太陽みたいに
どうも、yudyです
m(_ _)m
えー、結構シリアス調っぽく、初の少女視線でのストーリーとなっています。
読んで何かを感じてもらえればいいと思います。
何とぞ宜しくお願いします。
m(_ _)m
――澄みきった青い空に広がる、巨大な入道雲。ミーンミーンと耳を叩く、煩わしい蝉の声。
昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴るのも無視して、私は寝転がり、空を見ていた――
『もうすぐ受験なのに、こんな所でサボってていいのか?』
唐突な声に反応し顔を上げると、苦笑いを浮かべている彼が私のすぐ隣に座っていた。
そんな彼に私は苦笑いを返し、「いいの」と投げやりに答えると、スカートのポケットに隠していた煙草を取り出し、同じくスカートのポケットに隠していたマッチを取り出し、火を付けた。
私にとって大学はあまり魅力的なものではなかったし、第一私の学力では大した大学を狙えるわけでもない。
こうやってここで彼と会っている方が、授業に出るよりもずっと重要な事だった。
『おいっ、見つかったら停学だろ?それに女性が煙草を吸うと、将来赤ちゃんが――』
「バカ……私が吸うんじゃないてば…」
私は彼の心配の言葉を遮り、彼に背を向けると、火を付けた煙草の火の付いていない方に爪楊枝をさしてセメントの地面でひび割れた部分に突き刺した。
「線香代わり。どうせあんた、線香の味も知らないでしょ?」
“貴女と付き合っていなかったら”そう言われるのが怖くて、彼の家に行くことが出来ず、今まで線香をあげらずにいた。
超優等生の彼と劣等生で落ちこぼれの私。
そんな二人の関係が周囲に知られたら、きっと彼は迷惑する。
『気にしなくていいのに』と彼は笑ってそう言ってくれたが。それでも私の所為で彼に嫌な思いをさせたくはなかった。
その為、映画も見に行かなければ、買い物に出掛ける事もなかった。
……ても、少なくとも私達にとって、誰の目にも付かないこの立ち入り禁止の屋上は、私達が恋人同士でいられる唯一の幸せな場所だった。
……彼が死んでからもずっと――――
『……ごめんな』
――――唐突に彼が謝ってくる。
そんな辛そうな顔をしないでよ……
謝らなければいけないのは私の方なのに……
どんな顔をして彼を見たらいいのか、私には解らなかった。
「ねぇ、どうして……あんたの傍に行っちゃ行けないの?」
――彼は知っていた。
私がこうやって屋上に昇るのは、彼の元に逝く為に飛び降りる機会を窺っている為だという事を。
だからこうやって彼は私の前に現れる。もう生きてはいないのに、私にしか見えないのに、誰よりも寂しいはずなのに、彼の優しさは私を彼の元に共に逝く事を許してくれない。
『お前の事好きだからな。世界中の誰よりも好きだから』
「だったら……」
『だからこそ、君を連れていくわけにはいかない』
「……」
そう言って彼は私を優しく抱き締めてくれる。その暖かさを感じることが出来ないのがどうしようもなく辛くて、堪えていた涙が溢れだした。
……………
………
…
それは、一緒に屋上で花火を見ようと、私が提案した去年の夏休み。まだ私達が付き合いだして三ヶ月程の事だった。
私が先にベランダから屋上によじ登り、生徒会長で小力な彼は“見回り”と称して職員室で屋上の鍵を借りて、ここに来る。
そんな私の告白から始まり、実は両思いだった私達の日常があの日だけは違っていた。
約束の時間になっても来なかった彼が事故に遭ったのを知ったのは、既に彼が息を引き取った後だった。
こんな所に来ようとしなければ、彼は事故に遭わなかっただろう。そう思うと、悔しさだけが募ってしまう。
彼の言うとおり、優等生とか、劣等生とか、そんなの気にしないで堂々と二人で外を歩けばよかった。誰に何を言われてもいい、私達は恋をしていたのだから。
そんな私の弱さが彼を死なせたのなら、せめて彼との一番大切な時間を過ごしたこの場所から彼の元へと逝きたかった。寂しがりやの彼を一人にさせないように。
それなのに彼は私にだけ見える身体になって現れた。
私に触れることのできない身体になってまで私を止めてくれた。
温もりも感じることができないのに、抱き締めてくれた。
泣きじゃくる私に何度も“ごめんな”と謝りながら頭を撫でてくれた。
本当に悪いのは私の方なのに…本当に謝らなければいけないのは私の方なのに…
…
………
……………
――十九時開始の花火が上がる。
夕陽が沈む前のほんの数分の間、真夏を彩る大輪の花が私達を赤く、明るく照らした。
私達の間に会話はなく、ただひたすら大輪の花を見ていた――
・・・・・・・・・・・
――いつしか蝉の声も止み、空には見事な星が顔をだし始めている。
煙草の灰が紫色の空に散っていた……
「ねぇ……あんた、いつ成仏するの?」
もしかしたら今日完全に消えてしまうかもしれない。もう二度と会えないかもしれない。
“離れたくない”本当はそう言いたいのに、上手く言えない自分がもどかしい。
『んー、今年度の卒業式を終えたら……その後考えようかな』
薄ら消えていく中で、彼は笑い、“また明日”と言い残して見えなくなった。
――――陽が出ている間だけの幽霊。
――太陽みたいな、彼らしい変わった幽霊。
――もし突然彼がいなくなったら私はここから飛び降りるだろう。
――そうさせない為にも彼は私の前に現れる。
――だから、陽が昇ればまた彼に会える。
――“また明日”いつも別れ際に彼がそう言ってくれるその大切な約束が今日まで私を生かしてくれた。
――彼が私に生きることを望んでくれるのなら、もうしばらく彼に甘えていたいと思う。
彼がいない世界で生きる。その覚悟ができるまでは――――
―――fin