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第41話 作戦会議と洞窟探索 (主人公視点)


 ラディー村は小さな村なので、あまり立派な宿はないが、エルンの冒険者ギルドの支部と言うことで、ギルド運営の宿泊所が用意されていた。


 俺たちはマルンさんの勧めもあり、今日からしばらくギルドの宿泊所を利用させてもらうことにした。

 ギルド依頼の魔物駆除を請け負っている俺たちは一泊二食に昼の弁当まで付けてもらって、たったの2000ゼニーである。

 更に、討伐の成果によっては値引きもあると言うことで、今日は帰りに拾った獲物で無料となっている。


 さすがにスピード重視で移動した道筋での魔物までは回収できていないが、洞窟前で倒した魔物については、肉や皮が売れる角ウサギはみずちと一緒に袋に詰め込み、ゴブリンやスライムはカオリと手分けして火葬し、残った魔石だけを拾い集めてきた。

 魔石だけで軽く1000個は超えていたのだが、ギルド支部の現金不足から一部の買取しかしてもらえていない。


 明日も、途中の魔物を狩りながら、しばらく洞窟に潜ることを告げると、マルンさんは農作業を休んで俺たちが倒した魔物の解体を手伝ってくれることになった。

 今日倒した分についても、まだ残っていれば回収してくれるという。


 途中の魔物は今日の駆除でかなり減っているので大丈夫とは思うが、万一に備えて武器の携行をするようにマルンさんに言うと、身長ほどの槍をカウンターから取り出しながら

「分かっているよ」と言われた。


 どうやら釈迦に説法だったようである。


 さて、問題は洞窟内のみずち対策だ。


「ヒロ、私が気配の探知をできるだけ広範囲にして進むしかないと思うの」

 しばらく沈黙が続いたあと、カオリがいう。


「それでいいと思うが、今までは気配を探知していなかったのか?」

 俺が疑問をぶつける。


「基本的に移動しながらの気配探知は自分の周囲20メートルくらいが限界ね。

 他の作業をしながらだと更に狭くなる。

 例えば土螭つちみずちと戦いながらだと、10メートルくらいになると思うわ」

 なるほど、気配探知はかなり距離の制約が厳しいスキルなのかも知れない。


 カオリは更に続ける。

「明確な殺意を知的生命体から向けられた場合はかなり離れていても感じ取れると思うけど、そうでなければ移動を止めて迷走しなければ遠くは分からないわ。

 それに、遮蔽物があると正確につかめないから、洞窟の壁の向こうとかは分からないし、曲がり角の先は探知の精度が落ちるの」


「ということは、曲がり角や分岐があるところでは必ず止まって気配を探知してから進むことになるのか?」

「そういうことね」

 俺の問いにカオリが答える。


「ところで、もう一つ聞いてもいいか」

「なに?」

 俺はこの機会に気配の探知についてカオリに以前から疑問に思っていたことを聞く。


「実は俺は『複写』というスキルを持っているんだが、何故かカオリの気配探知は複写できていない。

 ちなみに『成長』は複写できているからカオリのスキル全部を複写できないわけじゃないと思うんだ」


 カオリは俺の質問に少しの間考えると応えた。

「今、ステータスを確認したんだけど、どうやら隠蔽しているスキルは複写できないみたいね。

 成長は隠蔽していないけど、気配探知はこの世界に来たときからずっと隠蔽しているのよ。

 必要なら隠蔽を解きましょうか?」


「いや、今の時期に新しいスキルに慣れる暇はないと思うから、また今度でいいよ」

「そう、それじゃあ必要なときは言ってね」

 カオリの申し出をこのときはあまり深く考えずに断ったが、俺は随分とあとになってこの判断を後悔することになるのである。




 ラディーの洞窟を探検すること2時間。

 コーナーや分岐があるたびにカオリが気配を探って安全確認しているので、入り口から5キロメートルほどしか進んでいないと思われる。


 マッピングは俺が受け持つ。紙におおよその地図を書きながら分岐点ごとに剣で壁面に目印も残している。


 ここまでゴブリンとスライムが中心でみずちとはまだ遭遇していない。

 この洞窟は階層という概念はないようで、延々と鍾乳洞のような洞窟が続いている。


 もう、みずちの類いはいないのかと思ったとき、前方50メートルほどの分岐を探査していたカオリが何かを見つけた。

「大きな気配があるわ。

 みずちの仲間だと思う。

 数は1体よ」


「分かった。

 俺が先行する。援護を頼む」


 言うが早いか、出しうる限りの全力で突っ込み、敵に築かれる前に接敵する。


「鑑定」

 目視で確認できた瞬間に鑑定スキルを発動する。


 名前 風螭かぜみずち

 適性 妖怪(この世の理から外れた存在。)

