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ダンジョンと旅するセカイ  作者: 文月九
第二章 始動するダンジョン、増える仲間、目指すは神の座。
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45話 それは甘くて美味しい猛毒姉妹 その2

 フローラが、瞳を閉じて右腕を広げた。

 もしこの衣装で踊ってくれたのなら男は目が釘付けになるだろう。

 また絶対にないと思うが、ファウナがこの衣装でダンスでも見せてくれるなら、俺も凝視する。


 するとフローラが露出している右肩の方から、翼と思えるような木の枝を生やす。

 これはリンネルが腰から蔓を出すのと同じで、フローラには蔓の代わりに枝が出てくるのだろうか。

 葉のない枝はぐんぐんと伸びて、最終的にはフローラの体ほどに成長した。

 その姿はまるで片翼の天使だ。


「おお!それで、それで!?」

「よくそれで体を支えられますね」

「わぁ羨ましい」


 三者三様それぞれフローラの技に感嘆する。

 アルラウネのリンネルはマカリーポンと違い草花で、木の枝を生やせないため目を輝かせて眺めている。


「このまま第三の腕として枝を攻防に使います。そして魔力の大半を消費しますが果物もできます。お見せしましょうかっ?」

「ぜひ見せてくれ!因みにその果物ってちゃんと食えるのか?」

「多分、大丈夫です…………んぅーーーていっ!」


 するとフローラの枝からは白く小さな花が咲き誇り、時間の経過とともに花が全て散ると、一つの花だけが結実していて果実へと成長した。まるで植物の受粉を高速ビデオで見ているかのようだった。


