~南の山脈への旅立ち~
~南の山脈への旅立ち~
俺はそれから特訓を開始した。ただ戦うだけでは特訓にならないと言われた。
そのため、魔素をうまく活用するための訓練だったり、世界にある魔素をうまく取り込むなどの訓練をさせられた。
俺は精霊と相性が悪いと思っていたが、それは俺の思い込みだったらしい。精霊と心を通わすには後は大精霊と交流を持つのも一つらしい。
「まあ、ペリドットが気に入っているくらいだから大丈夫だよ」
アメジストさんに言われた。いつも手加減をせずに攻撃をしてくる。この人も手加減を知らない。ペリドットさんを見ると上品に笑いながらこう言ってきた。
「私たちは精霊のようなものですわ。私自身アデルはこれでも結構気に入っているのですわ。まあ、ちょっと頼りなくて空気が読めないですけれどね。おほほほほ」
そう言いながらウインドカッターで攻撃をしてくる。この二人は規格外だ。ウインドカッターは直線攻撃のはずなのに湾曲して俺にあたってくる。アメジストさんの得意は闇属性だ。影をつかった攻撃やダークネスなどの周囲を暗くする魔法もある。一番は即死系の魔法だ。
「アデルは耐性が低いから、即死系魔法に弱い」
アメジストさんはいつも気怠そうに話す。そして、倒されてセーブポイントでやり直しだ。レベルよりもスキルレベルと身に着けた魔法の使い方を学ぶことが多い。特に他人のスキルに関しては良くわからないものも多いからだ。
イリーナにマリー、リチャードのスキルを受け継いではいるが使えないものがかなり多いのだ。
「まあ、皆さんユニークスキルを持っていますからね。アデルにもありますけれど、まだ開花していませんね。もうちょっとかかりそうですね」
くすくすと笑いながらペリドットさんに言われたが、なんだ俺のユニークスキルってとしか思えなかった。
「とりあえず、前と同じく南の山脈にキュロープスの出現の話しが出ている。一人だと行かせてもらないかもしれない。だから、ペリドットさんにお願いをしたいんです」
旅の冒険者としてペリドットさんがこの街に来る。だが、持っているのはお金ではなくモンスターから手にした宝石のみ。
そういう事はよくあることだ。冒険者をやっていた俺はそうやって色んな街をまわったからだ。絶対につり合いが取れないレートで換金されたこともある。だが、そこで争ってもいいことはない。
それに村にも冒険者に依頼したいことだってある。今回のキュロープスの件なんかそうだ。村にやってきたペリドットさんに俺が付いていくというシナリオを考えた。
「私が村にやってきて、村にいるアデルを連れ出すということですね。年齢はどうしましょう。もう少し外見を若くすることもできますわよ」
ペリドットさんはそう言って見た目を徐々に変えていった。
「いや、今のままがいいと思う。それに一番魔素を使わない形が今の状態だしね。俺はペリドットさんに無理はしてほしくないんだ」
魔素の流れを把握する。それが無駄なく相手の攻撃を受け流すコツだと教えられた。だからわかることもある。そういうとペリドットさんは右手で顔を隠しながらこう言ってきた。
「あらまぁ、アデルから心配されるなんて。でも、うれしいものですね。人として扱ってもらえるなんて。わかりましたわ。この姿のままでいます。後はうまく誘導してくださいね」
「わかったよ」
何事もなくうまく行くと思っていた。けれど、まさかペリドットさんがあんなことを言い出すなんて思わなかった。
翌朝。
街に若い女性の冒険者が来たことで盛り上がった。街にはどうしても男性の方が多い。だから結婚できない男性が多いのだ。そのため、女性の冒険者、それも若くてかわいい人となると噂になる。
緑の髪をサイドテールにした、緑の瞳をした女性かわいらしい女性。丁寧に話すその風貌は冒険者に見えない。
だが、服装は白いマントに緑のローブに緑のブーツ。そして腰に細身の剣がある。その剣があること、そして、持っていた宝石の量がものすごい量だったことから実力がある冒険者なのだと皆が感じたのだ。
「ペリドットという名前らしいぞ」
「ここより遥か東にある港町の出身らしい」
「魔法剣士らしいぞ。すでにカシューが剣で挑んだらしいが瞬殺されたらしい。あれは嫁にしたらこき使われそうだ」
