第12話 始末人の誤報 (第3師団第5中隊長ベンジャミン・パリス視点)
次に俺が気がついたのは兵士の応急処置室だった。
俺たちを介護した者の話では、心臓が止まっていたようだ。
医術の心得があるものが、胸に衝撃を加えると蘇生したらしい。
そのものによると、胸に何か強い衝撃を受けると心臓が止まることがあるらしい。
しかし、心当たりと言えばあの女だけだ。
確かにスピードは他の数値よりかなり速かったと聞いているが、それもせいぜい100程度で、俺たちが認識できないはずはない。
魔力もたいしたことはないので魔法でどうにかされたとは考えられない。
疑問を残しつつも、訓練が終わる時間となったため、残りのクズ二人の始末を優先する。
キムたちと一緒にクズどもを見ていると、ちょうど都合よく二人で連れ立って街へと出かけてくれた。
これで、人通りの少ないところを通ってくれればこちらの思い通りの展開である。
街に出たところで見失ったかと思ったが、しばらく探すと郊外の公園へと続く道で、二人を見つけた。
どうやら城に帰る道を進んでいるようで、このまま行くと奴らは住宅街の寂しい通りに向かう。
チャンスだ。
4人ずつ2手に分かれて、前後を押さえさせる。
俺は少し離れたところからキムたちの手際を確認する。
どうやら上手く郊外の草原へと誘導できているようだ。
街道から外れたところでキムたちは二人を囲んだまま立ち止まり、無言で抜剣する。
「どういうことだ!」
クズの内、男の方が叫んでいる。
「冥土の土産に教えてやるよ。
なあに、そんな難しい話じゃない。
無駄飯食いはいらないってだけのことさ」
キムが楽しそうに教えてやっている。
畜生、俺も行って楽しみに加わればよかったか…
「それなら城から追放するだけでいいんじゃないの!」
クズの内、女の方も声を上げている。
「下手に悪い噂をまき散らされて、本当に役に立つ召喚者の反感を買うよりは、始末した方が後腐れも無いだろ」
キムやつ本当に楽しそうだ。
なんで弱い奴を嬲るのはこんなにも愉快なのだろう。
「俺たちがいなくなれば、他の召喚者が怪しむぞ!」
男のクズが更に突っ込むとキムの声が聞こえた。
「弱い奴は別口で訓練していると伝えるだけさ。
そのうち、ダンジョンの実地訓練で死んだことにすれば何の問題も無い。
さあ、それじゃあそろそろ遠いところへ逝ってもらおうか!
やれ!!」
畜生、あの台詞、俺が言ってやりたかった。
怯えるゴミにとどめの一言!
脳みその随までしびれそうだ。
キムの命令で一斉に兵士が襲いかかる。
しかしここで、予想だにしなかったことが起こった。
クズが二人がかりで一番貧弱な兵士の剣をはじき飛ばし、その隙を突いて囲みを破り逃走したのだ。
「何をやっているんだ!
力が一桁のくずどもにやられるとは!!」
キムが叫びながらクズどもを追うが、奴らは以外と早い。
暗闇も手伝って離れてみている俺も見失う。
「くそっ、あいつら逃げ足だけは速いぞ!!」
キムが叫ぶと同時に俺も出る。
「逃げられるとやっかいだ。
魔法で仕留める!!」
俺は叫ぶと同時に詠唱に入った。
キムも俺に習う。
俺の属性は赤の火魔法、キムの属性は緑の風魔法、二人の魔法を同時に放てば、炎の嵐となって奴らを焼き払えるだろう。
俺たちは奴らが逃げた方向一面を焼き払うように魔法を発動する。
たちまち炎の竜巻が発生し、狙った辺りは100mほど黒焦げになった。
任務完了だ。
あれだけの火勢なら生きて入られまい。
俺たちは城に引き上げマーリニア宮廷魔術師長閣下に報告することにした。




