~次元断の使い道~
~次元断の使い道~
「ふん、この場所で誰かが結界を張っているから見に来たらあの時の小僧ではないか。そして、ここに宝石魔人が2体か」
そう言ってジグル老がペリドットさんと褐色の肌をしたシルバーブラックの瞳をした少女を交互に見る。
「宝石魔人?」
俺はジグル老と褐色の少女の間に、そして、ティセたちを背に出来る場所に移動する。この二人を相手に勝てるとは思えない。ペリドットさんと戦ったとしてもだ。
まず、ジグル老とは何度も戦っているがいつも最後にウリクルに攻撃をされる。ウリクルは狂戦士化するにもかかわらず気配を完全に消すことができる。いや、ペリドットさんが少しまで使っていた不感知化魔法を使っているのかもしれない。
背後にウリクルとヴェルチの二人がいると思って行動するのが一番だろう。そして、今は出来れば戦いを避けたい。
限界まで戦ったティセ、アカ、ミーニャが回復していない。いや、一気に回復させることができるユグドラシルシードという魔法はあるが、ジグル老にあの魔法の仕組みを奪われるのが怖い。
かといって「大ヒール」ではHPは回復するがMPが回復しない。だから剣を抜かずに様子を見ているのだ。
「なんだ、小僧。お前は宝石魔人も知らぬのか」
その単語は知らないがペリドットさんの魔核が宝石であること、それが「ペリドット」という宝石であることは知っている。だが、知っているのはそれだけだ。
「知らないです」
ジグル老は俺を見ていない。褐色の少女を見ている。この少女はニタニタ笑っているが得体が知れない。
いつの間にか足下にはまた丸い顔に細長い手足をした1メートルくらいのシルバーブラックの人形が5体もいる。
正直あの人形だけなら倒す方法はある。だが、褐色の少女の底が見えない。まず、あの人形の仕組みがわからないのだ。
「なんすっか?お二人で戦い合ってくれるんっすならこっちはこのまま消えるだけなので。まあ、私はいと貴き方に報告するだけっすけどね」
そう言うと人形だけを残していきなり消えた。そして人形がものすごい速さで俺とジグル老に向かってくる。こちらに2体。ジグル老に3体だ。
剣を抜き、力を込める。
「ソードスラッシュ」
早いと言ってもそれはレベル100未満から見てだ。レベル1000に到達した俺だと一撃で倒せる。それに、手の内をジグル老に見せたくない。ジグル老も杖から黒い球体を出したかと思うとシルバーブラックの人形がその球体に吸い込まれた。
「ブラックホールか?」
つい口に出てしまった。ブラックホールという魔法は確かにある。全てを吸い込む魔法だ。というか、俺のエキストラスキルである「重力万倍」も近いことができる。あれは、吸い込む、圧縮するという魔法だ。
だが、シルバーブラックの人形は明らかに違う場所に消えた。転移魔法とも違う。仕組みがわからないのだ。
見て認識できない魔法。重力操作だと思っていたが違うのかもしれない。観察をしていたらジグル老が杖をこちらに向ける。いや、俺にではない。その切っ先はペリドットさんに向いている。
「そこの宝石魔人よ。砕け散るがいい」
黒い杖から黒い球体が複数飛んできた。さっきのブラックホールのような球体だ。すでに周囲の小石が吸い寄せられている。闇属性には光属性が効果的だ。
「ホーリースラッシュ」
これで相殺されて消えるはずだ。そう思っていたらジグル老が「属性反転」と叫んだ。その瞬間に黒い球体が光の球体に変わる。闇属性が光属性に変わったのだ。
まずい。同属性だと威力が増すだけだ。俺のホーリースラッシュを吸収して球体が更に大きくなる。
そして、吸い込む力が増大する。更にジグル老は複数の球体をこちらに向けてきた。色は赤色、青色、緑色、土色。4属性だ。しかも込められている魔力がバラバラだ。
相殺しようにも先ほどの「属性反転」で吸収される可能性が高い。だが、ジグル老は一つだけ間違っている。そう、俺は魔法使いではない。勇者だ。
剣を構えて突進する。もちろん目の前にある光の球体。しかも吸収しようとしているから加速できる。
剣で球体を切りつける。普通であれば吸い込まれるが、俺が行うのはリチャードのエキストラスキル「次元断」だ。次元断はこの世界を切り裂き別の次元に送り込む技。
つまり、目の前の光の球体を別の次元に送り込む技だ。ある意味目の前の球体と効果は似ているのかもしれない。次元断に触れた球体は別次元に吸い込まれ消えて行った。
「ほう」
ジグル老がつぶやいた瞬間に俺は一気に加速させて他の球体も次元断で切り刻み消失させる。だが、気が付くとジグル老が目の前から消えていた。だが、いなくなったわけではない。まがまがしい気配が残っているからだ。これはエルダーリッチの分だろう。
