~記憶のない少女~
~記憶のない少女~
「アデル。あの場所に誰かいるのにゃ」
ミーニャがそう言って走っていく。このダンジョンは魔素の流れがおかしい。
いや、人為的に誰かが流れを変えているのだ。普通は魔素の流れをある程度見て、突き進むのだが、このダンジョンの中で魔素を頼りに歩くのが怖い。吹き溜まりの様な場所もあれば、根こそぎ魔素を奪われた場所もある。
そう、このダンジョンに入れるのはモンスターや魔人、後は一定以上の強者のみだ。
「ライト」
自分の周りにはライトで照らしている。敵から丸見えだが自分が周囲を見えない方が危険だ。だから周囲一帯を照らしている。
そして、ミーニャはライトの光が遮られている場所に突っ込んでいく。そのため、その先に「ライト」を唱えたのだ。
まあ、ミーニャにも風の精霊の加護をかけてある。一番怖いのは遠くから狙われることだ。接近戦だとミーニャの素早さを考えるとよけられるから心配はない。
「アデル、早く来るのにゃ」
そう言ってしゃがんでいるミーニャの足下に黒く長い髪をした少女が座っていた。
肌の色は白く、そして、白いワンピースだけを着ていた。くつは履いていない。体の所々に傷がある。顔は見えない。三角座りで顔が下に向いているからだ。
魔力探知でこの少女を調べる。
名前:***
レベル:600
性別:女性
年齢:****
種族:宝石魔人
属性:土(宝石)光(創造)
備考:記憶喪失(封印)
ステータス:中立
この前クランを作成してから調査スキルがあがった。そのおかげでレベル以外も確認できるようになった。
ただし、相手が確実に敵対している、もしくはレベルが拮抗していると詳細まではわからない。
今の所この少女はペリドットさんやこのダンジョンにいるヘタマイトと同じ宝石魔人だということが分かった。
そして、レベルが高い。そして、この備考にある記憶喪失(封印)という表記だ。特にこの括弧で書かれている封印が怪しい。
おそらく誰かが意図的に封印をしているのだろう。魔力探知で更に奥を探ってみたが複雑すぎて封印が解けそうにない。これはおそらく封印をした者にしか解くことができないのだろう。
「そこの君。大丈夫か?」
HPもMPも減っているが、回復が必要というレベルでもない。とりあえず声をかけてみたが反応はない。
「大丈夫だにゃ。私たちが助けてあげるのにゃ」
ミーニャがそう言っているが少女はずっと泣いている。この得体のしれないダンジョンで得体の知れない少女。
しかもレベルは高く謎も多い。罠の可能性も高い。見捨てるという選択だってあるだろう。けれど、俺は勇者だ。罠とわかっていても助ける。それが勇者だろう。
「アクアエアクリーン」
水で汚れをふき取り風で乾かす魔法。生活魔法の一種だ。まあ、実際戦闘で血と汗で汚れた体をきれいにすることでよく使った魔法でもある。
「これできれいになっただろう。怪我もついでに治しておいた。立てるか?」
少女は立ち上がった。顔を見て思った。顔に大小はあるがほくろがある。顎の右側に大きなほくろがあり、ほっぺたとはなにも小さなほくろがある。
そして眉間の左側にもほくろがある。このほくろは少しだけ大きい。
だが、顔立ちはきれいに整っている。ペリドットさんは人に擬態している時に見た目の年齢は変えられるが顔立ちは変えることができないと言っていた。そして、見た目の年齢は自分が楽なのがあるとも言っていた。
この少女はこの年齢が基本で、この顔立ちは普通なのだろう。だが、表情がない。無表情のままだ。
「名前を教えてほしいのにゃ?」
