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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第四章 大天使の聖骸神殿
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93話 薄花の魔女

 ここは最下層の始まりの部屋。

 ルオットチョジク改めてティアルを正式に仲間に加えて親睦も深まり、ダンジョンの内外も大分平穏を取り戻したころ。


「今日って何日だっけ?」

「山脈を登り始めたのが桃月の31日でして、あれから紫月を超えて、今日が紺月の2日になりますね」

「……………………」


 長い長い沈黙のあと、俺はとてつもない過ちに気づいた。


「俺達って死んだことになってね?」

「……かもしれませんね」


 山脈に入っておよそ50日間も音沙汰がない。

 さすがに俺が10日も眠って足止めをさせていたにせよ、そろそろ冒険者ギルドに顔を出さないと余計な心配を掛けそうだ。

 俺達の目的は、一にダンジョン攻略、二に四ツ星冒険者へ昇進することである。


「クリスタルっ! 今すぐアカボシに乗って案内人の村と学術都市へと帰還してくれ!」

「かしこまりました!」


 アカボシを使っても高層からのため、片道に10日は必要だろう。

 珍しくクリスタルも焦った様子で準備を開始する。

 といっても、ここのクリスタルは依然として俺の傍に控えている。

 因みに衣装は銀糸のドレスと、母親(ルシナ)への嫌がらせも兼ねてちょっと対抗させてみた。

 クリスタルの方が何となく見た目は若い!


「第二転移門の設置場所は変わらずに?」

「今回は氷河洞窟の最上階に置いといてくれ」

「承知しました」


 この氷河洞窟は、ダンジョンマスターであるベルクハイル亡き後も保存出来ている。

 それはこの高層が万年気温の低い極寒の地であるため、氷で作られたダンジョンは物理的に衝撃や猛暑で破壊されない限りあり続ける。


「まぁそれはそれとして、早速久しぶりの魔物召喚をしますか」

「随分と楽しいそうですね」

「そりゃ上級だ! 戦力としても、階層責任者にしても、俺の怪我を治すためにも大事だからな」

「腕は元に戻りましても、魔力の方は一向に回復しませんからね……」


 クリスタルの言う通り、なんと俺の腕は生える!

