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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第三章 目醒める氷河洞窟
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55話 転移門

 朝の早い時刻から、クリスタルと二人で村を出る。

 ここは低層と中層の境にある村のため、すぐに急峻な山肌や岩の絶壁が瞳に映る。

 誰も近寄らない、近寄れない。

 そんな場所を目指して、人の足跡一つとてない、真っ白な雪の上を並んで歩く。


 わざわざ並ぶこともないのだが、クリスタルは俺よりも数歩多い足跡を残している。

 男女で体格が違うので、歩幅に差が出るのは当たり前の光景である。

 しかしその足跡の差ほど、いつもクリスタルが背負っている負担だと思えてならない。

 なんせ今から為すことも、彼女に負担を掛ける一旦なのだから。


「この辺りでいいだろう」

「畏まりました。————《アクセス》」

「どうかこれが、覇道成就の足掛かりとなってくれ……あと敵ダンジョンを無事に攻略出来ますようにっと」


 現れた転移門を鳥居に見立てて手をパンパンと叩く。

 別にこれは二人でハイキングや参拝を楽しんで来たわけでもない。

 覇道成就と言い方は大袈裟だけど、この実験が成功すれば、我らダンジョンは更なる躍進を約束されるだろう。


「必ず成功させますよ。それは私が(ダンジョン)ですから」


 その赤い瞳には力強い意思を感じられた。

 その後の笑った顔はまるで、安心していいよと告げる温かな包容力を携えていた。

 メアがいたら、その母性に卒倒したのではないだろうか。

 俺の場合は誰よりも何よりも、全幅の信頼を彼女に寄せるまでだ。クリスタルならば必ず出来る。


「……お前が俺の相棒(ダンジョン)で良かったよ」

「恐れ入ります」


 さて、これで準備も完了したことで、後は転移門を残して(・・・・・・・)この場を去る。

 今も村を出発するために眷属と案内人(シェルパ)を待たせている。

 俺たちは急いで作った足跡の上を往復するが、何となく俺はクリスタルの作った足跡の上を歩いて帰った。


◇◆


 中層の山道へと続く村の出口には、アカボシと、それに跨る大杖を持ったリンネルに、魔本の入った鞄をぶら下げるメアの二人組。呪剣を背中に携えるバルの眷属たちが準備を終えて待っていた。


