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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第三章 目醒める氷河洞窟
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75話 決別と決心

 前々から、人が実力と数の割合に対して、DPに変換できる量が多いと思っていた。

 これほどコスパのいい生物がいないため、俺も本気でクリスタルを使えば、一都市、一国を、誰にも特定されずに滅すことが可能だろう。

 それほど移動するダンジョン、そして人に擬態するクリスタルは、人や魔物をダンジョンに誘う必要はなく、自ら獲物を取りに行け、中身は防衛重視の要塞にできるという、災厄のダンジョンである。

 勿論それを考慮してでの、俺はクリスタルのデメリットも受け入れていた。

 ホラントのダンジョンを攻略できたはいいものの、道半ばで倒れることの方が多かっただろう。


 強い生物ほど生命力マナが高い。

 人間のDPが高い理由も恐らく、悪魔が見抜いた世界を滅せ得る将来性と、人間が地球で最強の生物だからだろう。

 この世界では何が一番の種族だか分からない。その中で異世界の最強種族を取り込んでいるんだ。DPの低いわけがない。


 そんな人を、ベルクハイルは根絶しようとしている。

 ベルクハイルの話を信じると、人が転移してアルラウネなどの弱い魔物が多く絶滅して、アンデッドという生者の天敵を産み、世界を平定していた六種族を壊滅させ、さらに今も世界を侵し、終末へと導いているという。


 魔物からして見れば人は功罪の、罪の方が大きいと思える。

 しかしベルクハイルと俺とは決定的な違いがある。

 そもそも人の脅威なんて、織り込み済みだ。


「ベルク……お前の気持ちは十分に理解できる。人はいずれ自分でも制御できない力を手に入れる。今でこそ魔物優位な情勢も、人が頂点に立つと、強大な魔物は残らず殺されるだろう」


 さすがにライフルやミサイルを一般人を使えれば、いくら魔物だろうと死ぬ。

 核爆弾ほどのエネルギーをぶつけられると、俺も死ねる。

 少なくとも、人は銃を発明して五百年足らずで、急激な速度で進化していった。いつ何が技術革命に繋がるか不明のため、俺も地球の文明を使うことには注意をしている。

 また科学よりも魔法に特化している人の社会が、科学と魔法の両方を発展させると、地球以上の力を生むことも危惧している。


「ほう……分かってくれるか」

「……ッ」


 俺の言葉にベルクハイルが笑みを浮かべ、逆にルオットチョジクが口をぎゅっと閉じる。

 彼女だけは、やはりベルクハイルの意見とは対立しており、俺が傘下に加わることに怖れている様子だ。


「だがなベルク。今度は俺が、お前に話をする番だ」

「なんだ?」

「魔神によって作られたダンジョンマスターは、全て生前が人だ。俺こそが、悪魔の目標としていた魔物化の成功例だ」


 魔神は、どういう訳か人為……このさい神意ダンジョンのマスターは全て人種の転生者だ。

 それも冥途の館のホラントが言うには、生前が不幸で終わった者だと……。

 またクリスタルは、ダンジョンはこの世界を管理するための機能の一つと言った。

 管理とはつまり、人の管理ではないだろうか?

 人はダンジョンのある所に都市を築き、力ある冒険者の目をダンジョンに向けさせている。

 そのおかげか、無踏破地域の攻略も後回しになり、冒険者はダンジョン攻略に明け暮れている。


「……面白い、道理でセカイは人種の姿をしているわけだな。だが安心しろ、我輩は見た目で差別はしないぞ?大切なのは中身だ」

「その意味が分かっているのか?俺は元人間で、現在は魔物だ。心は人のつもりだが、魔物の方が大事に思っている命が多い。人なんて片手で足りる」

「ぬぅ?」

「俺こそが、人と魔物の中道を歩める存在だ。素質だけなら世界一かもしれん」

「ハッ、面白いことをいう」

「……すごいですね」


 元人間で、地球出身で、現在魔物で、魔物を束ねるダンジョンマスター。

 そんな俺には天災級の力がある。

 元人間で、力のない魔物ならアンデッドに巨万といる。どこの世界でも発言する上で、力はあって然るべき大切な要素だ。

 俺はまだ異世界について詳しいわけではないけど、素質の点では最高ではないだろうか。


「そして不可解な点もある。この世界の文明の発達は、まるで神の意思が介在するかのように、非常にゆっくりと発展している。もしかすると魔神も、人と魔の道を模索しているのかもしれない」


