表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
19/49

~南の街「ラーナ」~

~南の街「ラーナ」~


 王都を中心としてレフィール王国は栄えている。レフィーレ王国の王都「シャスール」は全ての道が赤いレンガで敷き詰められている。


 そして、シャスールに続く道も赤いレンガで敷き詰められており、その道を赤い街道を名づけられている。


 俺の故郷である街は小さな街だ。街の名前を言いたくないのは「ライニコフ」だからだ。俺の家名だからだ。どうしてこの名前にしたのか聞きたくなる。


 そして、この「ライニコフ」への道も赤いレンガが敷き詰められている。だが、「ライニコフ」は王都最南端の街でもある。


 「ライニコフ」から南は王都領ではない。一応南の山脈までがレフィーレ王国の領土であると言われており、その南の山脈を越えた先は自由連合国「アリストレア」の領土である。


 自由連合国の最北部の街「ラーナ」がうちの母親の木工細工を気に入っており、購入をしている。他国への販売が認められているのは装飾品であり装備品でないからだ。


 そして、俺はこの自由連合国に入るのがはじめてだ。どうしてかというと、この自由連合国は魔人ヒュプノスに潰された国だからだ。それまでの間は栄えていたらしいが俺たちは王国所属だったため、王国均衡のモンスターや魔人を先に倒していた。


 実際、この世界の魔王がいる魔王城の近くはヴァイン帝国が支配しているが、魔王との不可侵条約を締結していた。


 ヴァイン帝国にとって魔族は敵ではなく同盟相手であり、食糧を提供するかわりに守られている国でもあった。


 ただ、それも俺が4魔貴族を倒すまでの話し。タナトス、ヒュプノスがこの地上に現れて国を滅ぼしだしてからは帝国も人族の味方となったのだ。


 それまではヴァイン帝国は俺たち勇者から見たら敵国であった。


 ヴァイン帝国はアンデッドが国を防衛する不思議な国だ。そして、帝王として君臨するのは亜人だ。確か、竜人のはずだ。だが、それでも魔王の逆鱗に触れ滅ぼされかけた。誰も助けなかったから俺たちがヴァイン帝国に行って助けたのだ。懐かしい話しだ。


 だが、今思うに魔人たちは本気ではなかった。魔人たちが何を考えているのかわからない。ただ、俺たちはその魔人を倒すだけだ。考えたってわからないことは時間の無駄だ。


 そう、天井を見ながら思っていた。どうしてそう思ったのかというと、普通に南の山脈を歩き、自由連合国最北の街「ラーナ」に着いたからだ。


 山脈でモンスターに会う事もなく、クロノスの気配もなく、もちろんキュロープスにも遭遇していない。そして、ラーナについて聞き込みもした。


 確かに一つ目の巨人、キュロープスの目撃情報は多く得られた。だが、誰一人被害に会っていないのだ。いや、旅人がその姿を見て山道で転んでけがをしたくらいだ。しかも、その怪我を治したのはキュロープスという。


「はじめはその見た目でびっくりしたけれど、今ではキュロープスが作る武具、防具を食べ物と交換してもらっている。結構いいものがあるから見ていってくれよ」


 入って万屋でそう言われた。確かに出回っている武器や防具に比べたら段違いに性能がいい。


 魔素も込められているが、どちらかというと冒険をはじめて少ししたパーティーが持つには丁度いいレベルの武器、防具だ。


 だが、大量にある。これくらいあればモンスターがこの街を襲っても大丈夫なくらい兵士の装備品は充実するはずだ。どうして、この自由連合国はモンスターに負けたのだろう。


「なあ、この国の防衛ってどうなんだ?」


 俺は1階が居酒屋で2階以降が宿屋というありふれた所にとまり、そして、ご飯を食べながら聞いた。


「なんだ、小僧。ひょっとして兵士希望か?この国の兵士は強いぞ。今丁度キュロープス騒動があったから中央から一人騎士が来ているんだ。確かアーカイルという人だったかな。その人と手合せしてもらうがいい。自由連合国は教育に熱心だからな。子供のお願いなら聞いてくれるだろうよ」


