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第62話 カスミ先生、森を行く(カスミ視点)


「そういえば資金を預かったままだったわ」

 藍音ちゃんがポケットに手を突っ込んで金貨の入った袋を私に返してきたが、私はそれを半分だけ受け取り、残りは藍音ちゃんに渡す。


「活動資金は必要だわ。

 半分は藍音ちゃんが持っていて。

 落としたりするリスクを考えても二人で分けて持っておく方がいいと思うの」

「分かったわ」

 藍音ちゃんは金貨の半分を自分の小物入れに入れてポケットに戻す。


「それに、今日の夕方にはベヒモス肉の売り上げをまたニックさんからもらえる予定だから、また金貨は増える予定よ」

「それじゃあ、夕食は何か美味しいものを王都で食べましょう」


 それから私たちは今後の方針を再度話し合う。

 こんなに早く、王城を出ることになるとは、少しばかり予想外だったので、もう一度話して置いた方がいいと考えたのだ。



「とりあえず拠点が欲しいわね、香澄ちゃん」

「そうね、王都を追い出された形だから、王都の部屋には戻れないわね。

 いちいち日本に帰ってもいいんだけど、こっちにも拠点はあった方が便利よね。

 特に、私の空間転移は今ひとつ使い勝手が悪いし……」

「そうとなったら人気がないところにESP使ってチャッチャッとつくちゃいましょう。

 久しぶりに謎ビル立てるのもおもしろそうよね」


 藍音ちゃんの提案に私も俄然やる気になり、まずは人が踏み込まない森の奥地を目指してレビテーションで低空飛行する。


 しばらく飛ぶと、森の木々が途切れ泥が乾いたような地形が現れた。

「ここなんていいんじゃない」

 私は周りを高い木々に囲まれた広い空間が気に入り提案するが、藍音ちゃんは首をかしげている。


「何かここ、ちょっと変じゃない?」

「どういうこと??」

「開けた空間で、日の光も十分入ってくるのは分かるけど、周りを森に囲まれた状態でこんなに乾燥するかしら?」

 藍音ちゃんの言葉に、あらためて周囲を確認していくと、なにやら小川がひからびたような溝が見つかった。


「ここから水が流れ込んでいたみたいだけど、今は乾燥しているわね」

 藍音ちゃんがそういったとき、付近の森から敵意を感じた。

「藍音ちゃん、何かいる」

「ええ、こちらを伺っているわね。

 ちょっと確認するわ」

 そう言うと藍音ちゃんはクレヤボヤンスを発動するため目を閉じて集中する。


「木の陰にあのカバさんがたくさんいるわね。

 小さいのも多いからここはカバのコロニーだったのかしら」

 いや、藍音ちゃん、カバじゃなくてベヒモスでしょと突っ込もうかと思ったが、とりあえず話の腰を折らないようにスルーする。

 それより、ここがカバのコロニーだったとすると、カバ(ベヒモス)達はここが乾燥したため、私たちが遭遇した湿地まで出てきたのだろうか。

 何か裏があるような気がする。

 私が考えていると、藍音ちゃんが何か見つけたようだ。


「香澄ちゃん、小川の上流がおかしいの。

 行くわよ」

「分かった」

 藍音ちゃんに促され、私たちはレビテーションで小川の上流へと向かう。


 2キロメートルほど上流に行ったとき、そこで川をせき止めてダムが出来ていた。

 泥と樹木で出来たものだが、明らかに人工物だ。

 これのせいでベヒモス達の湿地が干上がり普段はいないはずの森の外れまで出てきたのだろう。


 ダムの上にはローブを着た青い顔色の男が一人立っており、両手を天空にかざしている。

 その男の周囲に、付近の土石が集まり、更にダムは高くなっている。


 間違いない。

 あの男がダムを造って、ベヒモスの生息環境を壊したのだ。

 いったい何のために??


 静かに目を閉じて集中し魔法を制御しているその男に、私は直球を投げ込んでみることにする。

「ちょっと、そこの青い顔をした人。

 なんで、ベヒモスの沼地を冷え上がらせているの?」


「それはもちろん、魔王様の……」

 突然話しかけられた男は、そこまで言うとぎょっとしたように目を見開き、私たちを認識する。


「お前達、いったい何者だ。

 どうやってこんな森の奥地まで来た」


 なにやら『魔王様』とか言っている。

 どうやら、魔族とか言う地球にはいない種族らしい。

 生徒達がよく読んでいるラノベでは、人類の仇敵として定番の存在であるが、この世界にもいたとは……


「答えろ!何者だ」

 考え込んでいるとしびれを切らしたローブの男が怒鳴る。


 いや、最初に質問したのはこちらなのだがと思いつつ、一応答えてあげることにする。

「私たちは通りすがりの冒険者よ。

 それよりあなたも私たちの質問に答えて」

 私が問い返すと、男は忌々しげに舌打ちして答える。

「チッ。

 よかろう、答えてやろう。

 これが……答えだ-!!!」


 そう叫ぶや火魔法らしき大きな火炎球を私たちにぶつけてきた。

「わっはっはっは!

