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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第三章 目醒める氷河洞窟
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80話 舞台に立つ

「予定していた第三階層だ。お前達も気を引き締めろよ」


 第三階層からはここにいる眷属の力も借りるつもりでいる。

 その点でクリスタル達にはここまでよく働いてくれている。おかげで俺達の体力、気力とも万全の状態である。


「メア!アンデッドの準備は出来ているな!」

「ん、いつでも行ける」


 第四階層は幹部以外立ち入り禁止の階層とされているらしい。

 つまり雪原エリアに敵の残りの大軍が待機している可能性は大である。

 俺達は上級同士の決戦、大将同士の決戦を望んでいる。その間のメアには、是非一五〇〇の大軍の相手をしてほしい。


「砲撃班はいつでもクリスタルのサポートをできる準備を!」

「大丈夫ですっ」


 リンネルが代表して答えると、ルサルカのルビカ以外は所定の位置で待機する。

 遊撃班とサポート班も、状況に応じてすぐに対処できるように静かに控える。


「アカボシ、バル、お前達の働き次第で戦況が左右されると思え。必ず勝て、男を見せろ、お前達だけは退いてならん!」

「そのような大役を賜り恐縮の極みでございます」

「グウォン!」


 バルは包帯の隙間から見える口元がうっすらと上がり、呪剣を握っては刀身をぎらつかせる。アカボシは床に爪痕を残すほど手足に力を込めて勇ましく吠える。

 酷なことを言ったが、二人の戦意は十分できているようだ。


 クリスタルを除いて、最初に眷属入りをしたのがアカボシで、最初に魔物召喚をされたのがバルである。

 二人は眷属にとっての長男だ。弟妹を守るために、進んで過酷な道を歩いてくれる。

 ダンジョン内でも唯一の守護階層の持たない独立戦力という変わった地位にいる。

 その役目はダンジョンの不足した戦力の強化と、必勝を前提に作戦が立てられる。

 だから階層の整備や部下の補強を考えることはなく、日々個人能力の研鑽を積ませていた。


「よし、こちらの準備は完了した。クリスタルは第三階層へ進めてくれ」

『承知しました。ところで私にも何かおっしゃることはないのでしょうか?』


 それは音声だけではあるが、珍しく音にやきもちを抱いている気がした。

 クリスタルの役目こそ俺の次に重要であるはずなのに、三途の河を共に渡る間柄か、彼女の存在を軽視していた。


「そうだな。是非今回も勝利の女神であってくれ。お前が参戦するだけで、俺の負担も多いに減る」

『……あの時よりは、幾分か余裕のあるタイミングで必ず登場しますね』


 あの時とは、当たれば死ぬホラントの最大級の魔法を、間一髪のところでクリスタルに助けられた時だ。

 絶対、必ずといった文言は信じるなと相場は決まっているが、クリスタルが相手だと無条件で信じてしまう。


「だったら情けない姿を見せる前によろしく頼むよ」

『ふふふ、お互い頑張りましょう』


 機嫌を良くしたクリスタルは第三階層へと続く折り返し階段を下り、雪原の大地を踏む。

 地面は氷ではなく雪と土。

 天井も今までよりも高く、辺りには樹々や雑草が生えていた。

 それは俺のようにただダンジョンに雪をありったけ詰めたのではなく、一つの自然の風景として調和が取れていた。


「ここが本当に屋内かよ……」

「ダンジョンマスターがそれを言うと返って皮肉にも聞こえますね」

「ぅぐ、それほど俺達の雪原エリアよりも優れていたんだよ!」


 年期の差だろうか、いつか俺のダンジョンもこの雪原の大地にして見せよう。

 そもそもこのダンジョンを攻略すれば草木や雪も奪えばいいのか。


「ゴホッ、ここは雪大将猿と氷人狼の管轄ですが、さっそくその眷属がお出ましのようですね」


 ルオットチョジクは咳払いして、説明を続ける。

 対魔物戦に於いて、敵の種族特性や属性魔法を知るのは重要である。

 そのためルオットチョジクは常にクリスタルのバックアップとして活躍している。

 クリスタルを待ち受けていた者は、雪大猿やハイコボルトと中級、雪猿やコボルトの下級魔物が合わせて三十体以上といきなり囲まれた状態になった。

 因みに犬が二足歩行した形相のコボルトを、一回りも大きく筋肉質にしたのがハイコボルトである。


「捕まるなよクリスタル、こっちの用意は出来ているんだ」


 この二種は素早く、クリスタルの防御を持ってしても、手足の関節を捕まえられると身動きが取れなくなる。

 クリスタルは硬さはあっても、筋力は俺よりも低い。


『理解しております。メアのためにもコボルトの数をいくらか減らした方が良さそうですね……リンネル、岩、扇状!』


 クリスタルは言葉を発したと同時に土を蹴る。


「はいですっ!」


 するとリンネルの前方に転移門が開かれ、指示した通りの広範囲に岩弾を放つ。

 岩弾が何処から現れるかというと、ハイコボルトの頭上からである。


「クュル!?」

『せい!』


 ハイコボルトは岩の雨を全身に受けて怯んでいる隙に、クリスタルもその雨の中へと前屈みで飛び込むと双剣で確実に討ち果たす。さらにその血をローサに吸わせて赤い鞭を作る。


