~目の前の敵を倒す~
~目の前の敵を倒す~
俺の目の前に二つの塊があった。それ以外見えない。なんだこれ。手を伸ばすとぷにっと柔らかい。暗闇に目が慣れてきた。茶色のレザーメイルに白いズボン。茶色の髪に猫耳。そして真っ赤な顔をしている。
「アデルがそんなに大胆だなんて思ってなかったのにゃ」
ミーニャだ。そして、俺はミーニャの大きくてたわわな胸をもんでいたようだ。
「いや、悪かった。そういうつもりではなくて」
「別にいいのにゃ。アデルは強い。ニャンクスは強いオスと結婚して子孫を残す義務があるのにゃ。アデルなら問題ないのにゃ。今は邪魔もいないから丁度いいのにゃ」
そう言ってミーニャが抱きついてきた。だが、暗闇に目が慣れてきてわかった。この場所は安全じゃない。
「ライト」
光を照らす。少し小さい部屋だ。そして壁側に赤い色をした宝箱がある。明らかに怪しい。そして周囲にはガーゴイルの石造が8体もある。
いや、この部屋自体が変な魔素が充満している。
「とりあえず、今すぐここを出よう。この場所は危険だ」
だが、この部屋の異質さに気が付いた。周囲が壁に覆われているが扉がどこにもないのだ。
「アデル。あそこに宝箱あるにゃ。開けるのにゃ」
そう言ってミーニャが走り出す。俺はミーニャの手をつかむ。
「どうかしたのかにゃ?心配しなくてもどこにも行かないのにゃ」
「いや、あの宝箱は明らかに怪しい。絶対にトラップだ。そして、この場所も。おそらく宝箱を開けたら周囲のガーゴイルが動き出す仕組みだろう。そして、この場所は隠れ部屋なのだと思う。どこかに扉があるはずだから壁を調べて欲しい。まず、逃げ場を確保してからだ」
「わかったのにゃ」
ミーニャはそう言っているが宝箱に目が行っている。本来なら別々に壁を調べた方が効率がいいが、目を話すと宝場を開けるかもしれないので手を繋いで移動をする。
「ふふふ。アデルが手を繋いできたのにゃ。もう、アデルはメロメロなのだにゃ」
何かミーニャが言っているが気にしないようにしよう。壁を調べると一か所だけ壁が薄いところがある。
だが、開けるスイッチがどこにも見当たらない。これは反対側からしか開けられないというトラップなのだろうか。仕方が無い。これは最後の手段と思っていたが仕方が無い。
「今から壁を破壊する。すぐに外に出るんだ。このガーゴイルが動き出すかもしれない」
半身になって壁に右手をつけて体は部屋の周囲を見渡せるようにする。爆風が来るだろうからミーニャを左手で抱きしめる。
「フレアバースト」
いつもはフライの加速で使うことが多い魔法だが、本来は爆発を起こす魔法だ。爆音とともに壁が崩れる。そして、ガーゴイルが動き出した。
「ミーニャ。部屋から出るんだ。こっちのガーゴイルは俺が相手する」
そう言って部屋からミーニャを出した所、ミーニャが叫びだした。そう、ミーニャの目の前に居たのはイビルブラックドラゴンだ。どうやらこの場所を守っていたようだ。ならばあの宝箱は中身がある。とりあえず、状況を変える必要がある。
「ミーニャ。こっちだ」
狭い場所よりドラゴンが居る方がまだ戦いやすい。
ドラゴンの首が動く。ブレス前の動きだ。ミーニャを脇に抱え「フライ」を唱える。上空に上がるがガーゴイルが俺を追いかけてくる。
狙い通りだ。
ドラゴン、俺たち、そしてガーゴイルが一直線に並ぶ。ドラゴンに意思はない。そのままブレスが来る。
その瞬間にフライの発動を切る。一気に俺たちは地面に向かって落ちていく。だが、ガーゴイルは俺たちの動きについてこられていない。そのまま4体はブレスの巻き添えを喰らっている。
そして、そのまま地面に降り立つとすぐに「スピードスター」を発動させてドラゴンに向かってオーラタックルでぶつかる。
「ちょっと、私のいるのを忘れないで欲しいのにゃ」
ぶつかった衝撃で目をバッテンにミーニャがしていた。いや、忘れているわけじゃない。多分これが一番安全なんだ。といっても信じてもらえなさそうなのでミーニャにヒールをかける。
「ミーニャ。残り4体のガーゴイルを引きつけておいてほしい。壁を使って飛び跳ねながら攻撃すれば倒せるだろう。できるか?」
「わかったにゃ。アデルが言うならできるはずなのにゃ」
そう言ってミーニャはじぐざぐに走りながら壁をかけ上げっていく。ガーゴイルはそこまで強いモンスターじゃない。
