~それぞれの思惑~
~それぞれの思惑~
「それでいいんだな」
俺はイリーナにそう話した。実際イリーナと共に行動をしたかった。だが、イリーナからこう言われた。
「私の心を奪ったと言うリチャードを連れてきて。それまでにこの場所を守れるよう強化するから」
キュロープスを殺させないこと。それもまた大事なことなのだ。レフィーレ王国は現在複数の小国の連合国家である自由連合国アリストレアと同盟関係にある。
ちなみに、自由連合国アリストレアは東側でウィード共和国と隣接をしているがこの2国は仲がいいらしい。
というか、それだけ周囲がダキアニア公国を警戒しているのだ。だが、ダキアニア公国はずっと静かに様子を見ている。それが周囲からは不気味なのだ。
「まあ、この場所にガーディアンを配置しておきましょう」
ペリドットさんがそう言って魔方陣を書き緑色のゴーレムを召喚した。風属性のゴーレムだ。
「そこそこの強さね。まあ、このゴーレムに私のスライムを配備すれば結構な防御力になる。それにトロイアが私に何かをしてくるとは思えない。しばらくそれどころじゃないでしょうし」
そう言ってイリーナは笑っている。その不敵な笑みはいつも悪いことを考えている表情だ。
「でも、私と母さんの母国でもある。だから消えてしまうのはイヤなの。国に罪はないから」
「そうだな。産まれ故郷は大切だ」
そう言われて、前の世界で故郷めぐりをした時にイリーナの故郷もひどい状況だった。いや、あの時は大陸中どこもひどい状況だったのだ。確かに旅をしている中で各国の思いは違った。そういえば、トロイアに行った時も色々会ったのを思い出した。
今思えばファストレアの問題があったからなのだろう。イリーナがずっと深く帽子をかぶっていたのだ。
「ふ~ん、わかって言っているのならいいんだけれど。まあ、私はしばらくはこの場所にいるから。たまには遊びに来てもいいんだからね」
「わかったよ。また遊びに来るから」
そう言って俺とイリーナは別れた。ちなみに、今回の戦いで蚊帳の外だったティセはずっとむくれている。口もきいてくれない。
だが、水晶の中から見た別次元の戦いで何かを思ったのだろう。ものすごく目が輝いている。
「見てらっしゃい。絶対に勝ってやるから」
一体何に勝ちたいのだろう。わからないがそのまま放置しておくことに決めた。
イリーナと別れて村に戻ってきてから大変だった。まず、王都から騎士団の視察があると連絡が入った。その時ペリドットさんがこう言ってきた。
「私がここにいるのはまずいですね。しばらくちょっと旅に出たと伝えておいてください」
ペリドットさんは魔力探知で見ることはできないが、調べると人でないことはすぐにわかる。宝石を核とした精霊だ。しかもその肉体は人を模しているだけ。人でないものにレフィーレ王国は寛容ではあるが、それは獣人までだ。
魔人や魔族への嫌悪ほどではないが、精霊などにも嫌悪感を持つものが多い。
多くの人の前で正体をさらされるのは困るだろう。
「ちょっとしたクエストがラーナの街にあるようなのでそちらを受けて終わらせてきます。今からだと丁度良さそうなので」
そういうとペリドットさんはすぐに旅立った。パーティー登録をしているとクエストでの分岐だとペナルティーにならない。まあ、よくわからないシステムだ。
多分だが、この街にやってくるのはウリエルたちだろう。イーフリート討伐後のはずだが、それ以上にやっかいなファストレアを討伐したのだ。しかも、あの討伐はジグル老も見ていた。息を吸い込む。その瞬間ティセが俺の手を握ってきた。
「緊張しているのね。しょうがないから私が手を握ってあげるわよ」
だが、そのティセも強がっているが緊張しているのがわかる。そうだよな。俺はティセを守るって決めたんだ。それに、ジグル老も理由があってやっていることだ。この王国も守るために。
まてよ。今の状況はすごくいい状況なのではないか?
