさか」
そう言ってじいちゃんを思い出した。
「ふん、お前のとこのガストンも同じ門下生じゃ。同じ師についてが目指す先、行うことがわかれただけじゃ。まあ、あの事実を知っても尚、魔王と戦おうとしたガストンは頭がいかれておるわ」
じいちゃんは一体何を目指しているのだろうか。わからない。だが、研究の一旦はこの剣でもあるし、ペリドットさんでもあり、シズでもある。シズが失敗作と良く言っている。ならば成功作は一体何なのだろう。
じいちゃんが隠遁して行っていることがわからない。
「じいちゃんを悪くいうな」
「それは知らぬからじゃ。お前はあの魔界の異質さを。途方もないあの世界を」
ジグル老にそう言われた。いや、俺も魔界には行った。だが、太陽のない世界、人族のいない世界。だが、所々人族の踏み入れた跡があるいびつな世界だった。おそらくじいちゃんたち先人が何かをしたのだろうと思っていた。
あの時の俺らは無駄な戦いをせず、無駄にどこにも立ち寄らずただ、食糧を調達し敵を倒していくということだけを行っていた。
いや、確かにイリーナやマリーはおかしかった。時に興奮し、また嘆きもしていた。だが、俺たちは魔王を倒すことだけに特化していたのだ。
「魔界に何があるというんだ?」
俺がそう言うとジグル老は黙り込んだ。かわりにオール・ジャスパーがこう言ってきた。
「すべてだ。すべての真理があそこにはある。そして、それは絶望でもある。だからこそこの世界は無に返し、再度生まれ変わる必要がある。その力をもった魔人も仲間にできたのだ」
破壊と再生。ふと思いついたのはピクチャージャスパーの「バースデイ」だ。誕生という魔法のわりに魔素の爆発の様な魔法だった。まるで世界を破壊するかのような。
「破壊すればお前もいなくなるのだぞ」
「何を言うか。死は再生のはじまりだ。そして、死こそすべてではないか。死は全てを平たく統べる。ペルソナの垣根がなくなり全てが一つで無だ。まあ、子供にはわからぬであろう」
いや、わかりたくない。それにひっかかる言葉もある。魔人も仲間にできた。宝石魔人と魔人は異なるものだ。一体オール・ジャスパーの仲間とは一体。それに魔人は受肉しない限り人間界では具現化できない。
「仲間にした魔人とは。あのヘタマイトか?」
違うだろうと思っている。だが、違う事をいう事で真実を言うのではという賭けだ。
「ふん、あんなタナトス教のやつと一緒にするでない、もっと崇高な仲間じゃよ」
オール・ジャスパーが言う。だが、真相を言おうとしない。
「一体どこに魔人が居るんだ」
「それくらいにしておけ。こいつは狂っている。自らの体に魔人を召喚したのだからな。そして、あの鎖がなくなれば解き放たれる。ここにいるのはオール・ジャスパーに近い何かじゃ。そして、鎖を解き放ったら別の物になる。儂らはこれからこの魔素の流れを変えるためこのダンジョンに風穴を開けるかの」
魔力感知でも見分けがつかない。だが、確かにいびつな魔素をしている。
「それは困るんっすよね。魔素の流れを変えるのは」
いつの間にかヘタマイトがそこにいた。しかもすべてのジャスパーがそろっている。
「これで生贄がとりあえずそろったっす」




