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第23話 真夜中の異世界脱出、残る問題は? (アイネ視点)


 ここは、王宮の一室、香澄ちゃんにあてがわれた部屋である。

 時刻は深夜0時。基本的に夜は活動しないらしいこの世界では、警護や見回りの兵士以外、起きているものはほとんどいないらしい。


 そんな中、今、私たちは11人の高校生を前に、最終的な意思確認をしている。

 日本に帰るか否かだ。


 香澄ちゃんが現状の説明を終え、生徒へ問う。


「いい、善意の祠祭様の助けを借りて日本に帰る機会はこれが最後かも知れないのよ。

 みんなでかえると言うことにして欲しいんだけどいいわね」

 香澄ちゃんの言葉に、11人中7人の男女は頷いている。


「私たちの答えは変わらないよ」

「こっちでおもしろおかしくやるから、おばさんにはよろしく行っておいてね、セ・ン・セ・イ」


 相変わらずビッチーズはぶれていない我が儘っぷりだ。

 一旦飲み込んだ怒りが再びわき上がりそうになるが、先ほどよりは冷静だ。

 これがなれというものだろうか。


「こっちではスマホも通じなければ、ネットもない、テレビもラジオもない、それにあなたたちの大好きな夜遊びできる街もないのよ。

 それでもいいの?」


 香澄ちゃんが最後の説得を試みているが、半分諦めモードのようだ。

 言葉に力を感じない。


 それに、学校の先生が夜遊びを黙認するような発言が混じっているような気もするのだが、ここは敢えて触れないでおこうと思う。


「そんなの関係ね-よ」

「魔法でドンパチやってればきっとそっちの方がおもしろいに決まっている」

「何なら一発食らわせてやろうかセ・ン・セ・イ」


 ああ、ものを知らないって恐ろしい。

 こともあろうに香澄ちゃんに正当防衛の機会を与えようとは…

 これはさすがのセンセイも切れるかなと思っていると、香澄ちゃんは何事もなかったかのようにさらりと言った。


「わかりました。それではこの場は他の8人を連れて帰ることにしましょう。

 ただし、こちらに残る三人組、龍造寺りゅうぞうじ 綺羅々(きらら)、鳳凰堂ほうおうどう 把比保ぱぴぽ新宮園しんぐうえん 飛飛瑠ぴぴるの3人は、他のものがどうなったかを城の人間に言ってはいけません。

 知らないあいだにいなくなっていたと言うこと。いいわね!」


 最後の方は毅然として言葉に力を込め言い放った。逆らうことは許しませんという香澄ちゃんの気迫に、さすがのビッチーズも何か感じたのか頷いている。


「それじゃあ、他の8人はかえるわよ」

 香澄ちゃんが残りの8人の生徒に声をかけると、その中から一人の男子生徒が声を上げる。


「あの、香澄先生。俺もこっちに残ります」

 あの子が、事前の話に上がっていた男子生徒だろうか。はっきりと残留を表明する。


大塚オオツカ 正義マサヨシ君ね。あなたもこっちでちやほやされたい口?」

 香澄ちゃんはやっぱり来たかという様子で応対する。


「いえ、俺は自分に力があるなら、苦しんでいるこの世界の人を助けたいと思います」

「それはエゴだよ!」

 男子生徒の言葉に香澄ちゃんが即答する。


「何故、エゴなんですか。

 それに、たとえエゴでも人類はそれを乗り越えることができると俺は信じています」


 なんか、かっこいい言葉を言っているがいまいち意味が分からない。

 人類と大きく出ているが、ここで香澄ちゃんが言うエゴは、状況も分からず一方の言い分だけで他者を攻撃し、自分は世界に役に立っていると勘違いすることをエゴと言っているのでは無かろうか…。