王国の西に位置するトロイアのファストレアは倒した。しかも同じようなものを作ったとしても次は簡単に倒せる。倒し方がわかったからだ。
だからと言って王国がトロイアに攻め入ることはない。背後に得体のしれないダキアニア公国がいるからだ。
だが、それは王国に限っての事。だが、自由連合国アリストレアが動くとは思えない。防御については一枚岩になれるが、攻撃となると意見がわれる。それは前の世界で知ったことだ。
つまり、王国としてトロイアが弱体してもいいことはないのだ。国家として無くなると魔族が攻め入る可能性がある。そうなるとトロイアという盾がなくなる。
だとしたら王都の誰かが手助けに行くのがいいのではないか。だが、今の俺はただの町民だ。王国を代表することはできない。ならば、騎士になればいいのか。交渉してみるか。
しばらくすると、絵画から出てきた王子のような雰囲気の金髪の髪、きれいな顔立ちのウリクルを筆頭に4人がやってきた。
「あなたが、ファストレアを倒したのだと。なんでもすごい魔法を使えると聞きました。ぜひ一度王都へ来ていただけませんか?といってもあなたはまだ若い。王都には騎士育成学校があります。そちらに入学しませんか?」
そう言いながら殺気を込めている。これもいつもと同じだ。いや、イーフリートの時より激しい殺気だ。
突風のようにも感じる。俺はティセの前に立って同じレベルの覇気をぶつけた。殺気は込めていない。ウリクルと争う必要はない。だが、跳ね返すだけの力を込めておく。
「ええ、ちょうど騎士を目指そうと思っていました。俺は偶然出会ったファストレアと戦っている最中に試した魔法が効いただけでもあります。
けれど、この行動によって各国がどのように動くのかわからない状況です。自分がしてしまったことではありますが、いち早く国を代表できる騎士になりトロイアに行き説明をしたいと思います」
覇気を込めながらそう言った。ウリクルの表情がかわる。
笑顔が消えた。手が剣にかかる。俺の手にあるのはプリズムソードだ。本来見せたくなかったが装備変更の時間があまりなかった。それに、イーフリートと違ってファストレアは確実に一人で倒せない相手だ。
そして、魔力からペリドットさんが居たこともばれている。ジグル老が杖でウリクルの肩に触れる。
「そのものに話しがある」
その瞬間ウリクルから殺気が消え、すぐに場所をゆずった。この視察団の団長をウリクルがしているがスキル的にジグル老が突出をしている。
それにあの黒いまがまがしい杖はやばい。伝説級のアイテムだ。しかも暗黒系の。
「そのもの。どうしてトロイアに行くことを望んだ」
ウリクルの殺気がかわいく思えるくらいの波動だ。これは殺気ではない。ただの魔力による威圧。マウントを取るための行為だ。
跳ね返すこともできなくないが受け止める程度にこちらも覇気、いや闘気をぶつける。ぶつけたら徐々に強くなったからだ。マントを引っ張られた。後ろにいたティセが不安そうに俺を見ている。
そうだよな。俺は戦うためにここにいるのじゃない。守るためにここにいるんだった。俺は深呼吸をしてから声を大きくしてこう言った。
「トロイアは魔人と融合させる技術で国力、特に戦力を増大させていました。それは魔族領が近いこともあると思いますが、他国へのけん制でもあったかと思います。
けれど、俺はその融合の方法を根本から崩してしまいました。特別な手法でもなく、ただの盲点をつくようなことでしたが、それによりトロイアは苦しい立場になると思います。
けれど、トロイアが気を付けるべきは魔族領であり、人族ではありません。王国としてトロイアが弱体し、魔族に負けると、盾となる国がなくなります。
そのため支援が必要ですが、東にはダキアニア公国もいます。うかつに戦力が避けない。それならば新生で勢力にカウントされていない人物が公約を持って手助けにいくのがよいと判断いたしました」
