表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
異世界厨二病少年~S O U J I~ぶっ殺すべき悪者さがして異世界へ  作者: 実時 彰良
前編≪異世界召喚された英雄厨編≫(第1話~第30話:116.765文字)
20/50

020.おれの…秘められた力が…覚醒する

「なら小僧…お前から食ってやるわ~!!ぎょひひひひ!!!!」


 魔族エルフの膝蹴りがおれの腹部を射抜く。四神剣を構えながらおれは腹筋に力を入れたが四メートルほど吹っ飛んだ。


「創司さま!」


 アデルの叫び。


「アデル、逃げろ!こいつはおれが仕留める!!!」


 建物の瓦礫の上に落下したおれは、なんとか立ち上がる。


 立ち上がったが脇腹に鈍い痛みが走った。吐血。今まで生きてきて最多の出血。がばがばと水のように鉄くさい血があふれ出し地面に跳ね返った。


(マジかよ…こりゃまずい…)


 まるでトラクターに吹っ飛ばされたような痛み。おそらく肋骨が折れて内臓に刺さっている。急に寒気と吐き気に襲われる。鈍い痛みが肺や胃袋に網のように絡まって離さない。また吐血。これが痛みか。魔族による攻撃か。普通じゃない。


「戦いの最中によそ見しちゃダメだろ~ぎょひひひ」


 魔族エルフがおれの目の前にいた。恋人同士みたいな距離。


「いただきま~…」


 ガシャンと鉄と鉄が噛み合わさる音。鋭い牙によるトラバサミじみた噛みつき。


 おれは避けた。


 紙一重で避けた。つもりだったが四神剣を構えていたおれの左前腕の一部が肉ごとごっそりもっていかれてた。血管や神経が一瞬見えたが夥しい出血でそれらはすぐ見えなくなった。


(左腕がまったく動かない…腱ごともってかれたか…くそっ)


 おれは右手だけで四神剣を握る。魔族エルフは何度も何度も噛み付く。


 使い物にならなくなった左腕をだらんとさせ、おれは避ける。やつは噛み付く。避ける。出血多量で目がかすむ。頭がぼうっとする。おれと魔族エルフは意味のないダンスを踊り続ける。


 やがて路上に放り出されていた建物の残骸に躓き、右手に四神剣を握ったままおれは転んだ。


「ぎょひひひひ…小僧…もう終わりだ」


 おれの元まで歩み寄る魔族エルフ。


 やつの両手から伸びた刃物のような長い爪が太陽光を反射する。おれを八つ裂きにするべく甲冑の金属音とともに肉の腐ったような臭いが迫ってきた。


(まずい…このままじゃ殺される…いやだ、死にたくない…死にたくない…死にたくない)


 恐怖がおれの中を駆け巡る。あの爪で串刺しにされおれは殺される。


「創司さま!!!!」


(いやだ、死にたくない…死にたくない…死にたくない)


 向こうからアデルの声。


(いやだ、死にたくない…死にたくない…死にたくない)


 アデルの方を振り向く魔族エルフ。


「ぎょひひひひ!お嬢ちゃん、この小僧より美味しそう!いただきま~す」


 魔族エルフはおれに背を向ける。


(助かった…)


 死を前にしたおれは動物的感覚レベルで、魔族エルフが自分以外のものに興味を示したことに安堵した。


 そして一秒もしないうちに、その意味を脳で理解し自分を恥じた。


(このままじゃアデルが食われるぞ!なに安心してやがる!クズはおれ自身じゃないか!!!)


「おっぱいから食べようかな~お尻や太股かな~ぎょひひひひ…」


 錆びた金属音みたいな声。やつはアデルに恐怖を与えて楽しんでやがる。


「やるならやりなさい!」


 アデルの一喝。こんな厳しい声聞いたの初めてだ。強いな、アデル。


「やめ…ろ」


 どうした、おれは勇者だろ。動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動け、動くんだ。


 ちくしょう、動け!おれは勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、勇者だろ、!!!!!


 英雄だろ!!!!!



「おい、悪魔憑きのエルフ!!!!」


 吐血。おれは恐怖と痛みと、情けなさと怒りと絶望と狂気に支配されながら立ち上がった。涙でぐしゃぐしゃの視界。


「おれは伝説の英雄だ…き、きさまは、おれを目覚めさせた…」


 がくんがくんと糸の切れた人形のように一歩ずつ前に進む。相変わらず吐血が止まらない。咳き込むように真っ赤な鉄くさい血液を吐く。


「お…おれの、秘められた力が、い、いま…覚醒する」


 左腕は骨が見えていた。右手だけで四神剣を構える。向こうでアデルがおれに何か叫んでいた。


 魔族エルフが、ぶんっと右手を振る。とんでもなく軽やかに。邪魔な蚊をはじきとばすように。おれは簡単に吹っ飛ばされた。冗談のように簡単に。ゴミのように。


 建物の壁に背中を打ちつけおれは血を吐く。ねずみ色のパーカーはやつの刃物じみた爪で四本の長い線が入り、じわりと血が滲んだ。


「おれの…秘められた力が…」


 うつ伏せて倒れるおれの元へ飛んできた魔族エルフが、ずたぼろのおれを蹴り上げる。醜悪な顔を歪め笑ってやがる。おれは地面に落下。


「創司さま!!!」


アデルが魔族に飛びかかったが、彼女は弾き飛ばされた。アデルに手を出すな!醜悪な魔族め!


