第74話 エルハンスト武術大会準決勝第一試合 (カスミ視点)
場内アナウンスの呼び出しを受けて、目元を隠す仮面をつけた二人組が入場してきた。
武闘台への通路を歩く二人に満員の観客が歓声や応援を惜しみなく送っている。
それにしてもあの二人、肌や髪の色が違うが、雰囲気が私の知っている二人に似ている。
「どうしたの香澄ちゃん?」
私が考え込んでいると藍音ちゃんが声をかけてきた。
「あの二人組が私の探している二人に似ている気がするのよ。
髪や肌の色は違うんだけどね」
「教え子の女の子とあなたが召喚に巻き込んでしまったという異世界の剣士くんね。
この世界にはESPじゃない魔法やスキルが溢れているから、もしかしたら変装出来るような能力があるのかも知れないわね……」
「そうね。
とりあえず、あの二人は要注目ってところね」
私たちが会話している間に対戦相手が入場してくる。
王都騎士団チームだ。
今度は客席から歓声に混じってブーイングの声も聞こえる。
というか、応援の声がほとんど聞こえない。
王都の騎士団チームは、どうやら嫌われているらしい。
「げっ、あれは……」
私は入場してくる王国チームに嫌な奴がいるのを確認する。
「どうしたの?」
「あの先頭をふんぞり返ってえらそうに歩いている奴に、首都でお世話になったのよ。
嫌な目に遭ったという意味でだけどね」
藍音ちゃんの質問に端的に答える。
そう、私にちょっかいを出してきた中隊長のパリスがいたのだ。
パリスは自分の部下らしい4人を後ろに従えている。
いっそ不慮の事故が起こってくれればすっきりするのにと思いつつ、その後方に目をやると、今度は本当の意味でお世話になった人がいた。
「あら、その後ろの5人の先頭にいるのはシュリンガーさんね」
「その人にもお世話になったの?」
「いえ、その人にはいい意味でお世話になったのよ。
こっちの世界のこととか教えてくれたし、第一私にいやらしい目を向けるようなことがなかったわ」
「なるほど。
それで前を歩いている5人には何か仕返しするの?」
「流石に試合中はまずいでしょうけど、もし町で見かけたらばれないように嫌がらせくらいはしたいわね」
私たちが話していると、両チームの入場も終わり、会場は試合開始前の緊迫感ある雰囲気につつまれる。
『それでは……、
準決勝第一試合始め!』
開始のアナウンスが流れると同時に、王国騎士団チームは5人ずつに分かれた。
どうやら、パリス引きいる5人とシュリンガーさん率いる5人に分かれて戦うようだ。
剣士くんの方にはシュリンガーさん達が、カオリさんらしき女性冒険者の方にはパリス達が囲むように陣形を敷くが、仮面冒険者二人が左右にぴったりと並んでいるので、結局騎士団チームは10人で円形に取り囲んむ形となる。
そうこうしていると、女性冒険者を取り囲んでいる5人から、いやらしい負のオーラが出ているように感じた。
動きがいやらしく、5人で包囲を狭めながら囲むようににじり寄っていく。
相変わらずパリスはパリスということだ。
「うわっ!
あの5人表情がめちゃくちゃいやらしいわね。
欲望むき出しの表情よ。
遠視するんじゃなかったわ……
嫌なものを見せられた気分よ」
藍音ちゃんはクレヤボヤンスで彼らの表情が見えるらしく、嫌そうな顔をする。
あと少しで女性冒険者に手が届くかというところで、剣士君と素早く位置を入れ替え、剣士君がパリス達5人との距離を一気に縮める。
早い。
私たちほどではないが、人間離れしたスピードだ。
パリス達5人は全く目で追うことが出来てないようで、ポカンと口を開けて立ちすくんでいる。
一方シュリンガーさんは動きを何とかとらえていたようで、警告を与えながら援護に向かう体勢をとる。
「バカ野郎!
パリス、そいつはただ単に目にもとまらぬ素早さで移動しただけだ。
気をつけろ!」
しかしシュリンガーさんのいる方向には、剣士くんと位置を入れ替えた女冒険者が対峙しており、おいそれとは増援に向かえないようだ。
あの、女性冒険者もかなりの腕前のようで、シュリンガーさん達5人を相手に見事な剣裁きを披露している。
いや、むしろいつでもやれるのに、相手にあわせてスピードと威力を押さえているようにも見える。
5人の誰かが横を抜こうとすると、その瞬間剣速が上がり、決してパリス達の方へと通ることを許さない。
そうこうしているうちに、口をあんぐりと開けて惚けているパリスの顎に剣士君が剣ではなく拳で一撃を入れると、パリスは50cmほど宙に浮き、そのまま白目をむいて仰向けに倒れ込んだ。
どうやら顎への一撃で脳震盪を起こしたらしく、受け身も取らずに後頭部から闘技場の床に落ちる。
いっそ打ち所が悪くて大事に至ってくれれば、これから彼らの被害に遭う女性が減ることだろうなどと思っていると、残りのパリス派の4人もあっという間に片づけられてしまい、場外と地面に転がった。
「奴ら、予想以上に出来るぞ!
