~2回目の旅立ち~
~2回目の旅立ち~
やっぱり旅立つなら朝が一番だ。それは前の世界でも思っていた。
朝の旅立ちは街の住民みんなに応援されるからだ。
旅立ち前に前と同じようにじいちゃんの研究施設の話しをする。だが、目的地はそこじゃない。ミーニャとの出会いとゴブリンロードの討伐だ。だが、同じように動かないと出会えないかもしれない。
「そんな研究施設があるんだ。ってか、そのオートマッピングって何?」
ティセから前と同じように話しかけられる。
「じゃあ、この近くで宝石が大量にあるダンジョンって検索してみてよ」
ティセがそう言う。確かにお金も大事だ。行先は追加することもできる。
「じゃあ、この『街と研究施設の間にある宝石があるダンジョン』で検索をした。ないと思っていたら出てきたのだ。
「やったね。まず、そこで資金調達だ。さあ、行くよ。アデル」
街を出てすぐに緑の髪をサイドテールにした、緑の瞳をした女性が立っていた。服装は白いマント以外は緑のローブに緑のブーツを着ていた。腰には細身の剣をさげている。
「アデル、ようやく出てきたね」
その声を聴いてびっくりした。
「ペリドットさん?」
「そうですわよ。心配だから私も一緒に行くこと決めましたのよ。大丈夫ですわ。マスターの許可はすでにもらっていますから」
そう言って俺の腕を捕まえてくる。背丈は俺より少し低い。大きな瞳で覗き込まれると心まで見透かされそうだ。ぱしーんと頭を叩かれる。
「誰その女?ちょっと私のアデルにくっつかないでよ」
ティセが怒っている。すでに手にはアイスロッドを持っている。そしてすでにアイスロックキャノンの詠唱を終えていた。
「アイスバレット」
ティセは俺の魔力なしではアイスロックキャノンは使えないが、変わりにアイスバレットが使えるようになった。こぶし大の石が20個くらいこっちに向かってくる。
というか、それだけでも結構危険だからね。剣でたたき落とすか。そう思っていたらペリドットさんが俺の前に立って「ウインドカッター」を唱えた。
アイスバレットで発生したこぶし大の石はすべて粉砕されている。
「あら、私としたことが自己紹介を忘れていましたね。私はペリドットと申します。アデルとはそうね、毎夜特訓をした仲とでもいいましょうか。簡単に言うと深い仲ですわ。あなたのような足手まといを助けながらだとこれからの旅は大変だから私も参加することに致しましたの。どうぞよろしくお願いいたします」
ペリドットさんは慇懃無礼にそう言って頭を下げた。口調は丁寧だがなぜか攻撃性がある話し方だ。
ティセが言う。
「深い仲ですって。あなたアデルのこと、ど、ど、どう思っているの?」
ティセはそう言いながら次はダイアモンドダストを放ってきた。だが、ペリドットさんは風の精霊の加護でダイアモンドダストを払いのけた。
というか、風の精霊の加護ってそんな使い方もできるんだと目を大きく見開いた。
「私がアデルのことをどう思っているかですか?そうですね。マスターから守るように言われています。それと、私自身興味があります。マスター以外に私を負かしたのですから。だから、私の次のマスター候補でもありますね」
そう言ってペリドットさんが俺との距離を詰めてきて、俺のほっぺたを撫でてくる。優しい風に体中包まれた。そう思ったら一気に上空に飛ばされた。
「フライ」
焦った。上空で体制を整える。結構上まで弾き飛ばされた。そのまま下に降りる。するとこの短い間に何があったのかわからにが、ペリドットさんとティセのあの険悪さはなくなっていた。
「まあ、わかったわ。旅に参加すること認めてあげる」
「わかっていただけて良かったですわ。では、これからは時間がある時にお二人を鍛えてさしあげますわね」
それは恐怖でしかない。なんせペリドットさんは手加減というものを知らないからだ。だが、ペリドットさんをパーティー登録して知ったことがある。この人のレベルも俺は見ることができなかったということだ。
「それはそうですわ。だって、私たち精霊神を人のものさしで図るのは無理ですもの」
心を読まれたかのようにそう言われた。
道を進むと一本角の狼が増えてきた。多分、もう少しでミーニャと出会えるはずだ。
前と違うとすれば俺とティセの指揮を執っているのがペリドットさんということだ。効率的ではあるが、スパルタである。
疲れたと言うと「そう言う時のためにユグドラシルシードがあるのでしょう」と言われた。いや、精神は疲れたままなんですよと言いたいがペリドットさんの方が手際よく一本角狼を俺らより多く刈り取っている。
「何あの人。おばあちゃん以上のスパルタだよ」
ティセが目をバッテンにしながら魔法を唱え続けている。威力を抑えたアイスバレットだ。数を減らした変わりに命中率を上げさせられている。
そして、俺はソードスラッシュの連発だ。敵が弱いが数が多いのならば消費を減らして、効率を上げる。
こう言うとわかりやすいんだが、いかんせんずっと戦い続けていると心が疲れてくる。そして、ミスをすると後ろから弱められたウインドカッターでおしりをたたかれる。
