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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第四章 大天使の聖骸神殿
96/214

91話 問:女神のパンツは何色でしょうか?

四章スタートです。

「……」


 急な展開すぎて言葉もろともリアクションが寸ともでない。

 俺は先程までベルクハイルと闘っていた。

 何とか勝って、クリスタルの膝の上で安息を貪ろうとしていたはずだ。

 すると気がついたら白い空間にいた。


「あれ? もう一度言いますよ。私は大天使ルシナであり、この世界を納める魔神でもあります」

「あ、ああ、分かった」


 そのルシナは、体の線がくっきりと分かる銀糸のドレスに、艶かしい体と不均整な白く大きな翼、地面に届くかの白藍色の長髪をしている。

 神様の割に結構奔放な衣装ではあるが、美しさはさることながら品位や尊さも損なわないでいる。

 まるでエロさと母性を兼ね備えた美の女神って感じだな。


 魔神級とは俺の位置する天災級の上にいる魔王級の、さらに上の魔帝級の上の存在である。

 そんな上位すぎる存在になんと会話をすればいいのやら、先ずは常識的に考えて敬語か?

 うん、そうしよう、相手も丁寧な口調で話しているのだ。わざわざ不興を買うこともないだろう。


「俺はセカイです。何用でルシナ様は私をここに呼んだのですか?」


 駄目だ、緊張しすぎて一人称がおかしい。

 それにルシナの見た目がクリスタルで違和感がありすぎる。

 でも気品なのか、格の違いなのか、クリスタルよりも他を寄せ付けない雰囲気を感じられる。


「ふふふ、それは星印さんにお礼を言いたくてね」


 毒気を抜かれるほどの笑顔と態度に、警戒している俺が馬鹿みたいに思えてしまう。


「お礼ですか?」

「はい、ベルクハイルを討伐してくださってありがとうございます」

「っ!?」


 その言葉を耳にして、俺は意識を切り替える。

 ルシナの作り笑顔に憎しみを覚える前に、まず確かめることがあった。


「それはどういった意味のお礼でしょうか? 俺には分かりかねますので、詳しいご説明を頂けませんか?」


 魔神級のルシナが、俺の思考を読めるかどうかである。

 大抵こういった神様的な上位者との遭遇は、勝手に心の中を読まれている場合がある。

 下級の妖精種だって、おおざっぱながら他人の思考を読める魔物がいるのだ。魔神ができていてもおかしくはない。

 もし可能であれば、この状況は非常に不味いことになる。


「あら、そうですか? 簡単ですよ、私があなた方を氷河洞窟へと誘導していたまでです」

「……もしかすると、それは冥途の館からか?」

「はい、私があのダンジョンの傍に、星印さんを召喚させました」

「ーーーーっ!」


 そのため打開策として、俺は心を無にしてあることを考えてみる。


「……すぅ」


(ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、ルシナのパンツ!)


 少し手が邪魔だがその椅子に座る、なめかしい大腿部を凝視する。


(ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、王道でやっぱ白かな? いやブラックがいいな、パンツパンツ、ルシナのパンツが見たい!)


 よく見ると、クリスタルよりもおっぱいが大きい。

 しかし今はパンツのことだけを考える。

 いや、パンツだけではない。

 俺は人類の抱える命題を考えているのだ、決してやましいことではない。


(ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、ルシナのパンツ、女神のパンツは何色だぁぁ!)


「どうかなさいましたか?」

「あっ、いえ、問題ございません! ふぅ……」


 どうやら俺の思考は読まれてはいない。

 あんなに不遜なことを妄想して、眉一つ動かさないのは、理性ある生物としてありえないだろう……是非そうあってくれ。

 よし、ここからは何を思おうが俺の勝手である。


「話を中断させてすみません。それで俺を誘導していたとは、どうやっていたのかを教えて頂けませんか?」


 自分の行動が、全て神に操作されていたなんて知って、怒らない人間がいようか。

 それは人間の自由意志と尊厳を踏み躙る、神の傲慢である。

 自分は自分であり、誰の物でもない。

 俺が魔神を嫌悪する最大の理由が、制約という名の精神支配にある。


「ふふ、簡単ですよ。ダンジョン冥途の館の側に星印さんを召喚すれば必ずそれに食い付くはず。あとはレオニルなる冒険者に、その知人を通して氷河洞窟のことを吹き込む。そうなれば星印さんの行動くらい、容易に想像は出来ます」