 Level 8

 体力 2008 × 8Level

 力  1016 × 8Level

 速度  553 × 8Level

 魔力 2109 × 8Level

 魔力適性 緑色(風属性)

 スキル 穴掘り

     噛みつき

     消化液

     竜巻地獄火

     再生力大


 今までに見たことがないタイプだったが、レベルは前回の火炎螭かえんみずちの方が高い。


「カオリ!新種だ。風螭かぜみずちと鑑定にでた」

「了解、片っ端から魔法を打って弱点属性を探るわよ」


 俺たちは同時に魔法を打ち始める。


 3回目にカオリが放った火魔法で少しダメージが入る。

「弱点は火魔法よ!」


 カオリが叫ぶと同時に、俺は火の魔力を剣にまとわせ、一気に風螭かぜみずちへと斬りかかる。

 敵の体当たりを左下へとよけ、胴体と顔の接合部へ一撃を入れる。


 少し浅かったようで、ダメージは入ったが倒すには至らない。

 風螭かぜみずち俺の一撃で猛烈に暴れはじめ、洞窟の壁がミチミチと嫌の音を立てる。


「ビッグファイヤーボール」

 カオリが正面から大きな火の玉をぶつけて牽制する。


 俺は生じた隙を見逃さず、今度こそとどめの一撃を風螭かぜみずちの首へとくれてやった。

「ふうっ、やっと1体か……」

「そうね、今日は苦労するわね。

 早いところ解体しましょう」


 俺たちは風螭かぜみずちの顔を胴体を切り分け魔石を取り出すと、収納スキルで根こそぎお持ち帰り用とした。


 ちょうど風螭かぜみずちを収納していたときにカオリが新たな気配を探知する。

「気配があるわ……

 けど、おかしい。道ではなく壁の向こうから大きな気配を感じる。

 壁を通って探知できないはずなのに……」


 カオリが言い終わるやいなや、壁面にひび割れが入り洞窟の壁が崩れはじめる。

 いや、ひび割れ自体は前からあったのかも知れない。

 先ほど風螭かぜみずちを一撃で仕留めきれずに暴れられたとき、壁が壊れかけていたのだろう。


 ガラガラと音を立てて崩れた壁の向こうから、もはや見慣れたと行っていい巨大な能面のような笑顔がこちらを見ていた。


「鑑定」

 俺は即座に新たに現れた敵を分析する。


 名前 光螭ひかりみずち

 適性 妖怪(この世の理から外れた存在。)

 Level 15

 体力 3108 × 15Level

 力  2012 × 15Level

 速度 1167 × 15Level

 魔力 5210 × 15Level

 魔力適性 白色(光属性)

 スキル 穴掘り

     噛みつき

     消化液

     光子砲

     再生力大


「また新種だ。

 光螭ひかりみずちとでた」

「了解!」

 俺が叫ぶと同時にカオリは片っ端から魔法をぶつける。

 俺も即座に手持ちの魔法をぶつける。


 この世界にある5種類はもとより、召喚前の世界の魔法も含めて片っ端からぶつけた。

「まずい。全てはじかれた……」

「こっちもよ……」


 想定外の事態が発生した。


 敵は天井付近からの噛みつき攻撃を仕掛けてくる。

 純粋な魔力を纏わせた剣でかろうじて受け流すが、光螭ひかりみずちにダメージが入らない。


「これは仕方がないわね……」

「ああ、戦略的撤退だ……」


 俺たちは全速で元来た道を帰りはじめる。

 スピードでは圧倒的にこちらが上のはずだが、分岐のたびに出口方向に付けた目印を確認する必要があり、なかなか光螭ひかりみずちを振り切れない。


 それに時折敵のスキルである光子砲が俺たちに向かって放たれ、そのたびに光のビームを躱すのに大きく体勢を崩してしまう。


 結局出口までついてきた光螭ひかりみずちは、洞窟から出られないと悟って出口に陣取り、とぐろを巻いて鎮座した。


 これでは他のみずちを狩りに洞窟に入ることもできない。


 洞窟前の広場では、周辺で俺たちが倒したゴブリンや角ウサギの処理をしていたマルンさんが、はじめて生きて動く光螭ひかりみずちを見て、その異様さに驚いていた。







タイプミスや変換ミスにお気づきの方は連絡をお願いします。

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