 そう言って笑われた。まあ、12歳。子供だよな。横にいるティセが「アデルは強いのよ」と言って歯を出して威嚇している。かわいい顔が台無しだ。


 とりあえず、キュロープスは脅威でないことがわかったし、こちらからクロノスにちょっかいをかけるつもりもない。


 後はとりあえず、アーカイルという人に会ってみよう。キュロープスを退治するというのなら同行させて欲しいとお願いをするのもいいかもしれない。


 俺は天井を見ながら今日あったことを思い出していた。


「ねえ、眠れないの?」


 横にティセがいる。眠れるわけないだろう。どうして別の部屋にしなかったのだ。


 ティセに「お金もったいないでしょう」と言われたのだ。そして「アデル気にするの?」と言われたから「問題ない」と言ってしまったのだ。


 いや、実際、ゴブリンがためていた宝石を売ったのでそんなに節約をしなくても大丈夫なのだが、ティセはどうやら散財するのを嫌がるのだ。


「何があるかわからないでしょう。だからちゃんと貯めておくの。もう、これから先が思いやられるわ」


 そう言いながらにやにやしているティセがわからなかった。そういう感じで今だ。眠れないから色んなことを考えている。


「じゃあ、こうしてあげる」


 ティセに言われて頭から抱きしめられた。顔が赤くなる。ゆっくり背中を撫でるようにとんとんとされて、頭を撫でられる。


 なんだか落ち着いてきた。俺、頑張ってたよな。けれど、いつも失敗ばっかりでティセを死なせてしまって。俺もっと頑張るから。だから絶対次はティセを死なせないから。


「安らかに眠って」


 その言葉で俺は眠りについて。


 翌朝気が付くと俺は力いっぱいティセを抱きしめていた。そして、俺が目を覚ますと目の前に目を開けて俺を見ているティセが居た。


「おはよう。アデル」


 アップでティセを見る。顔が近い。なんだろうこの雰囲気。そう思っていたら徐々に顔が近づいてきて唇が当たりそうになる。その瞬間に外から叫び声が聞こえた。一瞬固まる。


「やっぱり気になるな」

「・・・そうね」


 俺たちは離れて準備をして窓をあけた。空にワイバーンが襲来してきていた。飛行型のモンスターはフライで飛んで倒すのが一番だ。遠距離攻撃だと動きが早すぎてなかなか当てられない。まあ、闘気を飛ばすスラッシュ系が使えて、相手の魔力を読み切れば倒せるかもしれない。だが、なかなかの強敵だ。


「どうするの?」


 ティセがそう言ってくる。


「もちろん、勇者としては倒すしかないでしょう」


 剣を持って、そのまま窓から飛び出る。

「フライ」

 俺とティセの二人に魔法をかける。だが、外に出て気が付いた。ワイバーンは5体もいる。一体何があったのだ。こんな人里に来ることはない。


「ワイバーンは鉤爪も注意が必要だけれど、一番はしっぽの攻撃だ。あれは毒がある。それともう一つ。超音波攻撃がある。あれは目に見えないから結構やっかいだ。だから、まず動きを止める」


 だが、すでにラーナの守備兵も動きを止めるために投網状のものを投げているがうまく捕まえ切れていない。ここで使う魔法は限られているが、動きを止めるだけなら簡単にできる。


「みなさん、今からワイバーンの動きを止めます。協力ください」


 守備兵に近づいてそう言った。そして、ティセにこう言う。


「一瞬目をつむっていて。その後にウォーターガンでワイバーンを地上に突き落として」

「了解」


 そう言ってティセには上空に上がるように指示する。ワイバーンの周りを旋回して注目させる。わざと挑発するように飛んでいるのだ。視線がこちらに向かってきた。今だ。


「フラッシュ」


 強烈な光を放つだけの技。だけれど、効果は絶大だ。そしてティセが上空からウォーターガンを放つ。それを受けてワイバーンは地面にたたきつけられる。飛んでいなければそこまで脅威になる敵じゃない。だが、地上で一人すごい戦士がいた。


 一瞬でワイバーンの首を切り落としていく。ティセがこっちにやってきた。フライの移動も慣れたものだ。そう言えば、ペリドットさんが魂のどこかで記憶をしていると言っていたのを思い出した。ならばあの惨劇もどこかで覚えているのかもしれない。