五感を研ぎ澄ましソードスラッシュを放つ。放つ場所はティセの真後ろだ。鈍い音がしたが防がれたのがわかる。
「みんな集まれ。狙われているぞ。相手の位置を探る」
俺はそう言って「アクティブ・ソナー」を放つ。発見したのは4人の影だ。やはりジグル老子以外もいたか。だが、この4人を相手に勝てる作戦を立てるのが難しい。
ティセとミーニャは回復をしていない。流石にドラゴンだけあってアカは回復してきている。さて、相手がどうでるかだ。
「隠れていても無駄だ。もうわかっているだろう」
大きな声でそう叫ぶ。適度な距離を4人ともとっている。最初に現れたのは絵画から現れたような美丈夫のウリクルだ。だが、その目は狂人のように爛々と輝いている。ウリクルが言う。
「私たちに勝てるとでも思っているのでしょうか?」
口調は丁寧だが、殺気がすごい。
「正直勝てるとは思っていません。けれど、逃げることは出来ると思っています」
そう言って「フラッシュ」を唱える。ためのない魔法であるため回避が難しい魔法だ。そして、次元断で床を円型に切りつける。空間だけを切り取って俺たちが下に落ちる。
勝てない相手と遭遇することだってある。リチャードが編み出した逃げる方法だ。といっても、この方法は魔王には通じなかった。
いや、特定の敵からは逃げることができない。次元を変えることができないからだ。今回は逃げられるのではと思い床を切り裂いた。
浮遊感とともに落下する。逃げられた証拠だ。ただ、この逃げ方の問題点はどこに着地するのかがわからないのだ。
だから次元断を習得されたとしても同じことをしても、同じ場所にはたどり着けない。
「痛い」
ティセがそう言った。周囲を見るととりあえず洞窟の中ということはわかる。そして、周囲に敵がいないことも。
アカは背中からとげとげしい翼を出して空を飛んでいる。ドラゴンの翼を小さくしたみたいな感じだ。
「空も飛べぬとは非力じゃのう」
あの状況でとっさに翼を出せるアカがすごいのだ。ミーニャも地面に倒れている。というかそのまま気を失っている。
「天使が迎えに来ているのにゃ」
いや、寝転がりながら何を言っているのだ。しかも起きていた。
「だらしないですわね」
ペリドットさんは宙に浮いている。あのタイミングできちんとフライを唱えているのだ。とりあえず逃げることはできた。だが、二回目は通用しないだろう。相手もそれはわかっている。
「ふ~ん、あんたらそんなに強そうじゃないっすね」
気が付くと後ろに褐色の少女がいた。しかもシルバーブラックのゴーレムの肩にのっている。ゴーレムは2メートルくらいの大きさだ。黒光りしていて固そうだ。しかも通常のゴーレムより腕も足も太い。かなりずんぐりした体形だ。
「あなたの相手なら私がしてあげますわよ。ヘタマイト」
ペリドットさんが前にでて細身の剣を相手に向ける。
「ぷっくくく。人間風情のいいなりになったペリドットちゃんじゃないですか。まあ、私がお相手してあげてもいいっすけど残念ながらあなた達の相手は私じゃないっすね。面倒なので、この場所の守護者にでも譲るっすよ」
そう言って一瞬でゴーレムごと消えた。ずしーんと音がする。振り返ると黒光りするドラゴンがそこにいた。ただ、アカと違うのが額にも目が付いている。
「イビルブラックドラゴン」
アカがそう言う。
俺も一度魔界で出会ったことがある。この竜に自我はない。ただ、目の前の敵を倒すだけ。そして、もう一つこの竜は何かを守っている。つまりこの場所は竜が守るべき場所が納められている場所でもあるのだ。
「とりあえず、さっきまでの敵と比べたら戦いやすい。みんな戦うぞ」
そう言ってヒールプラスで全員のHPを回復させる。そして、マジックポーションを皆に渡す。
「戦い疲れてムリなんだけれど」
ティセが言った瞬間にペリドットさんの細身の剣がティセの太ももにあたる。うっすら赤い線が太ももに生まれた。
「次はもう少し深くしましょうか。嫌なら戦いましょうね」
ペリドットさんの笑顔が怖い。
「ミーニャは大丈夫なのにゃ。戦うのにゃ」
ミーニャは震えながら立ち上がる。アカはすでに戦う準備ができている。さて、どうやってこのイビルブラックドラゴンを倒すか。丁度ためしたい魔法もできたので俺は前に出る。
「とりあえず、皆は休憩かな。こいつはずっと戦っていなかった俺が相手をする」
かっこよく決めたつもりだが速攻でペリドットさんに頭を叩かれた。ダメなのか?一人で戦うのは。仕方が無い。俺も参戦する代わりに皆で戦うことにしたら納得してもらえた。
「折角のおいしい経験値なので皆で分かち合いましょうね」
たまにペリドットさんのキャラがわからなくなるのは内緒だ。