ミーニャが少女の顔を覗き込む。
「なまえ?わからない。確かダル・・・思い出せない」
たどたどしくそう話す。ダルから始まる宝石名。見た目からすると一つだけ思い当たる。だが、その名前が封印に影響をすることもあるかもしれない。しばらくはそっとしておこう。
「じゃあ、ダルにゃんって呼ぶのにゃ」
そう言ってミーニャはダルにゃんを抱きしめた。そして、パーティー登録をしようとする。
「あれ?パーティー登録できないのにゃ」
パーティー登録は双方の合意がないとできない。ダルにゃんは望んでいないことがわかる。
「とりあえず、その子を連れて移動するか」
「その子じゃないにゃ。ダルにゃんだにゃ。アデルもちゃんと呼ばないとダメなのにゃ」
俺がダルにゃんを見ていたらそっと手を繋がれた。反対側はミーニャをつかんでいる。
「そっか、ダルにゃん行こうか」
「うん、行く」
言葉は少なく表情の変化も乏しい。だが、少しだけ表情がかわったように感じた。
「ダルにゃんは記憶喪失なのだにゃ。大変なのだにゃ」
歩きながらミーニャがダルにゃんに話しかけている。そして、不思議なことにモンスターが一切こっちに寄って来なくなった。
このダルにゃんをモンスターが避けているのだ。
「大変じゃない。多分」
たどたどしくそうダルにゃんがそう話す。
「魔法は何か使えるか?」
ステータスでは土の宝石魔法と光の創造魔法が使えるのはわかっている。どちらも特殊な魔法だ。ダルにゃんはこくりと頷いた。
「ダルにゃんは戦わなくて大丈夫にゃ。お姉ちゃんが守ってあげるのにゃ」
まあ、ミーニャよりはるかにレベル高いけれどな。だが、どういう魔法を使うのかは気になる。
「こっちがいい」
ダルにゃんはたまに俺の手を放して指差す。右利きなのだろう。ちなみに、ミーニャ、ダルにゃん、俺の順で並んでいる。右手は自由に使いたかったからこの並びになった。
「そっちに行くにゃ。それにしても敵が出てこないので楽ちんなのにゃ」
ミーニャは手を振りながら歩いている。
「敵がいるほうがいい?」
消えそうな感じの声でダルにゃんが言う。
「まあ、このままだと訓練にならないからな」
それに戦いがないとダルにゃんの能力もわからない。特に光(創造)というのが気になる。
「じゃあ、こっち。訓練できそう」
そう言って指差した所は壁だ。
「そこは壁だにゃ」
ミーニャがそう言うがダルにゃんは気にせずに壁に向かって進んでいく。壁に近づいて気が付いた。魔素の流れでもわからなかった。その壁は岩ではなく柔らかい物体で出来ていた。
「このまま突き進める」
そう言って壁を突っ切った先は広い場所だった。そして、中央に黒いフルプレートの鎧。縁が金色の鎧だ。
ただ、異様なのはその大きさ。まるで巨人用だ。だが、魔法の防具は身に着けると勝手に大きさを合わせてくれる。
「魔力探知」
調べて見た。
名前:ギガントフルプレートアーマー
レベル:SSS
属性:土
備考:呪いあり(詳細不明)
はじめモンスターかと思ったが普通に鎧だった。だが、呪われている。しかも呪いの中身はわからない。
「なんだかすごい鎧なのだにゃ。こういうのはアデルが付けるとかっこいいのにゃ」
「いや、着けないからね。それに、重い鎧は動きが悪くなる。俺は軽装がいいんだ」
それにこの装備には思い入れがある。白を基調とした赤いラインのこの服はマリーのローブに少し似ているのだ。
「お揃いだね」
そう言っていたのを思い出す。そう言えば、ティセが着ていたローブも白を基調として縁が赤いな。まさか俺の服に合わせてあのローブを選んだのか?
