~王都視察団~
~王都視察団~
収穫祭が終わり、タイフーンが去った。イーフリート討伐はすでに知れ渡っている。その間俺はタイフーンの間、俺は倉庫の地下でアメジストさんに鍛えられていた。
この場所にティセを連れてくることについては許可がもらえなかった。
「ここ場所はマスターが作られた場所。ティセ嬢が鍛えるのなら似たような場所がある。ただ、ティセ嬢はまだ弱い。このような訓練は向いていません」
アメジストさんは冷淡だ。だが、むちゃくちゃ強い。俺がユグドラシルシードに頼ることをまず怒る。確かに便利だが、魔王を倒すにはこのユグドラシルシードは使えないのだ。だから、この魔法に依存しないで戦うことは必要なのはわかる。
だが、魔法量を計算して戦うのがうまくできない。ガス欠になるし、けちっていると火力が全然足りない。
「貴方たちの敗因の一つはそのユグドラシルシードにあるわ。その魔法のせいで戦略がひどい。計算して戦うこと、味方と相手の状況を見て戦う、守る、回復のどれを優先するのかを決める判断が遅い。だからこその訓練です」
といっても、コピーを使って二人で前衛、後衛をしているが、5分の時間限定の戦いでダメだしばかり受ける。そして、コピーを使い続けているとこの魔法の問題点もわかってくる。
イメージができていないとコピーが何をしていいのかわからず茫然としているのだ。
楽なのは特攻なのだが、ユグドラシルシードがないと永久牢獄は1回しか使えないし、エキストラスキルも1回使うともう次を使う余裕がない。
こんな状態でどうやって戦えと言うんだ。
「その、ユグドラシルシードという魔法がチートなのよ。でも、魔王はその魔法がわかったから全力でその魔法を解除したのよ。回復なしでエキストラスキルは連発できない。だから戦術が必要なのよ。どのタイミングでどの魔法を使うのか、どのスキルを使うのかを。考えなさい。そして、チームを信じるの。一人ではできることが限られるのだから。まあ、これから出会う仲間を大切にしなさい」
そう言われた。明日はタイフーンが去って晴れる日だ。
そして、王都から視察団が来る。その後、俺とティセは旅に出るのだ。本来なら向かうべきじゃないのだろうが、ゴブリンロードが出るので、その討伐のため出かける。
そこでミーニャを助けるのだ。すでにティセはミーニャよりレベルが高い。ミーニャのレベルは20だったはず。いや、もうちょっとだけ低かったかもしれない。
だが、ティセは今25だ。だが、タナトスの死の息吹に耐えるレベル100にはまだ届かない。
それに、じいちゃんがライバルと言っていたジグル老子。あの4人の中であいつだけは格が違った。レベルじゃなくスキルがおかしい。だが、どうにかしないといけない。力が足りない。
「もう一度だけいいですか?」
俺は少しでも強くなりたいと思った。アメジストさんが言う。
「もう、今日は休みなさい」
「わかりました」
そう、ペリドットさんもアメジストさんもじいちゃんをマスターとして認識している。宝石を核とした召喚された精霊神だ。だが、じいちゃんが死んだら皆霧散するらしい。
「折角、受肉できたというのにね」
そう、さみしそうにアメジストさんは言った。ペリドットさんが言う。
「まあ、アデルが私たちのマスターであると認められるくらいになれば話しは違うのでしょうけれどね。まだまだ足りないみたいですが」
そうだ。5分という限られた時間での勝負。確かにその時間で俺はペリドットさんには勝てたが、時間無制限だと絶対に勝てなかった。
ペリドットさんもアメジストさんも自動回復がえげつないからだ。ユグドラシルシードをチートと言っていたが、彼女たちは存在自体がチートなのだ。
まあ、その容貌から外に出すわけにはいかないけれど。
「まあ、心配だから私が冒険について行こうかしら」
ペリドットさんにそう言われたが断った。緑色ののっぺらぼうを連れて歩いたら魔族と一緒にいると思われてしまう。
「では、今迄修行ありがとうございました」