『ファウナ、水槍』

「了解」


 今度は生き残ったハイコバルトと雪大猿をまとめて一掃するため、二者が直線状になった位置へ、真横からファウナの水槍で吹き飛ばし、倒れた隙を鞭で止めを刺す。


 絶対防御と、死角からの魔法攻撃、さらにローサとリリウムの近接戦闘術。

 本気になったクリスタルほど敵に回したくない、恐ろしい能力である。


「セカイさん、転移門の有効範囲ってどれくらいなのでしょうか?」

「そうだな、クリスタルを球の中心と考えて半径15、6メートルくらいだったか」

「そ、それは天災級の魔法に匹敵しませんか?」

「まあだから、スヴリーと同じ準天災級という新階級を勝手に設けたんだよ」


 他に限界距離はまだわからんが設置し続けることができ、転移門の大きさや形もある程度は変えられる。

 次は転移門をクルクルと回転をさせたり、自在に移動させたいなど、クリスタルは張り切っていたのだが、ルオットチョジクには秘密にしておこう。


『ミ=ゴウ、弓!』

「ゞ〻Å‼︎」


 十本の矢が三体のハイコボルトに殺到する。

 ミ=ゴウが土属性魔法で作った矢は、鏃にリンネルから頂戴した毒を付着することで、殺傷能力を増している。

 彼らは四本の腕を巧みに使って一人二つの弩を持つ。魔力を消費しないのが長期戦として有難く、射程は短いが確実に二、三体を負傷させられる。 


「このダンジョンは、遠距離魔法を使える魔物が少ないな。おかげでこちらは助かっている」

「元々巨人種のベルクハイルは直接戦闘を重視する気質が強かったですから……私も魔法より弓矢を習わされていました」


 ベルクハイルが前時代的な思想の持ち主でよかった。

 魔法使いがダンジョン内に入れば、中級の戦力でも、もう少しクリスタルの弱点や足止めを上手く運べたはずだ。


「クリスタルさんは針葉樹の森には入らず、右へ迂回するように進めて下さい!」

『承りました』


 クリスタルは第四階層を目指して雪原を走る。

 するとコボルトや雪猿達が一定の距離を保って後ろから追いかけてくる。


『邪魔ですッ』

「オン!?」


 一度スピードに乗れば、簡単にはクリスタルを止めることはできない。

 正面に待ち受ける新手のハイコボルトに対して肩に攻撃を受けながらも、すれ違い様に双剣で二か所を斬りつける。

 さらに背後の魔物には、セッティングの完了したミ=ゴウの矢をノールックでお見舞いする。


『ッ!?』


 しかし森を過ぎようとした時、その足が突然止まった。

 スクリーンを見ると、大きな犬の手が地下から二本生え、クリスタルの細い片足を捕らえていた。

 ハイコボルトが穴に潜んで待ち受けていたのだ。

 その腕に引っ張られるクリスタルは、雪地に尻をつく。

 さらに動きの止まったクリスタルを見て、対峙していた地上のコボルトが跳ぶように殺到する。


 咄嗟にクリスタルは穴へと引きずり込もうとする両腕を、リリウムで自身の足ごと切断する勢いで振る。

 すると足にリリウムが触れるとカンっと甲高い音を鳴らして、ハイコボルトの腕とズボンの脛の辺りが綺麗を切断する。


『今のは惜しかったです、ね!』


 奇策は一度目で成功しないと、二度目は警戒されて効力を失う。

 クリスタルからは喜色の伺える声が聞こえ、自由になった足で立ち上がると、リリウムが全力の風刃を地上の敵へと放ち、ローサを地面へと突き刺す。


 クリスタルは血で雪原を真っ赤に汚し、何事もなかったように走り始める。

 今のはもう少し判断が遅れていれば、地上のコボルトに捕まっていたかもしれない。


「相変わらず迷いもないな……」

「切れないと分かっていても、つい身がすくみますよね」


 よかった。

 魔物でも共感してくれる相手がいて、本当によかった。

 自傷、それも手足となれば躊躇いや恐怖は浮かぶものだ。

 つい俺の手足って生えてくれるのかな、と決戦を前にして余分な心配をしてしまった。



「うわ、大群が隊列を組んで待ち構えているな」

「もう目の前は第四階層への階段なのです!」


 視界の先には剣や槍などの武器持った魔犬種や魔猿種が血眼になって、クリスタルを撃退しようと待っており、その数はおそらく一〇〇〇ほどの規模である。