「温かな笑顔でこき使われるのなら俺はうれしいぞ。というか、なんで一人旅なんだ。どこに行く予定なんだ。この街に残らないかな?」
街ではすでに噂になっていた。そして、俺を見るなりこう言いだしたのだ。
「私この人と結婚しますわ。一目ぼれしましたの」
そんな展開聞いてませんよ。というか、村中の若い男性からすごく睨まれている。
「おい、どういう事だよ。なんでこんなガキがいいんだ?」
「ふざけんなよ。確かにアデルは最近強くなってきたのは認めるがそれはないだろう」
「姉さん女房といっても歳が離れすぎだろう。アデルにはもっと若いのがいい。なあ、考え直してくれよ」
「アデルなら引きこもりのティセが歳が近いだろう。アデルから辞退しろ」
街の中央広場で俺が追い詰められている。それを見てペリドットさんがこう言いだした。
「ならば、この木刀で試合をしてください。もし、アデルより強い人がいましたらその人を私は選びますわ」
涼しい顔をして優しくゆっくりとペリドットさんが話す。町中の若い男性が木刀を持って挑んできた。
しかも一対一じゃないのだ。ペリドットさんが協力することを認めたからだ。これも修行の一環なんだろう。俺はそう思うことにした。
もちろん、レベル一桁の村人に負けるわけはないが、怪我をさせずに不意打ちもかわす。気が付いたら勝利していた。
「わかったよ。アデルに任せる」
「悔しいが勝てない。いつのまにそんなに強くなったんだ」
いや、結構前から強いですよ。村の大会でも優勝していたはずなのに覚えていないのかな。まあ、複数で挑めば何とかなるって思っていたのかもしれない。
「皆さんのおかげで強くなれました」
実際、一回目のあのイーフリートがこの街を滅ぼしたことがきっかけで俺は強くなれた。何かが吹っ切れたのだ。だから強くなれた。だが、守れるものはすべて守りたい。俺はそういう意味では強欲なんだと思う。マリーに「アデルは強欲ですね」と言われたことがある。
「絶対に幸せになれよ」
「大丈夫ですわ。私とアデルの二人なら幸せになれますから」
そう言ってペリドットさんが俺に抱きついてきた。気が付くとペリドットさんの顔が近づいてきてキスをされた。周りからすごい歓声と怒号が飛び交った。ペリドットさんが言う。
「私だって恋をしたかったんです。アデルも私のために頑張ってくれましたものね」
違うと言えない雰囲気がある。周りの男性がすごい目で睨みながら祝福してくるからだ。
とりあえず、ペリドットさんは今日は予定していた宿泊先の宿に泊まることで落ち着いた。そしてもう一つ。恨みがある男性が言い出したのだが、南の山脈に出没するキュロープスの調査の依頼がやってきた。
「私はお受けしてもいいですわよ。ただ、できればアデルも連れていきたいのですがいかがでしょうか?」
「まあ、そこはお任せします。村としても払える金額は決まっていますので」
若い男性が俺を睨みながらそう言ってきた。
「わかりましたわ。私は問題ございません。それに今回は調査という名目ですからこの金額はいただきすぎのようにも感じます。なので、この半分でも構いませんわ」
それは本来の未知の調査とすると安すぎだ。だが、俺たちは知っている。キュロープスは脅威ではない。
今回はあくまでイリーナとクロノスの調査がメインだ。だが、南の山脈で何かが起きたのは事実だ。それを調べるのが今回の目的。収穫祭までに戻ってきてイーフリートを倒さないといけない。
「まあ、そっちが半分でいいというのなら俺たちは助かるってものだ。まあ、気を付けて行ってきてくれ。もし、何かあったらアデルが盾になれ。嫁を守るんだぞ」
というか、俺が戻ってこないことを願っているようにも聞こえた。ひどい話しだ。
「じゃあ、準備をして明日から行きましょうかしら。アデル」
なんでそんなかわいい表情で俺を見てくるんだ。何か理由があるのだろうか。俺はまだペリドットさんの意図がわかっていなかった。
翌日。
街の南にある門の所にティセが立っていた。目が爛々と輝き、表情に笑みはない。すごい目つきで睨まれている。ティセが言う。
「行かせない。アデルを南には行かせないから」
