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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
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8話 攻略の鍵

 シィルススさんに連れられて、二階の冒険者ギルド職員専用の休憩室へと入る。

 中には休憩している他の職員は誰もおらず、この空間には三人だけしかいない。だけども三人に会話はなく静寂な空気が張り詰めている。

 お互い何から話せばよいのか戸惑っている様子が伺える。

 すると、初めに沈黙を破ったのはクリスタルだった。


「お二人とも黙っていても何も始まりません。まずは互いの認識に齟齬が生じないように情報の共有をしませんか?」

「そうね、ならまずは私のことから話すわ」


 それは、シィルススさんの昔話から始まった。

 彼女は幼いころ、四ヵ国の国境に位置する大森林に住んでいた。

 森は広大なため多くの森精族エルフが、一つの里を中心にそれぞれの部族でまとまりながら、人間との接触を控え静かに暮らしていた。

 そんなある日、国境の北西に位置する国の大森林と接する地域の領主が、エルフの里に対しても税の徴収を要求してきた。

 エルフたちにとっては、四ヵ国に囲まれている状況で、その国にだけ税を納めれば他の三ヵ国も黙っていないと分かるため、勿論要求を断った。

 それにエルフの社会は人間の社会の価値観と大部分で異なり、税に対する理解も浅く、また領主が要求してきた税は、およそ人間種への帰属化を意味するものであった。

 それに反発したエルフに対して、今度は領主が武力に訴えることにした。

 初めから領主にとっては税の徴収が目的ではなく、エルフとの戦争をすることだった。


 大森林で行われた戦争は始めのうちはエルフの有利に進んでいた。

 森の地形に詳しく、人間には感じることのできない精霊の力を借りる魔法で、ことごとくエルフは敵兵を押し返していた。

 しかし5年の年月が経ち、戦争が長期化すると次第に形勢が逆転しだした。

 人間種によるエルフの疲弊を待つ作戦が功を奏したのだった。

 エルフは人間の倍以上の寿命を持つものの、出生率は低く。人間の数と比べて圧倒的に少ない種族である。

 また、元々大森林で狩猟や採取で生計を立てていた社会であったため、戦える兵士を戦争に回していたことで次第に食糧も減り、今度は食糧確保のために兵士を戦争に出す余裕がなくなってきたのだ。


 無論その間、エルフは他の国に救援を求めたが、どの国も応じることはしなかった。

 未だそのころは冒険者ギルドの力も弱く、また別人種に対する差別や迫害も根強く残っていたため、他国の人間たちはまるで話を合わせたように救援を断っていた。


 次第にエルフが限界に近付いてきたころ、戦争をしかけてきた領主から終戦の話を持ちかけられた。

 人間の国は、こちらも戦争の疲弊により継戦する体力もない。講和のため一度エルフの里へ赴き話をしたいと伝えた。

 エルフはその報せに歓喜した。長く続いた戦争もようやくこれで終わると。


 勿論中には反対する者もいた。

 エルフの里に人間を入れるのはあまりにも軽率だ。例え結界で隠れていようと安全とは言えないと。

 しかしエルフは長く続いた戦争のストレスによる判断力の低下と、人間種の圧倒的な力でどちらにしても里が見つかるのも時間の問題だと諦念する者が多くなっていた。

 さらにこれから人間との関係を良くするために、要求を受け入れるべきだと。多数決で話し合った結果、人間との講和を受け入れることにした。


 しかしそれがエルフにとって、最大の不幸をもたらすのであった。

 講和を結ぶために赴いてきた人間の代表者は、位置を特定する魔法道具マジックアイテムを隠し持っていたのだ。

 人の俗世に疎いために、このような魔法道具マジックアイテムの存在を看過することができず、数日後、質と量を兼ね備えた人間の兵士がエルフの里に押し入ることになる。

 最後は里が崩壊し、里を失くしたエルフの多くは大森林を抜け出し流民となってそれぞれ第二の故郷を探すこととなる。



 漸くシィルススは自分達の体験したエルフの歴史を話終えた。

 かという俺は人間の、愚かで、残酷で、許しがたい、負の面を強く見せられ、心が沈む。


「そして私は大森林を抜け出して、まだ7歳でしたので右も左も分からない状態で、母に連れられ人間種の国に行きました。それから母が病にかかり亡くなり、私はその時冒険者ギルドの保護を受けました」

