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仲間達との再会

 入学式はちょっと驚かされた。

 不安と期待が混じったクラス分けは明日ということで今日は入学式だけだ。広い体育館に並べられたパイプ椅子に座って友達と喋りながら待つ。座席は受験番号順なので茂樹達とは離れて座ることになる。同じ中学校の友達も多かったので待つ間は比較的楽しく過ごせた。

 入学式が終わったら茂樹達を誘ってどこか昼ご飯でも食べに行こうかなとぼんやり考えていると、ハカセの姿を見て驚いた。

 新入生代表の挨拶で呼ばれていたのだ。前の方の座席から立ち上がって、新入生達の間を縫い、堂々とした顔で歩いて行く。

 ハカセが壇上に立つとちょっと女子がざわつく。

 昔からクールな男前だったが、高校生になってさらに磨きがかかっていた。

 眼鏡とクールな顔、それにブレザーが相まってどこかの実業家みたいだ。ハカセは笑うことがほとんどないし、見たためも大人びている。

 ハカセはすらすらと式辞を読み上げて礼をすると颯爽と座席にもどる。

 さすがだなぁと思いながら俺は感心して見ていた。

 超進学校に行った彼なら新入生代表としても問題ないのだろう。あれぐらいの短い文章ならひと目で覚えてしまう。以前に瞬間記憶という特殊能力があるとハカセから聞いたことがある。辞書を適当にパラパラとめくり、それを一瞬だけ見てすべての内容を言ったのだ。俺はそんな彼を知り、隣の教室だったのにもかかわらず強引にチームへ引き込んだ。最初はくだらないとか言っていたが遊んでいく内に楽しくなったのか、気がついたら普通に馴染んでいた。

 彼と中学が別になってもう三年か。いまさらどう声をかけたものかと悩む。

 新入生代表としてかっこよく挨拶した天才と普通の山田太郎の会話なんて意味があるのだろうか。

 悩む俺を残して式はつつがなく終了し、ぞろぞろと新入生の流れにそって俺は体育館の外に出て、昔の友達を探した。

「太郎、こっちやこっち!」

 同じ中学の友達に呼び止められなかなか探し出せないときに関西弁で俺を呼ぶ声がした。そちらの方に顔を向けると、茂樹たちが手を振って俺を呼んでいる。

「太郎見たか? さっきの代表ハカセやで」

 小柄でちょっと猿顔の男子生徒、俺たちのあだ名でカンフー、名前は松山俊。実家は少林寺拳法の道場をしていて彼はその跡取りだ。昔から身軽でひょいひょいと木登りが得意。少林寺を習っているので喧嘩はめっぽう強かった。

