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特別教室

 新校舎というのは普通の学生が学ぶ校舎と少し離れていた。一階から渡り廊下を使い進んでいくと校舎と同じ高さの真新しい建物が見える。廊下の中はできたばかりの建物の匂いで、シンナー臭い。それ以外はごく普通の校舎のように見えるが、どの扉も固く閉ざされブランドで遮られているから何も見ることができなかった。俊が耳を近づけて中の音を拾うとたくさんの扇風機が回る音みたいなのが聞こえてくるらしい。俺も確認し、ハカセも頷いたが、それは大量のパソコンのファンの音だ。かなりの大型で部屋自体が機械のように唸っている。ひんやりと冷たい扉は中でパソコンの熱を冷ます冷房がかかっているのではないかとハカセは言う。

 幽霊よりかはマシだが、それでも普通の高校に大型のパソコンが置かれている状況は変だ。新次元研究所という言葉が俺の頭の中で浮かぶ。

 この新校舎は何かの研究所なのではないかと。

 そんな推測をみんなでしながら進んでいく。

 俺たちの特別教室は渡り廊下を越えて、新校舎にはいり、階段を使って三階にある一室だ。

 誰もいない。他の部屋は機械だけで人の気配がせず、俺たち以外の学生が見当たらないのでちょっと黙り込みながら階段を上っていく。

「さっきの組み分けだが、もしかしたら染色体のことかもしれない」

 静かになったのを見計らったようにハカセが言った。

「ハカセ・・・難しい言葉使うなよ。染色体ってあのDNAとかなんとかか?」

「俺らDNA改造されるっていうかいな」

「DNAで間違いないが、俺が言っているのは性染色体のことだ。男はX染色体とY染色体のヘテロで生まれ、女は二つともX染色体のホモで生まれる。目的はわからんが」

「ホモとかゲイとかウンザリだが・・・俺たち全員Y組だから男で、X組は全員女子ってことなんだな?」

「ああ、クラス分けのY組と名前・・・あだ名だと思うが女子で間違いないだろう」

「かわいい女子やったら嬉しいんやけどなぁ。DNA改造された化物とかはごめんやで」「ゾンビとかグールならどうするよ?」

「そりゃ怖すぎるわ。かまれたら終わりやん」

「お前ら映画と漫画の見過ぎだ。遺伝子操作の技術は倫理上の問題がある。そんな化け物を生み出したら国は立場を失う」

「んなもんわからねぇぞ。ハカセんところの家をめちゃくちゃにするようなヤツだ。倫理なんてご大層なもん無視してるだろ。腹立たねぇのかよ」

「それはそうだがな」

 ハカセは言いにくそうしていた。

 ハカセの家庭はすこし複雑で、彼は自分の家のことをあまりよく思っていない。それに一人で生きていけるような性格なので家に対する執着がないのだ。このよく分からない状況を引き起こした相手の目的に納得したら彼はしょうがないと一言で終わらせるだろう。 話しているとすぐに三階にたどり着いた。階段の踊り場を出て、廊下を見渡す。特別教室は廊下の一番奥の角部屋だ。

 ゆっくり話ながら歩いていたので本鈴が鳴り響き、俺たちは急かされるようにその教室へと向かう。

 教室の扉の上にはプレートが差し込まれ、特別教室の文字が書いてある。間違いないことを確認し、俺がドアに手をかける。

 メンバーも緊張している。

 教室の廊下側の窓は磨りガラスで何も見えない。外から見えないように徹底されているが、蛍光灯の明かりが漏れている。あと人影もあった。

 人影に安心するか、不安になるかこれまた微妙な気持ちだ。さっきカンフーやボールがいったゾンビやグールのように徘徊しているような動きはない。椅子に座っている。話し声は・・・なんだか陽気な女の子の声が聞こえる。

「コゼット! ハイジ、これ、できる!」

 何やらまだ日本語が上手くない外国人みたいな発音で、楽しそうな声を出しながら小さな人影が突然飛び上がりぐるりと回った。バク転? みたいな動きだ。

「ハイジさんすごいですね」

 パチパチと拍手をするのんびりとした声。

「ほわぁーハイジちゃんは体操選手みたいですねぇ」

 感心するのんきな声。

「ハイジ! ほめられ、た! もっと、する!」

 小さな人影がぴょんぴょんと嬉しそうに跳び跳ね、今度はガン!と何かをたたく音。そしてすさまじい跳躍で天井付近まで飛んだ人影はぐるぐるとアクロバットな動き。ひねりとか回転とかを加え、長いスカートがバタバタと暴れていた。

