~王都視察団を観察~
~王都視察団を観察~
収穫祭が終わり、タイフーンが去った。イーフリートを討伐したことは、イーフリート城が社に変わっていること、そして、道が整備されていることから調査が入った。
だが、緩やかな結界だったこと、倒した後フライで飛んでいるところを王都の魔術教団に感知されたことを知った。
ってか、魔術教団って騎士団とはまた別の組織があることを知ったのだ。
「ああ、その組織は儂が昔作ったんじゃよ」
タイフーンが来ている時にじいちゃんが一度倉庫に来てくれたのだ。そう、ジグル老子との戦いに向けて一つスキルを伝授してもらったのだ。
ほら、戦闘ものの特訓というやつだ。といっても、タイフーンが来ていた数日の特訓のため伝授というか見せてもらっただけで、自分ではまったく使えないのだ。
というか、こんな武技使えたら反則だろう。というものだった。
「ああ、私はそれ使えますよ」
そう思っていたらアメジストさんにさらっと言われた。おかしい、俺って世界最強の勇者だと思っていたんだ。転生するまでは。しかもアメジストさんはいつもさらっと言うんだ。
「まあ、そういうのって何となくできるもの」
できないですから。
「大丈夫ですよ。アデルはセンスがあるはずですわ。多分。おそらく。きっと。だったらいいながそろってるわ」
いや、ペリドットさんフォローするなら最後までちゃんとしてください。
軽い口調だが、わかっていた。俺が緊張をしていることと、みんながその緊張をほぐそうと気を配ってくれていることを。
「ありがとう」
俺は頭を下げながらそう言った。
「プライドの塊のアデルが頭を下げている」
不思議なもの見るような目でアメジストさんが俺を見る。いや、俺だってバカじゃないですからね。
「イーフリートの熱で脳がやられたのかもしれませんわ。ちょっと回復魔法をかけますわ。大ヒール」
いや、ペリドットさん。それひどくないですか?でも、ようやく笑えた。だって、大ヒールとかいいながら手のひらを俺に向けただけだったのだ。
「ようやく笑いましたね」
ペリドットさんにそう言われる。まあ、ペリドットさんが照れ笑いした顔がすごくかわいかった。アメジストさんはのっぺらぼうのままだ。
「そういえば、アメジストさんはペリドットさんみたいに擬態しないんですか?」
気になったのでそう聞いた。アメジストさんが言う。
「ああ、それは相手への敬意がなければできない。だから、私はこのままだ」
「それを今言うのですね。本当にアメジストさんはひどい人ですわ」
ペリドットさんがそう笑っている。だが、目が笑っていない。そして、強い魔力を感じた。これは危険だ。
「じゃあ、俺は明日があるので家に帰ります」
こういうのは逃げるのが一番だ。その後シズに魔力の大半を吸い取られその疲労感からぐっすり眠った。
事前に視察団を迎えるちょっとしたロングソードにラーナで買ったちょっとしたブレストアーマーを用意していたのだ。もちろん、ティセの分も用意して渡してある。
機能は何もない。ただ、かわいい感じのものだ。黒のベレー帽にピンクのワンピース。襟部分の袖口の部分が白く、黒色の花の模様で縁どられている。そして黒い靴に白いソックス。そして、手には水晶球のロッドだ。
かわいいと褒めてくれた。実際パンフレットにあった見本一式を買っただけなんだけれどな。でも、喜んでくれてよかった。
そういう夢を見たわけじゃないが、起きたらなぜか用意してあったと思ったブレストアーマーが見つからなかった。
仕方が無い。もう一つ買ったレザーアーマーにしておこう。これは性能より見た目がかっこいいのだ。
黒い皮でできていて光沢がある。耐久性があるかと言われるとおそらくない。攻撃を一度受けたら裂けてしまいそうだ。そういう見た目重視のレザーアーマーだ。
家を出る。すでに知っているが雲一つない快晴だ。朝一番の早馬で王都から視察団が来る連絡が入り、村は今その準備に追われている。といっても、少し前まで収穫祭をしていたから祭りの気分なのだ。ただ、俺の父親とティセのおばあさんは顔色が優れなかった。
話した所で子供の言い分だ。それに、視察団は俺がイーフリートを本当に討伐したのかの確認だ。
「アデルとティセはすごいな」
「あの跡地にある場所は神聖さがあっていいな。道もしっかり整備されているからお参りに行きやすい」
俺もティセも手伝おうとしたが中央に二人で座らされた。