まあ、これはクロノスが教えてくれた情報があってのことなんだけれどね。ただの町民である俺が知れる情報ではない。
ジグル老の目が大きく開く。いや、その横にいた青い帽子に十字がかかれてい、太ももからスリットが入っていて白い足が見えている女性、ヴェルチがこう言ってきた。
「ただのバカじゃなさそうね。だったら、教えてほしいんだけれど、どこで神聖魔法を学んだのかしら。宗教国家聖マルテから問い合わせがあったのよね。神聖魔法は門外不出。知っているものは限られている。あなた何者なの?」
そう言っている顔は今まで見たことがあるふざけた表情は一切なかった。目つきが鋭く怪しいものを見る目でしかなかった。マリーに確かに言われていたのを思い出した。
「教会は悪魔を払うことで収益を上げている。だから、神聖系の攻撃魔法は門外不出なの。といっても、ちょっと魔法学を学べば簡単な魔法はわかるけれどね」
教会の大元は宗教国家聖マルテだ。確かに考えていなかった。
プリザベーションは結構なレベルの魔法だ。死者蘇生を行う手順の一つだが、あのような形で使うのは普通に考えておかしい。信仰心があれば違う目的で使うことをためらうはずだ。
信仰心がないのに神聖魔法が使える。それは宗教国家聖マルテから見ると脅威でしかない。あの時ティセに言った話しで誤魔化すことができるのだろう。だが、それ以外話すことがない。
「独学で学んだんだ。俺のじいちゃんは、ガストン・ライニコフ。魔王を倒した勇者だ。そして、家には色んな魔法学の文献が山のようにある。それを読みながら色々試したんだ。知らなかったこととはいえ、勝手に神聖魔法を使って教会そして宗教国家聖マルテには申し訳ない」
俺は頭を下げた。もちろん、闘気を消した。その瞬間一気にジグル老の覇気を体に受けた。焼けるように痛い。だが、ジグル老からの覇気が収まった。顔を上げる。
「お主は面白そうじゃな。いい素材かと思って見に来たが違ったようじゃ。お主の望みをかなえてやろう。次の春に王都に来て騎士養成学校に入るがいい」
「私も行きます。私もアデルとともに行きます」
後ろに居たティセがそう言いだした。ジグル老がティセを上から下に舐めるように見る。
「まあ、いいだろう。おまけだと思っておく。それにひょっとしたら掘り出し物かもしれないからな。それでアデルとやら。ファストレアと戦った時に居た残り2名を知らないか?」
イリーナとペリドットさんのことだ。
「旅の途中で出会っただけです。あの二人が居たからこそ戦えました」
一瞬心臓がドキッとした。これはイリーナのスライムの仕業だとわかった。ジグル老が俺の心臓の部分を凝視している。
「その魔女はわかっている。もう一人だ。あれは一体何者だ?」
ペリドットさんのことだ。
「わかりません。この街にきた冒険者で今はまた違う場所に行ったみたいです」
「まあ、よいだろう。いずれどこかで会いそうだしな。それまで精進するがよい。まずは、自分が強いと思わぬことだ。まだまだ世の中には強いものがいっぱいいるということを知ることだな」
知っていますよ。ジグル老にも勝てなかったし、じいちゃんにも勝てない。転生前なら世界最強と思っていたけれど、ここ最近は負けっぱなしだ。
「それでは、王都で待っていますよ。小さな勇者くん」
ウリクルがそう言って俺のほっぺたを触ってさっていった。だが、それだけで分かった。触れられた瞬間に殺気を感じたからだ。
動いたら首が飛んでいた。やばい奴だ。だが、危機は回避できたように感じる。後はこの後イーフリートに会いに行くのだ。
クロノスが言うには話し合うことでわかることがあると言っていた。
あの惨劇を許す気はない。だが、俺は少しだけクロノスの言葉を信じようと決めたのだ。それが、違う悲劇を産むことを俺はまだ知らなかった。