「……俺は羊の群かよ」


 それは確かに洗脳ではなく、誘導であった。

 だったら問題はないか。まんまと乗せられた俺の方に失態はある。

 それに冥途の館、氷河洞窟の二つのダンジョンを攻略して、何か取り返しの付かないことになってはいない。

 結果的にはルシナへ感謝する状況である。


「てっきり洗脳でもされているのかと疑い、申し訳ございませんでした」

「いえいえ、私の作ったダンジョンマスターには、皆何らかの制約を掛けていますからね。疑って当然でしょう」

「……はあ」


 思わず感嘆の声が漏れる。

 何というか話が分かる。

 魔神級という階級差に掛けて、パワハラでも来るのかと警戒していたら、超絶ホワイトな組織の長であった気分だ。


「気になることがありましたら、この際聞いてみて下さいね。因みに今回星印さんをここにお呼び出来たのは、前借りをしているからですよ?」

「前借り?」

「私の作ったダンジョンマスターは全員、階級が上がると私の元へと召喚されます。今回の星印さんは魔王級になった時の前借りとして、ここへと礼を兼ねてお連れしました」


 まるで俺が魔王級になれることを、確信しているようだな。

 しかしその説明だと不審な点がある。


「俺は上級から天災級へと進化していますよ?」

「だからお久しぶりと言ったのです」

「ああ、言ってましたね」

「その時はイレギュラーでしたので記憶は消させて頂いています。あ、ご安心して下さい。今回もイレギュラーですが、記憶はそのままですよ」


 まあ、記憶を消さないと俺だけ一回多いことになるから、他のダンジョンマスターとは不公平になるのだろう。

 クリスタルという素晴らしいダンジョンがある時点で不公平かもしれないが、そこは初めにそんな奇想天外なダンジョンを思いついた発想の勝利としておこう。


「そうですか、俺の方こそクリスタルを頂けて誠に有難うございます」


 今ではルシナに対する憎悪は失い、クリスタルを俺に与えてくれた感謝の思いがあった。

 いくら天災級に成長していようがクリスタルがいなければ、俺はまたも死んでいた。


「でしょう? あの娘は私の最高傑作です。気性良し、品性良し、知性良し、そして私に似てとても美人でしょう?」


 クリスタルを物みたいに言いやがって少し辛い。


「絶世の美女ですね」

「私には敵わないですけどね、ふふ。あの娘が傾国なら、私は傾世けいせいの美女よ!」

「……」


 これがゴッドジョークなのだろうか?

 しかしこのルシナなる大天使は、よほどクリスタルのことを気に入っているようだ。

 そういえばダンジョンコアに頼んだ時も、30分ほど俺は待たされていたっけな。

 よし、この際聞けることは、ルシナに聞いておこう。


「ダンジョンが存在する理由ついて、詳しく教えてくださいませんか?」

「できません」

「魔物召喚の魔物について、何か秘密はありませんか?」

「無理です」

「ベルクハイルが封印された後の、六種族の行方について教えて頂けませんか?」

「ごめんなさい」

「ダンジョン同様人の発達にも何か規制してませんか?」

「内緒です」

「三帝領の魔帝級って、ルシナ様の眷属でしょうか?」

「これも内緒です」

「何なら教えられるのですか?」

「明日の天気?」

「っぁ゛」


 ふざけんじゃねーよ!

 何で微妙にクエッションマーク付けてんだよ!


「はぁーふぅー」


 俺は徐々に怒りを静めて平静を装う。

 するとどうしても聞きたいことがあったのを思い出す。

 それはダンジョンのためではない、俺自身のためである。


「俺の前世の記憶について、何か知っていますか?」


 魔神級のルシナのことだ。

 俺が別世界から転生していることくらい、知っているはずだ。

 だったら俺の前世くらい、何か心当たりがないのか一縷の望みを持ってしまう。


「……知りません。ごめんなさいね、ですが星印さんをダンジョンマスターにさせたのは、紛れもなくこの私です」

「そう、ですか……」


 女性の申し訳なさそうな顔は苦手だが、クリスタルに似た顔であれば数百倍苦手だ。

 そこまでされれば、俺はもう黙ることしかできない。


「たまたま世界と世界の狭間から漏れ出る魂を保護して、ちょうど空いていたダンジョンの席にマスターとして転生させたのです」

「はあ……」


 ルシナは淡々と俺の誕生経緯を語り始める。

 それにしてもルシナはよく部外者ちきゅうじんの俺をダンジョンマスターにしてくれたな。


「私が星印さんの魂を保護した時点ですでに貴方の魂は酷く損傷していた状態でした。魂を修復して肉体をダンジョンマスターへと入れ替えても、記憶を司る部分に欠落があったのでしょう。私の不出来で大変申し訳ございません」

