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酒場《魔弾の射手》

 この世界には剣と魔法が満ちている。

「《デュアル・ライン》!!」

 雷光がごとき速度で、魔力を纏って光り輝く槍が二本の線を描き、

「《活殺一刀》!!」

 その線を、ありったけの力を込めた斬り降しが叩き伏せる。

 場所は世界最大の大陸――ウラシア大陸西部イウロパ地方。そこに存在する大陸に海水が流れ込むことによってできた、大陸内部の海――地中海の西側に建国された《レヴィエル王国》の港町イストラにある《リヴィラル大学校》。

 15歳から20歳までの子供たちが通うこの大学校は、基本的に金に余裕がある商家や貴族の子供たちに、専門的な教育を施す学校だ。

 今木製の剣や槍をふるい模擬戦相手と戦っているのは《軍人科》の学生たち。将来は国の軍に就職することを目指した彼らは、定期的に行われる模擬戦によって、自分たちに適性のある《アクト》の訓練に励んでいる。

「『《アクト》とは……もともとは魔法の発展形であり、格闘術の魔法版である。わかりやすく言うならば、格闘術の基礎である《型》の自動再生魔法。それがアクトの正体であり本質である。アクト成立以前の格闘術は、同じ練習、同じ訓練、同じ生活を送ったとしても、どうしても技の完成度にムラが出る不安定なものだった。だが、偉大なる大魔導師リヴィラル・アクトーは、アクトを生み出し、格闘術の《型》を自動再生できるようすることによって、技の質をすべて高水準なところで均一に整えることに成功した。それによって現代格闘術は、だれであっても必要な肉体を作るための訓練さえつみ、巻物スクロールに書かれたアクトの記録メモリーを体に刻み込めば、簡単にその技を発動できるようになった。こうして、現代格闘術はアクトと共に発達していき、現代にいたる』っと」

 まぁ、最近ではそのスクロールも安売りされるようになってあんまりありがたみもないんだけどな……。と、海をイメージした、海兵服のような青い制服に身を包みながら、眼前でぶつぶつつぶやき課題のレポートを書き続ける級友――レイファン・アルドをしり目に、制服のボタンをはずして着崩した俺――エルンスト・ルキアーノは校舎の窓から眼下に広がる訓練場を見下ろす。

 真剣勝負を続ける制服姿のイケメン騎士二人の周りを、同じように青を基調としたセーラー服と、ひらひらとした青いスカートを着用した無数の女子大生たちが応援していた。

――もうちょっと、もうちょっとで最後尾の女の子のスカートが!!

 そんな邪なことを考えている俺をしり目に、ようやくレポートを書き終えることができそうなのか、レイファンは勢いよくペンを走らせ、

「『だが、わが校の軍人科が使っている技も、町に降りれば二束三文でスクロールが買いたたける安物アクト。本当の達人が使うアクトは、それこそ一子相伝の特別なものになっている。そのため、すばらしき格闘術に憧れ、格闘術も魔法と同じよう誰であっても平等に、達人になれる機会を与えたいと願い、その修行の一助となるよう《アクト》を作ったリヴィラルの理想は、いまだに果たされていない』っと……なぁ若。レポートこんな感じでいい?」

「――っ!?」

 俺に話しかけてきた。そのせいでつい視線を切ってしまい、決定的な瞬間を見逃した俺は大きく落胆しつつ、抗議交じりの視線を向けながらレイファンが差し出してくるレポートにざっと目を通す。

「こんな感じでいいって……お前俺が書いてきたレポート丸々うつしただけだろうが。こんな感じでよくなかったら、俺そのレポート書き直さなくちゃいけなくなるだろう」

 オールバックにした祖父譲りの真紅の髪をかきつつ、俺は今朝になって俺に縋り付き『近代史のレポートやってくるの忘れたからうつさせてくれ!!』と泣き付いてきたレイファンに、半眼を向けた。

 俺の呆れきった視線に、流石のレイファンも思うところはあったのか「あははは……」と明らかな愛想笑いをうかべながら、藍色の瞳をそらし、長く伸ばした金色の前髪で俺の視線をさえぎった。

