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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第三章 目醒める氷河洞窟
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58話 二軍遠征組 前半

 案内人(シェルパ)を無事に村まで送り届けるため、護衛のバル、荷物持ちのアカボシ、魔法支援のリンネルを遣わせた。

 バルには十分な食糧をゲハナへと収容させ、アカボシにはシェルパの荷物を背負わせ、リンネルには寝屋や水の用意を魔法でできる。

 戦闘手段も近、中、遠距離とバランスもいい。

 この三人がいれば問題ないだろう。

 むしろ心配するのは、着々と敵の距離を縮めている俺達の方だ。


「よし、もうシェルパに見られる心配もないだろう。クリスタルはメアを帰してくれ」

「お疲れ様です、メア。今日はもうゆっくりと身体を休めてくださいね。——《アクセス》」

「ん、父様母様頑張って」


 メアが大人しく戻ってくれる。

 メアは集団戦やダンジョン防衛に秀でる種族のため、今の所はそれほど重要な仕事はない。

 それに小さな身体で負担も大きかっただろう、しっかりと休めてほしい。


「それではセカイ様、先へと進みましょうか?」

「そうしよう……と言いたいところだが、もっと銀蘭草を探そうか。備えあれば憂いなし、凍傷で苦しむなんて二度と御免だ」


 銀蘭草とは別れ際にオクスが見つけた、凍傷に効くと言われる薬草である。

 超回復のリンネル蜜にストックもないため、負傷すれば復帰に時間と薬がいる。

 早いところ、回復役(ポーション)か光属性魔法の上位版の神聖(回復)魔法を扱える眷属が欲しい。しかし光属性の素質を持つ種族は、基本的には天使か妖精の二種類であるため、望みはかなり薄いだろう。


「承知しました。そうでしたらファウナとフローラをお呼びしましょうか?薬草の採取、栽培に彼女達は一役買うかもしれません」

「そうだな、久しぶりにマカリー姉妹の顔も見たい。出してくれ」


 リンネル農園にて、リンネルの補佐をさせるために召喚した、半植半人(マカリーポン)の姉グレイファウナと妹アップフローラ。


 召喚する際、リンネルのような頭お花畑には絶対しまいと意識が影響をしたのか、二人は割と賢い。

 それもリンネルのような感覚派ではなく、理論派のため失敗も少なく、安定して成果を上げてくれる。

 ただ一点、姉の扱い難い性格を除けば、最も満足の行った召喚魔物である。


「参上しましたー!このアップフローラに何なりとお申し付け下さい!お姉ちゃんの分も!」

「うっわ、寒い。なんなのこの寒さ……ほんと死ぬる」


 マカリー姉妹が初めての雪の上に立つ。

 先に現れたのが、赤い髪が特徴的な少女のフローラである。寒さの中でも元気でいようとする姿は、非常に好感が持てる。

 しかし頬が真っ赤になっているので、痩せ我慢だとすぐに分かる。

 遅れて現れたのが腰まで伸ばす紫色の長髪に、泣きぼくろの似合う美女のファウナ。

 寒さから無意識に腰を抱いている姿が、非常に煽情的に見え——。


「ごほん」


 あ、やべ、クリスタルに見てるとこ気づかれた。さっさと話を振って誤魔化そう。


「やはり植物種にはこの気温は厳しいのか?」

「少しキツいですね。リンちゃんは良く耐えてた凄いよ!」

「少しなんて物じゃない。寝ると即死するような所に私を連れてくなんて、ご主人様ってドSよ……あ、私は痛いの嫌いだからね?」

「話を変な方向に逸らすな!」


 今はダンジョン攻略中であるため、ファウナのように思ったことを躊躇ずに言ってくれる性格の方が有難い。

 一応二人には、予備の防寒服を着させているが予備の物であるため性能も劣り、初めて経験する雪山の寒気で大変苦しそうだ。

 やはり植物種は、リンネルの様に予め慣れさせておかないと体力が持たないらしい。

 それでも二人を外へ出して戦闘をさせるべきか?

