~オール・ジャスパー~
~オール・ジャスパー~
暗い中、戻る選択だけが出来た。セーブポイントからか初めからか。
もちろん、セーブポイントからを選択した。変な讃美歌が流れる。
「これは?」
きょとんとした顔のダルメシアンジャスパーがいた。そう、俺がパーティー登録の仮申請をしたところだ。
だが、皆深い深呼吸をしている。していないのはダルメシアンジャスパーだけだ。
「ここまで戻るのか」
そう、これからレッド、カンババ、オーシャンとの戦いとなる。
「我が主に申し訳ないが、さっきの相手との戦いは回避できぬじゃろうか」
正直なところ、俺もそれは思っていた。おそらく俺たちが戦わなくてもウリクルたちがなんとか対応するだろう。
それに、「バースデイ」で何が誕生して、俺は何にやられたのかもわからなかった。
「とりあえず、どうしますか?このままだと戦いになりますけれど」
ペリドットさんがそう言ってきた。おそらくレッド、カンババ、オーシャンとの戦いは攻略が見えている。だが、いつも最後はヘタマイトに逃げられる。というか、ヘタマイトが隠れているのだろうか。
「ペリドットさん、ヘタマイトはこの近くにいますか?」
そう行くと予想と違う回答が返ってきた。
「このダンジョンにはヘタマイト鉱石が大量にあるのよね。つまり、どこにでも現れることができるし、その気になれば同時に複数の箇所にも出現できるかしら」
最悪だ。警戒することもできない。仕方が無い。
「ならば、ここでの戦いは無意味だ。場所を変える『次元断』」
俺は足元の地面を削って違う場所に転移させた。
次元断での移動は場所を決めることが事前にできない。だが、ヘタマイトには移動をしたとしてもすぐに場所がばれてしまう。それはこのダンジョンの中にいる限りかわらない。
攻撃が来るかも知れないが、この場所がさっきまでいた所とどれだけ離れているのかがわからない。
「とりあえず、話し合いが必要ですわね」
ペリドットさんが言う。
「そうだな、それに」
俺はダルメシアンジャスパーを見た。彼女の意識は普通だ。後ろから刺されることもなさそうだ。
「ダルメシアンジャスパーについてももっと知ることがある」
そう言って俺は黒く長い髪をして、無垢な瞳をこちらに向ける少女、ダルメシアンジャスパーを見た。
「私の何が知りたいの?それは痛いこと?」
「ちょっと、アデル。その子に何をしようとしているの?ちょっと刺されたことがあるくらいで」
ティセがそう言ってきた。アカもミーニャも俺を疑っている。
「いや、ち、違うからな。ちょっとダルメシアンジャスパーの封印されている記憶について魔力を流してみようかと思ってだな」
そうなんだ。ダルメシアンジャスパーは未だに仲間としてきちんと登録できていない。そこには理由があるはずなんだ。それに、この封印だが、おそらくイリーナなら解除できるあろう。
(まあ、できるけれどね)
頭の中にイリーナの声が響いてびっくりした。
(イリーナ見ていたのか?)