 枝からは遂に林檎の実が一つできたのだった。

 フローラは満足げに林檎をとって、渡してくれる。

 見た目は普通の林檎で、爽やかな香りと鮮やかな赤色の表皮からは食欲がそそられる。


「どうぞ召し上がってください!」

「お、おう……頂きます」


 シャリっと一口。

 フローラの作ってくれた林檎は甘くみずみずしいので美味しく頂けた。

 また魔力も少しばかりか回復した気がする。

 それはリンネル蜜と比べると効果は天地の差もあるが、食糧としては十分に合格点だ。

 一人で独占するのも悪い気がするので、風のナイフで林檎を切ってクリスタルとリンネルの分も食べさせてあげる。


「美味いぞ」

「美味しいですね」

「あはっ、ありがとうございます!」


 フローラが可愛らしく平ら胸の前でこぶしを握るガッツポーズをした。

 彼女の裏表を感じさせない笑顔、はきはきとした会話のつなぎ方。

 こいつはダンジョンまともメンバーに加えれる逸材かもしれない。

 しかし反面ーー。


「ファウナも同じことができるのか?」

「…………できる」


 仏頂面なファウナが間を置いて返事をした。

 それは一瞬彼女に無視されたのかと不安に思ってしまうほどだ。


「えっと……見せてくれないか?」


 普通なら今の会話で、披露してと言われていると分かるはずだが、こちらがお願いするまでただ突っ立ているだけだった。

 すると、すんとファウナが無言であったが頷いてくれた。

 妹のフローラがそんな姉のぞんざいな態度に、口を開けて震えている。

 不幸にも今後フローラはドジなリンネルと無気力なファウナの間で板挟みになるのだろうなぁ……。


 ファウナはフローラとは逆で、左の露出した肩からつる性の枝を生やす。

 そのため枝の形はフローラの林檎の木と違って、だらっとしな垂れている。

 枝も広がるというより下に重なっているため、天使というより小悪魔の翼だった。


「私の実も出せばいいの?」

「出来るなら見たいな」

「……わかったわ——『樹技・枝武装』」


 するとファウナは左腕を広げていると、翼のようにあった細くしなやかなつる性の枝は、虫が動いているようにのそのそとファウナの左腕に巻き付く。


 フローラの時は全く意識をしていなかったが、肩からはみ出して見える脇と乳房に思わず唾を飲む。

 ダンジョンマスターのあれは鈍らだが、胸が高鳴ることはある。

 しかしそれは身体が未発達な男子小学生の欲情に似ていてとても純粋だ、と思う。


 ついに背中から這い出た枝で、肩口と左腕の大部分の肌が見えなくなった。

 これはファウナの言う通り武装だ。

 なんと枝の先端だけが硬化し、鋭いことで腕が槍のように同化する。

 しかし肘の関節部分の枝が柔らかいので、腕をしっかり曲げることはできるそうだ。


「それで戦えそうだな」

「できるけど、私は戦うの嫌いだから」

「何のために召喚されたんだよ、おい」

「むぅ……」


 まあ身の危険を感じたら、それで戦わざるを得ないだろうけど。

 これはクリスタルの人属性の悪影響だろうか。

 言い方を変えるとそれは個性とも呼べるが。 


「どどどどどうか、お姉ちゃんの分はボクが戦いますのでっ、お許しください!」

「積極的に戦闘を行うのはリンネルだけで十分だ。だが侵入者が来たら、しっかりと守護の働きをやれよ」

「ありがとうございますっ!!」


 なぜフローラの方が頭を下げる。

 ファウナの方は話を聞きながら同時に果物も作っている。

 今は花弁のない穂状の花を咲かせる。

 花弁がないだけで、なんと地味なんだろうな。


「それでファウナ、どうして戦闘が嫌いなんだ?血が怖いとか、生物を傷つけるのが嫌だとかか?」

「とても疲れる、それに私は足が遅いし」

「リンネルかよ!」

「なんであたし!?」


 植物種って鈍足であることを潜在的に気にする性格なのだろうか。

 ファウナも羞恥からわずかだが目を泳がせている。

 しかし血が怖いなどの理由がなくて安心した。そこは魔物らしいな。

 そして漸くしてファウナからは、腕に垂れるように葡萄ぶどうの実ができる。

 フローラよりは大分時間がかかったのは、性格の影響なのだろうか。


「はい」

「おう、どうも」


 ファウナが出来た葡萄を渡してくれた。

 ファウナの葡萄は巨峰とまでは言わないが、逞しい大きさと黒い艶の実をしていた。

 葡萄は上の方が糖度が高いと聞くので、上部の一粒をとって皮ごと口にする。

 皮は薄くすぐに口の中で身と溶け込む。

 身は濃厚な甘みに程よい酸味があり、自然ともう一粒を口に入れてしまうほど味わい深い。


 またフローラの林檎以上に体が活性化するのを分かる。

 食べるのならば、ファウナの方が味も効果も大きい。

 そのため不思議とそこだけ姉の威厳というのを感じてしまった。


とても(・・・)美味しいぞ」

「……当然よ」

「良かったね、お姉ちゃんっ!」


 高評価されたのが嬉しいのか、仏頂面の顔も口元が緩んでしまって、ファウナの可愛らしい一面を見ることができた。


「植物種は凄いですね。存在事態が生産面でとても役に立ちます」


 クリスタルが植物種の持つ能力を評価する。

 リンネル蜜やミ=ゴウの技術、ファウナとフローラの果物などはダンジョンに多大な活躍を今後とも見せてくれるだろう。

 このダンジョンには侵入者が現れ難い。

 そのため生産面で働く魔物が活躍することになるだろう。


「そうだな、二人に感化されてリンネルも蜜を出してくれればいいのに……」

「み、蜜は一ヶ月経つまででませんのでっ!」

「ほほう……」

「あ、えと、それは……」


 リンネルは自分の失言で顔を赤くする。

 それはこの前お願いした時とは別の返事が返ってきたのだ。

 それも論理的な意見だ。さてはリンネル、自分で調べてたな。


「セカイ様、そこは乙女の秘密です。リンネルも先日の魔物災害で、自身の蜜の重大さを再認識したのです」

「あううぅ……」

「そうだな、ありがとうリンネル。蜜一回につき10DPの報酬を約束する」

「……はぃ」


 リンネル蜜にも生産限界があるのならばマカリーポン姉妹にもあるのだろうか。


「それでマカリー姉妹はどれくらいの頻度で果物をだせる?」

「省略されました!?……ボクは三日で二回くらいですねっ」

「二日に一回」


 ファウナが面倒がって嘘をついている気もしたが、その言葉を信じてみよう。

 それに二日に一つでも十分だ。


「分かった。ダンジョン攻略日や侵入者が来た時以外は、日頃から生産するように心掛けてくれ」

「了解です!」

「わかったわ」


 敵ダンジョンを攻略しているときは、最悪の場合に備えて総力戦も想定している。

 そのため生産組も、全ての仕事を一旦停止させて臨戦態勢で臨むつもりだ。

 下級はどうであれ、中級クラスの魔物ならば十分戦力として数えられる。

 試しにやる気のあるフローラに実戦を経験させるべきかなと思っている。


「そういえば一つ疑問に思っていたのですけど、フローラが林檎を作るとき、どうして安全かの質問に多分とお答えしたのですか?」


 するとクリスタルからフローラに質問をする。

 多分なんて言っていたか、果物に夢中になっていて聞き忘れていたらしい。


「それはですね……怒らないでください。ボクたちの体には毒があるのですっ!。それも恐らくご主人様でも最悪の場合は死に到らせれる猛毒です」

「なん……だと?」

「でも大丈夫よ、私たちの調整して作る果物には毒がないから」


 天災級ともなれば上級以下の作る毒には耐性がある。

 そのため体が不自由になろうとも毒死することは決してない。

 実際にリンネルの毒を飲んでみても俺は大丈夫だった。

 そういう意味もあって天災級と上級には大きな壁がある。


「どうしたら毒を貰ってしまう?微量なら試しに接種したいと考えているが」

「そ、それはですねぇ……あわわわ」

「私たちを抱くことよ」

「は?」

「つまり性行為よ、何なら私で試す?試してみたいのでしょ?」

「お、お姉ちゃんっ!?」


 ファウナがこちらを魅了するかのように腕を組んで胸を乗せている。

 なんで植物種を相手すると桃色イベントに突入しやすいのだろう。

 だが答えは決まっている。


「それはノーだ!」

「そう、残念。ご主人様なら特別にいいのに」


 というか、できません。

 しかしこれでファウナに嫌われていないようだと安心した……いやもしかすると遠まわしの死ね発言か?

