~初陣~
~初陣~
深呼吸をする。ガーディアンだって倒せたのだ。大丈夫だ。
実際前の世界だと18歳の時にようやくガーディアンが倒せたのだ。そして、その足で、その勢いのままイーフリートを倒しに行ったのだ。
装備はあの時と同じ。筋力は確かにあの時より少ないが、前より魔力、それにMPが段違いに高い。それに俺が今使う回復魔法も攻撃魔法も、今のこの世界にないものばかりだ。
特に魔法については新たな演算方法をパーティーメンバーが編み出したのだ。緑のとんがり帽子をかぶったシルエットだけ出てくるあいつが考えたんだ。
「ほら、ここがおかしいの。詠唱するのに、色んな神や精霊に祈りを捧げている。でも、実際に力を借りるのは一つだけ。だったら、その借りる相手だけに祈りを捧げればいいじゃない」
神への冒涜と教会から言われたが、俺らは神への信仰より、詠唱時間の短縮や能力向上を選んだ。
「まあ、魔王と言っているけれど、ある意味神だしな。それに4魔貴族なんて精霊神でしょ。そういう意味じゃ、魔王討伐は神への冒涜で、俺らは信心深い連中からしたら異端なんだろうな」
フルプレートアーマーの彼がわらう。やはり顔は思い出せない。
確かに人と魔族では越えられない壁がある。それを越えるから勇者なんだ。俺らも何かを捨てないといけない。
そう言って俺はこの指輪をはめた記憶がある。一体俺は何を捨てたんだ。
思い出せないことは多い。
でも、これから動いていけば世界最強の盾役でもある戦士とヒーラーと魔法使いが仲間になるはずだ。
そうじゃないと魔界にすらいけない。この世界にいるはぐれ魔族くらいなら一人でもなんとかなるかも知れないが、魔界はほんとうにしゃれにならないやつらばかりだ。
いきなり敵のレベルが跳ね上がったのだ。それはなんとなく覚えている。
まずは、あの時失った平穏を手に入れる。俺はブレスレットに手を当て魔力を込める。小さかったおもちゃみたいな剣が真っ白の刀身をした剣になる。その剣を手にして、そっと倉庫から出た。
「やっぱり、どこか行くんだ。昼間おかしかったものね」
倉庫を出て、目の前に居たのはティセだった。そして、ティセが身に着けているのは見たことがないふちだけが赤い白いローブに水晶がはめ込まれたロッドだ。
色は水色。
あれは伝説級のロッド。アイスロッドだ。
あのロッドはこの剣と同様のえげつない武器だ。
「どうして」
俺はその装備を見てびっくりした。ティセの家にも倉庫がある。そして、門番もいるはずだ。
過去の俺はチャレンジをしたことがある。
そう、魔界に行く前に4人それぞれ別れを言いたい相手を訪れるということを話したからだ。この場所に来た時に、うちの魔法使いが倉庫にチャレンジしたいと言って、4人で挑んだんだ。
そして、手にしたのがあのアイスロッドだ。白いローブはわからない。けれど、魔法が編み込まれているのがわかる。多分、炎耐性がついているのだろう。
「だって、こんな空を見たことがない。これはイーフリートが動く前だっておばあちゃんが教えてくれたの」
そうだ。ティセのおばあちゃんも伝説級だったのだ。
だが、どうしてあの時、イーフリートにやられたんだ。
そうだ、確か収穫祭の後にぎっくり腰になってうごけないと言っていたのを思い出した。
まあ、うちの伝説級のじいちゃんは山崩れに飲まれてもっと早くに死んでいるんだ。それから思えばある意味ティセのおばあちゃんが生きていること事態が伝説級だ。
ちなみに、じいちゃんのおかげでこの周囲の山の形がかわった。それだけのえげつない魔法をぶちかまして山崩れを止めたらしい。
でも、自分は助からなかったのだ。そこまでして守りたかった街だ。次は俺が守る。
だが、気になったのでティセに聞いた。今のティセのレベルであのガーディアンが倒せると思えないからだ。
俺のレベルは999。ティセはレベル3と言ったところだ。
「その装備は?」
「おばあちゃんが特別に貸してくれたの。行くんでしょ。あの城に。一人でなんて行かせない」
まっすぐに見つめるティセの表情を見て諦めた。そう言えばティセは一度言い出したら聞かないのだ。
「危ないと思ったらすぐに逃げるんだぞ」
そう言いながら、そういえば魔王からも逃げられなかったように4魔貴族からも逃げることができないのを思い出した。
転移阻害をされるのだ。仕方がない。俺がティセを守りながらイーフリートを倒す。
どこにいるのか、どういう状態なのかを把握するのに一番なのはパーティー登録をすることだ。魔力でお互いを繋ぐのだ。
「パーティー登録するぞ」
そう言って右手の甲をお互いに当てる。そして、神への祝福を唱える。その時左手の指輪が光った。