「やったね、アデル」

「そうだね。じゃあ、降りようか」


 俺はティセの手を取りゆっくり降りた。すでに地上では俺らに賞賛を送る声が聞こえる。


「やるじゃない、ちびっこ」

「子供のくせに、やるな」


 いや、確かに見た目は子供だよ。もっとあるだろう、賞賛の仕方がと思ったがティセが喜んでいたから、まあいいかって思った。


 地上に降り立ったらすごい戦士がこちらにすぐ近づいてきた。


 褐色の肌、青い短髪。だが、シルバーの鎧の胸元に小さく赤い十字が刻まれている。確か自由連合の騎士の証だ。騎士の人数は12人。その一人ひとりが強かったと聞いている。そして、その後ろに銀のメイスを持った女性がいる。


 青い髪を肩までに揃えている。青い瞳に白い肌。華奢に見えるのに、同じシルバーの鎧を着ている。とうことは12人の騎士のうち二人もこの街にいるというのだろうか。


 そう思って見ていたら男性の方から声をかけられた。


「助かったよ。私は騎士団のアーカイルだ。君たちのおかげで被害なくワイバーンを打ち取れたよ。感謝する」


 そう言って頭を下げられた。


「いえいえ、モンスターが出たら協力して倒すのは当然のことです。こちらこそとどめを刺していただきありがとうございました。俺はアデル、そしてこちらが」


「妻のティセです」


 ティセがそう言って俺の腕をつかみくっついてきた。ティセさん。どういうことですか?俺がうろたえているのを見て青い髪の女性が笑いながらこう言ってきた。


「なにこの子。ひょっとして彼氏を取られると思って頑張っているのかな。かわいいわね。私はエレノアよ。この鎧を着ているけれど騎士じゃないの。騎士をサポートするものよ。だから帯剣はできない。補助魔法メイン。でも、このメイスは飾りじゃないわ」


 そう言ってエレノアはメイスを振り回す。確かに威力はありそうだ。しかも、あのメイス神聖魔法が込められている珍しいタイプだ。


「そのメイスはすごいですね。神聖魔法が込められているなんてそうないですが、どちらで手に入れられたんですか?」


 神聖魔法の手助けをする武具があるならいつか出会うマリーに渡したい。エレノアさんが言う。


「このメイスは南の山脈にいるキュロープスの作品です。そして私たちはそのキュロープスが間違って討伐されないように監視の目的で来ています。見た目から野蛮で危険と思われがちですが、理知的で友好的な種族です。特にたぐいまれな鍛冶スキルはこの国の装備のレベルを上げてくれるでしょう。ただ、悲しいかな実務的過ぎて見栄えが悪いのです。だから、装飾品の輸入をこの街で進めています」


 エレノアさんがそう言った時に母親から木工細工の新商品を持って行くように言われていたのを思い出した。


「こういうのですか?」


 母親から預かった髪飾りを見せる。エレノアさんの表情が一気に変わった。


「そうよ、こういうのよ。私が求めているのは。繊細で優美で、でも重厚感がある。これライニコフの髪飾りよね。見たことがない。ひょっとして新作?新作でしょう。私これが手に入ると言われたから北方の僻地に来たのよ。もう、こんなどうでもいい騎士のサポートなんてしたくないもの」


 いや、なんか横にいるアーカイルさんが苦笑いしていますけれどいいのかな。そして、残念な生き物を見るような目でティセがエレノアさんを見ている。


「あ、これ母親から新作の見本で預かってきました」


 そう言うとエレノアさんが俺の肩をつかんでこう言ってきた。


「ということはこれはまだ世に出ていない新作よね。サンプルってこと。ねえ、売ってくれない。私意外とお金もっているわよ。なんだったらこのメイスと交換したっていいわ」


「それは大丈夫です」


 神聖魔法が付与されているメイスは確かに貴重だ。けれど、そのマリー自体メイスを使わない。マリーが使っていたのは赤い水晶がはめ込まれた白いロッドだ。イビルアイロッドという結構えげつないロッドだ。


 本来は呪いのアイテムだったのだが、呪いを解いたら魔力上昇、ステータス異常無効化というすごい性能のロッドになったのだ。


 さらに自ら神聖魔法を付与したのだ。だから武器はいらない。変わりにローブが欲しい。だが、エレノアさんは白い鎧を着ている。


 確かにこの鎧も神聖魔法が付与されているのがわかるが、流石に鎧はいらない。


「じゃあ、私といいことするのはどう?まだ子供だから知らない世界を教えてあげるわよ」


 その瞬間ティセがウォーターガンでエレノアさんを弾き飛ばした。


「若いと水をはじくというらしいけれど、ずぶぬれですね。おばさん」


 いや、そういうことじゃないと思うよ。ティセさん。だが、気が付いたら俺の手から髪飾りがなくなっていた。


「ふむ、確かにいい出来だね」


 アーカイルさんがいつの間にか俺から髪飾りを奪っていた。ってか、この人もさわやかな顔をしてやることえげつない。そして、その髪飾りをエレノアさんに渡してこう言いだした。