「なんか、こうやって中央の台座に二人で座っていると婚姻の儀みたいだな」
俺がそう言ったらティセが「うるさい」と言ってアイスバレットを俺にぶつけてきた。
理不尽だと思った。
ティセが俺を見て言う。
「その、あんたは私とその、こ、こ、婚姻の儀をし、ししたいと思っているわけ?」
これは何と答えるのが正解なんだろう。とりあえず、ペリドットさんの教えの通りまず、目線を外さない。そして、筋肉の動きを見る。なんだかティセの表情がおかしい。体調でも悪いのか呼吸も乱れている。そう思っていたら「視察団が到着した」との声が聞こえた。
すでに前の時にレジストで4人のことは把握している。今回は大人な対応をする。敵と思われないよう、舐められないよう、正々堂々向き合うのだ。
視察団が村に入るとすぐにウリクルが俺の方にやってきた。レベル感知の魔法を使っているのだろう。金髪の髪は首で一つにまとめられている。おでこも出ているがだが、きれいな顔立ちの人だ。
「あなたが、イーフリートを倒したと。なんでもすごい魔法を使えると聞きました。ぜひ一度王都へ来ていただけませんか?といっても、あなたはまだ若い。王都には騎士育成学校があります。そちらに入学しませんか?」
だが、その言葉と雰囲気とは違ってピリピリと殺気が伝わる。これは本気の殺気だ。そして、ゆっくりと間合いに近づいてくる。
だが、それは威嚇だとわかっている。俺が相手の間合いに入ったら切り捨てるかもしれないが、俺は自殺志願者じゃない。にこりと笑いながらでも、こちらも同じように殺気だけをぶつける。
「ええ、是非とも王都にお伺いいたしますよ。勇者さま」
慇懃無礼にそして、頭をさげる。だが、注意は相手に向けたまま。ティセがどうしていいかわからず、俺のマントのそでを握っているのがわかる。
「ふっ。ははははは。これは驚いた。この殺気のなか不敵な笑みで更に殺気を返してくるとは。面白い。名をなんていう?」
「アデル。アデル・ライニコフだ」
こう言う時は顎を引く。そして、相手の目を見続ける。
「ほぉ。あのライニコフの血筋か。これは楽しみだ」
舐めるように、そして、ねっとりとした視線をジグル老子が俺に向けてきた。ウリクルの殺気がかわいく見える。ジグル老子のはただ、単に気持ちが悪いのだ。しかも、それを全面に出している。
「ありがとうございます」
心がこもっていない。だが、俺は覇気でそのねっとりとした魔素を吹き飛ばした。
パン、パン、パン。手がたたかれる。
そこには青いローブを着たヴェルチと言われた女性が立っていた。
「面白い子がいるじゃない。私、この子をパーティーに入れたいわ。どうかしら?」
そう言ってウリクルにくねくねしながら話している。ウリクルが少し考えてからこう言ってきた。
「まあ、計画次第ですかね。でも、検討してもいいかもしれません。報告ですかね」
そう言って、すぐに視察団は去って行った。
今までと違う展開に俺は驚いた。だが、その後両親に王都の学校に行かせるためのお金を稼ぐように言われたのも同じだし、街を出た所でペリドットさんと出会い、ティセとバトルをしたのも同じだった。
だが、根本的に違うことが起きた。そう、道を歩いてもミーニャと出会わないのだ。それに一本角の狼もゴブリンにも出会わない。
「なんだか順調な旅だね。モンスターも出てこないし」
おかげで、少しのスペースを見つけるとペリドットさんが「ちょうどいいですわね。訓練をしましょう。練度を上げておくに越したことはありませんわ」と言ってきて地獄の特訓がはじまった。
そして、旅の途中にニャンクスの街「ニャーニャー」に着いた。
ニャンクスの街「ニャーニャー」はかわっている。まず、建物は円型をしている。ニャンクスは円型に惹かれるらしく、建物が円型なのだ。円柱形をしていたり、円錐形をしている。
そして、入り口に検問があり、そこで旅人であり、宿泊をしたいと連絡をすると歓迎される。まあ、その分お金も取られるがお金より喜ばれるものがある。
「カツオブシ」
携帯品として持っているのだが、これがかなり喜ばれる。念のため持参をしていたのだ。
「ようこそ、ニャンクスの街、ニャーニャーだにゃ」
検問に居たのは青い毛並みの戦士ボルドーニャさんだ。俺は前に会っているが、この世界では初対面だ。そして、元々この場所を訪れたのはティセがオートマッピングに申請した、宝石があるダンジョンを探してのことだ。