「いやだってさぁ……前の授業って一週間くらい前だすぅぃ~。土日遊びほうけていたから、宿題なんて音速の向こうにおいてきちゃったすぅぃ~。青春を謳歌する一学生としては、楽しい時間の前には宿題なんて忘れてきて当然と思うわけですよ」

「何テメェ基準で物事語ってやがる。全国の宿題をまじめにやってきている学生たちに謝れ」

「それに、ちょっと特ダネ情報が入ったから裏をとるので必死でさ。正直レポートなんて、覚えていてもやっている暇はなかったかな~」

「またそれか」

 ウチの職業がらか、どうしても鋭くなってしまった赤い瞳で、金の前髪で隠れたレイファンの顔を睨みつけながら、俺はため息をついた。

 レイファンは学生でありながら、とある貴族が経営する新聞社の記者をしていたりする。無論学生であるがために社内の地位としてはバイト学生なのだが、こいつは何気に情報収集の才能があったらしく、レイファンが持ってくる特ダネ記事はよくその新聞の一面を飾っていた。

 そんなわけでレイファンは、その新聞社に将来を期待されている新進気鋭の新聞記者であり、学生の身分でありながらほとんどプロと変わらない仕事を任されていることが多々あるのだ。

 どうやら今回もそういった仕事を任されたらしい。よくよく見るとレイファンの目元にはうっすらとクマができていた。今週末が忙しかったのは本当のようだ。

「はぁ、お前がそこまで酷使されるのは前の第七位勇者と召喚勇者の決闘騒動以来か? あの時もまさかの第七位敗北ってことで、裏を取るのに結構働いていただろう。それと同じくらい疲れているってことはよほどの特ダネだったのか? でも、一応お前も本業は学生なんだからさ、バイトもそこそこにしておかないとマジで留年するぞ?」

「マフィアの御曹司にそんな警告受けるなんて思ってなかったわ」

「マフィアじゃねぇ。ギャングスターだ」

 どっちでも同じだろ? とレイファンはへらへら笑って俺の抗議を受け流す。

 両者には天と地ほどの差があることをコイツに一度教えてやるべきか? と、俺は拳を握りしめる。

 『ギャングはマフィア予備軍である不良のガキども』などと他国では言われているらしいが、ルキアーノファミリーを筆頭としたこの国の《ギャングスター》たちは、マフィアとは一線を画するある特徴を持っているのだ。

 それはギャングスター同士で取り決められたある三つの鉄則――《三侠義さんきょうぎ》をまもっていること。

『1・素人さんに手を上げるべからず。

 2・女子供は殺すべからず。

 3・誰かの涙を食い物にするべからず』

 この三つの掟をまもっているがゆえに、この国に根を張る黒社会――《ギャングスター》基本的にヤバめ犯罪に手を出すことは少ない。麻薬シャブの販売もしなければ、強迫によるショバ代の請求もしていない、極めて健全な組織だ。

 普段の生活は酒場の経営者とその店員であるということが、何よりの証拠と言えるだろう。まぁ、違法な密造酒を主な商品としているため、その酒場本当に健全と聞かれるとちょっと言葉に迷うが……。

 ともかく、武器や構成員の給料といった活動資金は酒場で稼ぎ、暴力の行使などは副業といっていい。

 だが、俺達はその副業の行使を必要なときであれば容赦なく振るう。

 暴政からもたらされる理不尽を叩き潰し、横暴な貴族をカチコミでブチ殺し、国の怠慢で素人さんを食い物にするマフィアどもを蹂躙する。

 そんな義侠心あふれる男のみがギャングスターとして、様々なファミリーの構成員となることができるのだ。

――断じて胡散臭い薬を売りさばいて私腹を肥やしている、みみっちいマフィアどもと一緒にされていい職業ではないっ!