 今回はおよそ中層の半分まで、シェルパの二人が同行する。

 一人はバルから剣の稽古を熱心に受けていた少年のスワード、もう一人がそのスワードの父親のオクスである。

 村長に聞いたところ、この四十過ぎの無精髭のオクスが最もシェルパとしての能力が高いらしい。如何にも山男な風貌でとても優秀そうに見える。

 ただ山を登るには一人では無理らしいので、補佐としてスワードが任命された。

 十五の子どもで大丈夫なのかと不安もあったが、二人は親子であるため連携は村一番だと言われて渋々了承した。


「お待たせしました。今日から中層の中域までのご案内を、よろしくお願いします」

「……息子共々世話になる。山を越えるのだ、話し方もお互い楽にしよう」

「お願いします!」

「分かった。オクスとスワード、よろしくな」


 シェルパの二人が背中に担ぐ荷物は小さく、移動に必要な最低限の道具だけだ。

 それはあらかじめ二人には、嘘でクリスタルの背負い袋の効果を見せ、収納の魔法道具の存在を教えたからである。

 おかげで本来ならば準備するはずの、寝袋や食料などは全部こちらで預かっている。


 因みに同様の非生物を闇の中へと収納する暗黒界の禁門(ゲヘナ・ハーヴェ)の魔法は隠すことにした。

 この魔法は人間でも使える者が極々少数である高難易度の魔法らしい。

 そもそも闇属性魔法自体が、精神支配、能力低下、洗脳、吸収、腐食、死体操作などなど非常に人間社会で忌避される属性である。

 悲しいことに、その便利さゆえによく犯罪にも使われることが多いのだ。

 更に直接攻撃の魔法が少ない属性でもある。

 普通の魔物と対峙するならば基本属性だけで足りるので、わざわざ苦労して覚えようとする時点で、犯罪者扱いされたりすると耳にした。


「どうぞ、これを使ってください!」


 移動に向けて、それぞれに道具が配られる。

 といっても渡された物はスパイクと、尖端が鋭いT字の杖、腰ベルトにロープなどだった。ロープは安全綱だろうか?登山経験がないからか使い道がよく分からない。


「子どもさんと大狼さん以外は、これを装備してください!」


 リンネルは足の問題で、メアは幼児の体力の問題で、アカボシに乗って移動することにしている。

 俺とクリスタルとバルは、スワードの見様見真似で道具を装備するが、オクスは寡黙なのか雑事は全てスワードに任せている。

 しかしスワードに子ども扱いされたのが気に入らないのか、うちの問題児がアカボシの上から早速その発言に食ってかかる。


「失礼ですっ、あたしたちは子どもじゃありません!」

「ん、君の方が歳下(という設定)」

「ガキは黙ってろ、話がややこしくなる!」

「「むー」」


 その反応がすでに子どもである。

 そもそも召喚された魔物の年齢は曖昧である。

 もし誕生日があるのならば、バルとリンネルとメアは同い年の一日違いになる。

 しかしバルは、見た目も精神年齢も大人とみても良い。

 逆に見た目も精神年齢も、リンネルとメアは子どもである。


「まあまあ落ち着いてください。子どもは子どもで大人に甘えることができますよ?」

「ならいいかなー」

「私、子どもです」

「ったく、現金なやつだ」


 そんな会話をしながら、スパイクを靴の裏に巻きつける。

 杖と合わさって大分雪の上を歩きやすくなる。

 しかしこれだと前衛のクリスタルとバルが戦闘では大変そうに……でもなかった。


「私にはこの双剣がございますので、杖はお返しします」

「杖にロープを巻くと、鎖鎌?いや連接棍棒フレイルになるか?」


 などと勝手にやっていた。

 クリスタルは変幻自在で刃こぼれもしない剣があるからいいとして、バルは道具で武器作んなよ。


「わあ、さすが凄腕の冒険者さんですね!尊敬します」

「いや悪い、こいつらがおかしいだけなんだ」


 前途有望な少年の常識を覆すのも程々にしないといけない。

 そんなことをダンマスで異世界人と、一番変な俺が思ってしまうのも、おかしな話である。


◇◆◇◆


 山登りと言っても、山頂を登っているわけではない。

 先ずは村の目の前に聳える山の中腹を、沿うようにして越えると、次は谷を目指して下る。

 谷が終われば、また山の中腹まで登る。

 それの繰り返しだ。


 今は比較的険しい斜面の山は避け、遠回りになるが安全も重視して、谷底を集中して歩いている。

 本当はシェルパも無しで、俺達だけで山登りを考えてはいた。

 それは俺には飛行魔法があるからだ。

 しかし飛行魔法は大量に魔力を消費するデメリットもある。