「それもすごいですね。でもカボチャパンツ見えてますよ」

「アハハハ! ハイジ! パンツ!」

「男の子が来たら止めた方がいいですねぇー」

 なんだろ。

 ラスボス戦に挑みに行ったらスライムの宴だった気分と言えば良いのだろうか。拍子抜けする。

「なぁ・・・ハカセ、これなんだ?」

「俺に聞くな」

「入りずらいんやけど」

 俺の後ろで小声で話すボールたち。

 女子校に紛れ込んだ男子5人みたいだ。

 あと妙にパチパチとキーボードを叩くような音も聞こえる。


「おい、おまえら。HRは始まっているぞ。さっさと中に入れ」


 俺が開けるか迷っていたら突然後ろから声がかけられてびくりとなった。

 そこには赤いネクタイの黒いスーツ姿の男。担任なのだろうか?

 箱を小脇で抱えながら、校内で堂々を煙草を吸っているのはどうみても担任には見えない。無精髭だし、どこかの私立探偵と言われたほうがマシだ。

「どうした。くずぐずするな」

 睨まれる。

「すみません」

 俺はそう言って担任らしき人の視線をあびつつもガラガラとドアを開ける。

 その部屋は完全に馴染みのある学校の教室だった。黒板があって、大きな窓、並べられた机と椅子、ロッカーや掃除道具入れ、暖房器具。今日は暖かいので窓が開いており、カーテンが緩やかに舞っている。

 机は全部で10席。二列にならんで、廊下側は女子、窓側は男子だ。

 女子も・・・かなり変わっているがちゃんとした人間だった。

 それに私服であることを除けば、同年代らしい・・・いや一人あのアクロバットを披露した女の子だけは中学生ぐらいに見えるが、同じぐらいの年齢だ。美人が多いという点は嬉しかった。

「あ、おはようございます」

「男の子! おはよう!」

「おはようー」

 会話していた女子達は挨拶してくれる。背の高くてスタイルの良い女子、ふわふわとゆったりした服を着ている。元気なのはちっこくて、緑色の長いスカートが印象的だ。のんきそうなのは三つ編みで黒っぽいスカートと白いシャツ。

 他の二人は何やら忙しそうにしている。どうみてもノートパソコンのキーボードを叩いているのはフランス人形のような青いワンピースの女の子。あとアレは確実に赤ずきんだろうと思わせる赤いパーカーのフードを被った子は携帯をいじっていた。足元にはなぜかギターケース。俺たちが入っても振り向きもしない。

 共通しているのは日本人の女の子ではないことぐらいか。金髪とか青みかかった目とか。

「お、おはよう」

 俺たちは口々に挨拶をしながら出席番号の紙が貼り付けてある座席に座った。

 俺は左の一番後ろ。俺が座るのをみてパタパタとあの元気な女の子が隣の席にやってきて座りニコニコ笑いかけくる。

「よろしく!」

「あ、うん。よろしく」

「ハイジ!」

「え?」

「ハイジ!」

 自分の名前のことだろうか? 席順的に。

「よろしくハイジ。俺は山田太郎」

「――? 長い! 覚え、ない!」

 人の名前をどうどうと覚えない宣言とはすごいが、たぶん覚えられないということかな?

 一応座席番号には五番、レッドで書いてあるから・・・それをいったほうがいいのか。

「レッドだよ」

「レッド! よろしく!」

「おい、自己紹介はあとにしてくれ」

 と、黒スーツの人が教壇に立ち、灰皿に煙草を押しつけながら注意してくる。どうやら新校舎は喫煙可能らしい。

「ごめんな、さい!」

 ハイジは机に頭をぶつけそうな勢いで謝った。

「ならHRを始めるぞ。俺は学校が嫌いだから号令とかなしだ。子供も嫌いだから私語も厳禁だ」

 すごいことを言い出す。学校や子供が嫌いでもそれを最初にいう担任ってどうなんだ?

 厳禁と言われてクラスメートは黙っている。青いワンピースの子だけはパチパチとキーボードを叩くのを止めない。赤いフードの子はふてぶてしく肘をついている。

 どうしてそれを注意しないんだろう?

