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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第一章 冥途の館
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6話 突然の敗走

「今度は第二階層でレイスを討伐してもらう。お前たちの実力ならこれで試験は終了だ。特例だが一日で終了とする。ただし、レイスには気を付けろ。ゴースト系の魔物にはある特性がある」

「物理攻撃無効ですか?」

「そうだ、ちゃんと予習しているようだな」


 レイスなどのゴースト系魔物は、普通の物理攻撃は効かない。

 対処方は魔法による攻撃か、魔力を帯びている魔法道具マジックアイテムによる攻撃か、聖銀や聖水が付着した武器による攻撃の三点とされている。

 無論、魔法も魔法道具マジックアイテムも持ち合わせていないため、昨日市場で聖水を買いそろえておいた。


「ホントにこんな水で効くのですか?」


 そういって、リュックから小瓶に入る聖水をレオニルに渡す。

 受け取ったレオニルは、まじまじと観察したあと気さくに答える。


「ん?どれどれ、ったぁこれは安価品だな。下級中位までのレイスには聞くが、下級上位となると効き目が薄い。それに粘度が足りないな、これじゃ剣にかけてもすぐ落ちてくぜ」


 言われてみれば、失念していた。つい安いのを買ってしまったが、安さにはそういう意図が隠されてあったのか。

 失敗に頭を押さえていると、それを見かねたレオニルはポケットから自分の聖水を取り出し俺に投げ渡す。

 いきなりのことで驚いたが、身体は勝手に反応して投げ出された聖水を受け取っていた。


「それをやるよ。本来なら渡すのはいけないことだが、まぁお前らは手間が掛からない分こっちは大助かりだからな。特別だ」

「あ、ありがとうございます!」

「いいってよ、そんじゃ、レイス退治といきますか」


 受け取った聖水は、不純物もない真っ透明で、それでもって手に付けてみると、水のりのようにネバネバとしていた。これなら問題なく、剣に塗ることができそうだ。

 クリスタルと剣に聖水を塗ってレイスを探すことにする。


 レイス退治は順調だった。

 ゴースト系魔物は消滅と共に生命力マナを魔石に変換する。そのため剣で切るたびにぼとぼとと魔石を落とすのが、ゲーム感覚で楽しくて白熱した。

 呆れるレオニルをよそに、二人でたくさんのレイス、時にはスケルトンやゾンビを相手にし、ポーチに入りきれない量の魔石を獲得した。


「ったく、お前らは加減を知らないのか……セカイにクリスタル! 二人はもう十分冒険者としてやっていける実力を持っていることを俺が保証する。試験は合格だ」

「「ありがとうございますっ!!」」

「そんじゃ、とっとと帰って飯でも食べにいくか」


 来た道をそのまま戻る。

 といっても、ここはダンジョンの中のため油断することはしない。遠足も家に帰るまでが遠足であり、冒険もまた冒険者ギルドに帰るまでが冒険である。

 するとクリスタルは何か発見したのだろうか、前方右斜めを指していう。


「あれはなんでしょうか?あの枯れ木の影にいる人魂は?」


 よく見ると、青い灯を放ち浮遊する火の玉が、枯れ木の奥からこちらを伺っているのが見える。

 クリスタルの質問に、レオニルは驚いた様子で答える。


「馬鹿な、あれは湖沼に誘う鬼火(ウィルオウィスプ)。ありえない、ここは二階層だぞ。ヤツは七階層の沼地エリアに出てくる中級の魔物だ。そんな魔物がどうして二階層ここにいる!?」

「どうします? 逃げますか?」

「悪いが無理だ、あれに後ろを向けるのは非常に危険だ。撃退する!」

「分かりました! サポートします、ヤツの特徴を教えてください!」

「決して無理をするなよ。攻撃は火属性魔法、十分に距離をとれば躱すことは容易だ。だが接近するのも至難のため、まずは俺が魔法でこいつを抑える。少し時間を稼いでくれ。最悪の場合、俺がひきつけるから、そのうちに逃げろよな」


