表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第三章 目醒める氷河洞窟
77/214

74話 巨人が語る異世界の歴史

「ほらほらご主人さまも~飲みましょうよ~!」

「お前は落ち着け!もう四杯目だぞ」

「あれぇ?もしかして間接ちゅーに照れてますか~顔赤いですし、照れてますよね~。あたしたちはもう間接以上の……きゃ~!ご主人さまって大胆っ!」


 一人で盛り上がっててうぜぇ。酔ったリンネルは笑い上戸だったか。

 ベルクハイルからは飲酒で死ぬことはなく、痛覚も鈍くなり、怪我の回復も早まると聞いて、おおよその不安は払拭されたが、このリンネルに色気は一切なく、罰ゲームでお守りを食らわされている気分だ。

 この災厄祓いは飲めば飲むほど体力を回復するから、飲んで、暴れて、疲れて、飲んで、暴れる。と祓うどころか災厄が降り注いでいる。


「安心しろセカイよ。元々アルラウネは猛毒を持ち、身体は治療薬にもなるため毒にも強い。災厄祓いくらい、まだまだ行けるぞォ!」

「行っくぞ~!不甲斐ないご主人さまの分は~あたしが頑張りますっ!」

「良く言ったぞ!真の忠臣とは、まさに小娘のことだァ!グハハハハー!」

「あーはははは!」


 しかもこのまま二人で盛り上がっては、話の続きが聞けない。

 怪我を無視して踊りやがって馬鹿かこいつ。


「蔓出して踊るのはこれくらいにしろ」

「だったらもっと、もっと、も~~とっ、あたしを褒めてくださいっ!」

「はいはい、偉い偉い。それでアンデッドが誕生して、どうして六種族の均衡は崩れたんだ?」

「だったらほれ、セカイが代わりに相手をせい」

「チっ。これで……んぐ……いいだろ!」


 ベルクハイルから直接注がれた酒を一気飲みする。

 隣でリンネルが興奮して煩いが、体内で魔力を消費してでも酔いを抑える。

 所詮天災級が酔えると言っても、飲んですぐに抵抗すれば効果はかなり薄くなる。

 ベルクハイルが俺の一気飲みで、気を良くしたのか、ゆっくりと話を続ける。


「よいだろう。アンデッドが闊歩するようになり、世界はより混沌とした。中でも魔王級のアンデッド王が登場し、ヤツが使う死属性魔法は天使と悪魔以外の種族をアンデッド化する呪いまで使えた」

「死属性を操るアンデッドの王か」

「ヤツは混乱や狂騒を好み、死を嘲笑うかのように、生者の尊厳を悉く踏みにじっていた。さらにヤツは魔帝級であられた六種族の長から逃げ続け、不死の軍勢だけを遣わせ続けた」

「退治できたのか?」

「六種族の内、特に被害の酷かった妖精種とと幻獣種と巨人種が協力して追い詰めたことで、漸く退治が出来たぞ。どうやら生前が人らしく、人と組んでいたらしい。まったくふざけおって……」


 俺達にはアンデッドの姫、メアがいる。 

 不吉にもメアとそのアンデッドの王が、似ていると思ってしまった。

 死属性を持つ者は、そんな性格なのだろうか。


「そして数を減らされた我ら六種族は、ついに決断を迫ることにした」


 決断。

 ベルクハイルのその重い言葉に、俺は唾を飲むことしかできない。 

 ちなみにリンネルは、煩いので後ろから口を塞ぎ、暴れないように体を抑えていると、いつの間にか眠ってくれていた。とんだ台風であった。

 すると次の言葉は、背後から現れたルオットチョジクだった。


「人との、共存か排斥、ですよね」

「なんだルオットよ、我輩の台詞を奪うではない」


 ルオットチョジクも会話に加わる。

 しかし彼女はリンネルが酔いつぶれている状態を見てベルクハイルを睨むが、対して反省のないベルクハイルは颯爽と口笛を吹いて誤魔化す。

 せっかくいい話の流れを二人の喧騒で邪魔されたくないので、俺はベルクハイルの味方をして、ルオットチョジクをなあなあと宥める。

 リンネルの介抱をルオットチョジクに任せ、話の続きを要約する。


「共存か排斥……ベルクが封印され、人種が今も栄えている。つまりはーーーー」

「最終的には六種族同士で対立し、排斥派の巨人種と悪魔種が負けたのだよ」



 地球から人間が集団転移をし、魔物と人間で戦争が起き、次にアンデッドが人間に協力するかのように暴れ回り、最後は六種族同士の内乱に持ってこさせ、現在では『人』が繁栄している。

 弱小種族からここまで成長した人間の知恵と行動力は、さすがといえよう。

 しかし仲の良かった六種族が、人間を巡って対立するとは本末転倒な話だな。


「一言で排斥と言っても、それぞれ考えがあり、誤解もあった」

「誤解?」

「我輩たち巨人種の考えは排斥と呼ぶよりも殲滅だったな。人種を一人残らず殺し、元通りにする。実に単純明快な答えだろ?しかし人に寛容だった龍種、天使種、妖精種が猛烈に反対した」

「それは遅すぎだ。すでに世界には人が根付いていたのだろ?」

「一度は受け入れたのです、責任の一部が巨人種にもあることを認識してください」


 ルオットチョジクも俺の意見には賛同のようだ。

 つまり彼女は人を嫌ってはいないのか?

