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十七話

「・・ッ!」


右手を切断された男は信じられない。といった感じで切り飛ばされ、冷たい地面にただ一つの物体として転がっていた


己が腕を見つめる


切られた


何を


私の腕を


誰に


只の人


ヒト


少し強いだけの、愚かしい人間。


ニンゲン


本来ならば、腕を一振りするだけで肉を挽き潰し、骨すらも砕け散り儚く命が吹き飛ぶだけの存在


刃で切りつけるだけで、その運命ごと両断できるか弱き存在


ひ弱で、脆弱で、他者を知と謀略で支配する浅ましくも、残酷でしたたかな連中


目障りでそのくせ数ばかり多く、他者とつるむ事でしか自分たちに対抗出来ない愚図共。


そんな連中の少しばかり強い、目の前の同胞を助けようともしない群れてばかりの権力の犬に、


強さと誇りを是とする『妖』である自分の体が傷つけられた事は到底耐えがたい事実だった


なんとも形容しがたい怒り、込み上げてくる不快感


そして、謀略ばかり行う筈の狡猾で醜い虫けらによって体の一部を失ったという事実


それらの様々な要素が、彼に『能力』を行使を決意させた


自然に呼びかけると、風が応えた


大気中に漂う『気』の粒子を無理矢理かき集め、自分の『気』をも捩じ込んで自らの意思を自然の中の力に介入。即席ながらも行使できる一つの力とする


無理矢理捻り出した『気』の塊を残った左手に集中させて敵を消し飛ばし、木っ端微塵にするイメージを掌内で集中させた


具現、又は発現させる力のカタチは『槍』。男の体を完膚なきまでに破壊し,貫く嵐、どこまでも対象を貫く直線のイメージを頭の中に思い浮かべる


本当ならば、暴風のように対象を粉砕し削り取る『螺旋』と『台風』のイメージを発現したかったのだが、痛みと男に対する憎しみのせいで集中力が持たなかった


そして掌内に集った力は先程の刀也のそれとは比べ物にならないほど密度も威力も無かった、それでも人間一人の体を貫通し致命傷を与えるには十分な量だと彼は自負する


巨大な『気』の力を持つ攻勢不可視のエネルギーの塊を、先ほど自分の腕を切り落とした黒衣の男に向かって解放、照射しようとしたその直後に


「何・・・?」


突然思考の中にノイズが発生。全身に束縛されるような違和感。抗いがたい力を感じた


「な、何ッ!これはッ!?」


激しい頭痛と共に、見えない縄で全身の関節がゆっくり絞め上げられているかのように体の自由が利かなくなる


今の間隔を無理に言葉にして表現するのならば、頭蓋にに氷の刃を突き入れられ掻き回されている。そんな感じだろうか


かまわず無理に『気』の力を解放しようとするが、それを実行しようと考えただけで今度は体全体に痛みが広がっていった


地面に立っているのすらも負担に感じてしまうほども激痛と拘束感にに全力で抗いながらも徐々に彼はその力に屈していく


自らが束縛を受けている原因と先程から駐車場に全く気配を感じなかった原因をようやく彼は感じ取ったようだ


視界の隅に映る死神に向かって憎々しげに告げる


「なるほど・・・術士の、仲間が・・・・」


こうなったら、『最後の手段』すらも行使できない。尤もそれを実行すると彼はせっかく得た人の姿を手放さざるを得なくなるのが難点だったが


彼は男を憎悪の籠った眼差しで睨みつける。が黒衣の死神はこれといって表情を変えずに、彼の視線を淡々と受け止める


(数人がかりとは、、卑怯な、、、、、)


やがて足が体を支える力すらも失われ、彼は無力にも地面に倒れ伏し


せめてこの男だけは、と彼の敵に向かって弱々しげに突き出された残った方の腕さえも重力の力に抗しきれずに地に落ち


彼は慙愧と男に対する憎悪の念を胸中に抱きながら意識を闇の中に手放した







彼は男の片腕を『符』で強化した得物で切り落とした後にすぐ追撃をかけなかったのにはのには訳があった。


一つは目の前の男が『力』を行使した場合の対処を迅速に行い様子を見る為であり、もう一つの対処は彼の『仲間』が仕掛けた『術』の準備が完了したと踏んだからだ


無論、自分一人で目の前の男――――――人間離れした彼らを自分たち組織は『鬼の眷属』と呼んでおり。人の形をした超人であることを認識している


彼らの力は強大だ、その力は一振りで大木をへし折り、先ほど見せた自然界に満ちる『気』の力を操れば自衛隊の戦車を潰すこともできる


『眷属』に関して言えば色々と謎は明かされつつあるが彼らの主人にあたる『鬼』については多くの事が明らかにされていなかった


そして彼らに関する謎はまだ殆どが解明されておらず、自らが所属する『機関』ですらもあまり解ったことはない


しかしこれでも研究は進んだほうである。『鬼』達が何らかの目的の為に動き出すようになってからではあるが


「御苦労様です。隊長」


倒れた男の目の前に立つ彼――――――颯斗に背後から呼びかける声があった


「お前のほうこそ、よく働いた」


背後に立っていたのは少女といってもタイツ風の防護着に軍服と見間違うような半袖のインナーを羽織った、顔だけ見れば少女と言っても差し支えないほどの女性である


日本人らしい鼻腔のバランスがはっきり取れた人形のように美しい顔、少々鋭い我の強そうな光を湛える黒瞳、そして前髪きっちりと切り揃えられ、


肩のあたりで結ばれた艶やかな黒髪が女としての妖しさと彼女自身が持つであろう凛とした雰囲気を辺りに発散させていた


颯斗とはまた違った意味で他人を寄せ付けないような冷たい空気を纏うこの少女は、隼人の労いの言葉になんのリアクションも見せずに言った


「『結界』の仕込みのほうに時間がかかりました。捕獲作戦が成功したのは颯斗隊長が『眷属』を足止めしていただいた御蔭です」


「そうか、さっきの警告の時もよくやってくれた。静」


「はい」


静は再度上司の言葉にもあまり反応を見せようともせずに隣に居た彼のほうを向いた


颯斗も静の方向を見やる


「それで、この男の身柄は本部に連絡後、私に連行するとして、問題はもう一つあります」


颯斗は静の言う「もう一つの問題」とやらが気になった


彼らの最高幹部『室長代理』から下された指令も、定期連絡の中にもこの男と仲間と見られる団体、彼らが何らかの目的で接触を図っている高月刀也の監視以外の任務は


自分に与えられていない


しかしながらもそれとは別に静が自身に伝えたいという事には何らかの重要な意味があるのかもしれないと思い聞き返した


「何の事だ?」


「はい。私は先程力を発言したと思われる高月刀也を準危険要因と判断し何らかの保護もしくは・・・・」


静のセリフの最中に颯斗は微かに眉を顰めた。穏やかでは無い予感がチクリと自分の胸を翳める


「・・・本人が抵抗する場合は同人物の抹殺を自分に許可して欲しいのです」


不吉の前兆はものの見事に的中した



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