二話
『昨日の深夜二時に一人暮らしの老婆の上森カナさん(68)の自宅が何者か侵入を受け。現金十六万円等が盗まれた事件の続報ですが、韓国籍のリ・ヨンジュ容疑者(26)
が逮捕されました
被告は二年前から日本に不法入国し滞在していた模様で、強盗を繰り返し盗品の売買によって生計を立てていた模様。犯行の動機はパチンコで使う金が欲しかったとのことです。
このニュースは続報が入り次第報道します
では、次は天気情報です---------』
高月刀也は気の抜けた顔でテレビを眺めていた
ニュースの内容に興味は無い。一人だけの寂しい食卓にBGMが欲しかっただけかもしれない
しかし、彼も生まれてこの型ずっと独りきりというわけではなかった
彼も人間ならば自身を生んだ親も存在するのだ
父親はなぜか会ったことが無い、母親の女手一つでここまで育てられてきた
只、二年前から何らかの理由で失踪しただけである
いつか帰ってきてくれるとは信じてはいる。しかしその思いも半年が過ぎ一年が過ぎ、二年目を迎えた今年に至るまでに諦めと諦観に変わっていった
初めの内はひょっこり戻ってきてくれるものだと当たり前のように信じていた
しかし、その思いも時が経つにつれて摩耗していき今ではもう帰っては来ないだろうと殆ど諦めている
味気のないサラダを齧る
大量生産品にありがちな平均化されただけ味の無機質な食感
正直思うと、スーパーでトマトでも買ってきて適当に切り分けそのまま食べた方が安上がりだし美味しいのかもしれない
料理が出来ないと言う事でもない。寧ろ趣味と言い切れるくらいには嗜んでいるつもりである
只、今日は起きるのが遅かったためにやら無かっただけだ
(白けている。ガキじゃあるまいし)
あまり前向きに思考することの出来ない自分を心の中で嘲笑する
母親の事に諦めがつくと同時に彼の中で何かが変わった
昔抱いていた夢や将来といったビジョンがすっかり消えてしまったのだ
それは彼の母親である時雨が居なくなったのも理由の一つなのかもしれない
高校を受験する時も時雨は塾から帰って来た時に温かい夕食を出してくれた
コンビニで売られている大量に生産された無機質感漂う総菜ではない
テーブルの上には刀也の帰ってきた時間に夕食を用意し、なるべく自身も一緒に食べるように調理時間の調整までしてくれた
惣菜屋の仕事が忙しいはずなのに息子と共に食卓を並べたがる時雨を当時は疎ましく思っていた
しかし、彼女が居なくなってからというもの。自分を大切に感じ、案じてくれた母の存在が実は大きな自分の支えになっていたのだと気付き始めた
家族がいない今の状況ならばそれが解る
残されたのは零が沢山並んだ預金通帳だけ
正直に言えば、ある程度贅沢をしつつ生活できる金額だった
しかし、刀也はそのお金に手を付けず、週末のバイトをしつつそこから得た収入でやりくりしている
母のお金にはなるべく手を付けたくなかったからだ
もともとこの家は借家ではないために余計な税金は払わなくていいのだからそれなりにゆとりのある生活は保てた
しかし、高校から帰っても誰も居ない。存在するのは自分だけ。誰も家で待っていてはくれない
一人だけの生活
無論、刀也も友人が居ないわけではない
幼稚園から小学校まで一緒に遊んだ保坂は高校こそ同じでたまに世間話はするのだが最近は会う機会が減った
康盛や隆二はたまにバスケをして遊ぶ仲だが高校からの友人であるせいか、昔の自分を知らない
ある時期の自分を知っていたのは母である時雨しかいなかった
あの忌まわしき記憶は今でも夢に見る、あの『事故』以前の記憶が曖昧だ。母は父親について何も教えてくれなかった
真っ赤に染まった夕焼け
半壊し、フロントがひしゃげ、エンジン部が露出しもう動かないスクラップと化したた自動車
真っ赤に燃える炎をバックに立ちつくす生暖かく、ぐっしょり濡れた”何か”を握りしめ何処かで呆然と立ちすくんでいる自分
そしてその前には―――――――――
(っと。そろそろ時間だな)
ニュースが7時半を示している事に気づき、暗く淀み始めた思考を無理矢理中断させ、学生鞄を手に持ち椅子に立てかけてあった上着を乱暴に羽織って袖を通しながら玄関へと向かう
いつもの事ながら強引にそうでもしないと体が全く動く気がしない
気力を振り絞ってでも、『生活』を演じなければならない
自分はあの時『居場所』守ってもらっていた
母親である時雨に
そして今は自分が守らなければいけない
母が戻ってきても大丈夫なように時雨の『場所』をだ
そのために自分は生きている
彼女が戻ってこれるように自分の生活を続けておくことしかできないが、今は母が帰ってきてくれるのを待つだけだ
たとえどんなに確立が低くても母さんを笑顔で迎えられるように
時雨に「ただいま」と笑顔で言えるように
そう願いながらも玄関のドアを閉めた刀也はドアに鍵をかけ、高校へと向かう
見上げてみると、冬の寒空は青さはまるでコバルトブルーの絵の具で真っ白なカンバスを塗りつぶしたかのように快晴だった




