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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第三章 目醒める氷河洞窟
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49話 戦闘準備

 ユガキル山脈とは、ざっくり述べると低層、中層、高層の三層に分けられ、言い方がまるでダンジョンである。

 低層の標高と環境はそれほど厳しいものでもなく、緩やかな山の斜面にいくつもの山村が存在している。

 生計は主に林業や狩猟、特産品であるメイプルシロップだそうだ。


 次に中層。

 それは都市に入る前に見た、あの急峻な地形に青白い氷と雪に覆われた山の辺りから、中層と呼ぶそうだ。

 そこは一年の多くが冬の気候のため、一年中雪が溶けずに残っている。

 そんな中層にも、人の活動は逞しく谷や凹地に村がある。

 その村は中層の入口付近に点在しているため、多くの冒険者や学者が山脈の魔物や魔鉱石、高山植物や氷の化石を求めて訪れる。

 村人も高山に詳しいために、冒険者に雇われて案内人シェルパの仕事もしているらしい。

 しかし最も魔物の被害を受けているのが中層である。


 最後に高層。

 高層は中層の山脈より標高が高く、人類が生存できる限界を超えているため魔物しかいないとされている。

 そもそも情報がかなり少ない。

 高ランクの冒険者ですら、一日も経たずに身の危険を感じて降りていくそうだ。

 中層を突破できる冒険者なんてそう何人もいないほど恐ろしい山脈らしい。

 俺はその高層にこそ、ダンジョンがあるのではないかと睨んでいる。


「これは長期戦になりそうだな」

「被害は南方ユグトに起きていますので、これでも山脈の半分です。化石発掘も兼ねて気長に行いますか?」

「うーん、目ぼしいものはなかったからな……発掘はダンジョンを攻略してからにしようか」


 今まで発掘された太古の魔物を調べると、どうも召喚してまで使えそうな魔物がいなかった。

 無駄に脚や指の数が多かったり、飛行能力が未発達な飛行種であったり、図体だけが大きい魔物だったり……そこは地球の生物進化と変わらなかった気もする。


 しかし悪い所だけでもなかった。

 それはある小動物の魔物の属性で、火、水、土の三属性を持つ者がいたそうだ。

 無論その魔物は体に属性が適応できずに、すぐに絶滅したそうだが、クリスタルの召喚目録の素材には十分に使えそうだなと思えた。

 他には魔法が杜撰な代わりに身体能力が優れる魔物がいた。

 これは恐竜のような見た目をしている。魔法が使えないため戦力的にやや見劣れするも、ゴブリンよりも使いようはありそうだ。

 他にも気になったことがあったので、閑散とした資料室に小声でクリスタルに尋ねる。


「この世界は動物の化石を発掘できるが、人や魔物の化石は氷塊にでもならない限り発掘されないらしい。これについてどう思う?」

「魔力を持つ持たない事に影響があるのでしょうか。それともダンジョンの機能と同じように……」

「DPに変換できるか、できないかか?」

「はい。ダンジョンの立場から申しあげますと、世界が生命力マナを何らかの方法で採取しているように思えます」


 手に持っている本の解説には、魔力を持つ生物の風化は激しいと書いてあった。

 しかし俺達はダンジョンとそのマスターだ。

 この世界の謎については他よりももっと踏み込んでいるつもりだ。


「まったく魔神さんは何を考えているのやら……これも世界の管理と、何か関係があるのかな」

「それは私にも分かりません。ですが、これから魔王級、魔帝級とセカイ様が進化をなさる過程で、何か分かるかもしれませんよ」

「そうだな……魔王級までの道のりもまだあるしな」