だが、イリーナ自身の魔力は感じない。
(私はイリーナの一部。アデルの脳に張り付いているスライムの一部だよ。まあ、イリーナならその子の封印は解けるでしょうね。
でも、この場所は魔素の流れが不規則過ぎてかなり難しいわよ。下手に触るのはやめておいた方がいいかしら。それにその子の封印解くことが本当にいいのかしら。一度考えた方がいいわよ)
なるほど。
「ちょっと、いきなり何黙っているの?おかしくなった?」
ティセが俺の顔を覗き込んできた。
「あらあら。アデルはちょっとイリーナの知識と語っているみたいですわね。そういう魔力の流れがわからないのはまだまだ修行が足りないようですわね」
ペリドットさんがそう言ってティセに殺気をぶつける。いや、それレッドジャスパーの技だからね。威力落としていても怪我するから。
と、思っていたら速攻で「ヒール」をかける。回復させたからノーカンってのも違うと思うんですけれどどうなんですかね。
「とりあえず、ダルメシアンジャスパーが思い出したことを教えて欲しい。まったく何も思い出せていないというわけでもないんじゃないかな?」
俺がダルメシアンジャスパーにそう言ったが、ダルメシアンジャスパーは俯くだけで何も語ってくれない。
「いや、無理に話してくれというわけじゃないんだ」
「そうだな、その子の記憶を無理に呼び戻さん方がいいだろうな」
「どこだ」
低い声がした。男性の年配の声。声をした方に「ライト」を放つ。だが、そこは壁だった。
「どこだと言われても、君はもう気が付いているんじゃないのかな?」
俺はその言葉通り壁に「フレアバースト」を放った。ここ最近ようやくこの魔法の正しい使い方をしているような気がする。
壁が崩れるとその奥に右手首が鎖で壁に拘束され、両足に大きな鉄球をぶら下げている男性がいる。髪は白くて長く、ひげも生えている。長らく拘束されていたのかにおいがきつい。
「アクアエアクリーン」
水で汚れをふき取り風で乾かす魔法。生活魔法の一種だ。まあ、実際戦闘で血と汗で汚れた体をきれいにすることでよく使った魔法でもある。
その男性をきれいにした。髪の長さは変わらないが、風魔法で顔が見えるようにした。顔は皺があるが、白い肌に何か所かシミがある。だが、目は爛々として怖かった。
「ほう、久しぶりに人らしい尊厳を得られたことに感謝する」
痩せ細っている体だが、生気が感じられる。一体どれだけの期間この場所に収監されていたのだろう。
「色々聞きたいことはあるが、まず名前を聞こうか」
俺は白髪の男性にこう言った。
「まあ、良いだろう。我が名はオール。オール・ジャスパーという。ジャスパー一族を束ねるものだ。といっても、今は何の権限もないただのじじいじゃ」
ジャスパー一族。ジャスパーは宝石の一種だ。そして、この洞窟で出会った宝石魔人はヘタマイトを除けば全員ジャスパーだ。
「あなたは宝石魔人じゃありませんよね。まあ、人であったようですが、一体ここで何があったのか教えていただけませんかしら」
ペリドットさんがこのオール・ジャスパーにそう話しかける。
「まあ、そのダルメシアンを保護してくれているのなら知る権利くらいはあろう。では、この場所で何が行われているのか話そう。まず、『神降ろし』について知っているか?」
少し前にペリドットさんから聞いた。神を具現化させるために魔素を多く含んだ宝石と魔人を使って失敗したと聞く。その副産物で出来たのは宝石魔人だと。
そう俺が話すとオール・ジャスパーは笑っていた。
「ははははは。そうだ。その通りだ。だが、神降ろしの方向性は間違っていなかったのだ。神というのは受肉する存在が必要なのだ。だが、それには生贄が必要となる。そこで私は考えた。宝石魔人を生贄に、受肉させるための器を用意して、大量の魔素を流せばどうなるのか。その研究場所がこの洞窟だ」
俺はシルクハットを被り、右側の目だけを隠している銀の仮面をつけてタキシードに、ステッキを持っていたタナトスの石像を思い出した。オール・ジャスパーは続ける。
「実験は違う意味で失敗した。宝石を核として生贄を用いて大量の魔素の渦に受肉する媒体を用意して神降ろしをする。確かに、今迄とは違うものが産まれた。それを神と呼んでいいのか儂にはわからんかった。なんせ、はじめは自我を持っておらなかったからな。
だが、自我を持った『それ』は神というよりただの力を持った『何か』でしかなった。そう、そこに信仰心がなかったからだ。だったら憑代とするものが信仰を集めるものであり、その生贄になる核も信仰につながるものならばどうなるのか」
まあ、見てきたものから仮説は立てられる。だが、仮説でしかない。
「あの、申し訳にゃいのだが、難しくてよくわからないのにゃ」