俺とティセが前衛。後衛にペリドットさんがいる。だが、後ろを見るとびっくりするくらい回り込んだ一本角狼の死体がある。そして、その瞬間に「瞬炎」という魔法で死体を消し炭にしていく。
「周りが死体ばっかりだと気分が滅入ってしまいますもの」
言いたいことはわかる。けれど、どれだけMPがあるんだ。それが俺は恐怖でしかない。そして、もう一つ気が付いている。
敵の中にゴブリンが紛れ込んできているのだ。俺らが一本角狼を予想以上に狩りつくしているからだ。
「なんで、こんなにモンスターばかり出てくるのよ」
ティセが叫んでいる。それは俺も思っていた。
「あら、もちろん訓練のためにおびき寄せてあげていますわよ」
ペリドットさん。やっぱりあんたが犯人か。そう思っていたら道の前方から女の子が走ってきた。猫耳。茶色い耳に茶色い髪、黒い瞳。茶色のレザーメイルに白いズボン。手に細身の剣を持っている。ミーニャだ。
「助けて」
そして、その奥には一本角狼とゴブリンもいる。あれ?この時ゴブリンもいたかな。覚えていない。まあ、いっぱい一本角狼を狩りつくしているのも一つかもしれない。
「どうするの?」
ティセに言われたが答えは決まっている。
「もちろん、助ける」
俺は勇者だ。こういう救える命は助けるのだ。
「かわいい子だから助けるんじゃないわよね」
「もちろんだよ」
そう言ったけれど、ティセに信じてもらえてない気がした。だが、後ろからペリドットさんから無茶な指示が飛ぶ。
「あの猫人族をよけて攻撃できますよね。一撃も外すことなく速やかに排除できない子はここにいないと私信じていますわ」
口調は優しいがこれは命令である。俺もティセも集中する。
「アイスバレット」
「ソードスラッシュ」
ミーニャがどう動くのかを想像して技を繰り出す。なんだこれ。むっちゃ緊張した。ここまで制御できる技だったのか。というか、ティセのアイスロックキャノンの大きさが小さくなっている。もう親指の爪くらいの大きさだ。
だが、威力は数段にあがっている。倒したと思ったら後ろから「瞬炎」が唱えられる。
ちなみに、この「瞬炎」は一瞬だけ高温の炎が呼び出されるが、絶命した生命体を瞬間に炎で焼き尽くす魔法だ。逆に言うと生きているものに使っても効果はほとんどない。
死体処理用の魔法である。全部倒したと思ったら一体ゴブリンが生き残っていた。
「ウインドカッター」
ペリドットさんの魔法が発動して、俺とティセのおしりに命中する。
「痛い」
「うぐぉ」
うまくいかないとこういう罰がやってくる。だが、その痛みをこらえながら「ソードスラッシュ」を放つ。ゴブリンを倒しておかないと更に罰が来る。
倒した瞬間にペリドットさんが「瞬炎」を唱える。一撃必殺であること。今回の討伐でペリドットさんは俺たちに与えた課題がそれだ。
一回の攻撃で確実に仕留める。しかも、最少の攻撃でだ。ちゃんと倒しきったのがわかる。
「ありがとうございましたにゃ。もう、無理かと思っていた所だったので本当に助かったにゃ。私のミーニャって言うのにゃ。皆さんは?」
そう言ってきたが俺もティセも息切れをしている。ペリドットさんがこう話す。
「はじめまして。私はペリドットと申します。こちらが私のリトルマスターであるアデルですわ。そして、こちらで突っ伏しているのが現在足手まといであるティセというかわいそうな生き物です。ミーニャさんはどうしてこちらにおられるのですか?」
ティセは文句が言いたそうだったが、ペリドットさんにはむかっても仕方が無いと諦めている。実際、この呪いの指輪で一番恩恵を受けているのはティセだ。HPもMPも底上げされている。俺はペリドットさんのおかげでそこまで下がらずに済んでいる。ミーニャが言う。
「狩りにでかけていたら、すごい魔素を感じたのにゃ。そうしたらゴブリンロードが出現したらしく、急いで街に帰っているところだったにゃ。助かったのにゃ」
そう言ってミーニャはお辞儀をして去って行こうとした。
「なあ、もしよかったら街まで送ろうか。それに、俺らも一休みできる場所が欲しかったんだ」
実際一休みなんてできないのは知っている。だが、その事実を知らないティセは俺の言葉に乗ってきた。
「そうだよ。旅は一人より人数が多い方が絶対いいもの。ちなみに、ミーニャは戦える感じなの?」
すでにティセの方がレベルもスキルも高くなっている。ミーニャを仲間にしない方が彼女のためかもしれない。
この後出会うタナトス戦とウリクル、ジグル老子戦を考えると弱い相手はパーティーに入れない方がいい。守りきれる自信がない。というか、今ですらティセを守れるのか不安がある。
「弱いものを守るのは強者の務めですからね。大丈夫ですわ。アデルならこの試練乗り越えられるでしょう」
ペリドットさんがそう言っていきなり右手の甲をミーニャに差し出す。え?まじで、パーティー登録するのですか?そう思ったら一気にHPとMPがごっそり減った。
そう、俺は守るものがもう一人増えたのだった。