 ベルクハイルの眷属ではあるが、意見が対立している?


「う、うむ……しかしな、三種はすでに人との交流を初めておったのだ!それも我輩たちに隠れてな!アンデッドの原因は全て人にあるのだぞ?何故過去の事件を不問にし、罰も与えず切り替えることができる!」

「メリットがあったからじゃないのか?」


 それに龍種と天使種はアンデッドの被害が少なく、妖精種は素直だから簡単に丸め込める。


「それもあろうな。龍種と妖精種は『芸術』、妖精種は特に『音楽』に魅了され、魔歌の能力を手に入れた。ルオットよ、あんな下手っぴな歌のどこがいいのだ?」

「それはベルクハイル様がお酒を慕う気持ちと一緒です。と何度も言っているではありませんか……」


 ルオットチョジクの歌は奇妙だが下手ではない。むしろ喉を鳴らす特殊な歌ほど、歌唱力に優れた者しかできない。

 どうやらその口論は、二人の間で何度も交わされているらしい。

 ドラゴンが巣穴に財宝を溜め込むと聞くのも、人の作る芸術に魅力されてのことかもしれない。


「さらに気に食わんのが、人はその三種を『神』という不可思議な概念で他種族と差別化を行った」

「神?魔神級のことでは?」

「魔神級とは最大級のつよさを表すものだ。人の言う神とは根本的に違う。そもそもかつては魔神級など存在していなかった……」


 魔物の価値観では神が存在しない。

 正確に表すならば、眷属にとって主人こそが神に値するらしい。存在の証明されない、恩恵も与えない、力にもなれない、そんな者を熱心に信奉する方が馬鹿馬鹿しいと、魔物は考えている。

 例外はあるが、眷属が俺に忠誠を示す理由も分かった気がする。


「悪魔種の理由は?」

「奴らは六種族の中で、最も先を見通す能力を持っていた。そして人が力をつけると、世界を破滅に導くと危惧して、人を人為的に魔物化させようとした」

「……魔物化」

「グハハハ!それが人魔種の誕生だァ!」


 ついに人間種以外の人種が出た。

 人が世界を破滅に導く、も俺には簡単にイメージできる。

 進歩しすぎた科学技術は、子供でもボタン一つで大量殺戮を可能にする。


「既に人と共に連れられた動物が、魔物……魔獣種になる現象が起きていたからのう。研究熱心な悪魔種は、人を魔物へと変え、共に歩めないかと模索していた」


 やはり人以外の動物も連れ込まれていたのか。

 道理で都市には、地球で見るような馬や牛がいるわけだ。


「しかし人魔種は魔物ではないが?」

「まあ人を攫って人体実験をしていたからな、結果も芳しくはなかったぞ」

「さすが悪魔ッ!つまりあれか、魔物化の失敗作が人魔種の先祖だと?」

「然り。だが結果的に人種を進化させたのだから成功だろォ?本当の失敗作は妖精種の下へ保護された」

「保護?」

「妖精種は特殊な輩が多いからの、廃棄処分の失敗作を見事に蘇生させてみた。その結果生まれたのが、森精族(エルフ)地精族(ドワーフ)と、妖精種の特徴を色濃く受け継いだ者たちだ」


 不老長寿や精霊魔法のことか。

 人魔種の先祖は人間種だった。

 そのため今も、人間種と人魔種の間では、子を作ることができるのだろう。

 人魔種の経緯を聞けたなら、残るはもう一方である。


「人獣種はどうだ?これも人体実験ではないよな?」

「あれらは魔王級以上の龍種と幻獣種が人に化けて、滅びかけた人種と交わった結果だ。ゴブリンやオークも種族は違えど、子を残せるだろ?二種はさらに脅威的な繁殖力で、ハイブリッドを作ったのだ。そのため人獣種の部族数は、人魔種よりも少ない」

「基本は犬、猫、有角、トカゲの四族だな。派生して狼や狐とかもいるが……」


 哺乳類と爬虫類しかいないのは、親となる幻獣種と龍種の影響だったのか。

 有角は(つの)の生えている人で、地球で例えるなら鬼か牛である。

 滅びかけた人種とは、ネアンデルタール人だろうか?