「これが欲しいなら今夜僕の部屋に来るかい?」


 おいおい。なんていう事を。


「ええ、いいですわ」


 ってか、エレノアさん。いいんかい。もう、髪飾りはあきらめた。そう思っていたら背中をとんとんと叩かれた。振り返ると昨日万屋で聞き込みした時の親父さんがいた。


「なあ、このワイバーンの皮もらっていいか?結構いい皮だからな。お礼にこれをやろう」


 そう言って渡されたのはシルバーで花をかたどったイアリングだ。しかも青い魔石がついている。


「これは?」


 そっと、魔法で効果を見る。魔力アップと水魔法強化が付いているイアリングだ。


「そのお嬢ちゃんにあげると喜ぶだろうな。じゃあ、儂はこれで」


「ありがとうございます」


 俺はお辞儀をした。けれど後で知ったのだ。ワイバーンの皮は高級品でこのイアリングはキュロープスが作った試作品(失敗作)だったということを。まあ、ティセが喜んでくれたからいいと思っておこう。



「んで、どうするの?」


 ティセとこのラーナの名産と言われる白桃とホイップクリームたっぷりのクレープを食べながら話していた。


 故郷の街と違ってこういうスイーツの店や装飾品の店が多くあるのがこのラーナの特徴だ。


「まあ、脅威がないなら問題ないって報告すればいいかな。今日にでも帰る旅に出ようかと」


 そう言うとティセがこう言ってきた。


「ねえ、それ本気で言っているの?こんな雰囲気ある街に来て観光もせずに帰るとか絶対ありえないんだけれど」


 あれ?昨日節約することに燃えていたティセさんはどこに行ったのかな?


 でも、ここで否定するとウォーターガンで撃たれそうだ。新たな技を習得したから使いたいみたいだし。


「そうだね。旅の疲れもあるし、もう一泊してから帰ろうか」


 あの後、アーカイルさんから髪飾り代をもらえたから財布の中身は大丈夫だ。ワイバーンの皮についてはあきらめよう。万屋の親父がその後にこのクレープ屋を紹介してくれたからだ。そして、もう一つある。


「ねえ、この近くにハート型の池があるんだって。なんでもそこには泉の精霊がいて、来た人を祝福してくれるって話しだよ」


 そう、その泉は女子に人気らしい。そう、万屋の親父がこの街の観光パンフレットをくれたのだ。だが、そのパンフレットはすでにティセの手に握られている。盗み見をしてたら奪われたのだ。


「ふ~ん、この泉にアデルは私と行きたいんだ。どうしても行きたいって言うなら付いて行ってあげてもいいわよ」


 なんだろう。この展開。どうこたえるのが正解なんだ。


「いや、ティセがいやなら別の場所でもいいよ」


 そう言ったら殴られた。


「別にいやって言っていないでしょ。バカ」


 立ち上がってそのまま進んでいく。その先はハートの形をした泉があるところだ。結局ティセも行きたかったのか。


 そう言えば、恋愛成就の泉とあったけれど、ティセは誰と成就したいんだろう。まあ、聞いたら殺されそうだから聞かないでおこう。


 この後、ティセはずっと機嫌がよかった。泉の精霊の祝福を受けたということで。


 あれ、念思で魔法使いがメッセージを送るやつだと思うんだけれど、気が付いていなかったのかな。まあ、言うと機嫌がわるくなりそうだからやめておこう。


 何事もなく俺たちは翌日ラーナを出て、故郷の街へ戻った。


 後から知ったことだ。あの後、誰かがキュロープスを退治したということを。その噂は俺らが故郷の街に戻ってからしばらくしての事だった。この時何が起こっていたのかをまだ知らなかった。


 そう、俺の意識はもう収穫祭後のイーフリート戦に移っていたからだ。ティセのレベルを上げる。そして、今度はティセを死なせない。だから見落としていたんだ。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