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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第四章 大天使の聖骸神殿
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94話 化石掘りと喧嘩

「掘れぇぇぇぇ化石見つけるんじゃぁぁぁい」

「ほいさー」

「新種の化石は最低でも一つ報酬10DPじゃぁぁぁい!」

「ほいさーですっ」


 今は真冬も真冬。

 久しぶりの晴天に恵まれたある日のこと。

 ブレーキ役のクリスタルがいないことと、治療で魔法を使えない鬱憤からの戯れである。


「して、ぬし様とメアとリンネルは何をしておるのじゃ?」

「化石発掘だ。見て分からんのか!」


 いつかの雪集めの次は化石採取である。

 この山脈は凍緑石フフリアに閉じ込められた古代の魔物が、化石として見つかることがあるらしい。

 高層に近づくほどフフリアが多いと聞いたが、空振りばかりで一つも化石が見つかっていない状況だ。

 さらにバルは一人で修練、クリスタルとアカボシは絶賛移動中である。

 そのため痺れを切らした俺は、上級眷属の配下と土属性魔法を扱える者を半強制的に招集した。といってもミ=ゴウには化石よりも銀や鉱物などを掘らせている。

 この旨を、暇を持て余しているロリババアことスイレンに説明した。


「なるほどのう……フフリアなら、そこにあるじゃろ?」

「えっ、マジで!?」


 するとスイレンが指した方向を注視すると、1cmほどのフフリアが絶壁に埋まっているのを発見できた。


「儂は氷を色で見分けられるからのう。フフリアは魔鉱ではあるがある意味で氷のような物じゃ、リンネルよ」

「はいですっ」


 スイレンの指示に従って、リンネルが魔法で穴を掘る要領で岩壁に横穴を空ける。

 それは雪崩や落石に注意しての摘出手術のようである。


「とれましたっ!」


 リンネルによって取り出された岩石ほどのフフリアは、重量に従って落石する。

 俺達はそのフフリアの下へと急ぎ足で向かうと。


「ほう、どうやら当たりじゃな」

「凄い、初めてですよっ!」


 フフリアの中には、二足歩行の巨大針ネズミがいた。

 ラットマンの変異種だろうか? 正直言って不気味だ。

 しかしこれが俺達の最初に見つけた化石である。


「よくやったぞ、スイレン! 報酬はスイレンとリンネルで、7対3ってところか?」

「儂はいらぬぞ。これはたしかに儂が発見したが、発掘したのは紛れもなくリンネルじゃ。全てリンネルに譲ろうではないかのう」

「ス、スイレン……」


 リンネルが感涙している……リンネルは計算できないくせして欲しい物がありすぎるため、一番DP欲しがっている。

 こうしてスイレンは、見た目はともかく年長者の部類に入る。

 怪我をしても気前よく回復魔法で癒して上げたりと、召喚されて二日目ではあるが、他の眷属と馴染めている。

 まあこいつはこいつで交流を名目に、ティアルに第三階層の整備を任せっきりでいるけどな。


「まあリンネルに送るのは一つだけじゃ。氷の自動人形(アイスパペット)よ」


 するとスイレンの周囲の雪から顔無しの人間大の氷の彫刻が十体ほど出来上がる。


「儂に代わって働くのじゃ」


 スイレンも現場監督なのか俺の隣へと立つと、氷の自動人形が命令に従ってガタガタと音を鳴らして発掘作業を開始する。

 それはベルクハイルのカリアッハが使っていた氷属性魔法であった。

 この青の魔女(カリアッハ)のスイレンは、ベルクハイルのカリアッハと同じ氷属性魔法を使える点では同格である。

 しかしスイレンの幼児体型では身体能力が圧倒的に劣る。

 それでもスイレンには光属性の回復魔法に特化した能力で召喚したため、実力は同じくらいだと思いたい。


「総合的に見て、カリアッハよりも役に立ちそうだしな」

「儂はまぁなんじゃ。青に補色を混ぜた薄花の魔女(カリアッハ・ヴェーラ)だからの」

「……何の色だよ」


 魔女と呼ばれる魔物と色には密接な関わりが深い。

 それは各々の属性を、火なら赤や橙、水なら青や緑と勝手に呼称する可笑しな習性がある。

 おかげで俺はいつか淫乱ピンクの魔女が見たいのだが、パンダといえば笹が出てくる感じで、魔女には自身を表現する色が必要らしいのだ。


「薄い藍色のことじゃ。睡蓮(わし)にぴったりじゃろ?」


 にひっと特徴的な八重歯を見せる。

 その時、雲に隠れていた太陽が顔を出した。

 太陽の光によって反射される氷の彫刻たちは淡く輝き、まるでスイレンに後光が差しているようにも見える。


「ああ、記憶から消えないほどに綺麗だ」

「ほう、褒め方を弁えているようじゃな。じゃが儂はそこいらの小娘のように簡単には堕ちんぞ」

「(誰が堕とすかババア)」

「む? 何か言ったかや?」

「言ってねーよ。それよりもさっさとフフリアを見つけてくれ」

「ったくのう、主様は人使いの荒いお方じゃ」


 そういってスイレンは俺に代わって発掘作業の監督になり、眷属全員に適格な指示を出していた。

 後ろから見えるスイレンの横顔が、楽しんでいるように見えたのは俺の勘違いではないはずだ。

 そして三日間を使った念願の化石掘りは、スイレンの独占で終わり、合計7つの新種が4体の結果となった。

 どれもダンジョンの兵士として使い道のない魔物ではあったが、調度いい息抜きができた。


◇◆◇◆


 最下層の始まりの部屋。

 ダンジョンとそのマスターは、いつものように二人だけの運営会議である。


「そっちはどうだ、クリスタル?」

「明日に学術都市へ到着するでしょう。ベルクハイルの消滅した今、山脈の魔物も組織立って行動せず、移動も大分しやすかったです」


 クリスタルが移動をしてから七日目。

 クリスタルは案内人の村に到着すると、リンネルとバルの二人を村へと残して先に行った。

 どうせバルは一人で篭っての修業中であるため何処にいても関係ない。リンネルには中層で見つけた食べられる植物を、村人でも栽培できるよう指導にあたらせている。


「そっか、スイレンの第三階層の方も順調か?」

「はい、だいぶ兵力も集まり階層完成に近づいています」


 ダンジョンの階層完成と言えるのには、三つの要素がある。

 それは階層主と兵士と防衛環境である。


「このままでは一番に階層が完成するのが、第三階層になるな」


 スイレンの魔法によって作られる氷人形は、その数が二〇〇体を超えている。

 対価がスノーマンの魔石と意外に安いのもありがたい。


「第一階層の墓地は階層主の不在。第二階層の迷宮は迷宮自体が未完成。第四階層の農園は兵士と環境の不足。第五階層の居住区に至りましては、階層主も兵士も防衛環境もまだですからね」