 二万年前に鉄器時代の人が来て、文明も精々中世後期までだ。

 戦争が発明の母と伝えられるが、日常的に魔物という種を越えた敵が蔓延るなかで、人は悠長な発達を遂げていると俺は考える。

 ダンジョンが影響しているのか分からないけど、やはりそこにも魔神の陰が伺えられる。


「何故お主はそこまで分かる?悪魔の魔眼でも持っておるのか?」


 魔眼って何だよ。悪魔はそんなとんでも能力を持っていたりするのかよ羨ましい。


「違う。それは俺が、俺の正体が……人が転移した時代の、遥か先の未来から来た異世界人だからだ」

「……は?」

「俺はその異世界出身のダンジョンマスターなんだよ!だから俺にはベルク以上に人が分かる。人が転移しなかった世界で、人類の過ちも学んだ!」


 これは言うべきか迷っていた。

 しかし、ベルクハイルがここまで自身の過去を語り、俺だけが黙ったままだとフェアではないと思えた。

 何故なら俺はベルクハイルと闘い、殺すつもりでいる。

 人を滅ぼすのは見過ごせないし、俺自身の目的のためもある。


「……まさか今も流民がいたとはな。それも異世界人が転生か、魔神(アイツ)も愉快なことを考える」

「アイツ?まさか魔神の正体が分かったのか!?」

「フン、セカイに教えるものか。我輩と敵対するのだろ?」

「くっ」


 ベルクハイルが今まで過去を語ったのも、勧誘するためだった。

 魔神の正体に寸止めを食らう破目になるとは、迂闊だったかもしれん。

 しかし言ってしまった以上は、後悔している余裕もない。

 既にスヴリーからはひしひしと敵意が伝わる。


「そうだ。結論を言うとだな、俺はベルクの仲間にならない!」

「それは残念だ。すると我輩とセカイが出来ることも残すは一つ……」

「「俺(我輩)と闘え!!」」


 勝者が、強者が正しい。負け犬の戯言に価値はない。そこは人も魔も違いはない。

 こうしてベルクハイルと俺は袂を別つことになった。

 俺はいつでも逃げられるように、眠るリンネルをおんぶして、トムテのソンチョーを肩に乗せて立ち上がる。

 そんな俺の態度を理解したのか、ベルクハイルは盃を置き、俺と睨みあう。



「ここは酒席、酒を酌み交わした友として最後に問いたい。セカイは我輩の話を聞いてどうしたいと思った?先程述べたように中道を歩むのか?」


 その質問は意外だった。

 人を滅ぼそうとするベルクハイルが、まさか共存の道に興味を示すとは。

 ルオットチョジクも、一縷の希望を託すように、俺の方を凝視する。

 だが残念ながら、俺の意志は既に決まっている。


「この世界を見て回りたい。その過程で人と魔の両方が幸せになれる未来を考えていくさ」

「創造とは破壊よりも困難である。我輩の方法よりも、酷く困難だぞ?」


 俺はまだこの異世界に来て一ヶ月近くしか立っていない。知らないことは山ほどあり、魔神までの道のりも長い。

 しかし俺は一人ではない、心強い存在がいる。


「大丈夫だ、俺には俺よりも優秀な相棒がいるからな!そいつが俺の隣にいてくれるなら、何かいい解決策を見つけられると確信している!」

「相棒?」

「そいつもベルクのスヴリーと同じ、準天災級だ」

「ほう……そのような戦力をまだ隠しておったか。スヴリーとの力比べが楽しみだ」


 ごめんクリスタルさん!

