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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。

夢現奇譚シリーズ短編、外伝集

慟哭 ~夢現奇譚短編~

作者: 結城星乃
掲載日:2018/01/16


 まるで冬場の冷水に触れたかのように、はっとする。

 ぼんやりと見えていたものが、はっきりと見えるようになった、そんな感覚だった。


(……何が)


 何が起こったのか。

 気配のある方へ視線を変えて、愕然とする。

 離れた場所に友人がいた。

 目が、合った。


「……あ……」


 だがその姿はどうしたことだろう。

 白衣だった縛魔服は、赤黒く染まり。

 肩を自らの手で鷲掴みにするようにして押さえ、少しずつ後退りする、その姿。


「か……」


 名前を呼ぼうとして、気付く。

 友人の痛みに耐える表情の中にある、自分に向けられる笑みを。

 そして、怯えの色をした目を。


(……どう、して)


 心の中に芽生える、疑問。

 答えが出るのに、そう時間はかからなかった。

 手に滑りを感じた。


「……あ」


 少年は自分の両手を見て、思わず声を上げた。

 べったりとついた、渇きかけの。


「……っ!」


 少年はもう一度友人を見る。





 楼台の桟枠を越えて。

 六層もの高さから。

 堕ちていく。

 友人の身体が。





「か………!」


 追いかけようとする少年の身体を、後ろから羽交い締めにして、止める者がある。


「駄目です。結界から出てはなりません、りょう!」


 『力』の込められたその言葉に、少年は無意識にとどまった。それを見届けるようにして、羽交い締めにしていた腕が解かれる。

 肉の灼ける臭いに、少年は思わず振り返った。


「か、かのと様……」

 少年の声に、叶は何事もなかったかのように、大丈夫ですよと、にっこりと笑った。

 少年を止めるために、結界ごと抱き締めたその腕は、火傷を負っている。

 結界は、少年だけを囲うようにして、ごく狭い範囲に展開されていた。

 何故結界が、と少年が思ったその時だった。





 まず感じたのは、胃に感じた違和感だった。

 何かとてつもなく不快なものが、胃の中にいるような感じがする。

 次に訪れたのは、遣り過ごすことの出来ない嘔吐感だった。

 身体ををくの字に折り曲げて、少年は胃の中の不快な塊を、吐き出した。


「……あっ……」


 その吐瀉物を見て、少年は何があったのか、先程の光景が頭の中で思い出される。




 逃げようとしていた友人の背を、この爪で切り裂いて。

 怯んだ身体を後ろから、羽交い締めにした。

 そして。

 その左の肩を。





「――――ああああぁぁ!!」



 声を上げて、少年は激しく嘆き泣いた。




 よりにもよって。

 よりにもよって。

 一番の友人に手を出すなど。

 何故気付かなかった、何故気付けなかった。

 よりにもよって。


(……その肉を、むなど……!) 




 駆け寄ってきた、別のふたつの気配に、少年は顔を上げた。


「――――……っ!」


 この結界を、自分を元に戻してくれた男と視線が合う。

 少年はごめんなさいと、慟哭しながらその人物に告げた。


「オイラ……オイラ……香彩かさいを……!」


 言わすまいとばかりに、男が少年を抱き締める。


「……お前は、何も悪くないんだ。療」


 少年はすがり付くように、男の腕を掴みながら、ただひたすら泣き続けた。


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