「ええ、この先にあるダンジョンを目指しています。今日はこちらに宿泊できればと思っています」
そう言って一袋「カツオブシ」を渡す。ボルドーニャさんの目がかがやく。
「これは良品ですにゃ。歓迎しますにゃ。もっとあったりますかにゃ?」
「ええ、ちゃんと用意しています」
準備はしていた。前の世界で人数もある程度わかっていたからだ。カツオブシを差し出すと「こんなには受け取れませんにゃ」とボルドーニャさんに言われた。
「では、今度来た時の分だと思って預かってください」
笑顔でそう伝えた。そう、これはあの時救えなかった罪滅ぼしだ。未だに記憶に焼き付いている。うつろな瞳で倒れるニャンクスの人たちを。
「わかりましたにゃ。それではまず、この街の村長にお会いくださいにゃ。場所はこの先にある一番大きな建物になりますにゃ。それと、案内をつけますにゃ。ミーニャ。そこにいるのだろう。この方たちをお連れするのにゃ」
そう言われて奥からにょきっとミーニャが顔を出した。茶色い耳に茶色い髪、黒い瞳。茶色のレザーメイルに白いズボン。街道ですれ違った時と同じ服装だ。目をきらきらさせてこっちを見ている。いや、見ているのは「カツオブシ」だ。
だが、元気なミーニャを見ると少し安心をした。いきなり耳をつねられる。
「アデル、何。あんな猫がいいの?」
ティセが怒っている。
「いや、違うんだよ。ニャンクスって見たことないなって思っただけだよ」
亜人差別を持っている人もいれば持っていない人もいる。だから亜人は人族と距離を取りたがる。衝突を避けるためだ。
その衝突を避けるために相手が喜ぶものを提示する。それは、ニャンクスには「カツオブシ」だ。
「案内するのにゃ。私はミーニャだにゃ」
ミーニャが俺たちの周りを1周してから俺の前に立った。なんだろうこの行動は。
「俺がアデル。こっちがティセでこちらがペリドットさんだ」
ティセは「ふん」と言う感じでミーニャを見ている。ペリドットさんは「どうも」と丁寧にお辞儀をして挨拶をする。ただ、ペリドットさんの行動はいつも機械的でどうしても感情を感じられない。
まあ、基本宝石だからかもしれない。それに、この外見は幻術だ。実際は緑ののっぺらぼうである。
ミーニャは俺を見てこう言ってきた。
「アデルはどこかで会ったことあるような記憶があるのにゃ。でも、ヒューマンの知り合いなんてミーニャにはいないはずなのだにゃ。アデルは不思議な感じと、良い臭いがするのにゃ」
そう言って懐に手を突っ込まれた。まるで抱きついてくるような感じだ。ミーニャの胸が当たる。
「ちょっと、やめて、やめて」
そう言っていたら「アイスバレット」を俺とミーニャにティセがぶちかました。
「何発情しているの。この猫は。頭を冷やすといいわ。『ウォーターガン』」
距離が短かったが魔素の流れで読めた。ミーニャを抱えてよける。
「なんでよけるのよ」
ティセが怒っている。だが、そっとペリドットさんがティセの腕を手に取る。
「ここはニャンクスの街の中です。争いは避けてくださいね」
笑顔だ。ペリドットさんの笑顔が怖い。そして、それがわかっているのかティセはそれ以上何もしてこない。
「ありがとうなのだにゃ」
気が付くとミーニャを抱きしめたままだった。ミーニャが更に言う。
「アデルはミーニャのことが好きなのかにゃ。ミーニャは別にかまわないのにゃ」
そう言って抱きしめ返してきた。
「いや、ちょっと」
そう言っていたらペリドットさんが気配無く近くにやってきて手を差し出してきた。
「さあ、立って案内していただけますか?可能ですわよね」
無機質ないいかた。それはまるで刃物を首に当てられたような怖さがある。そしてミーニャもそれを感じたようだ。そうだ、この感覚は殺気だ。
俺もミーニャもすぐに立ち上がった。
「はい、もちろんであります」
もう、語尾の『にゃ』が無くなっていた。そのまま無言でミーニャは案内を続けた。途中ペリドットさんが俺の近くに来てこう言った。
「ゴブリンロードは誕生していないですわ。魔素の流れが全然違いますのよ。ここは恐ろしいほど今済み切っていますわ」
それは俺も感じていた。魔素の流れが恐ろしいくらいない。前は色んな力が流れ込んでいたが、今は逆に何もない。この近くに猫浄土があるにもかかわらず静かなのだ。
「かえって不気味ですね。ここまで澄み切っていると。作為的なものを感じます。もしくは誰かがここにあった魔素を横取りしたような」
