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2話:記憶


____私の死は事故だった。


私は元々、幼い頃からの夢を胸に生きる、普通の大学生だった。

家族は共働きの両親と年の離れた弟。贅沢ができるわけでもないが暮らしに悩むこともない、恵まれた家庭。

両親は私の夢を快く応援してくれたし、実際叶える寸前だった。あの事故が無ければ、私は速やかに夢を叶えていたのだ。


私単体は、生まれつき知識欲が少し強いくらいの他に特徴のない女だった。読書が好き勉強が好き。その性格が功を奏してか成績は優秀な方だった。友人を作るのは上手い方だったと思いますが、彼氏はいなかった……なんというか、いつも良い友人止まりだったというか……ってそれはどうでもいい!


それに、恋をするより本や教授の話から知識を仕入れる方が楽しかった。知っていることが増えれば増えるほどわからないことも見つかって。その新しく見つかった穴を埋める作業が何よりも楽しかったのだ。


私は、その楽しさをもっとたくさんの人に共有したかった。しかし1度勉強に苦手意識が付いた人のそれを取り払うのは難しい。だから私は教師を目指したのだ。それは、幼い頃からの夢でもあったから。


人に教えるのは難しい。教える事柄に熟知してなければ生徒の質問には答えられない。私はバイトで塾講師をしつつ、大学で教師課程を取った。元々成績優秀だった私は塾講師の経験も加算されて教師としてスキなく育っていった。


……教育実習は楽しかったな。小学校は塾とまた違った環境で、生徒が私の授業を楽しんでくれたのが嬉しかった。


だからあの日あの時、もう少し気をつけていれば。そんな後悔はずっと付いて回る。


少し、考えてみてほしい。もし、通過する急行電車に接触したらどうなるか。

大人でも軽く側面に接触したために体が吹き飛び、他の乗客にぶつかった事故があったくらいだ。

ましてや子供だったら?


あの日私は家に帰るべくとある駅のホームにいた。そこでたまたま聞こえてしまったのだ。小学生3人のうち2人が、残りの1人に「度胸試し」と称して動く電車に触るよう強要するのを。


強要された男の子は気の弱そうな子だった。いじめの延長だったのかもしれない。

2人に突き飛ばされた勢いで、ヤケになったのか男の子はホームに入ってきた急行電車へ走っていた。


私は正直愕然としていた。ニヤニヤ笑っている2人も、走り出した男の子も、その結果がどうなるかを考える想像力が欠如し過ぎている!


私は気がついたらカバンを捨てて走っていた。運動が壊滅的に苦手な私が。男の子と私にはそれなりの距離があったから、この私が転ばずに、彼に追いついて襟首を掴めたのは奇跡としか言いようがなかった。


……問題はその後。彼が接触するギリギリで襟首を掴み、思いっきり後ろへ投げ捨てた結果、私の体は前に出た。しかも最後の最後でバランスを崩して、顔から前に。



後はまあ、想像に固くないと思います。

大人が吹き飛ぶ勢いの物体に、頭から接触したんですよ?

最期に首から嫌な音がしたことは生々しく覚えています。もしかしたら首がそのまま飛んで……とかだったら恐ろしすぎる。


なにより……守るべき子供たちに情操教育上絶対によろしくないものを見せてしまいました。トラウマになってないと良いのですが……。


そんなわけで現代ではそこそこ珍しいであろう死に方をしたのです。いや、1ミリも嬉しくないですけど。


志半ば、しかもまだ若い歳で死んでしまった。悔しくないと言うと嘘になります。


もしかして私の記憶があるのは神さまが少しでも私を哀れんでくれたから? 少しは信仰する気になってきましたね。


……まあ、真実がどうであれ、せっかくのチャンスなんです。今度こそ教師になって夢を叶えてみせる。

……あとついでに長生きしたいです。

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