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デッドオアハゲ ~不毛な戦い~

作者: やまおか

※この物語にはハゲが多数登場します。特に他意はないのでご容赦ください

 朝になると、オレはいつものように鏡の前に立って髪の毛に櫛をとおしていた。

 黒々とした髪に整髪料をつけてきっちりと仕上げ、鏡を見てできばえに満足しながら会社にむかった。


 朝の満員電車はスマートフォンをみるスペースすらないほどのぎゅうぎゅうづめで、目の前の人の頭が近くにあった。

 その頭はみごとなまでのつるつるとした頭で、耳のわきと後頭部に残った頭髪が最期の砦だった。


(ああ、ハゲだなぁ……)


 幸いうちの家系は両親ともに毛髪の薄いものはいなくて、みなフサフサだった。

 フサフサに産んでくれてありがとうと心の中で、父と母に感謝した。

 電車がようやく目的の駅に到着し、乗客が吐き出されていった。

 開放感にひたりながら、自分の会社に歩いていった。


「あ~、つかれたぁ」


 昼休みになり気分転換もかねて、近くの飯屋で食事をすませると、公園のベンチに座ってボーっとしていた。


「きゃあっ、やめてください」


 女性の悲鳴が聞こえて、何事だと思いながら目を向けると、そこには中年のはげたオッサンがOLに襲い掛かっていた。


 白昼堂々こんなところで大胆だなと思いながら、助けるべきかためらっていると、体格のいい若い男が助けに入った。


「オッサン、なにやってんだよ!!」


 若い男はあっという間にオッサンを引き剥がし、うしろから羽交い絞めにした。助けられた女性は衣服の乱れを直して、立ち上がった。

 きっと、このあと2人に恋が芽生えたりするのだろうなと離れたところからみていた。


「え、あれ、わたしの髪がぁぁぁ!!」


 襲われていた女性のセミロングの茶髪がどんどん抜けていき、とうとうつるっぱげになった。

 まるで裸電球のようだなと場違いな感想を抱いていると、女性が助けてくれた男に襲い掛かっていった。


「な、なにを!?」


「うるさい、あなたもハゲになればいいのよ」


 男は後ろから女性に襲い掛かられて、オッサンの拘束が緩み2人に地面に引き倒された。


「い、一体、なんだってんだ……」


 オレは事態についていけず、呆然と見ていると、襲っていた2人が男から離れた。


「オレの髪がぁぁぁぁ!?」


 男の絶叫が響き、男の頭から毛がなくなっていた。

 まさか、ハゲにおそわれるとハゲになるっていうのか。


 オレはごくりとつばを飲み込みながら、自分のフサフサの髪の毛をなでた。


「おい、あそこに髪の毛がはえてるやつがいるぞ」


「うらやましい、ねたましい……」


 ハゲになった3人はオレの方に気づきジリジリと近づいてきていた。


「いやだ、ハゲになるのはいやだぁぁぁ!!」


「逃げたぞ、追えっ!!」


 オレは必死になって後ろから追いかけてくるハゲから逃げた。

 オフィス街の中を走り回り、なんとかハゲたちを巻いた後、ハァハァと肩で息をしながら壁に寄りかかっていた。


「ハゲはいやだ、ハゲはいやだ……」


「高田、だいじょうぶか?」


 ハゲになった自分の姿を想像して頭を抱えていると、横から声をかけてくるものがいた。


「なんだ、田辺か、髪の毛は無事か?」


「悪い驚かせたか。おまえも見たんだな、襲ってくるハゲたちを」


 ハゲかと思いながら身構えたオレを見て、田辺は苦笑しながら手をあげて降参のポーズをしていた。

 田辺はオレの同僚で、オレと同じくフサフサの髪をしていて、茶髪にそめているやつだった。


「会社でも課長が会議中に、突然部長のことを襲い始めてな、オレは逃げてきたんだ」


「そうか、あのスダレはげの課長がか……」


 わずかに残った頭髪で懸命にハゲを隠そうとしていた課長の姿を思い出し、目をつむった。


「これから、どうする?」


「近くにはだいぶハゲたちがいるようだし、逃げたほうがいいだろう」


「立てこもるのにいい場所があればいいんだけど」


「それなら、近くのビルにいいところがある、ついてこい」


 道中、ハゲたちに襲われながら、ようやく目的の店

の看板が見えるところまで来ることができた。

 この店は、ビル全体がホームセンターになっていて、食料品から工具まで色々なものがおいてあり、長時間立てこもるのにも適していそうだった。

 

