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プロローグ 山田太郎

連続投稿企画

本日22日18時~21時まで四話連続投稿予定。

 俺の名前は山田太郎。

 いまどき太郎だなんて名前を付ける両親が理解できないが、父は一郎、母は幸子、妹が花子ときて太郎というのはなんだか頷けてしまうネーミングセンスだった。

 家の表札には古風なフォントで書かれた名前の一家団欒は昭和の香りがするし、父は市役所の地方公務員、母は専業主婦で妹は小学生だ。誰でもなんとなく俺の生活ぶりが想像できる。

 いわば絵に描いたような普通の家庭。喧嘩もしないし、誕生日にはそれなりの祝いをし、正月には家族揃ってこたつでおせちとお雑煮を食べて太る。いまではそれにとやかく言うほど俺は子供でもないし、それが世間一般的な幸せの形なのだろうと思う。俺もこのまま高校に入学して、大学に行き、それなりの奥さんと結婚して、普通の人生を歩むのだと半ば確信している。せいぜい、自分の子供にはもうちょっとマシな名前を付けてやろうと決意しているのが俺の人生の目標だ。実とか智とか、まぁネットに載ってるありふれた名前の中から響きがかっこよかったり、可愛いヤツをだ。

 こんな風に達観している俺も昔はそうではなかった。

 太郎だなんて名前が嫌で、自分の両親とは血がつながっていなくて、実はどこかのスパイの息子やすごい力をもった超能力者なんだと思うぐらいには熱い子供だったように思う。近所の空き地や空き家で秘密基地を作ったり、他の小学校の奴らと戦ったり、悪の組織を滅ぼそうと街中に散って日夜世界の平和を守っていた気になっていた。ま、だいたいこういうのは誰でも心の中で期待していると思う。スプーンを凝視したり、幽霊を見にお墓に忍び込んだり、怪しい人影を悪の組織の人間だと監視したり。

 いわば、若気の至り。いまなら顔を背けてしまいたくなるような恥ずかしい黒歴史。

 それがどうして今のような達観したお爺さんのような考えになってしまったかは分からない。それは子供がゆっくりと背が高くなるように、次第に俺も気づいたのだろう。自分の背が高くなることを感じるヤツはそういない。毎日普通の生活をして、それが大人というヤツなんだと気づかされた。

 そうなると、誕生日にリクエストしていたプレゼントは特撮ヒーローの玩具の武器や冒険道具からゲーム機へとかわり、小遣いをもらうような中学生になると携帯電話や小説へと変化を遂げる。

 ゲームや携帯、小説というのはファンタジー世界が本気であると思わない大人が手にするものだ。心の中ではファンタジーなことがあればいいと思っているが、ないと確信しているからそういった物でファンタジーを楽しむようになる。現実に本気でファンタジーがあると信じていれば、それを使うよりももっと馬鹿なことをする。空に浮こうと木の上から飛び降りて、足の骨を折ったというぐあいに。

 ネットや小説というのはずいぶんと楽しい世界で、ちょっと覗けば色々なことが書いてある。

 大冒険や異能力バトル、タイムスリップ、宇宙人襲撃、異世界の扉、地下の王国、魔法の道具。

 俺が字を読むようになったのはあの入院していたときからだ。友達と遊ぶこともできずに足以外はどこも悪くない小学生は暇を持てあます。病院というのは基本的に寝るか、食べるか、看護婦さんや他の人と喋るか、ぐらいしかすることがない。好奇心旺盛な小学校の俺にとっては暇を退治するネットや小説はヒーローのように思えた。

 それにこの世界ではいとも簡単にすごい力や魔法を使えてしまう。読んでいるときは主人公と自分が一緒になったように感じるのだ。

 真剣に文字を読んでいる俺に喜んだのは両親だった。父は男の子は少しやんちゃな方が良いと笑っていたが毎日毎日新しい怪我をして、ボロボロになった俺を見て、困った顔をしていたからだ。あのときの二人がほっとした顔は忘れない。

 ま、安心して俺が入院していたからだろうか。いや、そうに違いない。次の年になぜ妹が生まれたかを今の俺は理解できる。それを理解してしまって俺もまた一つ大人に近づいたのだ。自分にとっては父と母だが、二人もまた人間で男と女なのだと。

 ピーターパンはピーターパンだけが子供だからいい話になる。ほかの子供達が大人にならない魔法にかかってしまえば、世界はとたんに悲劇になること間違いなしだ。

 俺はそんな確信を持つ。子供が大人になるから世界は幸せで平和、俺は温かい家でご飯を美味しく食べることができる。だから、ファンタジーはファンタジーとして楽しむべきだと。

 それでも、本当にたまに本の中のできごとが現実になったらどうなるのだろうと考えたりもする。手にもつ小説がファンタジーから恋愛に変わったときそれを強く思う。もしかしたら綺麗な彼女ができるかもと期待してしまう。こう電車の中で暴漢に襲われそうになるのを助けるとか、ライブ会場から逃げ出したアイドルと出会うとかそういうのだ。恋愛小説は実際にありそうなことを題材にしたりするのでちょっと俺も一瞬の気の迷いが生まれる。

 まあ、高校の入学を控えた今、高校生活三年間の大きな目標は初彼女をゲットすることかな、と淡い期待に胸を躍らせながら宿題のない素晴らしい春休みを満喫した。


 山田太郎、名前も家庭もごく普通である俺はそう信じて止まなかった。

 高校に足を踏み入れるまでは。


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