それはないな。火の耐性があるから選んだはず。それにティセは水魔法を使う。火の耐性がある装備を選ぶのは普通か。
ちなみにマリーのローブはイビルアイロッドと対になっている。赤い色は火の耐性ではなく、悪魔の目と目から出た血の涙だ。
確かディアブロという悪魔のものだったはず。その呪いを解いて使っていたのだ。だが、それまでもマリーが身に着けていたローブは白い。そして、赤い刺繍が入っていた。魔素で出来た赤い糸は多くの人の思い、涙、血が練り込まれていたという。
マリーは多くの人の期待を元々背負っていた。出会った時から。そう思うと俺はちっぽけだ。
ずしーん。
音がした。振り向くとそこには巨人が居た。
「俺の鎧を盗みに来たのか?」
大きな体にでかい剣。そして黒く光る盾に兜。ジャイアントだ。魔力探知で相手のレベルを確認する。
名前:ジャイアント・ウォーリア
レベル:250
属性:土
備考:進化する可能性あり。戦闘狂。
進化って何になるんだ。っていうか、この相手ミーニャには倒せる相手じゃない。というか、これ倒さないといけない相手なのか?
「いや、鎧に興味はない。それよりこの場所について聞きたい」
剣を抜かずにそう話す。ミーニャも俺を見て剣に手をかけていたが俺と同じように両手を広げる。敵意がないことをアピールするのだ。
「小さきもの。何が知りたい」
「この場所の魔素の流れについてだ。誰がどこで手を加えているのか知っていたら教えてほしい」
おそらくその場所をどうにかしないといけない。
「知らぬ。俺はこの場所を守っているただの番人。この場所に用がないなら立ち去れ。弱気ものに用はない」
そう言って巨人は鎧を手にする。気になるのなら脱がなければいいのにと思った。その瞬間後ろから急激に魔素が練りあがっていくのがわかる。
「クリスタルランス」
大量のランスが巨人に刺さる。振り向くとダルにゃんが魔法を唱えていた。
「ダルにゃん。なんで攻撃しているの?」
「訓練しないの?」
ぼそっと話しながら更にクリスタルランスがものすごい勢いで巨人に刺さっていく。
「うごごご。不意打ちとは卑怯な」
巨人に刺さったクリスタルランスを力任せに抜いていく。
「ミーニャ仕方が無い。戦闘準備だ。相手はかなり強い。まずは距離を取って。ダルにゃんは後ろから攻撃を」
戦う予定はなかったのだが、ダルにゃんの先制攻撃で相手が攻撃体制に入っている。巨人は黒い剣を抜き振ってくる。衝撃波が来る。
「金剛盾」
俺は金剛盾に闘気を込めた。
「烈風刃」
巨人がそう言って剣に力を込める。まるでソードスラッシュだ。だが、込められている闘気と魔素の量が違う。金剛盾にひびが入る。こんな攻撃喰らったら危険だ。
「クリスタルウォール」
後ろからダルにゃんが唱える。金剛盾とは違う、クリスタルで出来た壁だ。しかも分厚さが違う。金剛盾は粉砕されたが、クリスタルウォールは攻撃を跳ね返した。
「ほう、この攻撃をまっすぐに跳ね返すか。面白い」
そう言えば、巨人の備考に戦闘狂と書かれてあったのを思い出した。巨人が足に力を入れて拳を突き出す。クリスタルウォールにひびが入る。だが、相手に隙が出来ている。
「ミーニャ、後ろに回り込め。正面は俺が相手をする。ダルにゃんはクリスタルウォールが破壊されたら攻撃魔法を」
ダルにゃんのスキルはわからない。だが、このクリスタルウォールの仕組みはわかった。
金剛盾は地面の土を使って盾とする。けれど、このクリスタルウォールは土の中で鉱石だけを抽出して盾としている。詠唱時間はかかるが威力はけた違いだ。同じくクリスタルランスもそうだ。
こういう使い方もあるのか。勉強になる。そして、巨人が使った烈風刃もわかった。これは俺も使うことができる。だが、このまま使っても意味がない。
「ダークネス」
周囲を暗くした。クリスタルウォールは半透明なため相手が見える。逆を言えば相手からも俺が見えているはずだ。だからダークネスで暗くして俺がどこにいるのかわからないようにした。