 それはダンジョン戦において、魔力の消費はかなりの痛手になる。

 もし魔力がゼロの状態で、全回復をするには一日以上も時間が必要になる。

 その間に強敵と遭遇をすれば、苦戦は免れない。


 魔法職とは、連戦に向かない。

 なので如何にして、敵のダンジョンマスターの所まで、魔力を温存して対峙しようか悩みどころである。

 そんなことも考えながら歩くと、村を出てから六時間は経過した。

 中層は低層と比べて積雪が高く、道が整理されていない。しかしシェルパがいる限りは負担も少ないと分かる。

 それは彼らシェルパが隊列の先頭を歩き、雪除けや歩きやすい道を確保してくれるからだ。

 するとスワードが、氷壁の一点を指して声をかけて来た。


「見つけました。あの青緑に輝いている石が凍緑石(フフリア)です」


 通称、溶けない氷と言われる魔石である。

 魔力を送れば冷気を放ち、フフリア同士を打つけると繋がってしまう。

 そのため自然界には、フフリアによって氷の化石とされる魔物がいる。


「そこに化石があるのか?」

「削ってみないと分かりません。しかし化石が見つかるのも非常に稀なことで、期待はしない方がいいでしょう」

「なるほどな。わざわざ高い氷壁に登って発掘とは骨が折れるな」

「そこで土属性魔法を使います。リンネルさん程の実力者でしたら、発掘チームから引く手数多ですよ」


 すると突然名前を呼ばれたリンネルが鼻を高くする。

 こいつは褒めると直ぐ調子に乗る。


「お師匠さま~あたしモテモテですって?」

「ああそうだな、でもお前は誰にも渡さない」

「ぇっ!?」

「俺のためだけに働け」

「……はいですぅ」


 しかし直球には滅法弱い。

 徒弟ロール中のリンネルも、これで大分しおらしくなる。

 まあ実際ダンジョンを無事に攻略できたら化石や鉱石採集に、リンネルやミ=ゴウ達に働いてもらおうと思っている。


「私も、活躍するよ?」

「ああ、頼りにしているぞー」

「……んー」


 メアはリンネルに対抗心を燃やすが、メアに何ができるのか。

 リンネルを褒めた時よりも歯切れ悪くなり、メアがやや不満そうになる。


「グルゥ?」

「……来たぞ」


 しかし楽しい時間も束の間、魔物が現れた。

 魔物の接近を最初に気づいたのがアカボシで、次はオクスだった。

 鼻が利く味方がいるだけで、危機察知も大分楽になる。

 あとは旋風探知(レーダー)を発動して探りを入れると、動物の他に魔物の一団を捉えた。


「なんだろこれは、雪だるまか?」

「恐らくスノーマンでしょう。階級は初級から中級、妖精種の魔物でございます」

「この距離でよく分かるのですね!」

「まあな、数は六十だけど……」

「ろ、ろくじゅ!?」


 スワードが驚嘆するも、こちらは戦闘を避けるつもりはない。

 数と詳細を聞いて眷属もすぐに臨戦態勢を取る。


「シェルパの二人にメアとリンネルの護衛は俺がする。前衛は存分に戦え!」

「スノーマンは首を落とすか、下玉に隠している核を壊すことで死ぬ。腕の枝は食えんが、レア物で鼻に魔人参がついている場合がある。それは美味いぞ?」

「ありがとう、お前達も分かったな?」


 オクスからの説明で、戦闘の方針は決まった。人参欲しいである。

 リンネルも魔人参を見たさにヤル気が高まっている。

 あとはクリスタルに小声で話をする。


「なあクリスタル、戦闘中に何とかしてDPを確保してくれないか?中級ならそこそこの糧になって勿体無い」

「承りました。でしたら数十体を第一階層に引き入れてアカリヤ達に処分させるのはどうですか?」


 ダンジョンの中で魔物を殺せば、例え肉体が気化しても全てDPに変換される。

 第一階層の場合は、死体から瘴気も取れる。

 それにアンデッド三人組に、戦闘経験を積ませるのもいいだろう。

 シェルパがいなくなれば、代わりに彼らをダンジョン外に召喚するつもりだ。


「それでいこう。敵中央にリンネルの土壁を、メアにスモッグを目隠しとして用意をさせる」

「ご配慮感謝致します」


 スノーマンの群が視界に入る頃にはこちらの準備は整っていた。

 中級が五体もいる。

 スノーマンは下級が二段、中級が三段の雪だるまである。

 中級にもなると、スワードの身長を越して雪だるまにしては大きい。

 また、恐ろしいことにギラギラした目と口には鮫のような歯があり、こいつが肉食だと教えてくれる。


 食料となる人参を持っているスノーマンを探すと四体もいた。

 普通のニンジンの根を栽培しても青菜の所までしか出来ない。