個体数が多いと面倒なのと魔法封じの魔法を使ってくるのが厄介なところだ。ミーニャは戦いの時にそこまで魔法を使わない。そして、身体能力だけで飛んでいるガーゴイルに攻撃もできる。
そういう意味では結構相性はいいだろう。こっちは目の前のドラゴンだ。時間が惜しい。とりあえず時間が惜しい。
「ソードスラッシュ」
まずはドラゴンのヘイトをこちらに向けさせる。ミーニャの方にブレスが行くとよけきれない可能性がある。
うろこが何枚か飛び散ったがすぐに回復する。ドラゴンがこっちを向いた。
「フラッシュ」
視界を奪う。そして、剣を構える。本来の使い方をさせてもらうぞ、リチャード。
「次元断」
この技の一番恐ろしいこと。それは地面につかって違う場所に行くことでも、結界に閉じ込めた相手を攻撃することでもない。
剣で作った円の中身が違う次元に転移することだ。そして、俺が描いた円はドラゴンの首の付け根の上、顔の下だ。
そう、相手が大きいほど「次元断」は使いやすい技だ。一瞬で空間が削り取られたようになる。ドラゴンの遺された首は下に落ち、体は横に倒れた。
「瞬炎」
この魔法でドラゴンの体が消える。生きていないことがわかる。本当ならばミーニャに経験値を取らせる必要があるが、今は合流することの方が先だ。
ちなみに、次元断は万能ではない。強い敵に使った場合成功しないのだ。だから魔王には通じなかった。
「きゃー」
ミーニャの声がする。ガーゴイルに苦戦しているのかと思ったらガーゴイル4体はすでに地面に落ちている。
そして、ミーニャは奥の部屋に行って宝箱をあけていたのだ。ガーゴイルが動き出すだけだと思っていたが、周囲から大量にスケルトンが出てきている。しかも武器を装備している。剣や盾にメイスに杖。どうやら過去の冒険者パーティーのようだ。前衛、後衛と分かれて戦っている。
「アデル、助けて欲しいのにゃ」
ミーニャは両手を地面に着きながら4足で走ってくる。剣を構える。
「ホーリー・バースト・ストリーム」
ソードスラッシュに神聖魔法の「ホーリー」を付与して乱打する。スケルトンはそこまで強くない。本当ならば剣戟より打撃の効果的だがこの威力で大丈夫だろう。それに今回は力を制御していない。一掃できた。
「あの宝箱はトラップだと言っただろう。どうして開けたんだ?」
ミーニャにそう言う。今回はいい。トラップには初見殺しのものもある。
「だって、気になったのにゃ。それにこれが中に入っていたのにゃ。これ何かわかるかにゃ?」
そう言ってミーニャが手にしていたものは黒い水晶で作られた見たことがない像だ。足なのか触手なのか8本があり、胴体がある。胴体からは人のような手が4本。全ての手に武器を持っている。
剣、斧、棍棒、独鈷だ。独鈷は魔法具の一種だ。確か東方にある島国で使われている魔法具だ。いや、神具と彼らは言っていたような気がする。
だが、それ以上に気になったのは頭部だ。きれいな女性の顔をしている。だが、その顔は何度か現れたヘタマイトに似ているのだ。そして、この像からまがまがしい魔素が放出されている。
大きさが手のひらより少し大きいだけというよりありえない魔素があるのだ。とりあえず、この像は危険だ。
「これがあった宝箱を確かめたい」
小さな部屋に戻る。宝箱には魔方陣が刻まれていた。そう、これは封印をしていたのだ。そして、開けたことで封印が解けている。
「どうかしたのかにゃ?」
いや、これは宝箱の形をした封印だ。人に開けさせることを目的とした。宝箱に手をかざし調査するとわかる。
この宝箱に意識を持って行くように、そして開けるように誘導する魔法が組み込まれている。ミーニャはこの魔法にかかったのだ。
「とりあえず、この封印を引きづくか」
少し時間はかかったがこの像を外に出し続けるのは危険だと判断した。30分かかったが無事封印ができた。
しかも、人がこの宝箱から遠ざかるように組み替えたのだ。だが、この宝箱の中に封印されていたのはこの像だけでないのもわかっている。そして、もう一つはすでにこの場所から立ち去っているということも。
考えても仕方が無い。また倒せばいいだけだ。
「とりあえず、みんなに合流するぞ」
「わかったのにゃ。合流するまで手を繋いでくれたらうれしいのにゃ」
まあ、迷子になられるよりはいいか。そういう軽い気持ちで俺はミーニャの手を繋いでダンジョンを歩き出した。後から思えばちゃんと考えればよかったのかもしれないのだが。