 彼女をよそに担任は気にした様子もなく話し出した。

「じゃあまずはお前たちの担任は俺だ。名前は桃太郎」

 ボールとカンフーが笑うのを堪えていた。後ろからだと背中が震えているのが分かる。教室のドアを開けるまでの緊張はどこかへと飛んだらしい。

 その二人を横目にちらりと桃太郎先生は見た。

「昨日の尾行を撒くY組の行動。なかなか良かったが次からブレザーを脱いでしろ。学校が怪しいと思ったら学校支給の物はすべて疑うのが基本だ」

 その言葉に俺たちは凍り付いた。

 笑うのを堪えていた二人も息を止めたみたいに背中が固まった。

「俺の担当教科は尾行・調査・情報工作。人間が住む場所で俺にかなうなど100年早い」

 桃太郎先生は二人を睨み付けた。

「先に進める。まずはY組にカードを配る。配られたら黙って凝視してろ。X組はそのまま少し待て」

 とことん私語が嫌いらしい。

 桃太郎先生は小脇に抱えてきた箱から黒いケースを取り出して、カンフーにY組の人数分を配る。

 バーサーカ―から流れてきたカードを受け取ると透明なカードだった。

 水晶やガラスとでもいうのか。透明でレンタルショップの会員カードぐらいの大きさだ。薄さもそれぐらい。つるつるしてひんやりとしている。でも吸い込まれそうになるほど綺麗だった。なんていうかものすごく透明度の高い水をカードにしたような。

「その見ているカードに向かって念じろ。自分がどんな人間か思い浮かべながら自分の魂を注ぎ込む感じだ」

 言われたようにだまって凝視していると桃太郎先生が哲学的というか宗教的な指示を出した。キーボードを叩く音がカチカチと聞こえる中、俺は自分という人間を浮かべながら念じる。

 山田太郎、普通・・・ぐらいしか思い当たらないけど。考える内容がなさ過ぎてちょっと困って―――。

「え?」

 透明なカードの左端に虹色の光の線が浮かび上がり、それが右へとゆっくり動いていく。コピー機のスキャナーのように、あるいはレザープリンターのように線が走り何かの文字が書き込まれ、右端に図形が飛び出してきた。虹色で時間ごとに変化していく複雑な立体図形が浮かび上がっている。図形が何を意味しているかわからないが・・・文字は英語で書かれてあった。


 Name [Red] Adaptation rate[12%]

 Class [Blank] Sub Class[Load][Blank]


Physical Data

____________________

Vitality [005]

Strength [004]

Agility [006]

Dexterity [008]

Intelligence [008]

Concentration [011]

____________________


 Spiritual Data

_________________



 Now projecting...


_________________


Skill Lists

[Creating Base] [Organization[12 persons]]


Uniqueness [Generality][Blank]

Level[□□□□] Evolution [Blank][Blank][Blank]


[I am everywhere, and so I know deeply the world.]

Reconstruction Point[003]




 ゲームのようなステータス表示がされている。浮かび上がるこの綺麗な虹色の水晶みたいなのは精神のデータ? ってことなのか。肉体情報はいわゆるステータスで、スキルリストも理解できる。レベルにはチェック項目のような空欄。クラスは・・・空といういみのブランクだ。けっこうブランクが多いな。

「カードに文字が描かれたら、他人に見せたいと思って机の端に置け。俺が確認する」

 集中して眺めていたら桃太郎先生はそういって俺たちに指示を出した。

 何かのゲームでもするのか? それにしてはこんな不思議なカードを見たことがないけど・・・。

 言われたとおりそう念じて机の端に置く。先生はY組の列の机をゆっくりと歩きながらカンフー達のカードを確認し始めた。

 人影が俺の机の上を滑り、黒いスーツの先生が俺のカードを確認。ちょっと入試試験の監督官を思い出す。何もしていないのに悪いことをしたあの感じだ。

「また微妙な・・・。まあいい。Y組は全員合格だ。ちょっと待て」

 微妙って言われた。

 ショックを受ける。それを気にした様子もなく先生はスーツの胸ポケットから携帯を取り出し教壇に向かいながらどこかへと連絡する。

「・・・もしもし、はい。Y組は全員適正者です。ええ、お願いします」

 短い会話で携帯を切って今度はクラスを眺めるように目を向ける。

 なぜか・・・その目がちょっと悲しそうだ。

 すぐにその目が鋭いものへと変わり先生は言った。

「まぁ一応歓迎しておこう。ようこそ、新次元研究所所属東雲高校異次元探査課特別教室へ。俺たちはお前らを歓迎する」

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