油断するな」
パリス達5人が瞬殺されたのを確認したシュリンガーがさんが、客席にも聞き取れるほどの大声で部下に注意喚起している。
シュリンガーさん達は二人と三人に別れ戦闘継続するようだ。
隊長であるシュリンガーがもう一人の部下と一緒に剣士くんへあたり、残り三人の部下が香織さんとおぼしき女性冒険者へと向かう。
シュリンガーさんの剣筋は客席から見ても洗練されたものであることがわかる。
流れるように舞い、力強い一撃を上段から見舞う。
パリス達のお粗末な戦闘とは比較すべくもなく、部下との連携も完璧だ。
しかし、残念ながら素のステータスに雲泥の差があるのだろう。
スピード、パワーともに冒険者チームが上回る。
まるで観察するかのように剣線をぎりぎりで躱し続け、剣士くんにも女性冒険者にもかすりもしない。
このままでは冒険者チームが攻撃に移った瞬間に勝負が決まるだろうと思っていたときに、シュリンガーさん達が動いた。
五人の騎士は、四人が一人の兵士を囲む形で守りながら、攻撃を加え、中央で守られている兵士は静かに目をつぶって、ぶつぶつとなにやら唱えている。
「どうやらこの世界の魔法が見られそうね……」
隣で観戦している藍音ちゃんが呟く。
冒険者チームも何かを察したのだろう、一旦引いて距離を取ったが、その直後に、王国チームの周りに竜巻が発生するのが見えた。
竜巻は徐々に半径を広げながら冒険者の二人に迫る。
「さて、どうするのかな……
藍音ちゃんならどうする」
私は大きな竜巻を見て隣の友人に聞く。
「そうね、テレポートで竜巻の内側にまわるのは目立ちすぎるから、サイコキネシスで空気の分子を動かして真空の障壁で竜巻を囲ってしまう方法が目立たないかしら……」
やはり、余り目立たない方法を考えるあたり、藍音ちゃんも前の召喚時の癖が残っているのだろう。
「それでも真空地帯で突然竜巻が消えることになれば十分目立つともうけど……」
「はは……、そうよね……」
私の突っ込みに笑って誤魔化す藍音ちゃん。
そんな話をしていると事態が大きく動く。
剣士君が女性冒険者へ大声で呼びかけているのが、客席でも何とか聞き取れた。
「チッ、仕方ない。
剣技でしのぐぞ」
「分かったわ。
タイミングを合わせて竜巻の外周部に反対方向の剣技を飛ばすわよ」
女性冒険者の返事もなんとか聞き取れる。
「了解!
カウントするぞ!!
3、2、1……
今だ!!」
「飛空斬!」
「エアースラッシュ!!」
竜巻の両側に分かれていた二人の冒険者が、竜巻の反対側から竜巻側部を切断した。
右端と左端の渦巻きを切断された竜巻は、三つに分かれると同時に空気中へ霧散する。
「なっ、バカな!
剣戟で竜巻を切断するとは……」
シュリンガーさんを始め、竜巻のベールを剥がされた5人の王国兵は呆然としている。
いよいよ決着がつくと思ったところで、隊長のシュリンガーさんが納剣した。
「参った。降参だ」
冷静な判断だろう。シュリンガーさん達の棄権で勝敗が決した。
会場にアナウンスが流れる。
『準決勝、第一試合は仮面冒険者チームの勝利です。
準決勝、第二試合、
着ぐるみ冒険者チームとエルハンスト伯爵チームの戦いは15分後におこなわれます。
繰り返します。
準決勝、第二試合、
着ぐるみ冒険者チームとエルハンスト伯爵チームの戦いは15分後におこなわれます。』
さて、次はいよいよ私たちの準決勝だ。
私と藍音ちゃんは無言で立ち上がると、控え室へと歩を進める。
「楽しみだね、決勝戦」
私の言葉に、藍音ちゃんが静かに頷いた。
次回更新は未定です。
入力ミスなどにお気づきの方は感想欄でお知らせください。
2話完結の新作「戦隊ヒーローの青は記憶喪失!?」もよろしくお願いします。