魔力をごっそり持って行かれた。何だ。何が起こった。
「何、何これ?力があふれでるんだけれど」
この光景。覚えがある。そうだ。この呪いの指輪はパーティーメンバーの能力の均一化だ。
HPもMPが均一になる。そのかわり、誰かが攻撃を受けるとそのダメージも均一でわけられる。
だが、どうしてあの時、“俺だけ”が生き残っていたんだ。
目の前で倒されていくその状況を俺は見ていた。均一になるだけじゃないのか。頭が痛い。何かが流れ込んでくる。これは俺の見ていた視界じゃない。気持ち悪い。倒れそうだ。
「これなら、私勝てそうだよ。行こう」
「ああ、そうだな」
ティセが力いっぱい俺を引っ張ってきた。おかげで何とか立ち直った。
ま、こっそりマジックポーションを飲み込んだが。
ちなみにきちんと回復をした。少しだけだが。この呪いの指輪の呪いの中身がわからない。誰かにきちんと鑑定してもらうのがいいのかもしれない。
といっても、このレベルの鑑定となると王都に数人しかいないはずだ。先のことは後で考えよう。今はイーフリート討伐だ。
森を歩いた先にイーフリートの居城はある。
城の四隅には煙突があり火が燃え上がっている。近づくだけで暑くて汗が流れる。
「暑いね」
ティセがそう言ったので、精霊魔法で周囲に風をまとった。『風の精霊の加護』だ。
これは涼しくなるのがメインではなく、弓矢などの飛び道具を回避してくれる魔法でもある。
涼しくなるのはそのおまけみたいなものだ。
「これでいいか?」
「風の精霊の加護」をかけながら、この魔法は確か緑のとんがり帽子、背が低く、でも恐ろしく魔力がありすばしっこいあいつが得意としていたはずだ。全ての精霊の加護を受けているらしく、簡単に魔法が使えるのだ。しかもすべての属性の魔法をだ。
大体、どれかの属性に偏って魔法を習得するのが普通だ。
俺は火がメインだ。だから魔法だけだとイーフリートとは相性があまり良くない。
だが、それは現在の魔法の概念ということ。俺たちは異端と言われたけれど、あり得ない魔法をいっぱい開発した。
俺が使えたものはそこまで多くなかった。そう、俺は精霊にあまり好かれていなかったからだ。
あれ?でも、今風魔法が使えている。まあ、俺の才能が開花したのだろう。じゃあ、他の魔法も使えるのか全部試してやろう。
「これ、いいね。涼しいじゃない。なんでもっとこの魔法を使わなかったのよ。夏の暑いときに」
そう言って耳をつねられた。
「ゴメンって。今ふと思いついたんだよ。ここから先はイーフリートの居城だから気を付けてよね」
「わかった。アデルもはぐれちゃダメだからね」
そう言って俺のローブをこっそり握るティセを見てかわいいと思った。
まあ、今回は手加減なんてしない。俺は魔法詠唱に入る。あの居城の門を壊さないと中に入れない。なら一掃できる魔法をつかう。
「メテオ」
天から隕石が大量にふってくる魔法。
こういう開けた所じゃないいと使えないという制限はあるが、でかい城めがけての攻撃にはこの魔法は適している。
居城の一角でも壊れればいいかと思って放ったメテオだが、城全体が崩壊している。
「何、何なの、この魔法。こんな魔法あるのなら最初に言いなさいよ」
そう言ってティセは座り込んでいる。
「この魔法でやったの?やっつけちゃったの?」
いや、それ明確なフラグですから。絶対に言ったらいけないやつね。
そう思っていたら土煙の奥から叫び声が聞こえてきた。
「誰だ、人の城に隕石ぶちかましたやつは。こんなことして覚悟が出来ているんだろうな」
やっぱり怒るよね。俺だっていきなり隕石ぶちかまされたら怒る。
まあ、よくあの緑のとんがり帽子はこういう派手な魔法をぶちかますの好きなやつだったな。
「先制攻撃は重要」
そう言って親指を立てていたのを思い出した。顔は思い出せない。だが、マネして言ってみたくなった。
「先制攻撃は重要」
と言うか、気が付いたら言っていた。
「むっちゃ怒っているけど大丈夫?」
ティセが普通に返してきた。まあ、怒ってこっちにまっすぐ飛んでくるくらいだからね。飛んできたのは赤い髪、赤い肌、すべてが赤く光っている。炎の形の鎧と剣を持ったイーフリートだ。
「俺が一体お前に何をしたって言うんだ」
「やかましい。俺のトラウマの原因がうっさいんだよ。アイスバレット」
アイスバレットはこぶし大の氷を相手にぶつける魔法だ。物理と冷気の混合魔法だ。旨く発動できた。まあ、もっと強い魔法もあるんだけれどまずは様子見だ。
「意味不明だな。神の鉄槌をうけるがいい」
上空から岩石と炎が落ちてくる。この攻撃はよけないと危ない。というか、前は城の中で戦ったからこの攻撃はなかった。
