~世界の情勢~
~世界の情勢~
紫の戦士が突進をしてくる。すでに虹色のオーラを身にまとっている。
ファストレアの周辺にも虹色の球体が大量に集まっている。大きなもの、小さなもの様々だ。確かに全属性を付与した攻撃は強い。だが、それは相殺も難しくないのだ。絶妙なバランスで成り立っているからだ。
さっきまで同じエネルギー体を作っていたイリーナもさっきの俺の行動でそんな無駄をしないことを決めたみたいだ。
イリーナが得意とする属性は知らない。全属性まんべんなく使えるからだ。それにイリーナの周囲は色とりどりの球体が存在している。
ファストレアはしばらくイリーナに任せるとして、俺はこの紫の戦士のカラクリに気が付けないといけない。
とりあえず、ぶつかりに行く。だが、学習したのか大きな斧を振り回してくる。力いっぱい振り回しているため近づくのも難しい。
仕方が無い。第二フェーズだ。俺はまず「デコイ」を唱えた。
このデコイという魔法は自分と似た魔法体を作成して指定の動きをさせるというものだ。
自らの意思はない。そして、相手に捕まったら自爆をするというものだ。だが、自爆させるためにデコイを出したわけではない。
しかも、数多く出している。すでに10体ふわふわと宙に浮いている。そして、このデコイに指定した動きはたった一つだ。一斉に魔法を波動させる。
「フラッシュ」
周囲は閃光に包まれた。紫の戦士の動きが止まる。誰がどうやって動かしているのか。魔力の源を探る。そういうことか。
俺はようやく理解した。クロノスがどうして「紫の戦士」を放置したのか。
これは産み出すのとは少し違う。だって、この紫の戦士を操っているのはファストレアだからだ。俺は「フレアバースト」を唱えて一気に加速する。もちろん狙うのはファストレアだ。
「オーラタックル」
自爆技でもある「オーラタックル」で突進する。量にSPとHPを消費するがこの攻撃は絶対によけられない。だが、ぶつかった瞬間にわかった。こちらも実態がないのだ。
魔素の塊。それは有形ではなく無形なのだ。鎧があるが中身がない紫の戦士、ローブの中身は魔素の塊で無形のファストレア。どうやって倒すのか。だが、その時ふと思いついた。
お互いがお互いを飲み込もうとしながら魔素が上がり続ける。
ということは、片方がそれを行わなくなればどうなるのか。お互いが増大するから無限に魔素を産み出す。試してみるか。
「プリザベーション」
神聖魔法の一種だ。この魔法は死体の腐敗を止めるための魔法。復活魔法を使うにしても体が腐敗して崩れ落ちていた場合完璧な形で復活できない恐れがある。
そのため維持するための魔法だ。復活魔法を使えるのなら一番だが、復活魔法を使うには複数の工程が必要だ。
だから、細胞の活動を止めて腐敗しないようにする魔法が生み出された。それが「プリザベーション」だ。
だが、この魔法を生きたものにつかうとどうなるのか。そう、細胞が活動を止める。ただ、倒すこともできず、維持になるだけ。
俺はずっと気になっていた。人と魔族を無理やり融合された。それは破壊と再生を繰り返している。それが魔素を産み出しているエンジンみたいなものだ。
だとしたら、活動を止めたらどうなるのか。この発想はマリーと融合したからだ。この俺の中にマリーのスキルが、特に神聖系魔法の知識があるからだ。
だから、試してみた。結果としてファストレアの動きは止まり紫の戦士はただのフルプレートアーマーになった。
「倒せたの?」
イリーナが近づいてきた。思考を読んでいるはずなのにそう言ったのは確認だろう。
「いや、停止させただけだ。ただ、長く持つ魔法でもないが、プリザベーションシートがあれば巻きつければ停止したままにすることができるだろうな」
そう言った瞬間目の前の世界がぐにゃりとゆがんだ。
そこに現れたのはピエロのような赤と白のとんがった帽子をかぶり、いびつにまがった時計が書かれたローブを着ている男性だ。
こんな変な服装をしている相手は一人しか知らない。魔人『クロノス』だ。
顔全体は青白く、片目に眼帯をしている。だが、その表情は笑顔だ。
「まさか、まさか、まさか。我が妻の動きを止める方法があるなんて。これはまさにディスティニー」
そう言って両手を広げ、俺を抱きしめてきた。時計の針が当たって痛い。
確かに魔人はその特性から神聖魔法が使えない。だからこそ、「プリザベーション」という魔法を試すことは出来なかっただろう。
俺だってそうだ。神聖魔法を極めたマリーと出会っていたから。このプリザベーションを使う機会があったからだ。
そう、リチャードが死亡して復活するまでの間に一度使ったのだ。イリーナがあの時自我を忘れて攻撃をしていたので思い出したのだ。
「この方法を試してみようと思ったのは偶然だ。気にしないでほしい。だが、倒すことも解放することも俺にはできていない」
だが、クロノスは違った。
「問題ない、ない、ないのだ。動きさえ止まってしまえば私にできないことはない。ない。ない。ない。これは今までにない事象」