 しかし、店の入口前にはハゲたちが髪の毛を求めて徘徊していた。


「ハゲがいるな」


「ああ、みごとなハゲどもだ」


 路地裏に身を隠しながら、日の光に照らされている頭を眺めていた。

 店は目の前だっていうのに、なにか方法はないかと悩んでいると


「高田、いい考えがある」


 そういうと田辺は、近くにあった薬局を指差した。


「ちょっと探しものがあるから入口で見張っててくれ」


「わかった」


 オレはうなづき、ハゲたちが寄ってこないか注意深くあたりに目を配っていた。


「おい、まだか?」


「ああ、もう大丈夫だ」


 そういって田辺がもってきたのは、青い透明のビンだった。


「これは、育毛剤か?」


「そうだ、この育毛剤の効果はすごいからな、きっとハゲたちも釣られるはずだ」


「へぇ、そうなのか。でも、なんでお前が育毛剤の種類に詳しいんだ?」


「え~っとな、このまえ課長と世間話してたときにきいたんだよ」


「なるほど、あのひとなら色々試してそうだからな」


 うなずきながら田辺はオレにも何本か育毛剤のボトルを渡した。


「いいか、いくぞ」


 田辺はゾンビたちがいる辺りにビンを放ると、アスファルトの地面にあたってビンは砕け、中身が地面に広がった。


「おお、すごいじゃないか」


 ハゲたちは育毛剤に群がり、頭にぺたぺたと塗り始めた。


「よし、今のうちだ」

 オレたちは走って、店の入口に向かっていった。


「あれ、開かない!?」


「くそっ、先に来たやつがドアにカギかけやがったな」


 ドアをガチャガチャ動かしても開きそうもなかった。


「田辺っ!! 後ろだ」


 ドアを開けようしていた音に反応したのか、ハゲたちがいつの間にか群がって来ていた。


「くそっ、高田、先ににげてろ!!」


「そんなことできるか、おまえもいっしょに行くんだよ」


「大丈夫だ、すぐに追いつく」


「わかった……」


 口の端をあげてニヒルに笑う田辺を置いて、オレはビルの裏側に回った。


「たしか、こっちの方にも入口があったはず」


 従業員用の小さい入口を見つけてドアノブに飛びついた。


「くそっ、だれか、だれかいないのか、開けてくれ!! オレはまだフサフサだ」


 オレはドンドンとドアを叩きながら大声を上げた。しかし、その間にも周りにはハゲたちが寄ってきていた。


「くそっ、オレの髪の毛もここまでか」


 オレは扉を背にして、ゆっくり近づいてくるハゲたちをにらんだ。

 しかし、後ろでカチリとカギが開けられた音がして、扉があいた。


「入って、はやく!!」


 オレが転がるように入ると、すぐに扉は閉められカギがしめられた。

 扉からはハゲたちがドンドンとドアを叩く音が聞こえた。


「助かったよ、ありがとう」


「…気にしないで」


 オレを助けてくれたのは、つやつやした黒髪をポニーテールにしている制服姿の女の子だった。


「そうだ、もう一人一緒に逃げてきたやつがいるんだ」


「いまは無理、ハゲたちがうろうろしているから、さっきもぎりぎりだったんだから」


「そうか……。無理をいって悪かった」


 首をふる少女を見ながら、オレは田辺の無事を祈った。


 

