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第6話 襲撃者


 住宅地の特に人通りが少ない場所をカオリと並んで歩いていると何か嫌な気配がする。

「カオリ、気がついているか?」

「ええ、前後に4人ずつって所かしら…」

「俺は数までは分からないな」


 どうやらカオリの方が敵の気配を探るのは上手なようだ。


 俺たちが立ち止まると、現れたのは城の兵士8人だった。


「おい、落ちこぼれども、ちょっと付き合え」

 隊長らしい男に声をかけられ、周囲を囲まれるようにして移動する。


「何か悪い予感がするわ」

「ああ、悪い予感しかしない…」


 兵士たちは夜のとばりが降りた城下町の門をくぐると草原へと俺たちを誘導する。


 門には特に検閲はないようで、日本の街と同じく出入りは自由だ。

 町並みからするとヨーロッパのパリのような感じだ。


 街道から外れたところで兵士たちは俺たちを囲んだまま立ち止まり、無言で抜剣する。


「どういうことだ!」

 俺が隊長らしき男をにらみながら問うと、そいつはにやけた表情で答えた。


「冥土の土産に教えてやるよ。

 なあに、そんな難しい話じゃない。

 無駄飯食いはいらないってだけのことさ」


「それなら城から追放するだけでいいんじゃないの!」

カオリが反論する。


「下手に悪い噂をまき散らされて、本当に役に立つ召喚者の反感を買うよりは、始末した方が後腐れも無いだろ」

 隊長が嫌な目つきでいう。

 俺たちを弱者とみて完全に見下している様子だ。


「俺たちがいなくなれば、他の召喚者が怪しむぞ!」

 まあ無駄だろうとは思うが一応会話を引き延ばす。

 その間に囲いの弱そうな所を探る。

 

 どうやら、左後ろの奴が一番の穴のようだ。


 忌々しげに隊長が答える。

「弱い奴は別口で訓練していると伝えるだけさ。

 そのうち、ダンジョンの実地訓練で死んだことにすれば何の問題も無い。

 さあ、それじゃあそろそろ遠いところへ逝ってもらおうか!

 やれ!!」


 隊長の命令で襲いかかってくる兵士たち。


 俺は抜剣すると目をつけていた左後ろの奴の剣に自分の剣を合わせる。

 同じことを考えていたのかカオリも同じ奴の剣に剣を合わせている。


 力が8000越えの俺たちに剣をあわされた兵士は、持っていた剣をはじき飛ばされ、勢いで尻餅をついた。

 すかさず、その隙間を抜けて俺たちは走り出す。


「何をやっているんだ!

 力が一桁のくずどもにやられるとは!!」


 倒れた兵士を叱責しながら残りの兵士が俺たちを追う。


「このまま振り切るぞ!」

「それがベストね」

 カオリと短い会話を交わし、俺たちは草むらに姿を隠しながら走る。


「くそっ、あいつら逃げ足だけは速いぞ!!」

「逃げられるとやっかいだ。

 魔法で仕留める!!」


 兵士たちは足を止めると、隊長と副官らしき男が詠唱を始めた。


 俺たちは、兵士の死角に入ったのを確信し、全力で移動する。

 直後、俺たちの後ろに直径100メートルほどの炎が生じ、草むらを焼き払った。


 どうやら火魔法を使ったようだ。

 兵士たちは俺たちの死を確信し、死体の確認すらせずに引き返し始める。


「どうやら行ったようだな…」

「ええ、それよりこれからどうするの?」


 カオリと自分たちの置かれた状況を確認する。


「街に戻っても無一文だ。

 飯も宿も金がなければ無理だろう」

「そうね、城の関係者に見つかってもやっかいだわ」

「移動できるところまで移動して野宿だろうな。

 近くに別の街があれば問題ないが…」

「探してみましょうか?」

「できるのか?」

「私は気配察知というスキルを持っているの」

「どんなスキルだ」

「人や動物の気配を探れるスキルよ。

 距離が近いほど正確に分かるわ」

「さっきの襲撃の時はそれで敵の人数が分かったのか」

「そうよ。

 離れると詳しくは分からなくなるけど、都市のように人がたくさんいれば何となく人がたくさんいる方向が分かるの」

「どれくらいの距離まで探れる?」

「正確には分からないけど、100人を超える規模で人が集まっていれば20kmくらいはいけると思うわ」

「それはすごいな。

 早速やってみてくれ」

「わかった。しばらく話しかけないでね。

 微弱な気配は集中しないと分からないの」


 カオリは目をつぶると静かに呼吸を整えているようだ。

 こうしてみると整った顔立ちをしている。

 小柄だが17歳なりに成長しているのも分かる。

 スタイルも悪くはない。

 胸は決して大きくはないが、かといって小さすぎる分けでもない。

 推定Cカップくらいか?

 やはり、勇者として鍛えたのだろうか。

 筋肉質の引き締まった体型だ。


 少しよこしまな考えが入った目つきでカオリを眺めてしまった。


 1分もするとカオリは静かに目を開けた。

「ここから10kmほど離れているけどかなり大きい街があるわ。

 王都の10分の1くらいの規模はありそうよ」

「それだけあれば宿屋や冒険者ギルドがあるかも知れないな」

「ええ、図書館の本によると、この世界の移動手段は江戸時代の日本や中世のヨーロッパ並みね。

 蒸気機関などの機械類は発達していない代わりに魔法がある感じね。

 私たちが呼び出された召喚魔法や空間転移の魔法が魔方陣を描けば発動できるけど、消費魔力が大きすぎて扱える人間はとても少ないらしいわ」

「そういえば鑑定の宝玉でスキルに空間転移が表示されてた奴がいたな」

「ええ、私たちの担任のカスミ先生ね。

 幼く見えるけど教員歴3年の25歳らしいわ。

 とてもお世話になっているいい人だから、できれば、先生だけでも助けたいわ。

 おそらく先生だけの力では転移できないはずだから…」

「ああ、俺は複写したから分かるが、行ったことがないところにはいけないらしい。

 それに魔力の消費も多そうだから、初期状態では使えないだろうな…」

「複写したの!

 それじゃあ城に戻って連絡を取ることもできるんじゃない?」

「たぶんできるが、今は適当ではないだろうな。

 万一俺たちが生きていることがばれたら、今度は本気で消しにかかられる」

「さっきのも十分本気だったと思うけど、確かにさっきみたいな油断はなくなるでしょうね。

 分かったわ。時期を待つ」

「それより、街へ移動しよう。」

「できれば途中で売れそうなものを狩っていきましょう。

 私たち今、無一文よ」

「わかった。

 気配察知で獲物を探せるか?」

「ええ、そう言うだろうと思ってさっきついでに見つけておいたわ。

 ここから1kmほど南に大きなイノシシが畑を荒らしているみたいね」

「害獣ならとっても誰も文句は言わないだろう。

 早速狩るぞ」


 俺たちは食料と金の確保のためイノシシへと向かった。







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