表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
1/49

プロローグ

 暗い。暗い。暗い。


 ふわふわと浮かんでいた。だが、猛烈な勢いでひっぱられる。


 痛い、痛い、痛い。


 光が見えた。その瞬間に引っ張られた。


 光に慣れないせいか視界が定まらない。音が聞こえる。だが、うまく聞き取れない。


 まるで水の中にて、音がこだまして聞こえないみたいだ。手を伸ばす。


 なんだ、この手。小さくてまるまるしている。まるで赤ん坊のようだ。


 声を出せたと思ったら「おぎゃー」としか言えなかった。


「元気な男の子ですね」


 そう言った人の顔を見てびっくりした。


 生まれ育った町にいた産婆。ラウ婆だ。だが、少し若い。そして目の前にまだ生きている父親がいた。そして俺の下には母親が。


 二人とも若い。そして、生きているのだ。


 思い出せ。何があったのか。


 俺は魔王を倒すために魔王がいる魔界に向かったはずだ。仲間もいた、はずだ。


 3人いた。だが、顔が、名前が思い出せない。


 白いローブに金色の髪の女性だ。これが最後の記憶。口が動いている。音は聞こえない。だが、何を言っているのかはわかった。


「生きて、あなたを愛している」


 名前も思い出せない。顔も靄がかかっていてうまく見えない。


 だが、これだけは思い出せた。


 俺は魔王に負けたのだ。仲間を目の前で倒され、唯一残った、あの女性と二人になって、俺が逃げようとしたが、魔王から逃げられず、そして、少しだけ時間を稼いでもらったのだ。


 転生の魔法を使うため、だった記憶がある。


「きゃー」


 声が聞こえた。


「指輪をしている。呪われた指輪を」


 そう言って自分の手を見た。産まれたばかりなのに、左の薬指に指輪がはまっている。それも黒と紫に光る指輪だ。呪いの指輪。


 記憶にある。だが、この呪いの中身が思い出せない。ただ、その呪いを知った上で身に着けたのだけは覚えている。


「迷惑かけるな」


「いいよ、俺らのリーダーだろう。それに、その呪いが発動するときってないんじゃないのか?」


「だよな」


 ふいに記憶が戻る。


 黒い髪を短くかりあげている男性。銀色のフルプレートアーマーをきていた。だが、こいつも思い出せない。


 そのまま、街の中央にある教会で祈りを捧げても指輪は取れなかった。そりゃそうだ。


 世界最高峰だった勇者パーティーですら解除できない呪いのアイテムだ。街の神父で解除できるわけがない。


 そう思っていたがうまく言葉を話すことができないのだ。


「おぎゃー」


 としかいいようがない。仕方がないので最低限の時以外声を出さないようにしていた。


「この子は強い子だ。いずれ町一番の力持ちになるかもしれないな」


 父親がそう言ってきた。


 いや、町一番どころか世界で一番の勇者になるんですよ。でも、その姿を二人には見せることができなかったんだ。


 いや、今回は見せることができるかも。あの魔族の襲撃はわかっている。回避すればいいんだ。


 それに、もう一つ。


 もう一度あのメンバーでパーティーを組みたい。次は魔王に負けないくらい強くなればいいのだ。


 俺はまだこの時楽観していた。自らの境遇に。そして、この世界の境遇と、前回が幸運に包まれた人生だったということを。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