ミーニャはすでに脱落している。仕方が無い。仮説を話すか。
「オール・ジャスパーさんよ。多分こうなんじゃないのか。信仰が必要。その中で容姿もある程度はっきりしていて、信仰もされている『タナトス像』を中心にして、この付近の魔素の流れを変えた。そして、『タナトス像』はスイッチ一つで大量の魔素が流れる形となっている」
俺がこのダンジョンで見てきたものだ。だが、それだと生贄の意味がわからない。
「ははははは。そうだ。だが、それだけだと、だが、降ろした神は神でしかないのだ。その制御は不可能だ。
だから、その神の意思を乗っ取るにはどうしたらいいか。それで産み出したのが宝石魔人のジャスパーたちだ。
あやつらは宝石を核としているが、呼び出した魔人を召喚するのに『死を讃える』ものたちを使ったのだ。レッド、カンババ、オーシャン、ピクチャー、ドラゴンブラッドそして、ダルメシアンだ」
そう言ってオール・ジャスパーはダルメシアンを見た。
「この宝石魔人たちは優秀過ぎた。そして、その者達を生贄にしてタナトス像に大量の魔素を流し込む。それで従順な神降ろしが可能となるはずだ。
だが、ここに来て問題が出た。タナトス教がこの儂の研究を知ったのだ。儂の長年の研究を横取りする。
そして、もう一つ。そのタナトスは魔王への戦いに使うのではなく、ありのままの神として使うというのだ。つまりこの世界を滅ぼすためと言うのだ。信じられんとは思うが」
いや、俺は信じられる。前の世界で俺は「タナトス」と出会っている。そして、あのタナトスは俺が最初の世界で出会った「タナトス」に近いものを感じた。
だが、違和感がどこかにある。何かがおかしい。オール・ジャスパーが言う。
「儂は計画を阻止するためダルメシアンの記憶を封印した。ダルメシアンだけは他のジャスパーと違う性質を持っている。
それは元の魔人のスキルでもある創造魔法だ。あれが正しく使われてしまっては世界が壊れてしまう。だから封印をした。変わりに儂が拘束されてしまったがな」
確かに誰かがダルメシアンの記憶を封印した。そして、その封印が解けかけているのも事実だ。
「まず、ダルメシアンの記憶が戻らないように封印する。それが絶対条件だ。そして、すべてのジャスパーを生贄に捧げる。そうすれば完全に制御できる『神』が誕生するんだ。まず、儂を解放してくれないか?」
そう言ってオール・ジャスパーは体を動かし鎖を伸ばした。鎖は魔法がかかっている。簡単に壊せるようなものじゃないが、俺やペリドットさんなら壊せるだろう。何かが引っかかる。
「なあ、聞きたいことがあるんだが、自我を持った力ある『何か』は結局何で、どこにいるんだ?」
オール・ジャスパーの話しの全てを信じることはできない。こいつは何かを隠している。俺はダルメシアンジャスパーを見た。
「違う、私は、私で記憶を封印した」
頭を抑えながら消えそうな声でそうダルメシアンジャスパーはそう言った。
「それは植えつけられた記憶だ。さあ、ダルメシアン。マスターの声を聞くがいい。この鎖を断ち切れ」
波動が伝わる。このオール・ジャスパーの足下を見ると魔方陣が光って見えた。鎖だけでなく魔方陣で拘束されている。それでも、これだけの事ができるのだ。じいちゃんまでじゃなくてもこいつはレジェンドクラスだ。そのレジェンドクラスを拘束できる相手がいる。
「おい、じいさんさ。俺の質問になぜ答えない。それは答えられないんじゃないのか?それともあんたがその力を持った何かなのか?」
世の中にそんなにレジェンドクラスがいっぱいいるとは思えない。ならば、こいつはある意味出来損ないの神なのではと思った。
「ははははは。私が出来損ないの神だといいたいのか。その根拠は何だ?私はそこにいるダルメシアンジャスパーのマスターであるぞ」
その言葉を聞いてペリドットさんが剣をオール・ジャスパーに向けた。
「あらあら。貴方からはマスターの波動が感じられませんわ。まあ、元はマスターであったかもしれませんが、あなたは奪われたのですね。全てを。そして、取り返すこともできないから全てをひっくり返そうとしているだけですわ」
ダルメシアンジャスパーを見る。凛とした表情をしている。
「ま、まさか。お前記憶が戻ったと言うのか?世界が終わる」
「ええ、思い出しましたわ。お父様。そして、私が行う役目も」
そう言って白い球体がダルメシアンジャスパーから生まれだしていく。世界が白一色に染まっていく。光の中で俺は人の形を維持できなくなった。
暗い中、戻る選択だけが出来た。セーブポイントからか初めからか。もちろん、セーブポイントからを選択した。変な讃美歌が流れる。
「これは?」
きょとんとした顔のダルメシアンジャスパーがいた。また、俺はこのセーブポイントに戻ってきてしまった。