 しかしこれでクリスタルのとんでも特攻も終わりを迎えられる。


『それでは皆さんは各々の仕事をきっちりと果たしてくださいね……アカボシ!』

「グウォン!」


 アカボシが転移門から外へと飛び出すと、クリスタルは走りながらアカボシに跨る。

 いきなり現れた上級のアカボシに、敵は大いに畏縮してくれる。

 クリスタルがいながらもアカボシは炎を纏い、先程とは比べ物にならない強烈な加速力でコボルト達を蹂躙しようとする。


『砲撃班はありったけの魔法をぶつけてください!』

「大岩ですっ!」

「四射水槍よ!」


 さらに砲撃班のリンネル、ファウナ、ミ=ゴウの順に転移門が開かれると、両者が激突する前線に大岩が落ちて、アカボシのための道が出来上がる。

 アカボシが速すぎたために大岩しか間に合わず、他の魔法は追い打ちだったが、ついにクリスタルは第四階層への階段へと到着した。

 すぐにクリスタルはアカボシから下ると、階段を封鎖するための壁を用意する。


『メア、次は貴女です!』

「ん、暗黒界の禁門(ゲヘナ・ハーヴェ)。出でよ死の同胞(はらから)、生者を食らい、平等の祝福を与えん」


 メアが呼ばれて外へ出ると、ゲヘナからは盾を持ったスケルトンが大挙して召喚された。

 盾持ちスケルトンが階段の周りにバリケードを築く。

 さらに墓地エリアから呼ばれたアンデッド達も、数の力によってバリケードを外へ外へと強引に押し出す。


「バル、俺達もそろそろ外へ向かうぞ」

「ハッ!」


 墓地エリアのアンデッドがもう少しで全て出るので、俺とバルは立ち上がりメアの後に続こうとする。

 メア達が第四階層への通路塞いでくれているため、俺達はそれぞれの対決に集中できる。

 今までクリスタルも移動しながら敵の中級戦力の間引きを行ってきたので、メアも大分戦いやすい環境にはなっている。


「ルオットチョジク、あとのことはクリスタルと協力して二班を上手く使ってくれ」

「はい、セカイさん。今までわたしなりにベルクハイル様を追い詰める協力をしていきました。でもわたしの手で直接ベルクハイル様の野望を阻止する力はありません。だからどうかお願いします、勝ってください!」


 ルオットチョジクが切実な表情で、俺に想いを託す。

 しかし彼女がベルクハイルのことを様付けで呼ぶあたり、未だに気懸りが残っているのだろう。

 長年連れ添った連中と敵対しているのだ。その苦悩も、悔恨も、信念も、俺には痛いほど伝わる。


『セカイ様、こちらの準備は完了しました』

「ああ分かった。バルは先に行っててくれ」


 バルは命令を聞いて剣を握り外へと出る。

 あとは俺が出れば予定していた作戦も完了して、それぞれの舞台に上がるだろう。

 だがその前に、ここまで堪え忍んでいるルオットチョジクには、道義として言わなければならない事がある。


「俺はベルクハイルの教えられた歴史でも人が悪いとは思わない。だからといって魔物が今後も虐げられていい理由なんて有りはしない」

「……はい」


 正直言って、俺は現状を保っていられればいいなとも思っている。

 測りの単位も決めずに自身の身長を定められないように、俺はまだこの世界のことを知らなさすぎて、何が正解なのかも分からない。


「しかも最良な方法すら見つかっていない以上、俺の言葉は夢物語だ」


 魔神級になるために、より多くの生命を犠牲にするという矛盾的な行動もする。


「それでも俺は、いつか俺()なりの方法で、人と魔の共存を目指していきたいと思っている。だからそこに、お前も加わってくれないか?」


 多分この決意により、俺は人を殺すことの躊躇いは減るだろう。

 第一に人が魔物の脅威を見過ごす訳ない。


「はい、わたしで宜しければその旅のお供させてください。そのためにも先ずは」

「ベルクハイルに勝ってみせる!」

「……是非、お願いします」


 俺はルオットチョジクの笑みを確認すると開かれた転移門を潜り、ダンジョン氷河洞窟の地に足を付けた。


「待たせたな」


 俺は最下層から伝わるベルクハイルの殺気に返事をして、クリスタル、アカボシ、バルの三人と共に第四階層へと向かった。


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