 すると資料室の折れ戸の扉が風を切った大きな音を携え開けられる。

 現れたのは受付のアロウだ。


「セカイさんとクリスタルさん!長らくお待たせしました、これからギルド長のお部屋まで案内してもいいですか?」

「うし、分かった。こっちは調度読み終えていた所だ」

「私はもう少し掛かりますけどね」


 資料室には二時間ほどいた気がする。

 そのため腰をひねるとポキポキと骨から音が鳴る。


「ギルド長との面会か。初めてだから緊張するな」

「そんな畏まることもないですよ?ただ魔物災害についての確認を、と聞かされました」


 アロウはすかさずフォローを入れてくれるが、こちらは色々と訳ありな立場なので警戒をしてしまう。

 支部ではあるが、ギルド長にまで上り詰めるほどの実力者だ。

 年齢と場数から来る直感というのは、案外馬鹿にできない。

 不用意な発言一つで、何か疑念を持たれるかもしれないのだ。


 トントン。

 アロウに導かれるまま、ギルド長の部屋の前まで来てしまった。

 同じ二階なので、それほど移動に時間がいらない。

 俺は慌ててクリスタルの方へと目を向けて、何か困ったらヘルプでお願いしますと合図を送ると、クリスタルは優しく頷いてくれた。


「アロウです、お二人を連れて参りました」

「入れ」


 アロウはノックだけすると俺達の後ろへと回り、ここまでだと呟いて礼をする。

 どうやらこの部屋に入れるのは俺達だけらしい。

 促されるまま扉を開けると、老いて白髪混じりの黒髪で六十歳を超えるくらいの男が、机の椅子に腰を下ろしていた。

 部屋の中には一人しかいない。

 つまりこの老人がギルド長なのだろう。

 年齢を考えても強くは見えない。

 そもそもギルドのトップが最強である必要がないのだろう。

 ダンジョンマスターがダンジョンの中では最強が絶対条件なので、変に身構えていた。


「ようこそおいでくださった。私がギルド長のショット=タクティジャンと申す。お主らのことはアロウから既に聞いておるから、もっと気楽に接しても構わんよ」

「よろしくお願いします。そうでしたか、ここに呼ばれたのは魔物災害についてとお聞きしましたが?」

「まぁ先ずはそこに座りなさい。長い話になるしの」

「失礼します」


 クリスタルと冒険者のパーティーを組んでいる以上、名目上でも俺がリーダーとなっている。

 クリスタルは控える形で、基本的にギルドでの会話はリーダーである俺が行うことになる。


「たった二人の三ツ星冒険者が魔物災害を退治した。俄に信じられんが、若さと才能というのは時にそういった異例を起こすものか……」

「正確に述べますと、使い魔のアカボシのおかげでありました」

「うむ、使い魔申請書から実際にその使い魔を見てみたが、あれは上級中位は確実だったの」


 ギルド長は先にアカボシの方に会っていたのか。

 アカボシには、出来るだけ弱く見えるようにしろと命じている。

 念のためにと魔法道具の首輪も取り下げたが、アカボシが上手くやっているそうで安心した。


「俺とクリスタルで注意を引きつけている隙に、アカボシの奇襲で何とか災害の主を仕留められました。飛行種でしたので防御力が低かったのも理由ですね」

「確かにそれならば可能かもしれんの……」


 それからギルド長は根掘り葉掘りするかのように、魔物災害の詳細を聞いてきた。

 無論その内容には、こちらの都合がよくなるように嘘も混ぜている。

 バル達のことも偶然出会った旅の人物として説明をした。

 魔物災害の報酬を期待する以上は、こうなるための準備はしてきた。

 魔物災害の報告書も大分纏められる。


「しかしいくら優秀な使い魔がいようとも、二人の実力はとっくに三ツ星を超えているだろうの」

「ありがとうございます」


 この話の流れは、つまり四ツ星への昇級か!?