 この大塚君という生徒は、事前に香澄ちゃんが心配していた通り、自分の正義に酔いしれるタイプのやっかいな生徒なのだろう。

 私が考えていると香澄ちゃんが大塚君を説得しはじめる。


「いい、大塚君。あなたが力を持っているのは真実よ。

 称号の勇者はたぶんそういうことなのでしょう。

 しかし、この国の権力者たちの言う通りにあなたが力をふるうことは正義とは限らないわ」


「何故です。隣国がこの国の鉱山や土地を狙って戦争を仕掛けてきたという話じゃないですか。

 ここは侵略者を駆逐するために、俺の力を使うことこそが正しいのではないですか」


「その、侵略者と呼んでいるのはこの国の王宮関係の人だけかも知れないわ。

 攻めてきたのが相手国だと言っているのもこの国の権力者よね。

 一方の言い分だけを聞いてそれに荷担することは正義と言えるの…」


「戦いが起きているのは事実でしょう。

 そこで罪もないこの国の人が犠牲になっていればこれを助けることこそが正義です」


「罪もない人が犠牲になるのは相手も同じなのではないですか?あなたが奮う力で傷つくのは罪がない人ではなくて?」


「侵略者は皆有罪です」

「侵略者がこちらでないという保証は?」

「そんなもの、状況から明らかです」

「その状況をあなたに教えたのは誰?」


 香澄ちゃんの説得は続くが、どうも心に届いていないように感じる。

 そう思っているとついに大塚という男子生徒が話を打ち切った。

「もういいです。

 結局先生は力が無いから怖いんですよ。いくら学校では先生でもここではただの人です。

 俺はこの力を自分の信じる正義のために使います。俺は帰りません」


 香澄ちゃんはため息をつくと仕方ないという表情で締めくくった。

「本当にしようがありませんね…

 それでは大塚君も他の生徒の皆さんの行方は知らないということにしなさい。

 そして、くれぐれもむやみに力を使わないこと。

 いいわね」


「わかりました」

 香澄ちゃんが自分を連れ帰ることを諦めたと分かると、大塚という男子生徒はニコニコしながら頷いた。

 こいつ、本当はビッチーズと同じで楽しくドンパチやりたいだけじゃなかろうか。


 私がそんなことを考えていると香澄ちゃんから声がかかる。

「それでは祠祭様、あの4人を除いた7人の生徒を送還願います」


「分かりました」

 私は素早く空間の位相をずらして日本と接続すると、テレポーテーションを発動して生徒たちとともに日本の教室へ転移した。






 教室には先に送り届けた生徒とあわせて35人の高校生がいる。

 その生徒たちに向かって香澄ちゃんが話しかける。


「いい、みんな。結局、龍造寺りゅうぞうじ 綺羅々(きらら)、鳳凰堂ほうおうどう 把比保ぱぴぽ新宮園しんぐうえん 飛飛瑠ぴぴる大塚オオツカ 正義マサヨシの4人は日本に帰るのを拒否したわ。

 今から、あなたたちはご家族に連絡してすぐに迎えに来てもらいなさい。

 私は、あの4人を頬って置くこともできないから、もう一度祠祭様にお願いしてあの世界に戻り、行方不明の関谷香織さんの捜索と4人の説得を続けます。」


「先生、あの4人は自分たちで好きに残ったんだからほおって置いていいんじゃないですか?」

 生徒の誰かが尋ねた。


「そうね、そうかも知れないわね…

 でも、あの4人の親御さんはきっと心配すると思うし、城からいなくなった関谷香織さんはなおのことほおっておけないわ。

 それから、あなたたちは、向こうで得たスキルや魔法をこっちで隠し通すこと。

 もし使ったら、すでに大変な騒動になっていると思うけど、もっと大変なことになると思うわ。いいわね」


「「「「「はい、分かりました」」」」」


 生徒たちがしっかりとした返事をしたのを聞くと、香澄ちゃんは私の方に向き直る。

「それじゃあ、お願いします」


 私は頷くと再び異世界の王城へテレポートした。






 時刻は深夜0時半、場所は異世界の王宮。

 私は香澄ちゃんを今後のことを話し合う。


「香澄ちゃん、本当に王宮に残るの?危険じゃない?」


「昨日訓練に来た兵士や関谷さんたちを襲った兵士の状況を見ると、私や藍音ちゃんに対抗できるような実力者はいないと思うわ。

 でも、スキルや魔法はやっかいだと思う。

 私たちが知らない何かが、うようよありそうだもの…」


「そうね。さっきの話じゃ、未来世界になかったファンタジーっぽい火魔法なんかもあるみたいだし…」


「そうなのよ。訓練のとき教官役の魔術職兵士が使ったファイヤーボールはどう見ても火が飛んでいたわね…」


「私たちのESPで再現しようとしたら、サイコキネシスで油を空中に浮かせ、パイロキネシスで着火してぶつけるくらいだわね」


「ええ、けどそれは本物の火であって、この世界の人が使う魔力の火では無いと思うわ」


「完全に物理法則や化学反応の諸法則を無視していると言うこと?」


「たぶんそういうことよ」


「エネルギー保存側、質量保存、運動量保存則…

 全て通用しない魔法がある世界か…

 やっかいね…」


「ええ、でも私たちのESP以上の破壊力は無いみたいだし、私も転移できるようになった今、いざというときは逃げ切れると思うわ」


「けど香澄ちゃんの転移を使うと、文字通り体一つで転移してしまうから使いにくいわね」


「それが問題だけど、緊急時は日本の自宅にいきなり戻れるから、何とかなるでしょ」


「そのことだけど、次元を超えた転移は召喚陣の魔法と違って魔力の消費がとても大きいから注意してね」


「どういうこと?」


「この世界のステータス表示は棒グラフ表示に切り替えて最大魔力量に対する残存割合が分かるようにできるみたいなんだけど、今晩のテレポートで私の魔力量が3分の1ほど消費されたのよ。

 こんな消費量は、今までブラックホールを量産してもなかったから、数値にしたら天文学的な魔力が次元移動には必要みたいなの。

 もっとも、私たちの魔力量から行って、一人で一、二度転移する分には問題ないと思うけどね」


「分かったわ。気をつけておくね」


 こうして、私と香澄ちゃんの召喚騒動1日目は終わった。


 私は香澄ちゃんを残し、土日の休みには応援に来る約束をして自分の部屋へとテレポートする。


 明日は朝から新薬の可能性がある成分を抽出する仕事が待っている。

 既に午前様だが、できるだけ早く眠ろうと心に誓うのであった。

次話から主人公視点にもどります。

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