 少女に連れて行かれた先には、先に避難してきた人たちがフードコートで休んでいた。

 子ずれの主婦、カップル、おばあさんの5人でみんなフサフサの頭をしていて安心できた。


「岬ちゃん、新しい人かい?」


 白髪を生やした老人が人のよさそうな笑顔で、少女に話しかけた。

 どうやら、この少女の名前は岬というらしかった。


「はい、さっき扉をどんどん叩いてうるさかったので、しかたなく」


 岬ちゃんはどうもオレにたいしては冷たく接して来ていた。ここに来る途中、自己紹介をしたのだが「あっそ」といわれただけだった。


「えーと、高田といいます。よろしくお願いします」


「よろしくね、わたしたちもさっき逃げてきたばかりで、とりあえずみんなで一息ついてたのよ」


 挨拶を交わしていると、子供が窓にむかって手を振っていた。


「あのね、あそこに手をふってるおじさんがいるの」


「あれは、田辺じゃないか」


 夕方近くになっていてみづらかったが、スーツ姿の男が物陰からこっちに向かって手を振っていた。


「すいません、あいつオレの連れなんですよ。助けにいってもいいですか?」


 だけど、みんなは顔を見合わせて気まずそうな顔をするだけだった。


「反対よ。せっかく、安全な場所にいるのに助けにいくなんてまっぴらごめんだわ」


 そんな中、岬ちゃんははっきりと拒絶してきた。


「わかった、それならオレ一人でいく」


 オレは落胆しながら、出て行こうとした。


「まちなさい、短気を起こすもんじゃないよ」


「しかし、みなさんの髪の毛を危険にさらすわけにはいきませんよ」


「それなら、わたしがいきますよ。どうせ老い先短い身です。いまさら見た目なんて気にしませんよ」


 おばあさんはパーマをあてた白髪をなでながら、上品に笑った。若い頃はかなりの美人だったのだろう。


「しかし、それでも」


「いいのよ、まかせなさい」


 オレとおばあさんで押し問答をしていると、岬ちゃんが焦れたように声を上げた。


「もう、わかったわよ。あたしが手伝ってあげるわよ。感謝しなさい」


「ありがとな」


「いいからさっさとやるわよ」


 オレたちはまた従業員用の入口の前にやってきていた。


「で、なにか作戦はあるんでしょうね」


「あー、うん、あるよ。オレがここからでてって、あいつをつれてきてくる、どうだ簡単だろ」


「つまり、なにも考えてないってことよね」


 岬ちゃんはオレを半眼で見つめた後、ため息をはいた。

 そこに、扉をコンコンとノックする音が聞こえた。

 オレと岬ちゃんは顔を見合わせたあと、注意深く耳を済ませた。


「高田、オレだ田辺だ。開けてくれ、はやく」


「わかった、まってろ」


 オレは鍵を開けて慎重に扉を開けた。


「安心しろ、ハゲたちはまいてきたから近くにはいないはずだ」


「なんだよ、ずいぶんあっさりきやがって、オレなんて飛び込むようにここにきたんだぜ」


 オレは入ってきた田辺の髪の毛の安全を確かめるようにぐしゃぐしゃとかき回した。


「ちょっ、やめろって!!」


 すると、田辺は怒鳴り声をあげながらオレの手を払った。


「ああ、悪い」


 そういえば、田辺は髪型のセットが大変だからといって頭に触られるのを嫌がっていたな。


「フン、なによ、取り越し苦労じゃないの」


 そんなオレたちをみながら、岬ちゃんは鼻をならしたあと離れていった。


 田辺をつれていくとみんな歓迎してくれて、そのままフードコートで宴会のような感じになった。

 みんなの輪から離れた場所にいる岬ちゃんを見つけて話しかけた。


「岬ちゃん、改めて助けてくれてありがとな」


「いいわよ、別に」


 表情をかえずに岬ちゃんは持っていたコップを傾けて、無言でジュースを飲んでいた。

 すげない態度をとられ肩をすくめながら、大人組みに混じって酒を飲み始めた。


 それから、宴会がお開きになったあと、それぞれ好きな場所で寝はじめた。


「起きて、起きなさいよ!!」


 次の日の朝、体を揺さぶられているのを感じて目を覚ますと、岬ちゃんがいた。


「なんだ、もう少し寝かせてくれよ」


 オレは家具売り場にあったソファーから身をおこした。


「朝きづいたら、おばあさんがハゲになっていたのよ」


「なんだって、建物内にまだハゲがのこってたのか」


「わかんないから、いまみんなで手分けして探してるのよ」


 おばあさんを見に行くと、フサフサだった白髪はなくなりつるつるになっていた。


「あら、おはよう」


 しかし、おばあさんは変わらずおだやかな笑みを浮かべていた。


「朝起きたら、なんだか頭がすっきりしてると思って鏡みたら、髪の毛がなくなっちゃててねぇ」


「あの、ショックじゃないんですか?」