 アカボシはマナーの家で番犬になっているが、あれは独立戦力であって眷属もミカしかいない。

 そのミカですら、雪原エリアの兵士となっている。


「多分今、冒険者に見つかって大規模攻略が始まれば……」

「防衛失敗となりますね。その時は、死後の世界も旅をしましょうね」

「……縁起でもないことを止めてくれ」

「失礼、笑えない冗談でしたね」


 クリスタルの特性上冒険者に存在が見つかれば、俺が外に出てクリスタル自身を守らなければならない。

 そうなるともし何らかの原因で侵入でもされると、眷属だけでダンジョンを守ってもらわないといけない。

 これが人型ダンジョンの最大の欠点である。


「ということで、さっさとアカリヤを上級に進化させよう」

「同感します。第一階層はダンジョンの玄関ですからね、まともな(・・・・)階層主でないと務まりません」


 軽くメアとリンネルを指摘している風にも聞こえるが、俺も概ね同意している。

 だってあいつら子供だもん。

 ここはしっかりとした大人に状況分析や侵入者の戦力把握を、いち早く全階層主に報告してもらいたい。


「メアとアカリヤ……ついでに因縁対決としてスイレンも呼んでおこうか」

「もう少し別の言い方がないものですか」

「失礼、ユーモアが欠けていたようだな」


 そしてクリスタルは今いるダンジョンを守護する幹部たちを招集する。



「ほほう、久しぶりに来ると分かる。やはりおうらを感じないかのう?」

「ええ、アンデッドのわたくしでも、神聖という意味を理解できますわ」


 ウリィはしょっちゅうここに来て暴れているけどな。

 およそ一ヶ月経って完治したアカリヤは、カリアッハのスイレンとともに最下層の重々しい空気に緊張する。

 そういえば、アカリヤは召喚眷属ではないためここに来るのが初めてだ。


「ん、ここが私たちの、命に代えても守る場所」


 メアが強い決意を持って言うが、ここまで来られる奴とこんな狭い空間で戦う時点でほぼ敗北である。

 また居住区とリンネル農園は生産拠点でもあるため、なるべくそこで戦って欲しくはない。

 つまりはここにいる三人で、侵入者の足止めをしなければならない重要な役目を負う。

 勿論独立戦力のアカボシとバルにも活躍してもらうが、階層の指揮官はあくまでその三人に一任することを説明する。


「ということだ。そのためにもアカリヤ、お前には是非上級に進化して欲しい」

「……」


 アカリヤがダンジョンマスターの俺の願いでも、無言のままでいる。

 やはりこうなるか。

 アカリヤにはベルクハイルを倒す前から上級にすると言っていたが、その時も言葉を濁していた。

 てっきり火の球モードでまともに返事ができないのかと思ってはいたが、これで得心が行く。


「お前、メアに遠慮しているな?」


 メアの階級は上級である。

 アカリヤもこの機会で上級に進化すると、位階は違えど格は同じになる。


「……はい。いくら力を得ようとも、メアメント様と同じ階級になるのは気が引けますわ」


 アカリヤはバツの悪そうな顔をして、ただ地面を向く。

 魔物の階級は強さを表す物でもない。

 魔物としての、魂の器を測る物である。

 なので眷属化も階級が同じか下の者としかできない。

 今回アカリヤが進化することで主と同じ地位に登り、器の大きさがその主以上であった場合は、自動的に眷属化が解除される恐れもある。


「わたくしのことなら構いません。メアメント様でしたらすぐに天災級へ成長なされるでしょう」

「……駄目だ、これは命令だ」

「ッ!?」


 俺に命令だと言われ、アカリヤの炎は大きく揺らいだ。

 切れた眷属の繋がりは二度と元には戻らない。

 メアと位階に差があろうとも、アカリヤとでは年期が違う。

 年齢も、戦闘経験も、アカリヤの方が大きくメアを上回っている。