アイスロッドを手に持ってこちらに向けている。その表情は真剣だ。あれ?どうしてティセがアイスロッドを持っているのだ?ティセのレベルであのゴーレムが倒せると思えないし、おばあさんが貸し出したのかな。まあ、いいいか。
「ティセ。久しぶりだね」
気が付いたらそう口から出ていた。言いながら変なセリフだと思った。この世界ではティセは引きこもっていて家から出てきていない。たまに窓から見える表情だけしかわからなかった。だから、ほとんどティセと接点がないのだ。だから久しぶりという表現が正しいかと言われたら違う気がする。
「そうね。長かったわ。私、アデルをもう失いたくない」
そう言われてきょとんとしてしまった。ペリドットさんが耳元でこう言ってきた。
「ティセは前の世界の記憶を持っていますのよ。この南への冒険を避けたいと思われているようですね。どうしますか?対応はアデルにお任せします」
ペリドットさんはそういうと少し距離を取って離れた木にもたれかかって俺を見ている。ティセをどうするのか。
全力で走った後にフライで飛べば振り切ることもできる。だが、そんなことしたくない。多分追いかけてくるはずだ。
そうなると、この先にいるスライムにやられる。あれはティセでは倒せない。説得という選択もある。けれど、俺はわがままなんだ。強欲なんだ。もう、ティセを失いたくない。そう思って何度も、何度も失っている。
守りたいのなら遠くにおいやるか自分の手で守るかの二つしかない。そしてわがままな俺は自分の手で守りたい。
「ティセ。転生を信じるか?この行動の先を知っているのか?」
目の前のティセのレベルを図る。レベル45。これはかなり訓練をし、モンスターを討伐したか結果だ。
その手にアイスロッドを持っているのがその証拠だろう。そして、俺の言葉でティセは大きく目を見開いている。
「アデルは記憶があるの?あの時の?」
「ああ、ある。それともう一つ。ティセが経験した転生は1回だけだが、俺はすでに5回の転生を経験している。そう、俺は5回もティセを救えなかった。すまない。だからこそ言う。逃げても何も変わらない。待っているのは死だけだ。だから俺は抗う。そのために一緒についてきてほしい」
俺は頭を下げた。守れなかったのだ。何度も。
「アデルは5回も経験しているの?あんなことを」
「ああ、そして、守れなかった。でも、俺はわがままなんだ。手元に置いておきたい。大切だから」
虚ろな目のティセを何度見たことか。あんなのもう見たくない。俺はその思いから手を差し出した。ティセが俯きながらこう言ってきた。
「なら、次こそは私を守り抜くなさいよ。守れなかったらただじゃおかないんだからね」
そう言ってティセが俺の手をつかんだ。拍手がする。見るとペリドットさんが拍手をしていた。つられて周りにいた皆も拍手をしてくる。ペリドットさんがこう言ってきた。
「どうやら私はふられてしまったようですわね。まあ、依頼を受けたのですから遂行いたします。この街にその後戻ってきてもいいですか?」
そう街のみんなに声をかける。
「もちろんだ!」
「待っているよ。ペリドットちゃん」
「大丈夫だ。問題ない」
町中大盛り上がりだ。そして、なぜかペリドットさんコールの中俺たちは南の山脈を目指したのだった。
街を出る前にパーティー登録をする。
「ねえ、どうしてパーティーになると能力があがるの?」
ティセにそう言われた。
「ああ、この指輪の呪いだよ。HPとMPが均一になる」
そう言ったら殴られた。
「ってことは、アデルは私よりレベルが高いってこと?ありえないから」
いや、ありえるんですよね。
「まさか、この緑の髪の女も私より強いとか言うんじゃないですよね」
そう言うとペリドットさんが「さあ、どうかしらね。挑んでみますか?」と笑っていた。ティセよ。悪いことは言わない。ペリドットさんは手加減を知らないから本当に大変なことになる。
「私の特訓の成果を見せてやる」
というわけで、特訓になりました。どこからか現れたゴブリンと一本角の狼をいかに早く刈り取るかという内容をティセが持ち出したが、ペリドットさんが、指先をはじいて産み出したウインドカッターで全滅させてしまったので、俺とティセのコンビでペリドットさんに戦いを挑むと言うことになってしまった。