そう言ってクロノスは俺の指を見て苦笑した。
「なるほど、君の時空も牢獄者か。ならばこの結果は必然なのだろうね」
いきなり普通のテンションになった。オーバーアクションもなくなった。
「父さん。母さんをよろしく」
イリーナが複雑な表情でそうクロノスに話す。クロノスは両手を広げてこう言った。
「問題、ない、ない、ない。魔界に帰り、この魔族を、魔族を、魔族の部分を喪失させよう」
そう言った瞬間にペリドットさんが大きな声を出した。
「その魔族を私に差し出してくれませんかしら。ちょっと因縁ある相手なので」
ペリドットさんの表情が黒く、ゆがんでいた。だが、一瞬でいつも通りの笑顔に戻った。クロノスが笑ってこう言った。
「ふむ。引き渡してやりたいが、今の状態では無理、ムリ、むり。私も仮初の身体ではなく魔界で、全力で、全開で、魔力をぶつければなんとかなる、なる、するだろう。だが、相手は殺さずに置いておいてやろう。
まあ、生きていることを後悔するくらいには追い込むが、殺しはしない。生き続けさせてやろう。それでいいか?」
笑顔でペリドットさんが頷く。どうせ、いつかは魔界に行って魔王を倒すのだ。
「ああ、近いうちに魔界に行くから、その時はよろしくな」
といっても、クロノスと戦うつもりはない。絶対に勝てない相手だからだ。クロノスが俺の正面に立ち真剣な表情でこう言ってきた。
「君には感謝を。一つだけ願いを聞いてあげよう。といっても、時空の牢獄者である君が願うことがあればだがな」
普通にしているとクロノスは紳士だ。だが、いまだにキャラがつかめない。願いというか知りたいことがある。
「もし、俺がファストレアを助けなかったらこの戦いはどうなっていたんだ?」
そう、知りたいことは俺が知っている世界と違う未来にいつもなることだ。クロノスは空を見てこう言った。
「実は何通りかある。未来はいつだって不確定だ。だが、確率的に高いのは王国のジグル老が介入してファストレアを異空間に閉じ込めることだな。確率が低いのはイリーナが負けそうになることだ。ジグル老が来るより前にトロイアの鬼才がこの場にやってくることがたまにあったな。その違いは蝶の羽ばたきの様な差でしかないが結果は大きくことなる。だが、君がこの戦いに介入してきたのははじめてだ。まあ、君の存在自体は知ってはいるがな」
その瞬間にものすごい覇気をぶつけられた。だが、殺意はない。これはデモンストレーションのようなものだ。
だとしたらこちらも覇気をぶつける。というか、突風のような覇気のためこちらも覇気をぶつけないと飛ばされてしまいそうだからだ。
「なるほど。あの時に比べたら少しは成長したようだな。だが、まだまだ粗削りだ。そんな状態では魔王にたどり着けないぞ」
いや、一度たどり着いて負けているんですけれどね。だが、覇気が収まったので助かる。ずっとだとこちらもつらい。これからしばらくは魔王よりもジグル老を倒すことを考えないといけない。
「まずはジグル老をどうにかすることか」
そうつぶやくとクロノスがこう言ってきた。
「王国としてはジグル老がいない事の方が問題だろう。それとも王国をつぶしたいのかね?」
クロノスにそう言われて謎が産まれた。
「王国出身の俺としては王国をつぶしたくないですが、どういうことですか?」
ジグル老と王国のつながりなんて考えたこともなかった。クロノスが言う。
「お前は魔族ばかり見ていて、人族を見ていなかったのだな。王国の置かれている環境を説明しよう。だが、これは俺の主観だ。この情報を元に自分で調べるがいい」
それだけでも助かる。俺が知っているのは魔族が本格に人族に攻め入ってくるまでは協力体制がなかったということくらいだ。
そしてもう一つ。魔族領と接していない国が攻め落とされて危機感を持ったのだ。
「お願いします」
俺はそう言って頭を下げた。クロノスは地面に図を描きだした。
「まず、お前がいるレフィール王国はこの大陸の大体中央に位置している。王国では騎士や魔道師を育てる教育機関が充実しているが、一番は中央に位置していることから貿易が盛んである。だが、四方を他国で囲まれていることからどこから攻められるのかわからない。だからこそ、国力を上げるための教育だ」
それはわかる。実際メンバーのイリーナ以外の二人、マリーとリチャードは騎士養成学校出身だった。
そして、レフィーレ王国の周囲で一番危険なのはヴァイン帝国だ。あの国は帝王として竜人がおさめている。
そして、アンデッドの軍団。人族の扱いは悪い。人族とも魔族とも停戦を結んでいるが、普通に人族に侵攻したらすぐに攻め落とせるはずだ。それくらいの兵力、国力がある。クロノスが続ける。
「人族の中で一番危険なのはレフィール王国の北東に位置するダキアニア公国だろう」
そう言われて今まで意識したことがない国だったのでびっくりした。ダキアニアは確かヒュプノスとタナトスがやってきて滅ぼした国だ。
魔族領からも遠く魔族も少ないので踏み入れたことがない場所だった。
