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初登校の朝、懐かしいあだ名

「よっ、太郎。久しぶり」

 俺が真新しい高校のブレザーを着て登校していると後ろから小学校の友達が声をかけてきた。周りには同じように新しい制服姿の同級生達。

「茂樹か。久しぶりっていっても二週間前に遊んだだろ」

 よく日焼けした友達に俺は苦笑しながらそう答える。

「まあそういうなって。これからは毎日会えるな」

「止めろって。そういうからゲイに間違われるんだぞ」

「お前まで言うなよっ」

 軽く鞄をぶつけてきて、茂樹は不満そうに顔をしかめた。

 この茂樹は小学校の同級生で、中学が別々。中学時代もたまーに遊んだ仲だが、野球一筋なのでそんなに多くはない。春休みに電話が掛かってきてボーリングや映画に行った。短気だけど気の良い奴でかなり人なつっこい。まぁちょっと近づき過ぎるので野球部ではゲイだなんて言われてからかわれていたらしい。友達もその噂を面白がって言うものだから過剰に反応するところがある。そんな風に反応するから楽しまれているんだと分かっていないようだ。

「ごめんごめん」

「たっく。それより入学式のためだけに登校するのはめんどくさいよな、ウチの学校」

 だるい、と顔に書きながら俺の横に並んで歩き始める。

「けっこう難関大の進学率いいからね。入学式に時間割きたくないんでしょ。入学式の翌日から授業あるぐらいだし」

「うへー。勉強ばっかか。気がおめぇ。俺は野球ができりゃそれでいいんだよ」

「野球強いらしいじゃん」

 甲子園、とまでは行かないがウチの学校は公立でも比較的強い部類にはいる。勉強の苦手な茂樹が苦労して入っただけのことはあるはずだ。

「そうだな。ナイター設備もあるしな。でも俺は感慨深い、てやつ? 昔よくグラウンドで野球してる高校生みてたからな。自分がそこに入れると思うと嬉しいもんだな」

「それ何回目?」

 よっぽど嬉しいのか茂樹はずっとそう言っている。

 その気持ちは分からないわけじゃない。

 俺が行く高校は、ちょうど茂樹の家と俺の家の中間地点の河原の側にある。この河原は小学校のときは茂樹や他の友達と野球や秘密基地ごっこをしてよくあそんだ場所だ。その河原の土手を挟んで俺たちの高校があり、よく自転車で帰るときに高校生が部活しているのを見ていた。草野球を観戦するような感じだ。プレーの上手い高校生を目を輝かせて見ていた茂樹はそれが嬉しいのだろう。俺もその気持ちが分かるから楽しみなのだ。

「うるせぇ。嬉しいことは何回言ってもいいんだよ。あのときの約束が守れたわけだしな」

「約束か・・・そうだね。ボールにしては勉強よくやったじゃん」

「やればできるんだよ、やればな。それにしてもそのあだ名は懐かしいな」

 自慢そうに鼻を伸ばす茂樹のオバーリアクション。

「ハカセ、カンフー、バーサーカー。ほんと恥ずかしいあだ名を付け合ったよね」

 俺たちがチームとして活動しているときだけのコードネーム。他の誰もしらないあだ名。

「いやいや、俺のボールがだけ物っておかしいだろ、レッドリーダー」

「フライ取るとき無駄にジャンプしてたからだよ。ボールが跳ねるみたいに」

 懐かしい思い出だ。

 中学校に入るとき、バラバラになってしまったが冒険をした友達だ。俺がファンタジーが本気であると思っていた子供時代のこと。俺以外の友達はみんな何か特技があったけど俺だけは普通の子供だった。でも、それ以上に冒険心や好奇心が強くて毎回新しい遊びを提案しては一緒になって遊んだものだ。だからいつの間にかあだ名がレッドになっていた。大好きだった特撮ヒーローのリーダーがレッド。

 茂樹の言った約束というのは高校は一緒になろうという小学校のときの約束だ。中学の校区がバラバラになり、高校はまた同じ校区。なら高校生になったらまた遊べると思い約束した小学校の思い出。だけど小学校のときみたいな遊びはできないし一人足りない。時間は流れていくのだ。忘れることも・・・悪いことじゃない。みんな大人になっていくんだから。

「ハカセは元気かな?」

 少し寂しい気持ちを滲ませて思わずそんなことを聞いていた。

 茂樹は俺の顔をのぞき込みながらニヤニヤとする。

「聞いて驚けよ、レッド」

「なに? 気持ち悪い顔して」

 ハカセが何かしたのだろうか?

 ハカセというのは俺の友達の中でもずば抜けて頭が良い。天才、といっても過言ではないほどだ。なぜハカセが俺たちのようなくだらない冒険についてきたのかいまだに分からないが、彼のおかげで子供の遊びが高度になったことだけは事実。

 そんな天才の彼は県内の超進学校の中学に入って生徒会長をしていると茂樹から聞いている。茂樹の母親とハカセの母親が仲が良いからだ。

「実はだな・・・俺たちの高校にハカセも来る」

「えっ? そうなの?」

 もったいぶった茂樹の言い方も納得だ。思わず驚いてしまった。

「前々から知っていたんだけどな。驚かせてやろうといつ言おうか楽しみしていたんだぜ」

「いや、マジで驚いたよ。だけどハカセの中学校はエスカレーターだよね?」

「なんでかは知らん。かあちゃんが言っていたから間違いはないと思うが・・・何でなんだろうな?」

 不思議そうな顔を茂樹がしていた。

 ハカセとは中学に入ってからほとんど連絡を取り合っていない。茂樹も彼の母親から様子を聞いているぐらいだ。遊ぼうと何度か誘ってみたが、勉強が忙しいらしく断れていくうちにどんどんと誘わなくなってしまった。

「入学式であったら聞いてみようか」

「そうだな。でもよ、これで俺、カンフー、バーサーカー、ハカセ、レッド全員が揃ったことになる。約束は守られたよな」

 茂樹は感慨深そうに前を見て言った。昔の頃のように目が輝いている。

 なんだかそれがとてもまぶしく見えるのは何でだろう?

「な、せっかくだからよ。ヒーローズを再結成しないか? 何をするなんてわからねぇけど、俺たち五人が集まれば―――最強だ」

 最強。その言葉がとても遠く感じる。

 それは俺がいつも言っていた言葉だった。

―――俺たちは最強だ!

 大きな番犬と格闘したり、電車で深い森に冒険しに行ったり、スパイのアジトに飛び込んだり。そういう大事な場面で俺が口にしていたセリフ。

 いつからか俺たちが俺になり、最強が普通になり、ゲームや小説の中でしか冒険しなくなってしまった俺にはとても重い言葉。

 だけど、どうしてもそれに揺り動かされてしまう。

 俺にとって最強は魔法の言葉だった。そう唱えたら俺たちは最強になってどんなことでもできた。不可能なんて存在しなかった。怪我をして負けてもそれは負けにはならなかった。俺たちには無限の可能性があって、誰にも負けない最強のチームヒーローズだった。

「そう、だね」

「よしっ! ならハカセ達を探し出して再結成しよう」

 とても楽しそうに笑う茂樹に俺はいやとは言えない。俺たちは普通だなんて言えなかった。

 彼はきっとずっと俺たちの思い出を大切にしている。俺みたいに普通だなんて言葉で上手く生きていくようなことはしないのだろう。

 俺は大人になることがこんなにも悲しいだなんて・・・知らなかった。

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