外だとこんなえげつない攻撃をしてくるのか。俺はティセの腰に手をまわして走り出した。
「フライ」
空を飛ぶ。
「ちょっとくすぐったい。ってか、空飛んでるんですけど」
「そりゃ、フライって魔法だからね。そのアイスロッド貸してくれない?」
そう言ってアイスロッドを手にして詠唱に入る。
「ダイアモンドダスト」
このアイスロッドの固有魔法だ。習得していなくても、ある程度魔力を消費すれば使えるのだ。実際、魔界にいるイーフリートにも大ダメージを与えた魔法だ。
この魔法は発動した瞬間に世界が凍る。イーフリートの周囲が凍りつく。
「ふ、ふざけるな。人間風情にやられるなど、ありえるか」
凍りながらまだ話している。俺はアイスロッドと剣を重ねてに魔力を込める。氷結魔法を刀身にかける。
「アイススラッシュ」
氷斬撃。この攻撃でイーフリートは真っ二つになった。
念のため5回くらいアイススラッシュをぶちかます。さらにアイスバレットを10発叩き込み粉々にした。
「仇は取った。なんだ、簡単じゃないか」
俺は座り込んだ。一気に力が抜けた。と、思ったら体力値や能力に変化が起きた。何だこの感覚。まるでレベルアップしたみたいだ。
「ちょっと、私レベルあがったのかな。なんかすごい力がわき出てくるんだけれど」
そう言われて思った。俺の能力もあがっている。レベルアップも共有できる。ということは初心者とパーティーを組んだら俺も簡単に能力があがる。
もうなかなか上がらないと思っていた魔力だってあがっている。筋力もあがった。
ティセを見る。魔法。「能力確認」
これは敵のレベルを確認する魔法だけれど、味方にも使える。ただ。自分より強い相手だと確認できないことが多い。
その「能力確認」をティセにかける。さっきまでのティセはレベル3だった。
だが、今レベル10に跳ねあがっている。そりゃ、いきなりイーフリートを倒したんだ。それくらいのレベルはあがるのか。そして、その影響で俺のステータスも上がっている。
これが呪いの効果なのか。今までこんなことなかった。まあ、パーティーメンバーもすでにレベルはカンスト気味だったからな。
この呪いの指輪は謎だらけだ。ティセが俺の横に座ってこう言ってきた。
「誰の仇だったのよ。まあ、途中からアデルの表情が怖かったけど、結果的によかったのよね」
「ああ、もちろんだ。これで平穏が訪れる」
そう言った、瞬間空が明るくなった。
神の鉄槌。
イーフリートが俺たちに向けたあの魔法の更に上位互換版が街の上に、具現化している。
「嘘だ」
俺は目を見開いた。距離がありすぎる。追いつけない。止められない。
「アイスロッドをもう少しだけ借りるぞ。フライ」
俺は再度空に飛んだ。だが、ティセは俺にしがみついている。
「ちょっと勝手にいかない。私も連れてけ」
しがみつきながらなぐってきた。グーパンチ。だが、そこまで痛くない。
そりゃそうか。防御値も結構高いのだ。だが、ティセはずっと定期的に殴ってくる。そういう戦い方あるよね。関心する。違う。今はそれどころじゃない。
「いや、それ本当に危ないから。それに飛ばすよ」
普通にしていても追いつけそうにない。魔法詠唱して唱える。
「フレアバースト」
本来の目的は高エネルギーの放出での攻撃。
でも、今回はこのエネルギーの反動を使ってフライを加速させた。岩石の塊が近づく。まずは動きを止める。
「ダイアモンドダスト」
凍りつけ。速度が遅くなった。
だが、こんなでかい塊が街に落ちたらそれだけで街の半分くらいはふっとぶ。
「フレアバースト」
火力としては弱いかもしれないが試しに岩石にぶつける。少しだけ動いた。だとしたら最高火力をぶつけるしかない。
「メテオストーム」
岩石の更に上から隕石をぶつける。だが、目的は岩石を砕くことではない。
落ちる場所を変えるのだ。
この街のまわりは森が広がっている。まあ、オークやゴブリンの巣があるかも知れないが、街にとってモンスターの巣がなくなることは喜ばしいことだ。
岩石が砕けて行く。すごい音がする。
だが、軌道は変わった。あれ?ちょっと強すぎたかも。
実際、隣町まで行きかけて焦ったのは内緒である。
隕石と共に岩が落ちて、森が一部喪失したが、街と引き換えだ。
そう思っていたら、発動したメテオが森にどんどん落ちて行く。やりすぎたらしい。
「これって後で怒られるんじゃないの?」
「かもな。ちょっとやりすぎた」
まあ、街も救えたし、誰も死ななかった。そして、ティセのレベルがまた少し上がり俺も強くなった。
ちなみに翌日、色んな人に怒られた。俺は街の英雄になりそこねたのだった。