「ダキアニアは魔族領からも一番遠い国なのになぜ危険なんだ?」
不思議と声に出ていた。クロノスが言う。
「魔族領から一番遠いからだよ。魔族の危険について認識はしているが理解していない。だが、魔族領と隣接をしたくない。そういう思いがあるが、あの国の根幹は自国民の血を守ることだ」
聞いたことがある。ダキアニアは自国民とその他で区分けをしている。住む場所も食べるものも区別されている。
奴隷制度もあり、一目で階層がわかるようになっている。奴隷は顔に入れ墨を入れられるし、服の色も決められている。
「その様子だと知らないようだな。ダキアニア公国は選ばれた民だと自負している。それには理由がある。血族だけが持てる力があるからだ。それは魔法とも違う能力だ。そしてその力が強いものが階級に反映する」
訪れたことがない場所だった。あの世界ではヒュプノスとタナトスが国の大半を殺害したが、そんな能力を持っているものはいなかった。いや、助かったものは皆、顔に入れ墨があった。
「気が付いたようだな。魔王を滅ぼせるスキルを持っているとしたらダキアニア公国出身者だろう。それも大公や侯爵クラスの血を受け継いでいるものだろう。
お前もそうだが、そういうものは人間兵器と呼ばれるくらい他と強さが違う。そういうレベルのものが何人もいるのがダキアニア公国だ。人族が一番敵にまわしたくない国だろう。レフィーレ王国はそのダキアニア公国と接している。つまり、国力を上げること、そしてその力を他国に知らしめる必要がある。
ちなみにジグル老だが、彼はレフィーレ王国出身ではない。ダキアニア公国出身であり、特殊な血と力を受け継いでいる。
だからジグル老が居る限りダキアニア公国はレフィーレ王国に攻め入らない。逆を言えばジグル老がいなくなればダキアニア公国はレフィーレ王国に攻め入るだろう。それでもジグル老を倒すことを望むのかい?おそらく戦争となったらレフィーレ王国は負けるだろう」
どうして団結して魔を倒せない。その力があれば魔王を倒せるというのに。協力して戦えばいいんだ。
「負けるのなら助けを求めればいいのではないのでしょうか?」
俺は不安になりながらクロノスにそう言った。だが、クロノスは笑いながらこう言ってきた。
「助けを求めるとしても北に位置する宗教国家聖マルテは協力をしないだろう。彼の地の考え方は信仰心ある人のみを守る考え方だ。レフィーレ王国は人族以外も受け入れている。
その時点で聖マルテは手を貸すまい。そして、トロイアは今回ファストレアを倒したのが王国のものと知ったはず。
だからこちらも手を貸さないだろう。ヴァイン帝国は不可侵条約を守っている。確かにどこよりも兵力はあるが、この兵力は魔王と戦うためのものでもある。あの帝王の野望は大きい。
後3国あるが、エルフ王国はレフィール王国と隣接していない。他国を横切ってまで助けは出すまい。
だから検討するまでもない。南に位置する自由連合国アリストレアは色んな国や考えをもった人族の集まりだ。確かにレフィール王国と自由連合国アリストレアは同盟を結んでいるが、それは教育体制での協力がメインであり、軍事体制での協力ではない。
色んな意見はでるだろうが、意見はまとまらないだろう。
最後にこの国はレフィーレ王国と隣接をしていないがダキアニア公国と隣接しているウィード共和国だ。ここが唯一条件次第では協力してくれるだろう。それは、ウィード共和国が手薄になったダキアニア公国を攻めるチャンスがあればだ。だが、この国の今の大統領はヴァンパイアだ。さて、そこまで人の行動に興味を持つだろうかな」
そう言われて俺は泣きそうになった。だが、わかったのだ。ジグル老がどうして悪魔召喚を目指すのか。力が簡単に手に入るからだ。
「どうすればいいのですか?ただ、民は蹂躙されるだけなのでしょうか?」
俺の街やニャンクスの街。狙われるのは確かに小さな街だ。そのかわりに何かが手に入るというのだろう。
目をつむれと言うのか。だが、救える命を助けるのが勇者だ。だが、その結果多くの人が死ぬのでは意味がない。クロノスはこう言う。
「だからこそ魔族が定期的に攻め入り人族の団結を促しているではないか。だが、どうにかしたいのならば協力者を増やすことだな。後は話し合うことだ。意外と理由がわかれば対処もかわるぞ。お前が倒すイーフリートだって話せばわかることもあるだろう」
意味が解らない。俺の故郷をおそった相手だ。トラウマの相手だ。何を話す必要がある。
「憎しみは何も産みはしないのだよ。まあ、今回世界は大きく変動した。さて、何がどう動くのか楽しみだな。ふふふ。おや、私としたことが真面目に話しすぎたようだ。では、さらばだ。運命が望むのならまた会えるだろう。ディスティニー」
そう言うとクロノスは目の前から消えて行った。
「終わりましたね」
ペリドットさんがそう言ってきた。
「そうだね」
確かにクロノスと戦うことはもうないだろう。だが、何かが大きく変わったことは確かだ。ただ、この後に起こった出来事は俺の想像を超えていたのだった。