 このままではスヴリーが鬼気迫る勢いで襲いそうだったので、お前に押し付けた。

 クリスタルの階級は、天災級のダンジョンであるため、準天災級と名付けるのが丁度いいだろう。


「それではな、ベルク。お前のダンジョンを必ず見つけるから、首を洗って待っていろ!」


 三下上等の別れ言葉でいよいよ俺は広間から出ようとするも、背後のベルクハイルが予想外のことを呟いた。


「……お主になら、任せられよう」

「へ?」

「え?……ッ!?」


 俺はベルクハイルの言葉の真意が分からず目が点になる。

 しかし同時にパリンっと、ルオットチョジクの中から何かが壊れる音がした。


「ルオットよ、己の定めた天秤に嘘をつくな。お前の望む景色は確実にセカイの側にある」

「まって、待ってください!」


 その音は、眷属の契りを解除した音だったと初めて知った。

 一度切れた繋がりは二度と元には戻らないため、俺でも試すことのできなかった行為だ。

 魂に切れ出た影響か、麻痺して倒れたルオットチョジクは、動かない身体で懸命にベルクハイルへと手を伸ばす。


「お前が裏で何をしていようとも……今まで、楽しかったぞ」

「あっ、あぁ……」


 しかしベルクハイルの分身体は、溶けた氷のように消えていった。

 この場に残るのは俺達と倒れるルオットチョジクのみ、スヴリーもベルクハイルが消えると分かると、すぐに扉を出ていったのだ。

 すると静まり返った空気は、ダムが決壊したように一瞬で騒音に包まれる。


「わた、し……うぅ……うわぁぁぁぁん!私が……私がぁぁああああ!」


 まったくベルクハイルは予想外の置き土産をしてくれる。

 味方であったルオットチョジクを破門にして、敵である俺の側に置いて帰るとは、意味が分かっているのか?ダンジョンの位置も、配置も、敵の戦力も、全ての情報が俺に渡ることになる。

 また任せたと言われたのならば、ルオットチョジクを仲間に加えてもいいということだ。


「ソンチョー、今声かけてもいいのかな?」

「そっとするべきでしゅ」


 身体を倒して慟哭する女性にどう対応すればいいのか。

 人生経験の少ない俺は、トムテ診断に頼るしかない。

 しばらく泣き止むのを待っていると、ルオットチョジクが静かに語り出した。


「私は、ベルクハイル様の悲願を知ると、止めてもらえるようにそこはかとなくお願いし続けていました。はっきりと懇願すると、眷属の関係が切れてしまはないかと不安もあったからです。そして影ではベルクハイル様に裏切る行為もしておりました。私ってずるいですよね……」

「……」

「でもベルクハイル様はちゃんと見抜いておられたようで、ただお互い譲歩できる物でもなく、偽りの関係を安穏と享受していました」


 意見が対立しているからと言って、その相手の人柄までは否定できない。

 ルオットチョジクとベルクハイルも、問題に目を背けながらも別れを惜しみ、偽物の関係性を深めていった。

 しかし封印は解かれ、俺がこの地にやって来た。

 否応にも二人の関係に決断が迫られていたのだろう。


「しかしベルクハイルの野望は見過ごせないのだろ?」

「……はい。私はベルクハイル様と都市を見て回った時、人に学び、助けられ、好きになっていました。今を懸命に生きる彼らを見殺しにはできません」


 ベルクハイルにとっては、相手おれを見極めるのが会談の意義だったのだろうか。

 味方に誘っておいて実質は、ルオットチョジクとの決別を目的としていた。

 ベルクハイルの性格上、敵対すれば容赦はない。

 しかし俺が勝ったとすれば、ベルクハイルは負けることで、ルオットチョジクに望む未来を見させてあげられると……さすがにそれは好意的な解釈だが、二人の仲は、歪んだ物ではなく、愛情が存在していた。


「俺はベルクハイルを必ず殺す。俺と共についてベルクハイルの最期を看取るか。俺が負けることを考えて、一人でベルクハイルの手が届かない場所まで逃げるか、決断しろ」


 元魔王級だったベルクハイルはともかく、同じ階級の魔物は基本的には眷属化できない。

 ベルクハイルを倒しても、俺には殺すしか選択肢はない。


「わ……わたし、は……」


 今回は相手を憎んでいるわけではない、精神に異常があるわけではない。さらに育ての親とも呼べる相手を、殺す覚悟は簡単にできないだろう。

 ただ問題は、ベルクハイルが過去を妄執し、説得されても曲げられない強い意志を持っていることだ。

 しかしルオットチョジクは長い長い思考の末、ゆっくりと立ち上がる。

 その赤く腫れあがった目には、強かな決意が現れていた。


「わたしが、ベルクハイルの野望ゆめを、終わらせますッ!!」


 ルオットチョジクは、明確にベルクハイルと敵対することを決心した。

 そんな俺はダンジョン攻略の鍵を手に入れたことで、うっすらと笑みを浮かべた。

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