 湖沼に誘う鬼火(ウィルオウィスプ)は、人魂の状態から、ブワッと燃え盛り人間の女性の姿となる。

 両手から火の玉を作り、三人の方へと飛ばした。

 俺とクリスタルは前へと進み火の玉を躱す。レオニルの方は逆に後方へとバックして躱して魔法の詠唱を開始した。

 第二射が来ない内に、二人で距離を縮め注意を引きつける。

 案の定、注意は二人の方へと向き、またも炎の球を二つ飛ばす。


 しかし今度は一人に集中していた。標的にされたのはクリスタルの方だ。

 火の玉はそれぞれタイミングをずらし、クリスタルへと襲ってくる。

 クリスタルは一つ目の炎の球を、身体を横に振りギリギリのところで躱す。

 二つ目の炎の球は彼女の胴の真ん中を狙って襲う。これは躱しきれないか、と俺は顔をぎゅっと顰める。

 しかしクリスタルは流れる動作のまま、炎に背を向けて片足で踏み切り跳躍した。

 それはさながら走り高跳びをするかのように。一瞬だがクリスタルの跳ぶ姿勢は、身体の線をくっきりと映し、場違いな状況だが美しいと思った。

 炎の球はクリスタルの腰を通り抜ける。そして湖沼に誘う鬼火(ウィルオウィスプ)の顔が驚愕に染まる。


 男二人は、クリスタルの作ってくれた隙を無駄にはしない。


「よくやった嬢ちゃん!断罪の光陣ホーリー・ディストラクション


 レオニルが魔法を唱えるとウィルオウィスプの真下に光の円陣が浮かびあがる。

 その魔法は光属性の上級魔法。その円陣にいるアンデッドの種族を弱体化させるだけでなく、移動を一時的に不能にする。

 詠唱に長時間必要になることと発動中は術者の行動にも制限される欠点を加味しても、レオニルの中でお気に入りな強力の魔法だ。


 俺は急激に衰えたウィルオウィスプに全速力で駆ける。

 弱りながらも炎の球を飛ばすが、今までとは比べものにならないくらい、その炎は衰えているのが分かる。飛ばす方向も狙いが定まらず、微塵も脅威に感じられない。


「うぉおおおおおお!」


 二人の思いを背負って、俺はウィルオウィスプの下へと辿りつき、その女性の姿をしている身体を横に両断にする。

 苦痛な面持ちで切られたウィルオウィスプは、初めに見たときよりもさらに小さなサイズの人魂になり弱弱しく空中をただ浮遊している。

 どうやら倒せたようだ。

 クリスタルとレオニルは俺の下へと駆け寄る。


「二人とも、よくやってくれた。礼を言う」

「いえ、レオニルさんの魔法とクリスタルの囮が役に立ったからです」

「違います、セカイ様がいなかったら未だ膠着状態でしたよ。セカイ様あっての私の活躍です」

「しかし、どうして低階層に中級の湖沼に誘う鬼火(ウィルオウィスプ)がいたんですかね?」

「それは俺も分からねぇ。ただ何か嫌な予感が——————!!」



『終焉ノ——————』


 レオニルは後に続く言葉を失う。

 それは俺の背後に突如と影を全身に纏う化け物が現れたからだ。

 それも影からはまがまがしいオーラが伝わり、魔法を唱える化け物は見るからにただの魔物とは一線を画する強敵だ。

 内包する魔力は底知れず、レオニルですら初めて目にする強さの魔物である。

 それはつまり天災級————ダンジョンマスターだ。

 レオニルは必死に魔法を詠唱するが間に合わない。

 突然現れた重圧と声に遅れて俺とクリスタルは衝撃が走る。

 クリスタルは咄嗟に俺達を掴み、自分の背後に回し盾となる。


『——————————闇』


 その化け物が魔法を発動したことにより、闇属性を持ったエネルギーの塊が三人を襲った。




 衝撃自体はそれほど大きなものではなく、三人は同じ方向へ20mほど飛ばされた。

 しかし衝撃による受けたダメージが少ない代わりに、厄介な異変を感じた。


「な……んだ、こ、れ?」


 身体が重い、寒い、痛みや精神が辛い、怖い、寂しいなど状態異常に陥っていた。

 このままでは不味い、まともに闘えない。ダンジョンマスターの力を開放して、なんとか奮い立たせる。

 すると後ろにいるクリスタルに声をかけられた。


「セカイ様、ご無事ですかっ!?」