 もしメアにアンデッドが崇拝する死属性が無ければ、アカリヤも絶対の忠誠を持っていないだろう。それほどメアは精神面では未熟なところがある。


 それでもアカリヤが最もアンデッドの中でメアの死属性を抜きにしても、メアに並々ならぬ思いを持っていることは分かる。

 それは忠臣であればあるこそ、陥るジレンマである。

 恐らくだがベルクハイルの忠臣であった、スヴリーも陥ったことだ。

 俺達の人為ダンジョンで考えるが、ベルクハイルの持つDPであったならばスヴリーも天災級に復帰することが出来ていたはずだ。

 しかしそのような忠臣の願いは、言い換えれば主人に対する不敬となる。


「私のこと、舐めてるの?」

『ア゛ア゛ア゛ア゛』


 本気の殺意である。

 メアの周囲にはどす黒いゴーストが、メアを飲み込まんとするように大きく口を開けて纏わりついている。

 それは俺でも初めて見る魔法であった。

 メアの奴、また魔本の解読できるページ数を増やしたらしい。


「い、いえ、舐めてはおりません! ただ万が一の場合はございますわ。メアメント様こそ、ご自身のことを見つめ直されてはいかがでしょうか?」

「む、まだ言うか!」


 メアの怒号と共に、ゴーストがアカリヤへと襲いつく。


「それですわ!————火色舞踊・三色!」

「っ!?」


 しかしゴーストは、あっけなくアカリヤの炎に焼かれて消え失せてしまう。

 軽い挑発によって、階級差もある部下に手を上げる。

 それもその部下によって簡単にあしらわれる。

 これでは主としての面子がズタボロである。

 メアはその面子を覆すために恥の上塗りとは気付きもせず、今のは本気ではないとしてもう一度攻撃を仕掛ける。


「三頭獣の悪霊」

「五色ッ!」


 一体で駄目なら三体を。アカリヤもメアのゴーストを見て火球の数を増やす。

 珍しい組み合わせによる喧嘩である。


「ほう、愉快なものよのう。儂もアカリヤほどの忠臣に恵まれたいものじゃ」

「何なら外へ出て仲間探しにでも行くか? 調度ここは雪山だしな」

「それもよいな————氷晶結界」


 スイレンが俺の傍まで寄ると、もしもの場合に備えて勝手に結界を張る。

 俺も治療中で魔力を流せないため非常にこれは有り難い。

 そこらへんを自発的にやってくれるスイレンは、やはり小娘とは違うところである。


「観戦していても大丈夫なのでしょうか?」


 クリスタルがメアとアカリヤの白熱し始めた戦いに不安を抱く。

 メアの母親役をしている手前、娘の暴走は見過ごせないのだろう。 

 しかし一応渦中の二人はダンジョンコアから徐々に離れて交戦しているため、クリスタルもダンジョンコアのことは心配していない。


「やらせておけ、ああやってアカリヤもメアを試しているんだろ。ほれ、スイレン」

「そうよのう、アンデッドの寿命は無限に近し。言葉で伝わらぬ想いは、さっさと直接ぶつけるのが良い。お、さすが主様は分かっておる、くく」


 というか、他人の喧嘩は見るのが楽しい。

 俺は災厄祓いの入った酒瓶を地面から取り出すと、スイレンと二人で楽しむことにした。


「これで何か有りましたら責任、取ってくださいね!」


 ここにも珍しく怒ったクリスタルが現れたが、どうやら二人の喧嘩の許しは出た。

 これで止める心配もない。

 二人の経過を見守ろうではないか。


「ですけど飲酒はこれで終了です!」

「あぁ……」

「およよ……」


 酒瓶は没収されたけど。




 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:320,159→320,105(移動費、化石報酬など)

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