 一ヶ月もすればイモリのように完璧に生えてくるのだ。

 さすがダンジョンマスターは人間ではない。

 上級中位となったリンネルの甘くねっとりとした黄色い蜜を摂取することで、切断されていた腕が少しずつ伸びた。

 今も切断面はぬるぬるして悪臭も放って気持ち悪いけど、背に腹は代えられない。


「まずはここにティアルを呼んでくれ」

「畏まりました」


 気持ちを切り替えて運営の方を開始する。

 しばらくすると女鹿精霊のティアルが最下層へと到着した。


「ここが最下層ですか、セカイさん」


 頭にトナカイの角、白と茶色の混じったショートヘアー、新衣装として上はポンチョをアレンジした貫頭衣、下はスカートに短パンで靴はロングブーツである。

 これはティアルが報酬の100DPの半分ほどを衣装に費やした結果である。

 本人は気分転換のためだと言っていたが、意外とおしゃれには敏感なタイプである。

 スコップ、寝具、トレーニング用品を頼んだ植物女子どもは見習ってほしいくらいだ。


「今日ここにティアルを呼んだのは二つある。先ずはお前に中級上位へと進化してもらう」

「わたしも可能なんですか?」

「ああ、あの時は雰囲気に流されて後回しにしていたが、ティアルは成長が可能だ。そして光属性を付与できる」

「……ダンジョンマスターとは、やはり凄いですね。是非お願いします」


 妖精種なら基本四属性の次に、光属性か闇属性のどちらかに分類できる。

 だいたいティアルのような人当たりのいい妖精種は光属性であり、ルビカのような人見知りや悪戯好きな妖精種は闇属性である。

 ルビカは我らダンジョンに闇属性が多すぎるので、この際水属性特化の魔物になってもらうつもりだ。


眷属進化(エイヴォル)ッ!!」


 位階進化と属性付与にそれぞれ500DPを払い、ティアルは無事に中級上位の光属性持ち女鹿精霊(ルオットチョジク)へと成長した。


「ティアルのダンジョンでの役割は、あくまで魔力贈与を念頭に置いた補佐だ。それでも光属性を持ったことで、最低限の戦闘能力と回復魔法は持っただろう」


 ティアルは手をグーパーグーパーと動かして、自身の成長を確かめる。


「確かに私の種族特性上、戦闘能力よりも回復傾向に特化しているようです。それでも————聖光ノ矢(ホーリーアロウ)ッ!!」


 ティアルは無手の状態から手を輝かせると、光の鋭い矢が誰もいない場所へと一本放たれた。


「これくらいは出来そうです」

「うお、かっこいい!」


 拍手を送り続けていると、段々ティアルの頬が赤くなって面白い。

 初めて見た魔物による光属性魔法は、どことなく神聖な雰囲気に見えた。

 それはティアルが鹿の妖精であり、まるで神話の登場人物を思い浮かべてしまったのもあるだろう。

 今度半人半馬の状態で変身できないか試してみよう。


「ゴホン、それでセカイ様? もう一つの要件の方を」

「ああ、そうだった。これから俺は第三階層の雪原エリアを任せる上級眷属を召喚する」

「……わたしがその人物の補佐をすればいいのですね?」


 さすがティアル、伊達に二百歳を超えているわけではない。


「理解が早くて助かる。ベルクハイルの下で働いていた知識と経験を活かして、そいつと第三階層を完成させてくれ!」

「お任せください、わたしに出来ることなら喜んで!」


 そしてクリスタルとティアルを傍に控えて、魔物召喚の準備に取り掛かった。


「確認だがクリスタル、第三階層の雪原に適合する上級召喚可能の魔物をリストアップしてくれ」

「承知しました」


【青の魔女 カリアッハ 属性:氷、光または闇】

【聖蛇 フラウ 属性:氷、光】

【雪大将猿 ゲビルゲコング 属性:土】

【絶壁の氷男 ヴァドウル 属性:氷】

【氷人狼 フリストガルー 属性:氷】

【氷大狼 シルバーウルフ 属性:水、風】

【雪大熊 ホワイトベア 属性:水、土】


「以上の七体になります。シルバーウルフに関してはホワイトウルフのミカを、上位進化させることになりますね」


 クリスタルはベルクハイルの魔石から抽出した魔物の情報によって、新たに召喚可能の魔物を増やすことができた。

 といってもベルクハイルはダンジョンコアを持たないため微々たるもので、クリスタルの功績の方が大きい。

 またスヴァジルファリは、元は天災級の魔物だったので召喚は不可能であった。


「どれもベルクハイル様の下にいた眷属ばかりですね」


 もうベルクハイルは倒したことなので、様付けしようがティアルの勝手である。


「となると、やっぱしカリアッハしかいねーな。フラウは光属性を扱えるにしても、蛇だからな」

「えっ、カリアッハは光属性を覚えられるのですか!?」


 ティアルが驚いた反応を見せる。 

 たしかにアカリヤと対戦したカリアッハは氷属性しか使えていなかったが、そんなに驚くことだろうか。


「可能ですよ、光か闇の属性」

「どちらかを選択できる優秀な魔女だ」

「わたしをいびっていたのは、嫉みだったのですね……ハハハ」


 ティアルが少し暗黒面を見せているが、カリアッハを召喚することに反対はないようだ。

 そうと決まれば召喚してみよう、早く魔力を戻したい。

 俺は立ち上がってカリアッハを選択すると。限界値である5000DPをダンジョンコアへと送る。

 イメージとして回復魔法が得意で包容力溢れる別嬪な魔女。

 しかし俺は今さら引き返せない状態になって、あることを思い出す。


「あ、そだ。カリアッハの見た目ってどんなだった?」

「老婆です、と言いますか老婆の魔物です」

「それにかなり巨体の魔女でしたよ」

「何……だと?」


 魔女って言えば、普通はナイスバディで少しエッチなお姉さんだろ。

 アカリヤとの魔法激戦を勝手にいい方向にイメージしてたよ俺の馬鹿野郎!