 もしもの総力戦を想定して、多少の準備をさせた方がいいだろうか。

 悩んだ果てに、二人は遠征組ではないので、短時間の戦闘さえ出来れば良いと判断する。


「まあヤバくなったらダンジョンに戻ってもいいから、今はこの薬草を探してくれ」

「……ヤ、ヤバい、もう帰らせて」

「早っ!」

「あわわー、お、お姉ちゃんの分はボクが身を粉にして働きますので、どうかご慈悲を!」


 フローラが慌てて雪の地面で土下座をする。どんだけ姉想い(シスコン)なんだよ……将来駄目な男に引っかかりそうで心配になる。

 勝手にやったとしても少女に土下座をさせると、すごい悪いことをしている気になるな。

 だがファウナの唇は震え、肌も青白くなっているので、帰りたいというのは嘘や惰性でもないだろう。


「フ、フローラぁ」

「セカイ様、さすがに帰してあげましょう」


 当然魔物にも向き不向きはあり、上手く行かないことはたくさんある。

 この場合植物種にとっては、マイナス気温は死地であろう。

 それならばこの環境に向いている魔物を追加で呼べばいい。


「いや、さすがにもう少し我慢してほしい。しかし助っ人にアカリヤを呼ぼう」

「それは良いお考えですね!」


 直ぐさまクリスタルは、ウィルオウィプスのアカリヤを転移門へと連れて行く。


「いよいよわたくしの出番でございますね!」


 張り切った様子で現れたのが、全身が炎である人魂のアンデッド。足は無く空中に浮かび、髪も眼も肌も真紅の炎で爛々と輝いている。

 火属性の使い手であるためここからはかなり活躍してもらうことになるが、何より彼女は——。


「アカリヤさん暖かいよ~」

「天使よ、私に天使が来たんだよ」

「はあ……」


 動く暖房器具である。

 アカリヤの周りだけスゲーあったかい。

 これで燃費効率もいいとか、便利なだんぼ……種族特性をお持ちでおられる。

 アカリヤはファウナから天使扱いを受けるも、多少の困惑をしただけで気にしない。

 本来アンデッドに天敵の天使と評価するのは失礼にあたる。

 しかしアカリヤの種族が、妖精種からアンデッドに転身したとされる種族だから問題もないだろう。


「アカリヤ、済まないがそのまま炎熱を維持してくれ」

「お安い御用ですわ」

「ファウナもアカリヤの側なら、まだ行けるだろう?」

「大丈夫よ。アンデッドに命を救われる……ふふ、ナイスジョーク」


 うん、問題なさそうだ。

 それぞれリンネルとメアの眷属のためか、少し奇妙な組み合わせに見える。

 俺が知らないだけで、こいつらって仲がいいのかもしれない。俺はあまり魔物の交友関係を知らないし、探ろうとはしない。

 特に階層の違うもの同士の関係って気にもしなかったが、初合わせての時以外にも話していたりするのだろうか。


「それではいよいよ薬草を採取して、先へ進みましょうか?」

「そうだな。それにしてもこのパーティーのバランスって実はいいかもしれんな」

「遠征組には少々悪いですが、この面子でも良かったかもしれませんね」

「一日限りの二軍遠征組、ここに結成だ」


 風の俺、火のアカリヤ、水のファウナ、土のフローラ。

 このメンバーは一属性特化型の四大属性が見事に揃っている。

 ついでに人外枠とムードメーカーに、ウリィなんかを加えると面白いかもしれない。

 なぜかというと俺は、遂に美少女だらけの勇者パーティーを築いてしまって汗を拭えきれなくなる。



「銀蘭草ってけっこう地味な花なのね」

「わたくしはその慎ましい所が、むしろ好きですわ」

「お姉ちゃんは、けっこう派手なのが好きだからね……」

「む、否定はしない」

「クリスタルさま、他にこの辺りで採れる草花は何がありますか?」

「そうですね、氷層(フリージ)草や霜百(リスマス)草、自惚(ナルキス)草などの薬草。レア級の魔花に大切な思い出(エーデルワイス)の花、なんてのもあるそうですよ」

「まあ、なんて素敵なお名前を持つ魔花であられますか」

「花自体よりも、見つけた人は想い人に大切な気持ちが伝わる。などのおまじないが希少度と拍車がかかり、高価で取引されるそうですよ」

「高価、想い人、高価、高価、高価……」

「わーお姉ちゃんの意思は、結局お金の方に流れたか!?」


 などと俺を他所に、女子トークを始めるのだ。

 野郎と幼女がいないだけで、こうも会話の取っ掛かりに悩んでしまうとはな、これは生前の影響なのだろうか。