 魔物災害を対処できたんだ、昇級しても不思議ではない。


「しかし今回は四ツ星への昇級を見送らせてもらうぞ。なんせ二人にはまだ早い」

「そう……ですよね。因みにどうしたら四ツ星への昇級になるのですか?」

「もっと別の依頼を受けるんだ。調べたところ、緊急の魔物災害の他は採取依頼しかやっとらんだろ」

「……はい」


 採取依頼と言っても、フェルホック湿地帯で手に入れた素材や薬草の一部が勝手に依頼を達成していただけである。


「二人の貢献は冒険者ギルドへと流れるばかりで、もっと弱気者の助けになることもしなさい」


 つまり討伐依頼や護衛、捜索の依頼をこなせということである。

 冒険者ギルドへの貢献とは、冒険者が素材を売ることでギルドにも利益が出るのだ。

 それは冒険者ギルドが、その素材を適正な価格で商人や貴族、公共機関などに転売するからだ。 


 またギルド長であるタクティジャンは、俺達の冒険者になってからの日数や出身地を考慮してでの判断でもあろう。

 つまり俺達は未だ四ツ星に上げられるほどの信頼をされていないのだ。


「そう落ち込むな、お主らならばここで(・・・)三ヵ月ほど活動すれば四ツ星へと昇格できるのう。これでも十分早い方だぞ?」

「そうですか、出来る限りはここの討伐依頼や護衛依頼を達成してみせます」

「うむ、頑張るのだ」


 昇級するのに必要な日数が三ヵ月か。思わぬ足止めでを食らうことになりそうだ。

 それは体よくこの御老人に使われる期間な気もした。


「してお主ら、虚像胡蝶ファントムバタフライの買取を希望していたの?」

「はい、不躾で申し訳ありませんが、全部でいくらになりそうですか?」

「これを見なさい」


 ギルド長からは査定金額の書かれた用紙を渡される。

 虚像胡蝶の買取平均額がおよそ150,000エンスである。

 しかしそれを読むと五匹の合計金額は870,000エンスと大した金額であった。


「どうする?全て売ってくれると私らには有り難いのだが?」

「全て買い取りでお願いします」

「そうか、礼を言う。これもしっかり功績に入るから安心せい」


 おそらく冒険者ギルドのコネクションならば、その五割増し程で売ることはできるだろう。

 商売に必要なのは、信用や縁故関係なので、一冒険者が素材のみでしっかりと利益を出すには、冒険以上の苦労が必要だろう。

 また騙されて不利益を被らないためにも、冒険者ギルドに売る冒険者が大半だ。


「話もこれくらいでいいだろう。二人の今後の活躍に期待しておるぞ」

「ありがとうございました」


 ギルド長から書類をいただいて部屋を退出できた。

 何とかぼろが出なかったようでよかった。



「ふはー、緊張したぁ。あの爺さんの眼光はうちの眷属以上だった」

「お疲れ様です。この後はどうなさいますか?」

「先ずは書類をアロウに渡して換金といこうか。その後は資料室か買い物だな、どっちがいい?」


 一階に向かう階段で、これからの予定を相談してみる。

 しかし何気なく聞いてみた質問だったが、クリスタルは顔を赤めて返事をした。


「……お買い物がいいです。大方の情報は揃えられましたので」

「そ、そうしようか。眷属らの欲しい品目を教えてくれ」


 そう言えば、都市に入ったら一緒に街をみようなどと約束をしていた。

 クリスタルは一人での長旅だったためにずっと退屈で、都市での観光を楽しみにしていたのだろう。


「えっと、木材や鉄といった材料に、日用品や調理、洗濯、園芸用具。あとは工具、寝具と、肥料にお菓子に死体ですかね」

「最後のはさすがに売ってないだろっ!?誰だこんなものを頼んだヤツは……」

「……メアです。どうも死体から骨を弄るのが趣味なようで……申し訳ありません!」

「あ、いや、別にこれくらいはいいんだぞ」


 クリスタルが頭を下げて謝罪をする。

 メアが骨好きなのは、動く骨のティラノを見る瞳が恍惚と輝いていたので察してはいた。

 そもそも俺も骨には共感する所がある。というか原因が俺なのだろう。

 クリスタルに難しい母親役を押しつけた中、彼女が精一杯メアの教育をしているのは理解している。

 このくらいでクリスタルが悲痛を感じることもない。


「死体に関しては山脈の魔物でも与えればいいだろう。それにこれはクリスタルが気に病む趣味でもない」

「か、感謝いたします!」



「お二人の今後のご活躍を期待しています!」


 そしてアロウから判子の押された用紙を貰い、換金所でお金を繕うことができたので、買い物に向けて冒険者ギルドを出た。

 報酬は占めて、1,200,000エンスである。

 元から持っていた金額を小銭に両替しても、小金貨と大銀貨で懐がいっぱいである。


「これだけあれば、ダンジョン攻略に必要な道具も十分揃えられるな!」

「そうですね。虚像胡蝶が生育できる環境を作ってみるのもいいかもしれません」

「胡蝶の養殖か……試す価値は十分にあるな」


 召喚した魔物を殺すのは禁忌であるが、召喚した魔物の子孫を殺しても問題はないだろう。コカトリスの鶏卵がそれだ。

 しかし今は苦い経験を思い出すことを遠慮したい。

 今日くらいは、ダンジョン攻略のことを隅に置いて観光を楽しむとする。

 クリスタルとの約束だ。それは最優先事項である。

 それに都市の特徴を観察するのもいい勉強になる。


「初めにあの美味しそうなアップルパイを食べようか。300エンスだ、今の俺達には安い安い」

「私だけ楽しむのも、少々心苦しい気がします」

「だったら欲しい眷属の分も買えばいいさ」


 これから眷属にとっても過酷な試練になる。

 都市には入れられないが、これくらい食べさせてもいいだろう。


「敵はダンジョンだ。主は天災級以上、配下の眷属には上級クラスが何体もいるだろう」

「それに雪山であるため、本来の戦闘とはかけ離れることになるでしょうね」

「だな。この三日間で、出来る限りの対策を行っていこう」



 この三日間で、ダンジョン攻略に向けての念入りの準備を行った。

 またアカボシの方も問題はなく、無事に使い魔としての登録ができた。

 これから一ヵ月を超える。

 文字通りのダンジョン対ダンジョンの争いが始まるのであった。





 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:65145


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