「ちょっと、アデル足を引っ張らないでよね。弱いんだからさ」
弾き飛ばされたティセを受け止めたらそう言われた。
「悪い」
そう言いながらペリドットさんを見る。周囲に風でバリアを作っている。何の策もなく突っ込むと弾き返される。弱い魔法も同じだ。ティセはウォーターガンで攻撃をしたら、そのまま弾き返されたのだ。
「あらあら、お二人とも仲良くて妬いてしまいそうですわ」
そう言いながらウインドカッターが飛んでくる。
「危ない」
俺はティセを弾き飛ばして剣でウインドカッターを受け止める。重い。
この剣じゃなきゃ折れているだろう。だが、ウインドカッターを放ったペリドットさんの動きがおかしい。どこか遠くを見たかと思ったら、いきなり魔法を解除して、ゆっくりこちらに近づいてくる。戦意がないからこちらも戦意を解く。するとペリドットさんが小声でこう言ってきた。
「少し離れたところに人の気配がありますね。どうしますか?」
俺とティセは汗だくで肩で息をしている。だが、ペリドットさんは汗一つかいていない。というか、ティセはすでに地面に倒れ空を見上げている。
「ヒール」
俺とティセに回復魔法をかけてから俺も意識を集中する。3人の気配。そして、何かと戦っている。
「上空から様子を見よう。まずはそれからだ」
「じゃあ、行きましょうか」
俺たちはフライで上空に飛んだ。不可視魔法を自分とティセにかける。不可視魔法の問題はお互いに認識できなくなるのだ。ティセの手を握る。
「アデル。見失わないように手を繋いであげているんだから感謝しなさいよね」
「はいはい」
だが、ペリドットさんの場所がわからない。完全に見失った。おそらく同じ不可視魔法をかけているはずだ。
「ここにいますわよ」
後ろから肩を叩かれた。まったく気配がわからなかった。
「驚かせないで下さいよ。心臓に悪いですから」
声は念話の形で頭に響く。背中に手を添えているのがペリドットさん。右手でティセと手をつなぐ。これではぐれることはない。
少しずつ高度を落とす。3人の冒険者なのか、どこかの国の騎士なのかわからないが戦っている。
一人は女性。後ろで回復魔法を唱えながら攻撃をしている。ここからだと顔立ちまではわからないが、緑のローブと木のロッドをつかっている。特異属性は風と樹木のようだ。
もう一人は男性。赤い鎧を着た、炎属性の剣なのだろう攻撃を繰り出している。
最後の一人は屈強な男性だ。大きな剣を振りまわしている。岩が簡単に削れていることから土属性なのだろう。3人のレベルは平均すると400くらいだ。皆似たようなレベルだ。
そして、戦っているのは大型のスライムだ。
「あのスライムって」
ティセが念話を送ってくる。
「ああ、あれはイリーナのスライムだ。俺たちが前の世界で倒した」
そう言うとおっとりとしたペリドットさんがこう念話で話しかけてきた。
「ええ、だから少しお二人の足を止める意味でも訓練をさせていただきました。あのスライムが本当は何をしたがっていたのかを調べるためにね」
いや、話してくれたら時間調整しましたよ。というか、ペリドットさんがたまによくわからない。ティセが言う。
「あの人たち助けなくていいの?」
防戦一方に見える。あのスライムの弱点は聖魔法だ。そして、あのメンバーの中だと前衛二人は確実に神聖術をマスターしているとは思えない。
後ろの魔法使いが回復もしているから神聖術は使えるかもしれないが、攻撃力は低いだろう。
「いや、助けない。イリーナと敵対する可能性は避けたい」
できれば仲間にしたい。クロノスとイリーナが出会う前にだ。
「多分どこかにイリーナがいるはずだ。ペリドットさん感知できませんか?」
俺よりも感知能力が高いペリドットさんにお願いをする。だが、返ってきた答えは「見つからないわね」というものだった。
仕方が無い。これは危険だししたくないがこれ以外に方法が思いつかない。繋いでいたティセの手とペリドットさんの手をつなぐ。
「これから俺はイリーナを見つけるための魔法を放つ。二人はここから離れないでくれ」
俺はそう言って上空に向かって高度を上げた。




