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異世界厨二病少年~S O U J I~ぶっ殺すべき悪者さがして異世界へ  作者: 実時 彰良
前編≪異世界召喚された英雄厨編≫(第1話~第30話:116.765文字)
7/50

007.雇われ勇者じゃいられない

 渦に飛び込んだおれたちは、宇宙遊泳みたいに重力の干渉を受けずにくるくると回り続けた。


 ハゲマッチョは左脇におれの胴体を抱え込み、アデルはおれのパーカーの背中をひっぱり続ける。おれがもがくたび、力が加えられ三者ともに回転する。運命共同体。


 暗闇のなかで砂金めいた無数の煌きがはるかとおくの行き先を照らしていた。筒状に伸びたトンネル構造。おれたちはそこに向かって飛ばされている。


「てめぇ調子にのるな」


 おれは右手に握っていた四神剣をでたらめにふるった。


 切り裂かれた闇。剣先に白いすじができる。おれらを引っ張り続けるすさまじいスピード。白いすじのむこうにあるものを見る前にすっとばされた。


 ハゲマッチョが余計なことをするなとばかりに、おれの身体を乱暴にゆすった。されては困ることを、おれにされそうになって苛立っているのだ。


 おれは確信した。さっきの白いすじ。四神剣で闇を切り裂けばこの無重力トンネルから地上に出られる。おれはアデルを連れてここからオサラバするぜ。


「さっさと離せ、このストーカー野郎!」


 右手に握った四神剣の切っ先を、おれを左脇に抱えたままのハゲマッチョの背中に向けた。


「ぶっ刺すぞ!」


 勘がはたらいたのかやつはそれを背中越しに睨んだが、おれを放すつもりはないらしく鮫のような歯を剥き出しにするにとどまった。背筋が寒くなる。


「お前が悪いんだからな!」


 おれは恐怖を胸に閉じ込め、勢いよく剣先をやつの背筋にぶっ刺した。野獣の悲鳴。おれはおかまいなしに剣をできるだけ深く突き立てた。


 闇に散らばる砂金に照らされた飛び散る紫色の血液。皮膚がやぶれ筋繊維が断裂し、刃がハゲマッチョの内臓に達する寸前、やつは痛みに負けておれを放り投げた。


 質量の違いに対して吸い込まれる力が比例しているのか、ハゲマッチョはおれたちの数メートル先まですっとび、おれたちと距離ができた。


 ハゲマッチョが何がしかの魔法詠唱をはじめた。かすれた金属音みたいな声。バチバチと放電を繰り返し闇の中が昼間のように明るくなった。ハゲはエネルギーを溜めている。すぐには魔法を繰り出さない。


「勇者さま!ここは私にまかせてください」


 アデルがおれの背中につかまりながらも杖を掲げ、なにやら魔法詠唱をはじめる。このままじゃ納屋での爆発みたいなことがおこりかねない。魔法と魔法をぶつけてはだめだ。


「あいつの相手はおれがする!」


 おれは四神剣を構え、でたらめに斬撃をとばす。


 とばしたつもりがなにもおこらなかった。なにかしらのエネルギーが剣から放出されるかと思ったが結果、なにもおこらなかった。おれはバカみたいに剣を空振りしただけだった。この世界における勇者の剣はそこまで都合よくないってか。


 瞬間、光った。世界が。


 ハゲマッチョの繰り出した魔法。


 光のあとをおっかけて音と衝撃。爆風でおれらは飛ばされる。怪我はない。おれは視界に広がるエメラルドグリーンの膜に気づく。アデルが急ごしらえで生み出した障壁魔法。この空間で魔法に魔法をぶつけたらまずいとアデル自身が理解してた。


 光がうせて再び暗闇の世界。


 ハゲマッチョが目の前にあらわれた。さっきの魔法は攻撃ではなく、おれたちとの距離を縮めるための起爆だったわけだ。ロケットハゲ。こいつ頭は悪くない。


 無重力空間でおれはハゲマッチョを蹴り飛ばす。右足をつかまれる。しまった。おれは残った左足でやつの股間を蹴り飛ばす。やつも男だった。やつにそれを使う相手がいるかどうかは知らない。だがやつはお宝を蹴られて悶えた。おれの右足を離すほどに。