そうなのだ。魔素はどこにでも存在する。だが、誰かが強制的に吸い上げたら魔素はからからになる。今のこのニャンクスの街「ニャーニャー」がそんな感じなのだ。
そして、ここまで魔素がなくなると色んなものにも影響するはずだ。農作物が育たない、地下水が枯渇するので井戸水がなくなるなどだ。
「着いたのにゃ」
そう言われて、街の中央にある大きな円形の建物に案内された。その奥に玉座があり、ダルーニャが座っていた。眼光鋭く、まるで王の風格がある。
謁見をした後にダルーニャに言われた。
「実はここ数日魔素の流れの様子がおかしいのだにゃ。君たちが向かうダンジョンは魔素の濃い場所でもあり、この一体の魔素の流れの本流でもあるのだにゃ。何か異変が起きていないか、ついでに見てきてくれないかにゃ」
そう言われた。
「わかりました。お受けいたしましょう」
俺もペリドットさんも気になっていたことだ。言われなくても調査をしようと思っていた事案だ。ティセが不思議そうに俺を見ている。ティセに言う。
「勇者は依頼を受けるものだろう」
「そっか、私たちは勇者だものね」
そう言うとティセは胸を張って鼻歌を歌い出した。気にしないでおこう。
「頼もしい、今日は宴を開こうではないかにゃ」
そう言って、俺たちは宴席を設けてもらった。そう、そこにはダルーニャだけでなく、ボルドーニャさんや灰色の毛並みのミルニャーニャさんも居た。そう、前の世界で共に戦った仲間がそこに居たのだ。ただ、その記憶は彼らにはない。
「おお、このカツオブシは最高級だな」
「この、マタタビ酒も最高だ」
持ってきていたものを提供する。そして、俺らは川魚と木の実と米を食べている。
「これってご馳走なのかな?」
ティセがそう言って木の実を米に乗せたよくわからないものを食べている。ちょっと不思議な味がするのだ。
「多分そうなんだよ。まあ、俺らはマタタビ酒は飲めないけれどカツオブシはご飯にかけて食べるとおいしいよ」
そう、文化の違いは食文化の違いでもある。柔らかく煮込んだ木の実と米は不思議な味がした。
そう言えば、ミーニャはどこにいるのだろう。少し周りを見渡した。いきなり箸でほっぺたをつつかれた。
「ちょっと、何きょろきょろしているの?アデルって猫派だっけ?」
いや、猫みたいな目をしているティセに言われているので変な気分だった。
「猫派かはわからないけれど、ティセってちょっと猫っぽいよな」
ミーニャは結構遠くにいることがわかった。どうやらペリドットさんが怖いみたいで近づいてこない。ティセが変な顔をして声を低くしてこう言ってきた。
「猫耳とかつけないからね。まあ、アデルがどうしてもというのなら考えてあげなくもないけれど」
「つけて見てよ」
勢いで言ってしまった。そう言うと村長のダルーニャさんどこからか猫耳カチューシャを持ってきてくれた。
「これはニャンクスに憧れた人族の方が作られたものですにゃ。一度つけてみるとよいですにゃ」
ちなみに、猫耳カチューシャは白、ピンク、茶色、三毛猫風と色んな種類があった。
「まあ、アデルに選ばせてあげるわ。感謝しなさい」
そう言いながらティセはちらちらとピンクの猫耳ばかり見ている。俺がそのピンクの猫耳を渡してティセが頭に着ける。
「どうだにゃ?」
そこで語尾も変えるのか。ティセ最高だよ。
「ティセ最高だよ」
あれ?心の中の叫び声が口に出ていた。ティセが顔を赤くしている。その時、頭中にでかい声が響いた。シズの声だ。
「マスターに伝達。ライニコフの街が襲撃を受けています。至急応援を求む。敵は魔女。敵は魔女、そして魔人。私とアメジストでは防衛不可です」
俺はペリドットさんを見る。ペリドットさんは緑の猫耳カチューシャを頭に付けていた。だが表情は硬い。
「私にも聞こえましたわ。いえ、聞こえましたにゃ」
そこ言い直す必要あったの?
とりあえず、俺たちはダルーニャさんに俺たちの街が襲われているので急きょ戻ることを伝える。そして、こう約束した。
「この街のことも救います。俺は勇者ですから」
そう言って俺たちは用意してもらった馬に乗ってライニコフの街を目指した。途中すでに目に入っていた。
そう、ライニコフの街は赤く燃えていたのだ。そして上空には緑のとんがり帽子をかぶった魔女。そう、俺がこの世で最強だと思う魔法使いであり、魔女でもあるイリーナ・イル・サフィーラがそこにいたのだ。




