プロローグ
広大な空を、一隻の飛行船が飛行している。
その飛行船の上に、本来人が乗るべき場所ではない所に
黒い布を全身に纏った小柄な人影が立っていた。
「やっと見えてきた・・・(ようやくこの時がやってきた。
今回は失敗はしない。あの人だけは・・・)」
口元までしっかりと布で隠しているため聞こえずらいくぐもった声で、人影はそう呟いた。
その独り言に反応するように飛行船の外部に取り付けられているスピーカーから男性の声が響いた。
「リン、目的地が見えてきたぞ。準備は出来てるか?」
「大丈夫だよ。船長。」
「ってかお前。荷物少なくないか?」
「家具とかはあっちの寮に備え付けらしいから、
小さい荷物ばっかりだったから鞄一つでほとんど詰め込めたよ。(この会話も懐かしい気分だわ...)」
そう話しながら人影の足元にある鞄を叩く。
「はっ、家具備え付きって、流石天界人さまの学院だよな。」
明らかな皮肉混じりな調子で船長と呼ばれた男はそう吐き捨てる。
「無駄なことこの上ないと思うけど、今回は私も楽できたから本当に良かったわよ。それじゃあ、予定通りお願いね。」
「馬鹿な天界のガキに気をつけてな。あとは、トンズラするって時はすぐに迎えに来るから安心しろよ。」
「ふふふっ。(あの記憶を思い出したあの時から)私は目的を果たすまでは学院にいるつもりだから、その心配はいらないわ。」
「だったら、さっさと目的果たして帰ってこい。
お前の帰りを待ってるやつは掃いて捨てるほどいるんだからな。」
最後の言葉と同時に乗船員のものらしい
「待ってるぞぉー」や「元気でなぁー」といった声が聞こえてくる。
「分かったわよ。なるべく早く帰れる様にするわ。」
聞こえる声に微笑みながら人影は答えた。
「よしっ。野郎共!リンの門出だ、気合い入れていくぞ。」
「「「「了解!!」」」」
「周囲に障害になり得るものの反応、ありません!」
「天候も安定してます!旅立ち日和ってやつっすね!」
「オイッ、無駄口をたたくな!!・・・エンジン出力安定!」
「結界魔法システムオールOK!いつでもいけます!」
「予定のポイントへの到着は30秒後だ!準備しろ、リン!!」
乗船員たちの声が止むと同時に船体全体を覆い隠す様に白い光が展開される。そして飛行船はそのまま速度を上げ前方にある浮遊島へと直進していく。
「カウント始めます!10秒前!!」
飛行船は速度を落とさずに浮遊島のやや上辺りを目指して飛ぶ。
「5.4.3.2.1!」
カウントが終わると同時に、ケースを片手に持った人影が船体から飛び降りた。そして船に向かって叫ぶ。
「いってきます!」
飛行船からはなんの反応も帰ってこなかったが、
人影は満足そうに微笑みながら島の地面に向けて一気に降下する。
そして地面がだいぶ近づいてきた辺りで、人影がケースを持っていない方の手を地面に対してかざす。
ビュオッ!!
突然強い風が人影の真下で渦巻き、
クッションのように人影を受け止めた、
人影は軽やかに地面に降り立つ。
降り立つと同時に人影は、全体を覆う布を脱ぐ。
艶やかな腰まである黒髪に黒曜石の様な瞳の少女が
目の前にある巨大な門を見据えた。
「ここが、天界の学院(始まりの場所)か・・・」
少女は、星宮璃は悲痛に満ちた小さな声で、そう呟いた。