 いつも無気力で無愛想な表情のため、彼女が何を考えているか全く分からない。


「能力確認といいながら別な方向に話が行ってしまったな。最後に二人の魔法を見せてくれ」

「果物を作ったので、魔法は二つ三つしかお見せできませんけど?」

「構わん。この部屋ならいくら汚してもすぐ綺麗になるから、遠慮する必要もない」


 この階層は50m×50mと階層としてはかなり小さい。

 その代わりに多くの機能を取り揃えたのだ。


「分かりました!それではボクの土属性魔法から————『樹技・土木剣!』」


 フローラが背中の枝を一本折ると、左手に持ち替える。

 枝に土属性を込めることで、硬質な土を枝に纏わせ剣の形にする。

 土属性魔法は建築技術にも使われるので、武器要らずな便利な魔法である。


「さらにっ、『樹技・葉隠!』」


 翼の枝に葉のような土が被さり大きな盾になる。

 そして盾は右腕の方から体を巻くようにしてフローラの体を隠す。

 フローラはその状態で、体を何度か動かす。


「こんな感じです!因みにボクの脚は速いほうだと思います!」

「う゛」

「むぅ」


 まあ無い乳から察するに、フットワークは軽そうだもんな。

 それに重い土を背負ってよく動けるものだ。

 魔力の供給を断たれた土は、枝から崩れ落ちていく。


「次は私、姉より優れた妹など存在しない————『樹技・水槍』」


 ファウナが左手に纏う枝の先端から水鉄砲のように水が高速に放たれる。

 それは水が圧縮されているため直撃すれば、確かな威力がある。

 更に水槍は連射が可能なようで続けざまに三発も発射された。


「これで最後、『樹技・樹雨』」


 すると腕に纏わりつく枝を解除して、箒のように広げる。

 そして今度はマシンガンのようにして、テニスボールほどの水弾が数十発も連射された。

 これは水槍の一転集中の魔法と違って、広範囲であった。


「ふぅ、いい汗かいた」

「それは魔法で出した水だろ! それにお前は一歩も動いてなかった!」

「ばれたか」


 マカリーポンの姉妹は果物のなる木の魔物であるため、リンネルのような強力な酸や毒をもっていない。

 そういった意味でリンネルの方がまだまだ強いだろう。

 しかし中級としては十分に強い。

 それはクリスタルの人化の影響なのか、やはり同じ中級の魔物より遥かに厄介だ。


「よし、ファウナとフローラの能力も分かったから、これからリンネルの下で懸命に働くように!」

「頑張ります」

「ほどほどにね」

「おや、調度いい頃合いだったかな、お菓子持ってきたよ!」


 すると転移門のからはファーシーの使用人であるレヴンがクッキーを携えて現れた。

 焼きたての香りからは食欲をそそられる。


「なんだ、もうできたのか。厨房からクリスタルを呼んでくれるだけでよかったのに」

「いやー、ついでにこれから仲良くする仲間に挨拶をってね」

「殊勝なことだな。喜べレヴン、これから葡萄と林檎が定期的に食材として供給できるようになったぞ」

「本当っすか!料理のしがいがあるねぇ」


 レヴンの持つお皿に盛り付けられたクッキーを見て、これなら問題ないだろうとウリィより先に食べることにした。

 クッキーのサクサクした感触に、ほのかに塩味が効いていて美味しい。

 今日は珍しく食べてばっかりである。


「クリスタル、ウリィをマナーの所まで呼んでくれ。また徐々に全ての眷属も集めていこうか。顔合わせを兼ねたお菓子パーティーだ」

「承知しました。ふふふ、楽しそうですね」


 早くウリィの喜ぶ顔を見てみたい。

 これから林檎と葡萄のおかげで更に美味しいお菓子も作ってもらえるだろう。

 またサンザシの木に宿るリャナンシーのメイが万全になれば、サンザシの実だって収穫をできる。

 少しずつだが、ダンジョンの生活環境が良くなっていくのを、ダンジョンマスターとしても喜ばずにはいられなかった。

 




 人型移動式ダンジョン"クリスタル"

 DP:65,675

次話で二章もラストです。

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