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十一話

その事件を目撃したのは学校からの帰り道での事だった


この出来事に遭遇してしまった要因はいくつか有る。まずは自分がたまたま帰り道に本が読みたいと思ってしまった事がひとつ


それで近くの本屋に出向くとその本が置いていなかった事もひとつ


そして別の本屋を探しに行く際に帰り道と正反対の方向へ言ってしまったことも原因である


その行き先が商店街だったことだ


運が良かったのか悪かったのかは彼にも判らない


探している本を結局見つけることは出来たものの、小遣いをはたいて買ってしまった為直ぐに帰って読むつもりだった


それが原因で自宅に帰る時間が遅くなるのを恐れたこと。帰る時間が遅れると親が五月蝿い


それだけはどうしとも避けたい物だった


だから『彼』が自宅への帰路へ着いていた時その異変に遭遇する事が出来たのだ

『それ』はまるで白昼夢みたいな出来事だった

いや、そうであるとしか説明できないような出来事だ


その場所には彼の知り合いが居た


高校等でもよく話すし彼の事を心から良き友人であると認めている人物だった


彼はその友人――-―刀也がここにいる理由を考えた


(食料の買い出しで此処まで来たのか?)


そして彼は不審な点に気付いた


刀也はどういう意図か尾行を巻くようにジグザグに進み、あちこちの通路を行ったり来たりしながら移動した後一通りが比較的少ない路地へと入っていく


彼は友人の奇行が何故か気になった


別に何者かの尾行を巻く事自体は不自然ではない、むしろ近年の不況によるリストラ、計画性の無い安い外国人労働者の大量流入によって治安が悪化している現状ではごくごく自然の事なのかもしれない


実際にこの街の郊外にある工業地帯は沢山の労働者が住み込んでいる


家族を養うために地方から来たもの、またまた金持ち外国人が日本でのショッピング又は観光ついでに資金を稼ぎに来るためだけにやって来ることもある


大抵の者は『郷に入れば郷に従え』ということわざが示すようにその地域の規約を守り、多少の差は有れど充実した滞在生活を送っているが中には始めから犯罪目的で偽造パスポートや盗難された身分証明書などを用いて此処を訪れるものも居る

つい最近も中国人の国籍ブローカーによる盗難パスポートを使った大規模な密入国事件がお茶の間にニュースとして流れていたのを思い出した


日本という国は確かに世界で一番治安が安定しているといっても過言ではない国だ


妙齢の女性が夜間に散歩しても襲われる可能性はほとんど無いし、地域によっては戸締りの必要が皆無な所もあるくらいだ


その安心を空気の如く享受しておきながら、それを自覚せず感謝すらしないで当然のものと世論になりつつある現状を彼も悩んでいる所ではあったのだが


(少し気になるな)


刀也があからさまに変な行動を取るとは思えないし、知り合いのプライバシーに下手に関わりたくなかったのだが何故か妙に気になる


それは後になって考えてみると感とか、一般的な解釈で虫の知らせとか言われる第六感的なものだったかも知れない


(とりあえず、こちらも付いていくか?)


時計を見ると、まだ門限には多少の余裕がある


彼も裏路地に入って行った、しかし刀也は確かにこの場所に向かったはずなのに彼の姿を確認する事は全く出来なかった


そこで彼は奇妙に思った


あの通りから狭い裏路地へ行くには道が限られている


刀也が入った通路からして裏路地に出たのはほぼ確実


それに表通りとは異なり此処も通行人の数は半分だ


人混みに紛れて見えなくなるなんていうことも考えられなくもないがこんな短時間で知り合いを見失うほど交通人の人数は多かったろうか?


彼はしばらく辺りを見回したが刀也の姿を見ることは出来なかった


二、三分程知り合いの姿を探したが刀也が何処にも居る気配は無かった


(帰るか)


彼はそう考えた。刀也が何をしていたかは明日の学校で問いただせば解ることではあるし、これ以上無駄な時間を消費して門限に遅れたらまた厄介事が増えてしまう

それに今日購入した本も早めに読んでみたい


無駄なことはなるべくせずに済ませるのが彼の基本スタイルだった


彼はその場を離れようと一歩を踏みだそうとした拍子に辺りが急に騒がしくなったのに気付き足を止める


そしていきなり目の前にこちらに背を向けたまま茫然と突っ立っている刀也が現れた


(何だ?)


瞬時に頭の中を埋め尽くす疑問符


一体今まで何処に居たのか?


なんで商店の少ないこの通りで三分ほどの間をも同じ場所に止まっていたのか?


謎は泡のように浮かび上がって来たが彼は尋常では無い様子の刀也が走り去っていく方向の反対側―――さっきまで刀也が居たであろう地点を一瞥しぎょっとした


そこには冗談のように後頭部にナイフを生やしてうつ伏せになって倒れているスーツ姿に身を包んだ男性とその周りを囲む野次馬で騒ぎになっていたから


刀也は彼――――雪久に背を向けたままビニール袋を拾い上げてそのまま走り去っていく


辺りには遺体に群がる野次馬と雪久だけが残された


「おい、大丈夫か?」

「これってメイクとかじゃなくて本物のナイフだよな・・・」

「やだっ。怖い」


周りから無責任な嬌声が耳に入ってくるが雪久の耳にその雑音は聞こえていないのと同義


彼の関心はとある疑問ただそれ一つに尽きる


「刀也…お前は一体何をしたんだ?」


あまりにも衝撃的な出来事に彼は思わず噴出した心情を独り言にとして洩らす事しか出来なかった


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