「いいのよ、これで散髪も行かなくて済むし、頭を洗いやすくなっていいじゃない」


 さすが老人、多少の変化じゃあびくともしない芯の強さをもっていた。

 それから、岬ちゃんといっしょに建物内の捜索を進めた。


「そういえば、田辺はどこいった?」


「わたしは見てないわよ。きっと、別の場所さがしてるんじゃない」


 フードコートのあった階は見終わり、別の階にいこうとしたところで田辺が血相を変えてやってきた。


「大変だ、一階の扉が破られた!!」


「なっ!? じゃあ、ハゲたちがやってきてるのか」


 オレたちはあわてて他のひとにも知らせようとした。

 しかし、既に手遅れだったようで、カップルが襲われていた。


「いやあああ、タカくんの髪の毛がぁぁ!!」


「たとえハゲてもボクたちの愛はかわらないさ」


「いやよ、ハゲなんて」


 拒絶された彼氏は絶望した表情を浮かべたあと、恋人に襲い掛かり、彼女は悲鳴を上げていた。


「くそっ、遅かったか、逃げるぞ」


 オレは岬ちゃんと、田辺といっしょに上を目指して会談を駆け上った。

 階段の下からは大量のハゲたちが追いすがってきていた。とうとう屋上までたどり着き、いそいで扉を閉めた。


「押さえるの手伝ってくれ」


「わかった」


 ハゲたちを押しのけながら扉をなんとか閉めたが、なおも扉をドンドンと叩く音はやまなかった。


「主婦のひとと子供は大丈夫だろうか」


「いや、おそらく、もう……」


 田辺はオレの問いに首をふった。おれもあんな小さな子までと思いながら悲しい気持ちになった。

 しかし、このままだといずれ突破されてしまうため、脱出方法を考える必要があった。


「なあ、田辺なんかいい方法ないか」


「ああ、そうだな……」


 そのとき、急に風が吹いてきた。


「ん? 田辺、おまえの頭、なんかズレてないか?」


 オレの言葉をきいて田辺は自分の髪の毛をハッとしたように押さえた。


「まさか、おまえ……、ズラ、なのか」


「……そうさ、ばれちまったか」


 田辺は観念したように肩の力を抜いてから、髪の毛をはずした。

 そのしたには、キレイに輝く頭が見えた。


「そうだよ、オレがあのおばあさんの髪の毛をなくし、同志たちを建物内にひきいれたんだ」


「マジかよ……、なんで、そんなことしたんだ」


「フサフサにハゲの気持ちなんてわかるものか!! 高校の頃から薄くなり始めて、クラスの連中からいじられるようになって、オレがどんなにみじめな気持ちになったか」


「いいじゃないか、ハゲでも……ブフッ」


 オレはてかてか光る頭をした田辺をみて思わず噴出してしまった。


「てんめぇ!!」


 顔を赤くしながら田辺がオレにつかみかかってきた。


「いやよ、ぜったいにハゲなんていや!!」


 もみ合っていると岬ちゃんが、悲鳴のように高い声を上げた。


「あんたみたいなハゲのサラリーマンにおそわれて、友達もハゲになった。あんな姿になるぐらいなら死んだほうがましよ!!」


 岬ちゃんは、屋上を囲む柵をガシャガシャと登り始めた。


「岬ちゃんやめるんだ!!」


「髪は女の命なのよ、それ以上近づくならここから飛び降りるわ」


 岬ちゃんの表情から本当に飛び降りるという気迫が伝わってきた。


「なあ田辺、たのむ、オレの髪の毛はどうなってもいいから、彼女の命は助けてくれないか」


「はぁ、しょうがない、さすがに子供をしなせたら気分が悪いしな」


 こうして、オレは髪の毛と別れを告げたのだった。


 


 朝の時間になり、スーツに着替え身だしなみをチェックするために鏡の前にたった。

 そこには髪の毛が一本も生えていない光り輝く頭があった。

 頭をさわっても、前まではあったはずのワシャワシャした毛の触感はなかった。


「はぁ……」


 オレはため息を吐きながら、家を出た。


「おはよう」


 電車を待っていると、オレの隣から制服姿の女子中学生が話しかけてきた。


「やぁ、岬ちゃん、おはよう」


 むすっとした表情をしている岬ちゃんの頭にはみごとに髪の毛がなかった。

 帰った後、ハゲになった友達に襲われて結局岬ちゃんもハゲになったらしい。


 駅の中にいる人々の頭もみんなはげていて、日本は全国的にハゲ大国になったららしい。


 だけど、ハゲになって気づいたことがあった。

 毛髪がなくなることで頭骨の形がはっきりとわかるようになったことだ。

 そして、とりわけ美しいと感じたのは俺の横で仏頂面をしている岬ちゃんの頭だった。 

この物語はニコニコ生放送のとあるコミュニティーででたネタを元につくられました。勢いとノリだけつくっただけの小説なので、ツッコミがありましたらどんどんお願いします。

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