「あ、いえ、滅相もございません」


 その言葉を全面的に信じるのならば、俺はルシナに大きな借りがあることになる。

 そのため不思議な気分である。

 ルシナが傍若無人な悪党であったならば、躊躇わずに殺意を向けて敵対できたはずだ。


「他に何か聞きたいことはありませんか? 教えられる範囲で、ですよ」


 ルシナから感じられる雰囲気はまさに善人だ。

 しかし俺には魔神級になるという野望が捨てられないでいる。

 それがダンジョンマスターの願いなのか、俺自身の願いなのか、今では区別することすらできなくなったが、もし俺が最後まで至ればルシナを殺すだろう。

 魔神級の座は、一人しかなれない。


「ルシナ、俺の要件は済んだ。ここから出してくれ……それと手始めに俺は、高層の神殿と魔雲を攻略するぞ?」


 だから最後は敵として、突き放すことに決めた。

 相手はただでさえクリスタルに似た母親的な存在だ。これ以上話をしていると情が芽生えて、この先の障害になるだけだ。


「はい、アレはもう不要ですからね、好きにしてくれて構いません。それでは星印さんが魔帝になる時まで」


 俺の急変した態度に気にも留めず、爽やかに受け答えをする。

 俺はルシナを敵として認識しているのが、ルシナは俺を敵とすら認識していないのか?

 まあ象が蟻の相手をしているものか。


我、願う(ディ・ザイン)


 ルシナは最後に、ダンジョン改装の文言を唄った。


「へ?…………っ!?」


 いきなり身体が軽くなった。

 すると俺の脚元だけの地面が崩壊して、俺は白い部屋から打って変わって黒い空間、つまり奈落の底へと落とされた。


「ふふ、ちょっとしたドッキリですよ?」

「っざけんじゃねーよ!」


 ここでは魔力が発動しない。

 為す術もないまま、ただ現世に目覚めることを願った。



◇◆◇◆


「それで彼はどうですか?」


 ルシナはセカイがいなくなったのを見計らい、虚空に向って声をかける。

 すると蛍火のような小さな光が集積し、徐々に人の形へと変化していく。


「うーん、これは言ってもいいものか……」


 セカイの思考を視ていた者がルシナの元へと姿を表す。


「構いません」


 妖精種が使う人の思考を読む特性にも重大な欠点がある。

 それは相手の深層心理に触れることで自己と他者の区別が稀薄となり、相手の思考に染まりやすい傾向があることである。

 純粋で心優しい者ほどその傾向は強く、最悪の場合は暗黒面に堕ちることもある。

 そのためルシナは魔神級といえど、自身では使わず部下に使わせることにしている。


「色欲が5、殺意が2、疑心が1、感謝が2ってとこですかね」

「……色欲が多すぎではありませんか?」

「本当ですよ。ここではルシナ様以外は嘘が付けない……付こうとすら思えませんからね」


 ここで初めてルシナは自身の胸を抑えて顔を顰めた。

 ダンジョンマスターは、本来ルシナに殺意が向くように作ってある。

 そのはずが殺意の値が想像以上に低く、ある部分が極端に高い。

 思った通りには行かず、ルシナは心境を吐露する。


「あの娘が心配になってきたわ……」

「ま、あっちもあっちで万々歳しそうですけどね」

「完璧に作るのも、失敗なのかもしれませんね」


 一度間を置いてルシナが平静を取り戻したのを確認すると、従者は一応のフォローを入れる。


「ですけどそれは、ルシナ様に心を読まれることを警戒してのことでしたよ」

「まさか逆に私を乗っとろうと?」

「いえ、彼はそんな達者なことはできませんよ。ただ……」

「ただ?」


 従者が目尻を下げると、女神に禁断の質問を投げ掛ける。

 ある意味これこそが、思考を読む能力の欠点なのだろう。


「ルシナ様のお召し物って何色ですか?」

「んなっ、貴方は馬鹿者ですかっ!?」

「彼が馬鹿なんです。それで何色ですか? このままでは気になって夜も眠れません」


 ルシナは従者の汚染度に頭を抱えながら、空いた手でもう帰れと従者に振った。


「はあ……それは貴方の望む色です」

「うわっ、ズリー」


 従者もいそいそと自身の持ち場であるダンジョンへと移動するための、魔法陣を作り始める。


「しっかりしてくださいよ、レヴン」

「はぁーい」


 そして従者はダンジョン"クリスタル"へと帰還する。


(女)神様のパンツって何色なんですかね……

開幕から馬鹿やって申し訳ない<(_ _)>

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