クリスタルウォールが割れる。その瞬間に「フラッシュ」を唱えた。
「ま、まぶしい。まともに戦うこともせぬのか」
体格差がここまであったらまともに戦うのも無理だろう。俺は剣に闘気を込める。相手は土属性。同属性だと攻撃は回復することが多い。
クリスタルランスが効いているのは物理攻撃が付与されているからだ。土には風を。剣に風属性を付与する。
このまま放てばウインドスラッシュになる。だが、風をただ巻き起こすのではない。風を選ぶのだ。そして、その風の動きを操る。方向を固めれば烈風刃ができる。だが、俺は更にタメを作っている。
「真空刃」
剣の周りを真空にして巨人を攻撃した。相手の鎧が砕けて胸に傷がつく。一閃の傷だが大きい。
「見事だ。だが、これくらいで倒れはせぬ。大ヒール」
まじか。相手の鎧は回復していないが、胸の傷は一気にふさがった。
「攻撃するのにゃ」
ミーニャが巨人の足首に「ソードスラッシュ」を送り込む。だが、ソードスラッシュ程度だとやはり少しだけ傷がつくくらいだ。
「非力だ」
巨人がかかとをあげてミーニャを攻撃する。意識がずれた。
「今だ、ダルにゃん。ありったけの攻撃を」
「もう準備は整っている。『クリエイト:ライトニングガン』」
そう言うと光の粒子が集まって大きな大砲がそこに出現した。創造魔法。はじめてみた。文献で見たことがある。
創造力だけであらゆるものをそこに産み出せる魔法。目の前にあるのは重心が伸びた大砲のようなものだ。だが、光り輝いている。
「重点完了。全弾発射」
砲弾の銃身が広がる。その瞬間大量の光線が巨人に向けられた。
「ぐおぉぉぉぉぉ」
巨人の叫び声とともに周囲が光に包まれる。光が晴れたその後に残っていたのは上半身を吹き飛ばされた巨人の体だけだった。しかも、光で焼ききっているため血も出ていない。
ドスンと音がして巨人の下半身が床に倒れる。
「瞬炎」
唱えた瞬間に残っていた巨人の体が消えた。瞬殺かよ。というか、見ただけでは理解できなかった魔法だ。再現できそうにない。
「攻撃はあれでよかった?」
ダルにゃんがそう言ってきた。
「ああ、完璧だ。あのクリエイト魔法を教えてほしいくらいだよ」
どうやっているのかわからない魔法だ。ダルにゃんが言う。
「創造して魔素を集めるだけ」
いや、それができないし理解もできないんだよね。魔素を集めたからって物質変換できないし、そもそもあの大砲みたいなの威力もおかしい。
「この奥に何かあるのにゃ。アデル一緒に行くにゃ」
この部屋の奥に何かがある。そう言えばあの巨人は何かを守っていたと言っていた。はじめは鎧かと思っていたが、守っているものを身につけることはしない。だとしたらこの奥に何かがある。そして、さっきミーニャは学んだのだ。勝手に宝箱を開けない、勝手な行動をしないということを。
「あれを開けるの?」
ダルにゃんが不思議そうに言う。
「中身が何か知ってるのかな?」
そういうとダルにゃんは首を横に振るだけだった。しばらくしてダルにゃんはこう言った。
「ただ、あれはあのままがいい」
それは俺も思った。部屋の奥にあったのは宝箱ではなく魔方陣だったからだ。そしてその中央に石像がある。
石像はシルクハットを被り、右側の目だけを隠している銀の仮面をつけてタキシードに、ステッキを持っていた。
そう、タナトスだ。そして、この魔方陣を触った瞬間にこの石造は動き出す。このメンバーでタナトスに挑む気はない。
そして、この魔方陣をどうにかしないとタナトスが復活するのも事実だ。魔力供給場所を変える必要がある。
だが、それはこの部屋に流れる魔素の流れを変えた所であまり意味がない。もっと大元を変えないといけない。
「とりあえず、ここは触れずに移動しよう」
まだ、俺はこのダンジョンが、誰がどういう目的で作ったのかわかっていなかった。タナトス復活をたくらんでいるとだけ思っていたのが間違いだったのだ。