「一応無事だ。状態に異常があるが深刻なわけではない。そっちは動けるか?」

「はい、多少ダメージが残っておりますが、問題ありません」


 クリスタルの姿はボロボロだった。血こそ出ないが、頬は擦り切れ、腕は曲がり、腰から右の太ももの部分の肌を表われていた。彼女がダメージを受けるのは初めてみる。

 それもそうだ、彼女は化け物の攻撃を一番間近に一身で受けたのだから。俺が思っている以上の衝撃を受けて入るに違いない。

 そうであるのに、健気に問題ないという姿に目頭が熱くなる。

 しかし今は感傷に浸っている場合ではない。レオニルさんの容態の確認と化け物の対処が必要だ。


「クリスタル、レオニルさんの方はどうだ?」

「とても深刻な状態です。今すぐにでも治療にかからないと手遅れになるでしょう」


 レオニルは苦痛に顔を顰めながら、なんとか生きている様子だ。しかしそれも時間の問題だろう。

 ダンジョンマスターである俺や、ダンジョンであるクリスタルと違って、彼は普通の人間なのだ。

 生き残るために直ちに打開策を考える。

 するとあの化け物がゆっくりと三人の方へ近づいてきた。


「クリスタル! レオニルさんを抱えて今すぐダンジョンから逃げろっ! 俺はこいつを足止めする」

「ですがそれはあまりにも危険です! その役目は私が!!」

「どちらにしろ俺たちは一蓮托生だろ。だったら危険な役目は俺がする。今は一分一秒でも惜しい、従ってくれ。それに——————今度は俺がお前を守りたい」


 クリスタルはその言葉を受け、そっと胸に手を置き、覚悟を決める。


「ずるいです。このようなときにその台詞を……必ず無事で帰ってきてくだいね、待っていますから」

「あぁ約束する。そっちの方は任せた」


 クリスタルはレオニルを担ぎダンジョンの出口へと走りだす。



 俺は目の前の化け物と対峙する。

 試験の時とは違い、今はダンジョンマスターとしての力を開放しているため、大いに能力が向上している。

 しかし、状態異常により能力も8割程度しか出せず、相手は格上————おそらくこの冥途の館のダンジョンマスターだ。

 緊張で身体が震えるが、なんとかクリスタルたちの逃げる時間は稼がないと、と集中する。

 右手に剣を、左手にレオニルさんの持っていた杖を拾い装備する。


 良かった……この杖が魔法道具マジックアイテムで。


「そこの影男、お前もダンジョンマスターなんだろ? 顔を見せたらどうなんだ?」


 まずは対話で時間稼ぎを試みる。

 すると影男は震えてなにかを呟く。 


『ち…………ち…………』

「ち?」

『力がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁちぃぐぁぁぁぁらぁぁぁがあああああああ』


 影男はいきなり発狂しだした。最悪だ、言葉の通じないタイプだった。

 そして影男は両手を掲げると、みるみるうちにダンジョンにいる殆どのリッチが集積しだし、大きな球の塊へと変形していく。


『死霊ノ饗宴』


 百を超えるリッチの塊が俺へと放たれる。

 それを直撃するのは拙いと思い全力で逃げるが、リッチの塊は追尾式のようであり、背中をだんだんと追い詰めてくる。

 追い払うことができないため慌てて、剣を脇に挟み、懐からレオニルに貰った聖水を瓶ごとレイスの塊に向けて投げる。

 直撃した塊は数を減らすも、今度は一匹一匹がばらばらに分かれて俺を襲う。


「追尾の次は、分裂かよっ! 厄介極まりない技だな」


 俺は四方に囲まれながらも、聖水を塗った剣と杖の二刀流で襲い来るレイスを払う。

 しかしその様子をただ見ている影男ではない。

 リッチの相手に集中をする横槍として、青い炎の球が五つレイスを無視して放たれる。

 完全に不意を突かれた俺は一つが背に直撃を受け、二つ目の炎の余波で地面に投げ飛ばされる。

 レイスは散り散りに去っていったが、代わりに杖とバッグはどこかへと消え、身体は炎が直撃した背中を中心に大やけどと擦り傷を負っていた。


 もし、次に同じような攻撃を受ければ、もう立ち上がれないだろう。