「あ、魔法陣が現れましたよ」

「ヤバイヤバイヤバイヤバイ」


 老婆では戦いにならないだろ、これ。

 今さらキャンセルは出来ない。

 精一杯の抵抗として、かなり若い女性のイメージを持ち続ける。



魔物召喚インスドア青の魔女(カリアッハ)!』



 紫と黄色の魔法陣が完成すると、煙の中から一人の魔女が召喚された。


「よくぞ、儂を呼んでくれたのう。我が身が尽きるその時まで、(ぬし)様に付き合ってやろうではないか、くくく」


 それは白い着物姿に、腰まで伸びる真っ直ぐした青い髪、赤い瞳の美女である。

 しかし身長がおよそ140cmの少女でもあった。


「ロリババアでも戦えんだろぉぉおお!!!!」

「ぉよ?」


 俺の絶叫がダンジョンに響き渡る。

 新しく召喚した魔物は魔女ではあったが、ナイスバディでも老婆でも巨体でもない。

 メアに並ぶ、ちっこい幼女であった。



◇◆


「ふぅー、ふぅー、ちくしょう……また濃いのを呼んでしまった」

「セカイ様、いくらなんでもそれは失礼ですよ。いい加減に頭を切り替えて、自己紹介をなさってください」

「……そうだな」


 今回は俺が先走った不注意が原因であり、この子に罪はない。

 それに多少体が小さくても、すでにリンネルにメアと、魔法適性に秀でて身体能力の低い上級はいる。


「俺はマスターのセカイで、こっちがダンジョンのクリスタル」

「ほほう、ずいぶんとめんこいダンジョンよのう」


 少女は顎に手を、眉を顰めてじっくりとクリスタルを観察する。

 こっちも少女を観察すると、袖が広くて動きやすい着物にちらっと見える足からは下駄を履いているのが分かる。

 顔は白い肌から勝気な鋭い目、好戦的な八重歯が特徴的である。


「それでこっちがお前の補佐役のティアルだ。部下ではなく補佐だからな」

「宜しくお願いします」

「うむ、儂の方こそ宜しく頼むぞ」


 ティアルは段から下りて丁寧に挨拶をする。

 しかしさすが妖精種なのか、古臭くて近寄り難い言動を持ってしても、会話をすればすぐに打ち解けられる気さくな雰囲気がある。


「して主様や、儂の名は何と呼ぶのじゃ?」

「……スイレンだ」

「ほぅ、水面に花を浮かべるあの睡蓮かえ? くく、さしあたって儂は青い睡蓮(ブルー・ロータス)といったところかのう」


 そう言ってスイレンは自身の青い長髪を片手で摘んで広げる。

 それは着物なこともあって、やけに絵になる光景であった。

 因みにスイレンが着物姿なのは、女で、氷で、魔女といえば、誰でも想像出来てしまう妖怪のせいである。

 どうやらスイレンは花にも詳しいようで、リンネルと仲良くなれそうだな。


「お前は光属性の回復魔法に特化しているはずだ。繰り返される太陽。再生の象徴として存在して欲しかったんだ」


 ベルクハイルの魔剣も、たしか太陽を象徴としていたはずだ。

 睡蓮の逸話と偶然共通点が見られたので、スイレンにしただけである。

 それにしても眷属の名の理由を話したのは、これが初めてだな。

 まあ中には安直でその日の気分や洒落で決めた者もいるけど。


「うむ、気に入ったぞ。儂はスイレンだ!」


 スイレンは腕を腰に回して宣言する。

 その態度が年増なのか子供なのかの区別を難しくしている。


「よろしく頼むな」


 俺も段から下り、スイレンに挨拶がてら頭を撫でようとする。


「儂を子供扱いするでない」


 俺の手は頭に触れる直前に、ペチンと強い音を鳴らして払われた。

 その赤い瞳にはやや怒気が籠っている。

 メアやリンネルのようには、チョロくはないらしいな。


「悪かったな。早速だか、俺の体を診てくれないか?」


 俺は静まりそうな空気を変えるため、ローブを脱ぎ捨て上半身を曝け出す。


「ほほう……これはだいぶ痛んでおるのう」


 スイレンは横髪をたくし上げて、じっと観察する。

 俺の上半身や顔には青痣が浮かび上がっている。

 体の凍傷はリンネル蜜の効果もあって癒えたはずだが、一向に魔力が流せていない。


「……治るのか?」

「待て待て焦るでない。それは氷属性魔法が原因なんじゃろ。であれば同じく氷属性使いで光属性も扱える儂に任せれば問題はない」


 さすが魔女だ。

 頼もしいことを言ってくれる。


「ふぅ……そうかあり――」

「但し一ヶ月。一ヶ月は絶対に魔力を流すでないぞ? それでも完治は二ヶ月といったところだのう」

「二ヶ月ですか、腕の方よりも長くなりそうですね」

「まだ治せるだけ、それは感謝するべきことでしょう」


 怪我をさせた相手は元魔王級のベルクハイルが使った大技だ。

 ティアルとクリスタルの言う通り、治せるだけマシなのだろう。


「おい、それならダンジョン運営の方はどう――」

「ご安心ください。私がいれば、セカイ様の代理は可能です」

「お、おう」


 それされると、俺の存在価値が限りなく低くなるんだよな。

 頼もしいけど何だか寂しい。

 運営できないダンジョンマスターに後戻りかよ。


「主様といえど、もし約束を破ればきつーいお仕置きをせねばならんのう」

「俺は子供かよ……」

「さっき儂を子供扱いした腹いせじゃ」

「(お前が子供じゃねーか!)」

「ぉん? なにか言ったかえ? ええ゛?」

「な、何も言ってない……」

「うむ、主様はそれでよい」


 こうして俺は腕と魔力を治すために、二ヶ月の長期療養を始めることになる。




 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:326,162→320,159


頼りになる老人は大好きだけど、仲間に正統派ババアキャラを加えるほどの度胸は私にはなかったです。

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