俺は頭を下げた。俺が強さということに気が付けたのは、仲間に支えられていたということを知れたのは彼女たちのおかげだ。
緑ののっぺらぼう、紫ののっぺらぼう。表情はわからない。でも、笑ってくれているのはなんとなくわかった。
「辛くなったら戻ってきてもいいんだからね。この街は最悪私たちが守ってあげるから。人知れず、誰にも見つからずになるでしょうけれどね」
そうだ。それだけでもうれしいことだ。最初の世界では彼女たちはじいちゃんについて行っていたのだから。
この街はある意味安全だ。それにシズもいるから。そう、シズは門番として上にいる。シズとはまともに戦えた記憶がない。
多分ペリドットさんとアメジストさんと3人でかかっても勝てないだろう。存在が違うのだ。
そう、まるで魔王と対峙した時に感じたような埋められない距離を感じるのだ。まあ、それはじいちゃんにもだが。そう思うとジグル老子はそこまでじゃない。
「ありがとうございました」
「そうね。上に行ったらシズにも言っておいて。あの子は私たちと違うから。魔導生命体だからね」
魔導生命体。召喚された精霊神や魔族とも違う。まったく無から作り上げた生命体。それがシズだ。
ただ、膨大な魔素を使うため移動に向かない。いや、毎日俺の半分の魔力をそそぎ込めばいいんだ。ということは、毎日ユグドラシルシードを召喚して、回復が必要になる。
ユグドラシルシード。召喚してわかったこと。あれは魔力だけでなくSPも大量に消費する。命を削っている気分になる。
まあ、召喚後に回復するので問題ないが、気持ちの問題だ。マリーはよくこの魔法をためらいもなく使えていたと思う。
多分、どこか壊れていたのだろう。だが、だからこそ俺らはこの地上にある魔王城でも戦えたし、地上の魔王も倒せた。魔界にも行けたし、魔界の魔王城まで行けた。
まあ、戦いを避けていけたのはこのオートマッピングのおかげだ。だが、今度は違う。レベルが更に上がることもわかった。スキルを上げる必要も知った。
次はちゃんと戦い、レベルを上げてエキストラスキルに頼らない戦い方をマスターする。上でシズに声をかける。
藍色のおかっぱ、白い端正な顔立ち、黒を基調した白いフリルが付いたメイド服を着ている。だが、戦い方は壮絶だ。早すぎて目で追いかけられない。一撃でも受けると体がふっとびHPの大半を奪われる。
それも無手でだ。シズには武器がある。剣のようなもの。剣としても使えるし、遠距離攻撃として剣先からビームみたいなものも出る。
そして、魔法攻撃はほとんど効かないし、物理防御も半端ない。無敵だ。ただし、戦える時間が限られている。
シズは5分以上戦えない。だが、その場に立っているだけでも誰もシズのHPを削ることができない。何もしなくても最強の盾なのだ。
ただ、普通に活動するだけで俺のMPの半分。活動をすれば更に半分以上が必要になる。これがシズがポンコツと呼ばれる所以だ。
「シズ」
そう声をかけた。ゆらりと動いたかと思ったら襲い掛かるようにやってきてキスをされた。だが、これは俺から魔力を吸い上げるという行為でしかない。きっかり半分吸収された。
「助かりました。エネルギー切れが近かったため助かりました」
「いや、それはいいんだけれど、明日から俺旅に出るから。その、こうやって魔力を与えることができないんだ」
そう言うとシズはにこっと笑ってこう言ってきた。
「では、しばらくスリープモードに入ります。念のため、魂の回廊だけは繋いでおきます」
そう言われて額をくっつけられた。シズの顔立ちはかなりかわいい。どきっとしたがシズは無表情だ。そう思っていたら何かいきなり頭の中に何かが流れ込んできた。いや、名が混んできたと思ったら何かを吸い出された。
「記憶とスキルの整理もついでも行っておきました。無駄に似たようなスキルがあるため統合しておきました」
そう言われて自分のスキルを確認する。確かにスキルの数が減っている。そう、前の世界の仲間の能力を受け継いでいる。
似たようなスキルや魔法もある。それが統合されているようなのだ。だが、見たことない魔法が増えてもいる。なんだこれ?