「……」

「父は最後まで抵抗し、私たち女子供を多く逃がすために人間と闘いました」


 今なんと声をかければいいのかが分からない。ただ握る拳の手が震え、頭を下げることしかできなかった。


「セカイくんが気にすることはないのよ。それに私は冒険者ギルドに助けられて人間種だけを恨むことなんかしてないの。ただ、私は父のことが気になります。今度はセカイくんのお話を聞かせてくれる?」


 彼女は優しい人だ。そんな人を自分は利用しようとしていると思い恥ずかしくなる。

 だけど、それしか方法が思いつかない以上、シィルススさんを説得するしかない。

 精々俺にできる誠意は彼女に真実を伝え、自分の秘密を教え、彼女の命を必ず守ることだろう。


「今から言うことは誓って真実です。そして中には突拍子もないこともありますけど。まず彼は、シィルススさんのお父さんは……ダンジョンマスターです」

「ダ、ダンジョンマスター!?あの冥途の館の?」

「そうです。そして俺は自分の目的のために、ダンジョンマスターを倒さなければなりません。そこで俺は、自分の力が足りない分をシィルススさんの力を借りようと思っています」

「た、倒すって、天災級のダンジョンマスターを!? 私に何ができるっていうの?」


 この暗かった空気を払拭するくらいシィルススさんは良いリアクションを見せてくれて助かる。

 そのため俺は怒涛の追撃を続ける。


「シィルススさんのお父さんは、ゴーストのダンジョンマスターでした。つまり、彼の怨念を解消できれば、彼の力は弱まり、成仏することができます」

「なるほど、それで私の力ってことね……」

「はい、彼はシィルススさんとお母さんのリスティイさんを甦らそうとしてます。恐らくゴーストとなったことで、彼の強い怨念が判断力を鈍らせ、二人はあの後すぐに死んだと思い込んでいるのでしょう」


 シィルススさんは、話を聞いて、驚いたり、真剣な顔になったりしている。


「お父さんに会いたい気持ちはあるの、それに父がゴーストで一生苦しんでいるのを知って何もできないのは嫌だわ。でも大丈夫なの? ダンジョンマスターが居座る最上階まで行くなんて私には到底無理よ」

「それが可能なんです俺たちには。そしてできればそれを秘密にしてもらいたいのですが……」


 もしシィルススさんが断れば、この街を今すぐに離れなければならない。

 クリスタルにも大いに迷惑をかけることになるだろう。

 だけど俺は世話になった、親切にしてくれた、"人"を信じてみたくなったのだ。

 俺は覚悟を決めて、口にする。


「俺もダンジョンマスターなんです」

「えっ? えぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」


 シィルススさん、さっきからちょっとキャラ変わっていますよ。いやそれが本来の彼女の素なのか。


「だ、だ、ダンジョンマスターって、セカイくんが?」

「はい、これでもダンジョンマスターなんです。だから本気を出せば、シィルススさんを無傷でお父さんの所へ連れていくことが可能です」


 もちろんそれにはクリスタルの力が必要になる。だが今はそこまではさすがに教えられない。

 それはクリスタルの問題でもあるのだから。


「信じることは難しいと思います! だけど、俺を信じて一緒にダンジョンへ潜ってくれませんか? 必ずお守りすると誓いますのでお願いします!」


 誠意を込めてお願いする。クリスタルも後ろで頭を下げるのを感じる。何事も礼儀は大切だ。

 先日出会って間もないのに、命を預けるほど信頼関係を築けていると自惚うぬぼれてはいない。

 交渉が失敗に終わる可能性だって十分にある。


「そう……分かった。こちらこそお願いするわ。お父さんをゴーストから解放するのを手伝って!」

「はいっ!」


 良かった、これでダンジョン攻略の第一段階は終了だ。

 安心しきっていると、突然休憩室の扉が開いた。


 しまった。誰かに聞かれていたか!


 さっきからシィルススさんの反応が大きかったのが、いけなかったかもしれない。

 俺の焦る思いを無視して扉から現れたのは。

 全身に包帯を巻き、足を引きずりながら杖を片手にゆっくりと近づいてくる男だった。


「その話聞かせてもらったぜぇ」


 というか、レオニルさんだった。

 時間はもう昼に回っていた。

 突然の来客者に嬉しい思いと、非常に不味い思いがせめぎ合う。

 彼が想像以上の早さで目覚めたこと、そしてこの局面をどうやって乗り切ろうかと必死に取り繕うことを考える。 


「あの、どの辺りから聞いてたのです……か?」

「ぁん? だいたいシィルススの親父さんがダンジョンマスターで、お前もダンジョンマスターで、一緒にダンジョンに向かうと約束したあたりだな」


 大事なとこ全部聞かれていたぁぁぁ!?