 重い身体をなんとか上げ、影男との距離をとる。


「時間はもうそろそろ、いいか。さすがに俺もやばくなってきた」


 一つ目の炎球に直撃を受けたものの、二つ目の炎球を利用し、飛ばされる方向を調整していた。

 それは一階層へ戻る転移門の近くにだ。


「うおおおおお! かかってこいやクソヤロー! 玉砕覚悟で相手してやらぁあ」


 剣を強く握り、気力を振り絞り、腹の底から威勢を放つ。


『も……すぐ……だ。フォ…ストの神……よ。リスティイ、シィル……漸く…逢…える』

「ん?」


 影男はぶつぶつと呟いた後、今度は身体に纏う影を掌に圧縮しだした。影からは人知れず苦しみにもがく、呪詛に満ちた人間の声が聞こえる。

 しかし身体の影が払われたことにより、男の姿が露見する。

 その相手の素顔に一瞬驚いたが。目の前の魔法に集中することにした。

 無論、魔法が完成をするまで待つ必要はない。身体の中から魔力を限界まで放つ。


「行くぞぉぉぉぉぉ!」


 雄叫びと魔力放出による抵抗に、影男は咄嗟に攻撃を待ち構える。

 それが影男にとって、致命的な失策になった。


「おりゃっ!」


 俺は影男に接近することはせず、全力で剣を影男に投擲したのだ。

 高速で放たれた剣は、幸いにも正確な軌道で影男の顔に迫る。そして彼は予想外のことで不意を突かれ、向かってくる剣の対処を優先してしまった。

 剣はあっけなく、魔法で弾かれ。これで終止かと最後の抵抗をした男に顔を向けるが。

 その場所に誰もいなかった。


「あばよ」


 俺はすでに一階層へと戻る転移門の扉を開けていたのだ。

 今から魔法を放っても遅い。影男は自分が謀れたことを知り、怒りの叫び声をあげた。



 一階層へ戻っても一目散に逃げる。

 影男が追っている気配は感じられないが、スケルトンやゾンビには目もくれず、ひたすら出口を最短ルートで目指す。

 荷物も武器も失い、上半身はほぼ裸だが、ようやく出口の扉へたどり着くことができた。

 今まで神経を研ぎ澄ましていたため、気の遠くなるほど走っていた気がする。

 しかし襲われたのが第二層でよかった。もしもっと深く潜っていたら、逃げ切ることはできなかったに違いない。


「あ、あぶなかたぁー、最後のあの魔法はなんだよ! 恐すぎだろ……」


 出口の扉へ飛び込みとクリスタルが目を瞑り、膝を地面につき、指を絡めて待っていた。

 ダンジョンも何かに祈ることはあるんだな。


「セカイ様っ!」


 クリスタルは目に涙を浮べるように俺の帰還に祝福し、傍へと駆け寄る。


「悪い、もう立てん、寝かしてくれ」


 急激に膝の力が抜け落ちると、地面へと倒れる。

 張り詰めた緊張が溶けた分、どっと今までの疲労が押し寄せたのだ。


 慌ててクリスタルは背中を支えてくれ、ゆっくりと地面へ寝かす。そして俺の頭を彼女の膝の上へと乗せる。

 それは二人が初めて顔を合わせた時と同じ構図だった。

 不思議と意識をしてしまったが、今は気になっていたことを尋ねる。


「レオニルさんの方はどうなった?」

「ご安心してください、命に別状はありません。詰め所にいた衛士が彼を治療してくれました。元々ダンジョンから出てくる怪我人を保護するために設けられているそうで、治療の道具も万全の用意でした」

「そうか、それはよかった。荷物も武器も全部失ったが——————」

「生きていますね」


 クリスタルは優しく微笑みながら答えた。


「そうだ。だったら問題ない」


 命だけ残っていれば何とかなる。これからきっと忙しくなるだろう。

 だけど、今だけはそっと眠らしてほしい。この幸せな温もりをじっくりと感じさせてほしい……。

 俺は、ゆっくりと瞼を閉じる。

 それは異世界ここに来て初めての睡眠だった。





 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:79


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