まあ、すぐにゴブリンロードとの戦いが待っている。見たことがない魔法は使ってみるのが一番だ。それにこの戦いはユグドラシルシードも使う。ミーニャのレベルアップをするためだ。
「ありがとう。シズ」
「緊急性が発生したら呼びかけます。その時はお戻りください」
そういうこともできるのか。
「わかった」
俺はそう言って自分の部屋に戻って行った。とりあえず、明日は擬態のため剣は普段使っているプリズムソードではなく、ちょっといい感じのロングソードに変えた。
そう、この倉庫にある剣だ。そこそこの剣なのはわかるが俺の闘気を込めると壊れるくらいの強度だ。
普通に使う分には問題はない。明日はとりあえず敵対せず相手のレベルを読み取ることを最優先にしようと決めた。戦いは相手を知ることが重要なんだ。ペリドットさんもそう教えてくれたからだ。
翌日。
朝から快晴だった。そして、朝一番の早馬で王都から視察団が来る連絡が入る。昼には視察団が到着するのだ。内容はイーフリートを討伐したものの視察と確認だ。
「アデルがやっつけたからな」
「跡地にある場所は神聖さがあっていいな。道もしっかり整備されているからお参りに行きやすい」
そりゃそうだ。土魔法で地面を固めたからだ。しかも大量にあった岩は風魔法で切り刻んで石畳にしている。
すでに近くに小さな集落もできている。ここまですればイーフリートは神としてきちんと祀られる。じいちゃんに言われた。信仰があれば神は和魂にだが、信仰が足りなければ荒魂となる。だから、精霊神はあがめ祀る事が必要なのだと。
今の荒れた世の中だと神を祀ることはなく、その力のみを求めてしまう。力だけを我々が求めると精霊神は力が足りなくなる。だから人を襲うのだよ。
だが、魔王は違う。あれは人の悪意を受ける存在。一定以上の悪意がたまってしまう前に倒さねば世界が滅んでしまう。だから勇者が必要なのだ。だが、最近は色んなことを忘れてしまっている。
だから儂は悲観し引きこもり研究をすることに決めたのだよ。
じいちゃんが言うことはよくわからないことが多い。だが、ここ最近は魔王の力が増しているのも事実だ。それをどうにかするために魔王討伐は必須だ。
「うん、ちゃん対応するよ。僕とティセで」
きれいな服え選ぶ。どこにでもありふれている服装。それはティセにも話している。王都から来る使節団は警戒すべき相手だと。それはティセのおばあさんもわかっていた。
だから俺たちはありふれた、でも少しだけレアな装備で迎えることを決めたのだ。
「これ、変じゃないかな?」
そう言ってティセは自分の服装を見せに来た。黒ブーツに青いズボン。上は緑色のシャツに茶色のローブを着ている。
緋色の髪飾りがついている。その髪飾りだけはイーフリートを倒した時もつけていたやつだ。
「その髪飾りって?」
後から魔化したのがわかるもの。だが、そこまで強くない。もっとレベルの高い装備はあるのに選んでいる。
「うっさい。これしかなかったんだ」
そう言ってティセに殴られ。そうだ、昔ペリドットさんに修行と言われてモンスターを討伐した時にドロップしたものだ。
女性用だったのと、珍しくレアが出たからティセにあげたのだ。でも、あれってかなり前だった記憶がある。あの髪飾りにプラス魔化をして強くしたのか。
「今度また渡すよ」
「うっさいって言っているでしょ」
そう言って殴られた。しまった目を見ていなかった。ちゃんとよけられるように目を見ておかないと。
「んで、かっこはどうなの?」
「うん、似合っていてかわいい。でも、イーフリート討伐した時の方が好きだな」
次は目を見て言った。
「そう、そうなのね。じゃあ、この後視察団送り返した後に着替えようかしら。アデルもそうしてね」
「わかった」
俺の服装はそこにあったから選んだというもの。黒いブレストアーマーに茶色のズボン。茶色の靴に茶色のフード。
レアだけれど、街に行けば一人くらいは持っていそうなレベルだ。ただ、剣は違う。あの倉庫にある剣は特殊スキル付ばかりだ。その中でもまだ比較的珍しくない防御タイプの剣を選んだ。
剣なのに防御力があがる不思議な剣だ。防御値が高い俺からしたらあまりうれしくないスキルだ。
ただ、この装備ならそこまで目をつけられないだろう。ブレスレットも外してある。そして、最初からティセのおばあちゃんにも同席をお願いしている。
魔力探知を常に発動させる。そして、その魔法を感知させない「レジスト」という魔法も発動させる。こういう魔法の使い方を覚えたのもペリドットとの特訓のおかげだ。
もうすぐ4人の高レベル者がやってくる。一人だけレベルが感知できない。これがジグル老子だろう。一番レベルが低いのはエルダーリッチだ。
レベル500だ。あの青い服を着た変なスリットが入った服を着ている確かヴェルチと言った女性はレベル650だ。
そして、ウリクルのレベルは800。一人で相手するにはちょっと厳しい。コピーを使っても5分だけ。
エルダーリッチを倒して、回復役のヴェルチを倒す。だが、ウリクルはエキストラスキルがある。