「安心しな坊主。ただそれに俺もついてくことを認めろ。そしたらこのことは秘密にしておいてやるよ」


 まさかの提案に呆然としてしまう。

 それが本当なら、むしろラッキーじゃん。あまりにも幸運なことについ疑ってしまう。


「でもいいのですか、そんな都合の良いこと言ってくれて。さすがにレオニルさんまで守り切る保証はできませんよ。何か要求があったりします?」

「ねぇよ、そんなもん。俺はただお前らの性格を見込んでと、シィルススの願いを叶えたいと思っただけだ」


 レオニルさんの男前な台詞に思わず感嘆の声が漏れる。

 シィルススさんの方も、目が潤んでいるような気がする。

 こうまで言ってくれているのだ、彼の経験と実力は大いに役立つだろう。シィルススさんに頼んだ時と同様にレオニルさんにも頭を下げる。


「レオニルさん、協力して頂いてありがとうございます」




 そうして、四人でダンジョンの打つ合わせに励む。

 今はダンジョンを封鎖しているので、シィルススさんの休日と俺たちの修業期間を考えて予定では十日後にダンジョンに向かうことにした。

 その後シィルススさんは仕事だと部屋を後にし、部屋にはレオニルさんを合わせての三人になる。


「ほらよ、二人とも。本物の冒険者カードだ。それと認定書だ」


 どうやらこれを渡すために俺たちを探し回っていたところ、会話を耳にする機会ができたそうだ。


「「ありがとうございます」」

「礼を言うのはこっちだ、ギルドの役員から聞いたぜ。俺を助けるためにお前はアイツの足止めをして、嬢ちゃんは俺を運んで治療までしてくれたことを」

「私はただセカイ様の指示に従っただけです。礼など必要ありません」

「それにあれは、同じダンジョンマスターの俺を狙っての奇襲だったしな、こちらこそ巻き込んでしまってすみません」

「なんだ、そういうことだったのか。お前がダンジョンマスターだとますます納得いったよ。だったらこの件はこれでチャラな」


 チャラだというが、彼はあの試験で相当な浪費をしたことになる。

 ほんとに彼はいい人だと思った。付き合っている女性とかいないのだろうか。そんな当たり障りのことを考えていると思わず邪推してしまう。


「レオニルさんってもしかしてシィルススさんのこと好きですか?」

「んなっ!?」


 すると急にレオニルさんの顔が赤くなる。三十超えのおっさんの赤面に誰得だと思ってしまったが、自分の考えが正しいことは間違いないようだ。


「なるほどなるほど、それで今回の話に乗り気になったんですね」

「うるせぇっそれくらいは別にいいだろ」

「いいですね、頑張ってください。私は応援していますよ、ふふ」


 クリスタルも交わり、二人でレオニルさんをいじる。

 するとレオニルさんは顔を少し沈ませながら深妙に答える。


「シィルススはな、容姿も性格も最高だ。それであって男ばかりの冒険者ギルドで働いてる。そりゃこれまで何度も告白されてたさ。でもそれを全部丁重に断っている。きっと彼女の心の奥底では、まだ人を完全に信用することができないんだろうよ。だったら今回のダンジョンで、彼女が親父と話し、何か彼女の中で変わるかもしれねぇと俺は願っている。少しでも彼女の心にあるわだかまりを解消してやりてぇんだ」

「「れ、レオニルさん……」」


 あぁ駄目だ、涙がでそう。

 こんなことを言ってくれる人がシィルススさんには必要だ。さっき聞いたシィルススさんの辛い過去を思い出し、ますますレオニルさんの考えに同調する。


「一緒に頑張りましょう! 俺が絶対にお父さんを成仏させますから!」

「私もシィルススさんを絶対に守りますから!」

「おうとも、お互い頑張ろうぜ!」


 そうして三人で活を飛ばしながら、ダンジョン攻略へ向けてそれぞれ進みだす。

 俺にとって一番に目指すものはすぐに決まっていた。

 魔法の習得である。



 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:76


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