 おれは何とか立ち上がる。震える右手だけで四神剣を構えた。


「お、おれの力が覚醒する…」


 息が荒い。都合よく覚醒なんてしなかった。息をしてるのがやっとだった。生きてるのが不思議だった。いっそのことラクになりたいと思い始めた。左腕からも口からも大量の血液が水のように流れ出ている。


 頼むから…


「おれの力…覚醒…」


 呪文のようにおれは口ずさむ。ガキの頃から今までずっと好きだったヒーローたちみたいにピンチになれば覚醒するはずだ。そうだろ?おれがヒーローならば、選ばれた勇者ならこんなやつにやられるわけがない。


 頼むからおれの真の力よ…


「覚醒…」


「ぎょひひひひ!!!」


 おれは魔族エルフに何度も蹴り上げられた。サッカーボールみたいに。下半身の感覚がない。脊髄が折れたのかもしれない。


「ぐあっ」


 蹴り上げられながら血しぶきが青空に散っていくのが見えた。だが四神剣だけは離さない。これは勇者の証なんだ。


 蹴り飽きた魔族エルフ。おれは再び地面に落下。


「う…うなれ…四神剣」


 仰向けのまま右手の四神剣を青空に翳す。伝説の勇者にしか扱えない四神剣よ、輝け!!!


「四神剣よ…」


 太陽に照らされる水晶のように透き通った刀身。百合の花を思わせる鍔の中央には宝玉が埋まっていたとされる穴がポッカリと開いていた。身体中が震える。涙が視界を揺らす。


 おれは昨夜のアデルの言葉を思い出した。


「もともとその四神剣はバラモーン帝国が皇帝キビノス十三世さまの持ち物でしたが、数年前のある日、鍔にはめられた宝玉と四神剣が二つに分離し、四神剣だけが遥か遠い地リンゴン王国へ飛んできたのです」


(宝玉がないと…ダメか)


 ならば宝玉を呼び出そう。頼むきてくれ。もう一度呟く。


「か…かがやけ…四神剣…」


 だめだ。応答がない。やはりヒーローなんてムリなんか。すべてはおれの思い込みだったんだ。おれは英雄なんかじゃない…おれは…


「ぶつぶつ何を言ってやがる小僧!ぎょひひひひ」


 魔族エルフが見下ろす形でおれの顔面をゆっくりと左手で引っかく。刃物同様の爪がおれの顔右半分を切り裂く。飛び散る血。


「ぎゃあああああ!!!」


 おれの右目が潰れる。焼印を押されたみたいに顔の右側が熱くなる。おれは痛みのあまり右手に持った四神剣を離し顔を覆った。


「お嬢ちゃんを犯して食ったらまた遊んでやるよ、ぎょひひひひひ」


 魔族エルフがおれに興味を失いアデルの方へと踵を返す。



 おれはうつ伏せの体勢のまま、残った左目だけでアデルの方を見た。


「来るならきなさい…悪魔憑きめ」


 さっき魔族エルフに吹っ飛ばされたアデルは、なんとか立ち上がり…アデルは…、アデルはマナの果実を齧ろうとしていた。


「もしそれがダメでも創司さまや町の方々をお守りする方法は一つだけありますから」


 あの時のアデルが言ってたのはこのことか。


「私がマナに汚染された場合、苦しみながら死に至るまでです」


 こうも言ってたよな。アデル、まさか死を覚悟なのか。


「ダメだ!アデル」


 仰向けのままおれは叫ぶ。肺が潰れて声が思ったよりでない。何かのうめき声にしか聞こえないだろう。ただ、吐いた血が霧のように舞った。


 その時、向こう側の半壊した建物の脇に衛兵たちの姿を見た。


 町民らを避難させ終えたとおれに伝えようとして顔を出したのだろう。六人の衛兵。あのジャイアント族のグレゴリーもいた。


(そうだ…あの能力を使えば)


 おれは仰向けのまま霧のような血を吐き、かろうじて動く右手をあげ、グレゴリーを呼ぶしぐさをした。


 衛兵たちは自分を呼ばれたのではないかと困惑し互いの顔を見合っていたが、グレゴリーのやつは何を言わんとしているか理解してるようだった。


「ぼくの時間遡及(プレイバック)は一日、二回しかできない!しかも五分前が限界だ!」


 充分だ。おれはそういう意味を含めて右手親指を立てる。


 五分前。


 おれがまだダメージを食う前か、おそらく魔族エルフがおれの腹部を膝蹴りしたあの瞬間かもしれない。いや、どうだろうか。衝撃を食らった直後かもしれない。時間感覚など麻痺していた。


「いまより動けるなら…いいじゃないか…」


 おれは呟く。


 今回がマナの果実を齧り魔力を得てから初の実戦だが、おれは魔族エルフに圧倒され魔法攻撃すらできなかった。魔法で身を隠す余裕もなかった。バカみたいにただひたすら手持ちの四神剣で対抗しようともがいていただけ。


「この世界での戦い方に…順応しないとな」


 とはいえ魔法攻撃をするにも、ついさっき覚えたての付け焼刃。悔しいがおれは数時間で自在に操れるほど才能ある使い手ではなかった。「火」はボウリング玉サイズだし「闇」による攻撃は取得していない。おまけに魔族エルフは使えるはずの魔法攻撃を一度も繰り出してない。やつの実力はいかほどか。


「くそ…息ができない」


 心臓の動きが鈍くなってきやがった。大量出血に内臓損傷。戦う以前に命の灯火が消えようとしている。


「いきますよ!時間遡及(プレイバック)


 グレゴリーが叫ぶ。おれはやつが発動した虹色のカーテンに包まれた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