全ては見られないが、狂戦士化はかなりやっかいだ。全ての能力値が爆発的に上がる。その突進をしても大丈夫なように回復に特化した装備をしている。それをカバーするためにヴェルチが回復をするのだろう。
エルダーリッチもレベルは低いがエキストラスキル持ちだ。アンデッド召喚と分身だ。この分身はかなりやっかいだ。
コピーと違って独自の意識を持たない、同じ攻撃をし続けるだけの分身。だが、使える魔法がえげつないものが多い。
メテオ、ロックキャノン、そして、ダークインパクト。簡単に言うと広範囲向けの属性と物理をあわせた攻撃ばかりだ。
そして、分身は最大7体まで増やせる。これ、戦い方間違えたら絶対に勝てない。
だが、一番怖いのはレベルもスキルも一切見えないジグル老子だ。俺と同じレジストの魔法を使っている。
一応俺は見られてもいいように幻術を上からかけている。レベルは120にしているが、氷特化の魔法、魔法剣の使い手にしている。
このレベルと特化だとイーフリートを倒すことはできなくもないギリギリラインだ。この辺りはペリドットさんの意見を参考にした。
視察団が村に入るとすぐにウリクルが俺の方にやってきた。レベル感知の魔法を使っているのだろう。
金髪の髪は首で一つにまとめられている。おでこも出ているがだが、きれいな顔立ちの人だ。
「あなたが、イーフリートを倒したと。なんでもすごい魔法を使えると聞きました。ぜひ一度王都へ来ていただけませんか?といっても、あなたはまだ若い。王都には騎士育成学校があります。そちらに入学しませんか?」
だが、その言葉と雰囲気とは違ってピリピリと殺気が伝わる。これは本気の殺気だ。そして、ゆっくりと間合いに近づいてくる。
「間違えないで。イーフリートを倒したのは私たちよ」
ティセが俺の前にそっとでる。そして、俺の手を握る。手が震えているのがわかる。ウリクルから出てくる殺気にティセも感じているはずだ。
だが、俺にはわかる。後一歩踏み込めばお互い引けない距離になる。ウリクルは俺が先にしびれを切らして動いたら切り捨てる気だ。だが、そんな挑発に俺は乗らない。
「ウリクル。それくらいにしてくれませんか?それに後ろに怖い人も控えていますしね」
そう言って俺は後ろを見る。穏やかな笑顔を浮かべているのはティセのおばあさんだ。手にはアイスロッドではなく、精霊樹の杖を手にしている。あの杖には固有スキルがある。足元から樹木が育ち身動きできないようにするのだ。
「これはヴェルチ様。すみません。ちょっと強そうな子を見ると試したくなるんですよ。でも、二人とも合格ですね。この殺気で気絶しなかったのですから」
ウリクルがわらっている。中性的できれいな風貌だけれど、中身はただの狂戦士だ。
「ウリクル。試さなくても大丈夫ですよ。私のテンプテーションを受けてもこの子大丈夫だったのですから」
前の世界では気が付かなかったが、実際テンプテーションというスキルを使っていたみたいだ。
だが、俺はこのヴェルチという女性に警戒心こそ持っているが、それ以外の感情を持てなかったのだ。緩やかに、だが、気配無くと暗黒系のロッドをもった魔法使い、ジグル老子が俺の近くに寄ってきた。
「それで擬態したつもりか。何のつもりかわからぬが、あまり大人を舐めるなよ」
囁くような声。だが、それだけで十分だった。血の気が引けて顔が真っ青になっていくのがわかる。心臓をまるでわしづかみにされたようだ。俺はまだまだ届かないと言うのか。
「舐めてないわよ。アデルは私の王子様なんだからね」
ティセが俺の手を強く握りしめながらそう言った。手がわなわなとふるえている。先ほどのウリクルの殺気とは別物の殺気。デモンストレーションのような殺気ではなかった。ティセも感じていたはずだ。
「ほお。強気なお嬢ちゃんだ。まあ、強くもないそこらに転がっているただの少女だ。だが、この少女が居るからこの坊主が強くなれるか。面白い。坊主。次会うまで死ぬなよ。お前は最高の器になりそうだ」
器。俺はその意味をもうわかっている。ヴェルチが手を叩き注目を求める。視線を集めてからこう言った。
「あなた達二人を王都の騎士養成学園に入学を認めるわ。次の春になったら王都に来なさい。でも、これは命令でもあるから。もし、あなた達が入学しなかったら、ひょっとしたらこの街は災害でなくなるかもしれないわよ」
「大丈夫ですよ。元々そのつもりでしたから。よろしくお願いします」
俺はそう言って笑った。そう旅に出ることはもう決めていたのだ。そして、俺はウリクルが俺にやったように殺気を4人にぶつけてみた。
そう、距離はきちんと測っている。後一歩前に踏み込めば戦いになる。その手前で立ち止まる。
「いいだろう。王都で待っておくよ。小さな勇者気取りくん」
ウリクルがそう言って笑って去っていた。大丈夫。この街には守ってくれる人がいる。父親と話しをし、翌日の旅たちに向けて準備をする。装備は前の白を基調とした服だ。赤いラインがかっこいい。倉庫の地下に降りる。そこにアメジストさんだけが居た。
「あれ?ペリドットさんは?」
そう俺が言うとアメジストさんは笑ってこう言ってきた。
「明日になったらわかるよ」
その意味を明日の朝知ったのだ。それがあんなことになると俺は思っていなかった。