「見た見た。声をかけようと探しているんだけど見つからなくて」

「それならあとから出て来ると思うよ」

 俊と話していると、男子生徒でもとびっきり大柄なバーサーカーがニコニコとしながら教えてくれる。彼の名は佐々木亮。有名なレストランの息子だ。料理が得意。

「なら待ってようぜ。再結成の話もしたいからな」

 茂樹がうずうずとしながら体育館の出口に目を向ける。

 俺は俊や亮に顔向けて聞く。

「二人は茂樹から再結成の話を聞いたの?」

「聞いたでー。面白そうやん。練習がない日は俺も動けるから問題ないわ」

「うん、楽しそうだしね。僕もキャンプとかしたいし」

「あ、それいいな。夏休み海とか行こうぜ。お盆あたりなら俺も部活ないし」

「クラゲでるからいやや。それより森にいこうや。山ごもり! 燃えるわ!」

 よかった。キャンプなら普通だ。昔のように冒険じゃなくて安心した。

「山ごもりなら前みたいに秘密基地つくらねぇか? 今度は金かけてさ」

 目を輝かせながら茂樹が言った。

「秘密基地は・・・むりちゃうか? お前も部活あるやろ?」

「そりゃそうだが、三年もあるし、コツコツしていけばいいのができるだろ。ほらハカセもいるからいいアイディア出してくれるって」

「まあ時間がとれたらいいんやけど」

「おいおい、ノリが悪いなカンフー。昔の調子はどうしたよ」

「俺かて忙しいんや。大会もあるし、もしかしたらまた中国にいくかもしれん」

 少し茂樹と俊に温度差がある。

 それもそうだ。俊は少林寺の少年拳士として才能が認められて、中学三年生のときに留学していたこともあった。少林寺の本場は中国。道場のあとを継ぐ箔を付けるためらしい。

「・・・そうかよ」

 茂樹が悔しそうに小さく呟く。

「まぁその辺はハカセと相談しようよ」

 俺がやんわりと言いながら二人の間を取り持つ。懐かしい感覚だ。俺たちはけっこう喧嘩もした。多数決でどっちが正しいかを判断することもあるが、殴り合いの喧嘩で決着をつけることもある。でも、さすがにそれだと雰囲気が悪くなるのでだいたい俺が止めに入るのだ。

「三人とも三成くん出てきたよ」

 亮がそう言ってそっと話題を変えてくれる。

 三成とはハカセのことだ。石田三成。戦国武将の名前。小学生のときには石田三成という名前がなぜすごいのかなんてわからなかったが、歴史小説を読むとそれがわかった。かなり重い名前だ。いまなら俺が山田太郎でよかったと思う。

「とりあえず行こう」

 俺がそう切り出して、三成のところへと三人を連れて行く。


 三成は私立の中学校にいっていたからこの高校では知り合いがほとんどいないし小学校のときは三成に友達は俺たちぐらいだ。頭が良すぎるのも良いことばかりではない。

 俺たちが近づくと三成は昔のように知的な目でじっとこちらをみて、眼鏡をくっとあげる。

「三成、ひさし―――」

「お前たちか」

 俺が声をかけると彼は挨拶の途中でそう声を上げる。基本的に挨拶や雑談というのを嫌う彼は、正直あまり人付き合いが上手い方ではない。でも俺たちもそんな三成のことを知っているから懐かしいだけで特別気に触らなかった。

「同じ高校だったんだね」

「ああ・・・」

 珍しく三成は歯切れ悪く頷いた。

「お前が約束を覚えてくれたのは意外だったぜ」

「せやなー。一番甲斐ないやっちゃからな」

 茂樹と俊がからかうようにいった。この三人は注意していないといきなり喧嘩し出すので冷や冷やする。

「俺の記憶をお前らと一緒にするな。約束は覚えている。茂樹と俊が泣きながら俺に約束させたんだろ」

「いらんことまで覚えんでええっちゅうねん」

「忘れてくれよ・・・」

 二人とも恥ずかしそうにしていた。

 俺は苦笑しながら疑問に思っていたことをまず三成に聞く。

「でもどうしてこの高校に? 三成だけは卒業するときに約束が守れないかもって言っていたじゃないか」

 俺や他の三人ならまだしも、三成は親が厳しくて小学校の卒業式のあと俺たちに約束が守れないといっていた。いっけん冷たそうに見えるが、三成はきっちりできないことはできないと言ってくれる。律儀でわかりずらいが優しい。

 三成は茂樹と俊をさっと見て、じっと考えて黙り込んだ。

 彼が考え込むと俺たちも黙る。そのあとで話し出す彼のアイディアはいつも俺たちの進む道を照らしてくれたのだ。森で迷ったとき、彼がいなければ俺たちは遭難していただろう。

 一分ほど、彼は考え込むと俺に目を向ける。

「話したいことがある。俺の言うことに従ってついてきてくれないか」

 真剣な彼の顔に俺は少し気後れしてしまう。

「あ、うん。もともと昼誘おうと思って―――」

「携帯電話の電源を切って、歩いている間は話すな、あと突然走り出すこともあるから注意してくれ」

 どうしたんだろ? まるで昔みたいに戻っている。

 スパイの尾行を撒く練習をしていた頃のように。

「さっそくか、ハカセ。いいな。面白そうだ」

「スパイ訓練って懐かしいわ」

「うんわかった」

 茂樹達が懐かしそうに言って頷く。

 でも俺だけは釈然としない。彼がこんな風に言うことじたいすごく珍しい。異常といってもいい。

「太郎はどうする?」

 迷っている俺を見て、三成が断ったらこの話はなしだと言わんばかりに聞いてきた。

「行くよ」

「ならまずは学校から出るぞ」

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