 俺がそう熱弁をふるおうと、熱く握りしめた拳を振り上げ、自身の机を殴りつけようとしたときだった。

「それよりも聞いてくれよ若。なんでもこの学園に貴族の令嬢が転入して来るらしくてさ……俺が土日潰した理由がそれなんだけど、もう参っちゃうよ……」

「え?」

 レイファンが告げたその一言に、俺は思わずまの抜けた声を上げ、拳の振り下しどころを見失う。

「ん? どうしたの若? 突然手なんてあげちゃって」

「……あ、いや。なんでもない」

 そんなわけで俺は、気まずい思いをしながらも手をおろし、

「で、貴族がうちの大学に来るってマジかよ? 頭おかしいんじゃねェのその貴族? どれだけ裕福な連中が集まっているとはいえ、所詮ここは平民が手に職をつけるために設立された大学だぞ!?」

 間違いを正すのはまた今度でいいか。と、マフィアとギャングスターの違いなどはるかかなたに置き去りにし、それよりも興味深い話題へと話の流れをシフトさせるのだった。

■■■

「それにしても貴族の転入か……」

 本日とっていた授業を終えた放課後。特にサークルなどに入っていない俺――エルンストは、教科書などが入ったカバンを片手に速やかに帰路についていた。

 今日選択授業でとっていた授業はお昼までだったので、まだ日は中天に差し掛かったころ。周囲は明るく、学校から延びる大通りの両脇に居を構えた、学生狙いの商店たちは活気に満ち溢れていた。

「はーい、今日の日替わり弁当は鶏のから揚げだよー! いつもより二割引きでご奉仕だっ!!」

「そこの学生さん! お昼はまだかい? ちょうど席が空いたから、寄っていきな食っていきな!」

「しゃっちょさーん! いい子いっぱいいるよ、かわいい子いっぱいいるよ。お昼のバカンスにおひとりどお~?」

 特に時間帯がら、飲食店の呼び込みが多く大通りをにぎわせており、お昼をすませようと学校から出てきた学生たちを、次々と捕まえていた。

 まさしくそれは平和な街並み。祖父の時代には無数の悪党どもが徒党を組み、違法な海運貿易をおこなっていた街とは思えない光景だ。

 とはいえ、

「おいこら。お前らの営業は深夜からだろうが、ぼったくりバーが。うちのシマで幼気なガキ騙すようなマネしたらただじゃおかねぇって言っといただろうが!」

「お、おう~。ルキアーノファミリーのワカ。スイマセ~ン、ついデキゴコローで」

 たま~に、俺の目の前にて片言でしゃべる、肌の黒い男が所属するような胡散臭いお店が顔を出しているので、まだ用心が必要だが……。

「ったく、オーナーにも言っとけ。だまくらかすなら、たちの悪い酔っ払い共にしとけって。今度うちに被害報告上がってきたら、本気で潰すからな」

「ゴオンジョウ、カンシャするでーす」

 イウロパ地方北側に広がる人外魔境――暗黒大陸よりやってきたと主張する黒い肌の男は、俺の忠告に頭を下げながらも、俺が背を向けた瞬間盛大な舌打ちを漏らした。

――ほんと後で頭に風穴開けてやろうか……。と、背後から聞こえたその音に、俺は思わず顔を引きつらせるが、とりあえず見逃すといった以上今は我慢。大人しく自分の家へと歩を進める。

 もとより俺の家はこの商店街に所属する店だ。

 そう苦労することもなく、すぐに俺はウチにたどり着く。

 おんぼろの看板を屋根の上に引っかけた酒場――《魔弾の射手》へと。

 現在は酒場の営業時刻ではないためか、入り口にはそっけなく《準備中(CLOSE)》の看板が下げられているが、自分の家にためらう必要がどこにある。と俺は遠慮なくその入り口から突撃。掃除をしていた連中のぎょっとした視線を甘んじて受け入れた。

「おうお前ら~。今帰った」

「ちょ、若! いつも入るときは裏口からって頼んでんじゃないっすか! あと、おかえりなさい」

「そうですよ若。いくらここがうちのファミリーの家だからって、一応は客を呼び込む商店なんですから。あんまり掃除風景とか見られるのはちょっと……。あぁ、あとお帰りなさい」

「お前ら……将来ファミリーの看板背負ってたつ若迎え入れるよりも、小言の方が大事かよ.