 因みに人間種と人獣種の間では子を残せるが、人獣種と人魔種の間では子を残せない。

 進化で枝分かれしたと結果、根元の人間種はまさに人の()、または人の()ということが分かった。


 魔王級以上でないと、完璧に人化を出来ないために、兎や鼠などの弱い獣の人獣種はいないと……つまり兎耳娘の夢は潰えてしまったことになる。

 クリスタルを使えば、魔物召喚で兎耳娘を作れると思うが、ダンジョン運営を疎かにして趣味に走るのは、マスターとして情けないので我慢しようか。

 俺には先ず、強いスライム娘を作るというロマンがある!


「他にも龍人がおるが、あれは天子(みこ)、悪魔憑きと並ぶ、人を超越した者たちだな」

「それは知っている。偶発的に起こる人の魔物化だよな?」

「うぬ、悪魔種の目的であった奴だ」


 極々超稀に、龍、天使、悪魔の能力を持つ半魔半人が、人から生まれる。それは人と魔の性質を両方持つとされる。

 しかし同族としか子を成せないので、大抵(つがい)を見つけられず死ぬらしい。

 強さよりも珍しいことで有名なため、俺達にとって脅威度が高いわけではない。



「そうして六種族が人の所在を巡って、対立したのだ」

「そこに話が戻るのか……」

「龍種、妖精種、天使種は人の味方をし、悪魔種、巨人種と敵対した。幻獣種は中立だったな」


 仲の良かったグループに、新たに一人が加わると崩壊する感じか。


「それで人の歴史は分かったが、現在で妖精種以外の種族が減った理由はなんだ?」

「生憎と我輩が封印されるまで、巨人種もそれなりにいた。その後の経緯は、天使は天界へ悪魔は魔界へ帰ったという伝承しか知らぬ。これは勝者である三種の長か、魔王級の配下に直接訊くしかないが……どうせその勝者の中に魔神がおるのだろう」


 六種族の長は、それぞれ魔帝級だったらしい。つまり王手の状態であった。

 巨人種と悪魔種の長は滅ぼされ、ベルクハイルも弔合戦で、天使種の長であるルシナに封印されたらしい。


「ルシナの奴め……いっそ殺してくれた方が有難かったわい」


 ベルクハイルは後悔の念で呟き、ルオットチョジクは影を落とす。

 封印され、目覚めても、かつての同胞はもういない。ベルクハイルは深い孤独の中、生きていたことになる。

 しかしルオットチョジクにしては、ベルクハイルが封印されたために、出会うことができた。眷属にとっては、今の台詞は非常に悲しいものだろう。



「魔帝領の三体と長は別か?」

「獅子以外は聞いたこともなかったぞ」

「聞いたこと?伝承もそうだが、封印されていたにも関わらず、随分と俗世に深いんだな」

「グハハ、敵を知るのは当然だろう?身動きの取れん間は暇だったしのう。昔、ルオットがそのトムテほどに小さかった頃、分身体で共に山麓の都市を巡ったわい!!」

「私はそこまで幼かったわけではありませんッ」

「フン、我輩から見れば同じだ」

「むぅ」


 ルオットチョジクが歳を取る妖精種だったと驚きだが、ベルクハイルが人里まで下りて、熱心に情報収集をしていたとは意外だった。

 幼女鹿精霊(ロリオット)さんとおっさんの二人旅とは、中々粋だな。

 長話も残る一つの疑問となる。


「最後に人が転移した原因を教えてくれないか?」

「それはな、かつてここには魔神級が存在しなかったと言っただろ?おかげで世界の空間に亀裂が発生したらしいのだ」

「亀裂……まるで魔神が世界を救っているみたいだな」

「魔神級とはつまり世界の支配者(ワールドマスター)。我ら迷宮の王(ダンジョンマスター)の最終進化だ。ゆえに世界とダンジョンの仕組みはよく似ている。この世界も管理者が出来て、人が転移することも無くなったのだろう。それだけは三種族に感謝してるわい」


 あれ?すると俺はどうやって転生できたのだろうか?

 そもそも転移ではなく、転生であることに違和感を覚える。

 しかしこれでベルクハイルに異世界の疑問を全て聞けることができた。

 まさかこれほど早い段階で、知ることが出来るとは思いもよらなかった。

 本来ならば、情報料か深い恩を感じるはずだが、相手は元魔王級の巨人種である。

 今までの話を聞いて、彼の野望も大体予想ができる。


「セカイよ、これでお主の聞きたい話は終わったぞ。次は我輩がお主に問う番だ」

「そうだな。有意義な話をありがとう」

「うむ。もう一度言う、我輩の部下になれ。そして共に人種を滅ぼそう。人種は世界にとって害悪でしかない。我輩はこの世界を本来あるべき姿に戻したいのだ。だから頼む、お主の力を貸してくれッ!!」


 人種の絶滅。それがベルクハイルの野望だった。

 その野望を叶えるためには、敵に過去を語り、頭を下げる覚悟もできていた。

 しかしその時俺の意識を奪ったものは、ルオットチョジクの悲痛な顔であった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