 しかし魔植物のニンジンならば根の方も!と一縷の望みを抱いてしまう。

 ま、駄目でも俺はニンジンの天ぷらが食べられればいい。寒い日にニンジンと言えば、天ぷらしかない。


 一応リンネルには四本指を折って合図すると「やった」と素直に喜んでくれて可愛い。

 リンネル農園で栽培できる野菜が増えるのは、喜ばしいのだろう。


「アカボシ、先ずは火炎で奴らの足を止めてくれ!」

「グヴオオオ!!」


 遠吠えと共に首輪の魔法道具からは輝きが生まれる。

 するとアカボシの全身からは炎が燃え盛り、最前列のスノーマンに向けて豪炎が放たれる。


「……さすが大狼様だ」

「これほどまでの火属性魔法は初めて見ます」


 最前列のスノーマンが豪炎の煽りを受けて消滅する。

 その凄まじい威力を見て、シェルパの二人は感嘆する。

 しかしそれは未だ制御を出来ていない証でもあった。何故なら足を止めろの指示に対して、相手を燃やしてしまったからだ。

 威力は申し分ない、但し制御に欠けている。

 それが今のアカボシの評価である。


「リンネルは土壁を、メアはスモッグを!」

「はいですっ」

「ん、黒霧」


 リンネルが大杖をコツンと地面に叩くと土壁が数枚、メアが魔本から霧を大量に発生させる。

 二人で協力してスノーマンの群を分断し、混乱させる。

 その混乱に乗じて、クリスタルとバルがスノーマンの群へと突撃する。

 黒霧に飛び込んだバルとクリスタルは、すぐに与えられた仕事を開始する。


「スゥ……ハッ!」


 バルは前面に立って魔物と相対する。

 下級程度であれば本気を出していない状態でも、生首を飛ばすようにして次々とスノーマンの上下を分断する。

 バルが斬る前に確認することは一つ、鼻にニンジンが有るか無いかである。

 クリスタルの方はさっそく群の中央に佇み、転移門を召喚する。


「——《アクセス》。アカリヤ、後は頼みます」

「お任せ下さいクリスタル様。皆の者、わたくしに続きなさいッ!」


 上品な言葉で話すのは、ウィルオウィプスのアカリヤ。

 一階層の墓地エリアを預かる責任者にしてメアの忠臣である。


「ぎゃう!」

「ガハハハー!」


 そんな彼女の声に従って、キメラスケルトンのティラノ、ジャックランタンのウリィ、更に名も無い下級アンデッド達が続々と転移門から溢れ出し、スノーマンを捕まえてはダンジョンの中へと拉致して行く。

 視界を遮る黒霧の中で、まさかアンデッド達が戦闘を行っているとは誰も思わないだろう。


「これくらいでいいでしょう。お疲れ様です、アカリヤ」

「メアメント様の御母上様からの御言葉、大変嬉しく存じます」

「メアの前以外では、そのような態度は堅苦しいですよ?」

「そうですわね。しかし主の幸せを考えますと、どうしてもクリスタル様には……至高の母親で合って欲しいと願ってしまうのです」

「セカイ様の願いですので、私も努力を惜しむつもりはありません。ただメアのいない所では、メアを共に支える友人であって下さい」

「……クリスタル様。わたくしが愚か者でしたわ。ダンジョンに帰って反省しております」


 そんな会話をしながら、それぞれ中級スノーマンをダンジョンの中へと放り込む。

 六十はいたスノーマンの内、二十匹は生きたままダンジョンの中へと確保できた。

 中級に至っては六割もダンジョンへと連れ出され、またそれに掛った時間は僅か二分と、アカリヤの統率能力には舌を巻く。

 最後にクリスタルは転移門を解除してから合図として、ショートソードのリリウムを使って、風刃を上空へと飛ばす。


「あとはアカボシが黒霧に入って大爆発。魔物の遺体もこれで帳尻を合わせられるでしょう」


 その後はクリスタルの言う通り、合図によって投入されたアカボシが大暴れして、スノーマンの群を一掃できた。

 バルがしっかりニンジンを確保しており、眷属は申し分ない働きをしてくれた。


「見ている者は誰もいない……か?」


 俺は眷属達が戦闘を行っている間、五キロ範囲に及ぶレーダーで敵影を探していた。

 しかし見つかったのは、精々小動物などの野生動物程度で、魔物の気配は一切なかった。

 敵が戦闘を監視しているというのは、俺の考えすぎだったのだろうか……。





 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:65219(スノーマンの合計DPは88)

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