 そんな阿保なことを考えながら、無言で移動を開始した。

 ……やっぱウリィを呼んでおけばよかった。


◇◆◇◆


 あれから薬草を探しながら山を下り、大雪渓の地である凍魔の巣窟(ウス・ルクト)へと立つ。

 しかしここは先程までの銀世界と打って変わり、銀と緑の世界。

 つまり森林が広がっている。

 それも山から見下ろしても森の全容が見えないほどの、広大な自然が魔物を生息させているのだろう。

 本当にこの世界の植生がどうなっているのか気になる。

 低層の樹よりも背の高い樹木や雪を土のようにする草花。


 例えば雪の上に草が生えていると思い、雑草を力いっぱいに抜くとネギのように形をしていた。

 それは地面に根を張り、茎は雪に埋もれ、葉だけが外気に触れている。

 それでよく生きていられるなと感心する。雪が積もる度に茎を伸ばしているのだろうか。

 一応ネギっぽいので齧ってはみたが、食えるものでも無かったので捨てた。

 オクス達は当たり前のように言っていたが、雪渓の中でも森林が広がっているとは、地球の常識を悉く超えている、気がする。

 気がするのは俺が専門家ではない、あくまで常識範囲の感想であるためだ。

 もし万年雪と魔物の溜り場が無ければ、きっとここにも人の町や村が栄えていただろう。

 しかし俺たちにとっては、人の影響が少ないからこその宝庫である。ここでならば、思う存分に暴れられる。


 三、四時間程のクリスタル、ファウナ、フローラの活躍で薬草と面白い植物を採取できた。

 因みに三人が働いている間は、俺とアカリヤで周辺の警戒をしていた。

 今は採取も終え、体力の限界が近いファウナをダンジョンへと帰させる。


「ファウナは先に帰って薬草の手入れをしていてくれ、後は好きにしてくれて構わない」

「分かった……私に言うことは、たったそれだけなの?」


 科を作るのが本当に上手い。

 それは何かを期待するような女の顔である。ファウナはこれがあるから恐ろしい。

 意外にもアカリヤを携えたファウナは、予想以上の働きを見せてくれた。採取に於いて女子三人の中では一番の活躍だったのは、彼女の非凡な才能を伺える。

 彼女なりに俺達の置かれている状況を考え、やる気を出してくれたのだろう。

 今は労いの言葉しか送れないが、褒美を与えることで、ファウナのやる気を促すのにいいかもしれない。


「寒い中よく働いてくれた。ご苦労さん」

「……当然よ」


 返事はぶっきらぼうではあったが、頬がほんのりと赤いのは俺の気のせいではないだろう。

 ファウナも俺の召喚魔物である。

 自惚れではないと思うけど、主に褒められて嫌なはずがない。


「フローラ、後はよろしくね」

「任せてお姉ちゃん!ボク()やればできるんだってお見せするよ!」

「ありがと、フローラの活躍を中で見てるから。じゃあね」

「お、お姉ちゃん……」


 フローラのことも心配しているあたり姉としての自覚もあるのだろう、これでファウナは転移門の中へと先に帰還した。


「フローラはまだ行けるな?」

「ボクならお姉ちゃんの倍の時間は動けます」


 フローラは植物種に有るまじき身体能力を備わっているが、その代わりか近接戦闘に特化した土属性魔法を使う。

 バルほどではないが、遠距離魔法の才能はない。


「それは良かった……レーダーの端で中級の魔物を捉えた」

「それはボクの出番ですね!」

「わたくしもです」

「敵は中級ですか。二人は絶対に功を焦らないようにして下さいね」


 ファウナを帰したのも、中級を発見したのが大きかった。

 フローラとアカリヤは中級のため、実力では同等に近い。

 俺は俺で雷属性魔法の練習をしたいので、その魔物はいい相手になる。


「それでその数と形態はどういったものでしょうか?」

「数は四体、氷のような硬い鱗を持った蛇だ」

「それは凍皮蛇(アイススネーク)で間違いないですね。討伐依頼の魔物が来てくれましたか」

「目標は一人一体。状態は問わない、各自全力で戦え! 」


 確認することも済ませ、四人でアイススネークの元へと向かった。

 これが中級召喚眷属並びに、フローラにとっては初の実戦となる。

 実験という意味でも、非常に意味のある戦いになろう。

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