ギャングとしてそれはどうなんだよ」

 いつものように、『従業員用の入り口を使え』と注意を飛ばしてくる、サングラスをかけたスキンヘッドの下っ端――ハウェルグと、緑の髪を生真面目な七三分けにした眼鏡装備の、会計担当インテリギャング――ノルドの態度に、俺は思わずうなだれる。

 これでも一応爺さんの跡を継ぐために、日々精進し、一人前のギャングスターになれるよう威厳のようなものも身に付けつつある気がしたんだけどな……。ガキの頃から変わらないこいつらの態度を見る限り、どうやら俺はまだ修行不足なようだった。

「わかだって、毎日真面目に学校通って……ギャングとしてそれはどうなんですか?」

「ば、バカ野郎! 俺は町のガキどもの気を配ってだな、シャブだのなんだのをばらまかれていないか見ているんだよ! あぁいったのは若いのから広まっていくからなっ! だからあえて学生を装ってだな」

「本当は火の車のうちの家計を何とかするためだっていえばいいのに……」

「しっ! そんな親思いの理由はギャングチックじゃないとか言っていただろうが! もう若のとっている授業内容が経済学とか経営学とかばっかで筒抜けだとしても、言わないのがエチケットだっ!」

「おまえら……」

 あとで覚えていろよ? と、俺は盛大に顔をひきつらせながら、この話題はまずいと本題にすぐさまシフトする。

「まぁ、そんなこまけぇことは今はどうでもよくてよぉ、爺さん今ウチにいるかい?」

「えぇ、頭首ドンなら今家にいらっしゃいますよ。いい天気だというのに、珍しく散歩すらされていません」

「そいつは結構。ちょっと相談したい情報が入ってな? 知ってるか? この町に貴族が来るらしい」

 俺達平民にとって、貴族が来るというのはそれだけでデカいイベントだ。ましてや旅行中に町を通り過ぎる行幸でもなければ、新しい領主として着任するというわけでもなく、只この町にやってきて定住するのだという今回の貴族来訪は、警戒しなければならない類の厄介ごとの匂いを感じさせた。

 平民ではあっても、町の中に深く闇の根を張り、いろいろと非合法な活動を行っているギャング組織としては、町の方針を決める貴族たちの増減は、上の政治の流れを読むうえで見逃すことのできない案件なのだ。

 だからこそ、俺はこうしてルキアーノファミリーの頭目である爺さんに、貴族の来訪があることと、それの対策について相談しようとその所在を尋ねたわけだが。

「おや、耳が早いですね若。ブン屋に雇われているあの小僧あたりから聞いたんですかい?」

「えっ?」

 ハウェルグから帰ってきた言葉は、俺が想定していない――すでに貴族が来ることを知っているというものであった。

――レイファンの情報収集能力をもってしても、土日を潰さねば集められなかった極秘情報を、情報収集とか小細工が苦手なうちの組の連中が知っているなんて、明らかにおかしい!? いったい何があった!?

 そんな風に、目を白黒させる俺が哀れに思えたのか、昨夜の儲けを帳簿に記載していたノルドが眼鏡の奥の瞳に苦笑をうかべ教えてくれる。

「どうやらその貴族さん、うちのドンと昔なじみみたいでしてね。今応接室で会っておられるところですよ?」

「な、なんだとぉおおおおおおおおおおお!? 貴族と秘密の密会だなんて。とうとう爺さん……山吹色の菓子に手をっ!?」

「いや、賄賂とかじゃないんで安心してください」

 というか、うちに貴族を動かせるだけの金があると思っているんですか? といって、見事に赤字ばかりが並んでいる店の帳簿を振って見せるノルドに、俺は思わず黙り込む。

 ガキの頃から知っているが、ルキアーノファミリーの主な収入源である、違法醸造酒をふるう酒場《魔弾の射手》の台所事情は、万年火の車状態であった……。


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