 この魔王軍4大魔道のゲルバル様直々に火葬してやるのだありがたく思え!」


 どうやらやる気らしい。


 私は素早く火の玉に極小サイズのブラックホールをぶつける。

 巨大火炎球は瞬間でブラックホールに吸い込まれ、ブラックホールはすぐに蒸発して通常空間から消える。


「なっバカな……

 魔王軍四大魔道師たる私の火球を一瞬で打ち消すとは……」

 打ち消しているわけではないのだが、私たちは間違いを訂正してやるほど親切ではない。


 何にしてもしゃべる気がないならとっととご退場願おう。


 私は藍音ちゃんと視線を交わして合図すると、左右に分かれてそれぞれ手近な岩をサイコキネシスで飛ばす。

「ちっ、土魔法か。

 同時に5つずつ岩石弾を飛ばすとは、二人ともそこそこ出来るな!

 だが、魔王軍最強の魔道師である俺にとっては児戯にも等しい。

 出でよアースウォール!!!」

 何か勝手に勘違いして叫んでいた魔族は目の前に分厚い土の壁を出現させるが、私たちはサイコキネシスで岩をドリル型に成形し、強烈な回転を加えて土壁にぶち込んだ。


 かなり丈夫な岩を使ったこともあり、10個の岩は全て土壁を突き抜け魔族に迫る。

 自ら土壁で視界をふさいでいた魔族は、岩石が全てドリルの形になり回転していることに気がついたときには手遅れだったようだ。


 私たちは、岩ごときでけりがつくとは思っていなかったので、岩を陽動にして、その影に隠れて突撃していたのだが、私たちの剣はふるわれることはなかった。


 10本の岩石ドリルは全て魔族に突き刺さり、或いは突き抜け、何本かは致命傷となり得る箇所を直撃していた。


 特に、藍音ちゃんが放った黒曜石のような岩石ドリルは、魔族の頭部を粉砕しており、どんな顔だったのかは推測することも出来ないような状態である。

 というか頭があった部分はただ今、絶賛血の噴水状態である。


 腹部、胸部も穴だらけであり、たとえ蘇生魔法があったとしても、生き返ったとたんにまたご臨終は確実だ。

 回復させながら蘇生させるような魔法があれば別だが、そもそも蘇生魔法そのものがあるのか未確認である。


 とりあえず、原型をとどめていない魔族はパイロキネシスで火葬し、私たちはダムの水を少しずつ小川に流し、沼を復活させることにした。

 ダムを一気に取り払わなかったのは、洪水などの水害を心配したからである。


 これで数日中にはベヒモス達の沼地が復活し、彼らが人の生息域に近づく必要ななくなるだろう。

 増えすぎれば適当に私たちで駆除して、お肉屋さんに卸せばいいだけだ。


「そうだ、いいこと思いついたわ」

 藍音ちゃんが突然大きな声を出した。

「何々?」

「ベヒモス達の沼の近くに秘密基地を作りましょう。

 そうすれば、ベヒモス肉の確保も簡単になるし、魔族が来たときにも対処しやすいわ」

 藍音ちゃんは目をキラキラ輝かせている。

 あの凶暴なベヒモスを家畜にでもしそうな勢いだ。


「藍音ちゃん、私たちの目的はあくまでも行方不明の生徒達を探すことで、お肉の確保じゃないのよ」

「ダメかな……」

 私の冷静な突っ込みに、ベヒモス牧場への野望が潰えそうな藍音ちゃんは目をウルウルさせている。


「まあ、秘密基地の一つや二つ、作るのは分けないから、秘密基地第一号をとっとと作って当初の目的に戻りましょう」

 私も正直に言うとベヒモス肉の安定供給には異論がない。

 あの美味しさは反則級なのだ。


 私の言葉に希望を取り戻した藍音ちゃんは、再び目を輝かせて、この世界での謎ビル第一号建築予定地を物色するため、ベヒモス達の沼へと駆けだした。

 私は置いていかれまいと急いで追い、それから30分後には二人の共同製作謎ビル一号がベヒモス沼のほとりに立ったのである。


 もちろんあまり目立たないように森の木々より低く作り、地上二階を最上階とした。

 代わりに地下空間を広めに取ったので、秘密基地っぽさが上がったと思う。







ご愛読ありがとうございます。

ブックマーク、評価いただいた方、ありがとうございました。

しばらくリアルが忙しいため、次回更新は未定です。

よろしくお願いします。

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