 おれは好機を逃さなかった。


 右手に握った四神剣をどこぞの暗闇に突き立て、ブレーキをかけるイメージをした。四神剣がぶっ壊れるかもしれない。それならそれでいい。おれはアデルとともにここを出る。


 刃先の三分の二が暗闇の壁に埋まり、速度が落ちた。さすが勇者の剣。


 四神剣の突き刺さった軌跡に沿って白いすじが長く大きく開く。まるでそれは怪物の口の中。


「アデル!出るぞ!」


 おれとアデルは白いすじに手を触れる。そして向こう側へ吸い込まれるようにして暗闇トンネルから抜け出した。


 暗闇トンネルから成すがままに飛び出したはいいが、手足をばたつかせても地面はなかった。


「これはまずい!」


 そう。放り投げられた先、そこは空中だった。


 すぐそこに月光。眼下には高度百メートルからみる真夜中の森。数秒間がスローモーションにかわる。


 無重力状態から脱却し今度は重力が脅威へとかわる。おれたちは頭から落下してゆく。真っ黒い木々が眼下に迫る。落下、落下、落下。


「わわわわ!!!死ぬー!!!!」


「勇者さま!」


 アデルが魔法詠唱し重力が消滅。おれらは木々に激突せず、空中で漂っていた。これまたエメラルドグリーンの膜。まるで絨毯みたい。おれらはそこに乗っかっていた。


 ふわふわと絨毯は上昇。おれたちが出てきた場所まで。


 空中にできた裂け目はまだ閉じない。その向こう側、闇の世界からハゲマッチョが魔法詠唱したあと爆風にのって追ってくるのが見えた。さっきと同じ方法だ。


 おれは四神剣を振りあげる。


 裂け目から飛び出そうとするロケット型ハゲマッチョの額を割ってやった。紫の血しぶきが飛び散る。嫌なにおいのする血液だった。


 やつは暗闇の底へ消えていき、空間の裂け目は消滅した。おれは息を切らせながら小刻みに震えていた。たぶん武者震い。



 森の中にいるおれたち。


 アデルの魔法でできたエメラルドグリーンの絨毯には発現できる時間制限があるそうで、おれたちを地上に降ろすと消滅した。


 おれとアデルは黒い樹木の下で一息ついた。最初この世界にきたときと同じ樹。黒い林檎がそこかしこに実っている。腹が鳴った。


「勇者さまの首にマーキングがしてあります。おそらくこれを辿って悪魔憑きのオークがやってきたのでしょう」


 たしかに、おれの右首筋に黒い痣のような文様がうっすらみえる。アデルは手をかざし眩い魔法でそれを取り除いてくれた。


 そういえば森でハゲマッチョに襲われたとき首を絞められそうになったもんな。あれはおれを絞め殺そうとしてたんじゃなくてマーキングしてたのか。だとすると、あのハゲは最初からおれが勇者であると知っていて、さらに逃げることも想定していたということになる。


 おれって一体なんなんだ。この世界にとっておれはどんな存在なんだろう。


 謎が多すぎる。国王さまはこのおれに、何もせず贅沢な暮らしをしながら時間つぶしをして時がくるまで待てといった。


 さっきは国王さまの申し出に同意しかけたけど、おれはいま世界の仕組みをしらないままその歯車に乗せられようとしている。それはおれがなりたかった自らの意思で善をなすヒーローでなく、世界にとって都合のいい装置としての勇者にすぎない。おれが欲しいのは称号じゃない。


 これでは元にいた世界と同じだ。ちょっとだけ長くなるがおれが元の世界に対してどう思っていたか語らせてくれ。


 おれが昨日までいた世界。それは欺瞞に満ちた世界だった。


 生きる意味も分からず生をうけ、学ぶ理由も知らず学ばされ、成長するにつれ夢や人生の目標が見つからなければ人としてダメだと大人たちからいわれる。夢や目標が見つかっても、実現性に乏しかったり将来性のないものであれば、さらにダメだしをくらう。夢や目標って定規や軽量機で測るものなんだろうか。それって夢って言えるか?大人に気を遣って設定する目標になんの意味がある?


 夢、人生の目標とはなんだろうか。おれは考えた。


 中学にあがって間もないころ周囲の大人たちを観察すれば、その答えが出ると思った。親父は家にいないので他の大人たちを観察した。程なくしておれは欺瞞に気づいた。あれほど子供に求めておきながら、夢を追い続け人生の目標を達成している大人などほんの一握りだったのだ。生活のための労働。愚痴にまみれた毎日。生きることは、世界からあらゆるものを一方的に搾取されるだけの悲劇なんだと大人たちは背中で語っていた。


 おれは大人たちに絶望した。人生のゆく先は体よく歯車になることなのだと気づいた。そして嘘つきな大人たちみたいにならないように、損得関係なしに自分の思うがままなりたいものは何だろうと考えたとき「ヒーローになりたい」と思ったのだ。


 本物の夢と目標を見つけたおれは、はじめて自分を誇らしく思った。


 最初のヒーロー活動は中学二年生の春だった。教師が見て見ぬふりしていたいじめを不良相手に拳をつかってとめた。校内暴力を一掃すべくクラスの不良と殴りあったこともあった。高校にあがってからはナンパ男とチンピラを成敗した。どれも街の連中が見て見ぬふりした悪だった。


 法律にのっとった正義を代行するなら検察や警察官を目指していただろう。だがおれがなりたいのはヒーローだった。社会の仕組みに縛られることなく平等にどんな悪をも裁く、正義のヒーローになりたいと思ったのだ。縦社会の権力や民事不介入なんて関係ない絶対的正義。これは国家権力ですら遂行できないことだ。


 おれは元の世界にいた大人たちのようになりたくない。理由すら聞かされないまま、雇われ勇者になどなれない。勇者が正義ならば、納得したうえで正義を遂行したい。


 何も考えず勇者になるならば、おれは元いた世界の大人たちと変わらぬ歯車に過ぎない。だから…。


「さぁ、リンゴン王国に戻りましょう、勇者さま。だいぶ離れてしまったので契約済みのグリフォンは呼べませんが移動手段は他にもいろいろ…」


「ごめんアデル。今のままじゃおれは戻れない。いろいろと話を聞かせてくれないか」


 アデルは驚愕したが、おれの言いたいことがすぐ伝わったようだった。

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